妻の決心、夫の決意3
美和が新次郎の手を取る。
「つめたいお手やこと・・・」
新次郎は美和にちかづくが
その時袖をなにかに
ひっかけてしまった。袖が破れた。
その袖を縫ったのがあさだった。
「粗い縫い目やこと・・・」と美和が
あきれると新次郎は我に返って
これを縫ったのはあさだと
わかっていたので
「用事を思い出した」と言って
帰っていった。

「何してますのや、わては・・・」

とつぶやく新次郎。

美和は「いけずなお方や」と
いうが
陰にいた亀助に気が付く。

美和は亀助に声をかけ
「お茶でもどうですか」と
いった。

夫婦の部屋では
あさがひとりで寝ている。
朝になった。
新次郎はその寝顔を見て
あさの頬をつねってみた。

時がたちはつのおなかがおおきくなった。

才助は五代友厚と名前を変えた。
大阪に最先端の会社を設立して
大阪の経済に貢献していた。
そして、大阪の商人たちからも
したわれてい。

あの、旦那衆の寄合にいくと
商人たちが加野屋があぶないと
噂をしていた。
「若奥さんが嫁入り道具を売り出した」
という。
山屋が「それは石炭の山を買うために
お金に換えているのだ」と
いった。
「加野屋は石炭屋をやるのか」と
他の旦那衆は言うが
「そうしたいと思っているのは
あさだけで、ほかの人はなんとも
思っていない」と
話が盛り上がる。

「かわいらしい顔をして男みたいな
奥さんや・・」
「はははは・・・」

五代はそれをじっと聞いて
いた。

あさは、いい悪いにかかわらず
大阪では目立っていた。

そんなとき、あさが商売で
家を空けていた。
一人になった新次郎によのはいう。
結婚して跡取りもできない。
いっそうのこと妾をつくりなさいと。
美和のことである。
でも、加野屋の妾が外で仕事をされたら
こまるので、どこかに家を一軒買って
そこに住んでもらうと
いう。
「この、不景気な時に」と
新次郎は驚くが
一番驚いていたのが
あさだった。

たまたまその話を聞いて
しまった。

がっかりしたあさは元気なく
部屋に帰った。

「どうされましたか?」
と、うめがきく。

あさは

「めかけ・・・」といった
きり黙ってしまった。

そこへ、女中がやってきて
あさに来客だという。

おなかの大きい青物売りで
若奥さんに頼まれたので
青物を届けに来たという。

あさはそれをきいて
われに返って、外へ出た。

にわの入り口に、はつがいた。

「おねえちゃん!」

「大きい声で言うたらあかん
こんなものがあんたの姉や
なんて、恥かかすから」という。

「おなかが大きいのに
こんなに荷物を担いで」と
あさは心配した。

はつは、あさに頼みごとがある
という。


その話はよののもとにいった。
「おなかの大きな物売りを
奥に通したとは?」と
聞く。
「物売りだけど品のいいお顔をした
物売りで・・・」と
女中が言うと
よのは、「品のいいお顔をした?」

という。

昔、忠興に連れられて
この家に来たときと変わっていない
ので
なつかしいとはつはいう。
あの時も新次郎は三味線で
でかけてしまった。

「おねがいはふゆのことだ」と
はつはいう。
ふゆは、山王寺屋をなくなっても
はつについてきて、
子供ができてもお世話をすると
言ってくれているけど
充分な着物も食べ物もないくらしを
させているという。加野屋で働かせてくれない
だろうか?
これ以上、苦労させたくないし
年頃なので、加野屋でいいご縁を
見つけてあげてほしいと
いって
あさに頭を下げた。

「顔を上げてお姉ちゃん・・・」
あさはよのに、ふゆのことを頼むと
約束した。
本当はふゆにはつについてほしいけど
ふゆのことを思ったら
はつのいうとおりだとあさは思った。

「おおきに・・・」とはつがいう。

あさは、はつが来てくれたので
気分がよくなって
笑えるようになったという。

「なにかあったの?」とはつがきくが

「いまは、お姉ちゃんに言えない」と
いった。

「いまは、お姉ちゃんがまぶしいから・・
なんでもