旦那様の秘密1
九州へついたあさは
亀助と支配人宮部とともに
炭鉱を目指した。
そして・・・・
急な山道を延々とのぼりやっと
炭鉱についた。

しかし・・・

そこは人影もなく
にぎわっているはずの
音もなく

「宮部さん、ここは本当に
炭鉱ですか?

だって、人がごった返して
働いているものなのに
なんでこう静かなんですか
今日はお休みなんですか」

宮部が
あさの質問に答えることもなく
あくびをした。
「大変歩いたので
つかれた・・・
眠い」という。
「休ませてほしい・・」

あさは、首にかけていた
日本手ぬぐいをみた。
加野屋の文字が入っている。

これは正吉から預かったもの。

「これを加野屋ののれんと思うって
あんたがどこにいても
私も店のもんも
みんな一緒に居るということやから
頑張ってきておくれなはれ。」

といった。


「戦わなくてはいけない。
いまのうちは
加野屋の代表や。

宮部さん
あんたこの山の支配人だしたな?
だったら、わかっているはずだす。
一日この山を遊ばしたら
どれほどの損失になるのか!
鉱夫さんらは今なにしてますのや?」

「それは・・・その・・・」

「うちは白黒はっきりしないと
納得できない。
はっきり言ってほしい」というと
宮部は
「加野屋の旦那様が来るなら
話は分かるけど
奥さんでは、話にならない。
あんたみたいなおなごが
山を仕切るなど
土台無理な話だ」と
いった。
「誰もゆうことなんか聞かない。」

「わかりました。
それがあんたの本音だすな
ようわかりました。
長い道中ご苦労さん
あくびするなり
寝るなり
ゆっくり休んどくれやす!」

あさは、つっけんどんにいう。

そして飯場小屋の前に
たって声を上げた。

「すんまへん、
親分さん
いてはりますか?」

親分は納屋頭さんという
らしい。

どんどんと戸を叩いて
声を張り上げるので
宮部は、「ちょっとちょっとやめとらんね。
抗夫の飯場におなごがはいったら・・・」

というので

あさは、
「宮部さんまだいてはったんですか?
寝てはったらよろしいのに。」
と、いって

また飯場の戸をどんどんと
たたく。
「すんまへん!!!
加野屋の内儀の白岡あさが
まいりましたんだすけど!!!」

どんどんとたたいても
どなってもだれも出ない。

戸をあけようとして
戸が壊れてしまった。

そこには、男たちが
輪になってすわっていた。

「すんまへん、戸がたおれてしもうて・・」

男たちはじろっと
あさをみた。

「親分さんはいはりますやろか?」

中でもひときわ、目のきつそうな男
がいた。

「アンさんが親分さんどすか?
加野屋だす。
白岡あさと申します。」


すると横から「かっ!!!
くどう言わんとしっとるわい!」
と、どなる。

「知ってはりますか。
人が挨拶してはりますのにそないな
挨拶しかできないなんて
抗夫は思ったよりずっと礼儀知らずの
お人だすな。」

「なんだと!」
「ぶっ殺すぞ!!」

男がたちは立ち上がった。

すると親分の治郎作が
「おお、ねとるものも起きて挨拶
せんか」といった。
大阪から加野屋の若奥さんがみえとろうが」

一同
「へえ」という。

たちあがって全員があさをみた。
治郎作がその前にでてきた。

「はじめてお目にかかります。
親分さん。
石炭の商いをしようと心に決めて
から、ずっとこの炭鉱に来るのを
楽しみにしておりました。
せやのになんですか
誰も働いてへん

なんでだす?

なんでお仕事しはらへんのんだす???」

治郎作は

じろっとあさをみながらいう。

「山の持ち主が変わったこと
わしらには一言も挨拶もしないで
こん先どげんこつになるのか。
見当もつかんたい。」
「それやったら
心配あらしまへん。」

あさは、加野屋が
いままでどおり
みなさんにお給料を払うし
手厚くさせてもらうからと
いう。

「では、仕事を始めてください。
やすめば、あなたたちや
うちらが損するだけではなく
石炭で発展しようとしている
お国がそんをする」という。

「うまいこというが
所詮あんたたち加野屋が
金欲しいだけや。」

「そうだ、おなごと話す気はない」

「そうだ」

「そうだ」

「なんでだす??
なんでおなごと話はしないの
だすか?炭鉱については
うちが加野屋の主から
任されています。
炭鉱やりたいというたんは
うちだすさかい」
という。
一切をおなごに任せるという
加野屋のやり方に
抗夫たちはバカにしたように笑った。
「加野屋の旦那連中はおなご任せの
腰抜けか??」
「あはははは・・・」

当時の抗夫たちは
厳しい命がけの仕事を
やっていること、
九州男児であることの
誇りを持っていた。

宮部は「だからいうたでしょ。
女の話は聞かんたい。」と。

あさは、「抗夫さんたちに働いてもらわ
ないとどないもならない」と、唇をかんだ。

そのころ大阪では
あさの厳しさとうらはらに
よのは、「ちょっとお顔を見るだけなら
ええわな?」といって
相変わらずの、芝居見物、相撲見物
にあけくれていた。

「あさがいなくなって加野屋が
静かになってしまって落ち着かへんと
家内は相撲見物にいってしまい
ました・・」
と正吉が言う。

正吉が寄合所に
五代を訪ねて話をしていた。
山屋の御主人もいる。

寄合所もあさがいないと静かだと
山屋が言う。
五代は「連絡は?」と聞くが
「まだなにもない」と
新次郎が代わりに言う。

寄合所に新次郎がいるなど
珍しいことなのでどうしたのかと
きくと
「嫁さんが必死で働いているときにふらふら
していられない」と新次郎が言う。
「でも、やっぱり
お金のことばかりでは
しんどいので・・・
失礼します」と言って
隣の部屋に行った。

山屋の旦那は「あれでこそ新次郎
はんや」と笑った。

正吉は

「ほんまに頼りないことですわ」という。

五代は複雑な顔をした。
あさが
「自分は男前の力自慢より
ふらふらしているかよわい
旦那様が好きだと」いったことを
思い出した。

「なぜだ?
理解できない・・・」

英語でつぶやく。

そこへ弥七がやってきた。
「だんさ~~~ん

三軒隣の番頭さんが
寺町で恐ろしいものを見たと
いったのでと報告に来た。

ついでに、お迎えに来た」という。

恐ろしいものとは
山王寺屋の若旦那のことだと
いうのだ。」
つまり

惣兵衛を見たというのだった。

驚く、五代。

栄達は藍の介をあやしながら
「目のあたりが惣兵衛にそっくりだな」と
いう・・・
そんなことはない
目がパッチリしている男のこだ。
「どんどん似てきます」と
はつもいう。
惣兵衛が行方不明になって
二年になった。

さて、炭鉱のあさと亀助は
足に造った血豆で
痛い思いをしていた。

そこへ、治郎作の嫁が来た。

「あれ?どちらさんね?」

痛そうな血豆を見て同情した。

あさは「普段怠けている証拠だすわ。」
という。
宮部と治郎作が飯場からでてきた。

あさは、「親分さん、あしたは掘ってくださ
いますね?よろしくお願いします」といった。

治郎作は
「自分たちは山の男だ」という。
「筋の通らないことはしない」という。
「それは明日も掘れないという事だす
か?
うちは筋を通してこの山を買うてます。
それをおなごやから話にならないと
けったいは屁理屈をつけて
堂々と怠けはんのはやめてもらいたい。」

「屁理屈とはなんだ?
げんに山に入って掘るのは俺たち
抗夫だ。
この山の持ち主になるのだったら抗夫
たちに実のあるところを見せてもらわないと
いけない。」

「実のあること?」

そうだ。
「いまから俺がみんなを集めるから
・・・」

見せて見ろというのだ。
あさは認めてもらえるのでしょうか。

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この時代は女など・・という
男ばかりの時代だったので
女のいう事など聞かない
男ばかりだったようです。
その男女差別を乗り越えて
進もうとするあさはたくさんの
抵抗にあいます。
ここでも、抵抗されました。

さて、新次郎がなぜ寄合所へ?
と思います。
あさが働いているので
自分もと思ったというが
それだけではないと
思います。
ふらふらしながらも、なにか
考えて動いているような気が
します。
五代の新次郎を見る目は
軽蔑に近いのですが
それは、武士から役人、役人から
民間人になった
男気なのでしょうか?

しかし、大問題。

惣兵衛が・・・・・・???

何をしているのでしょうか。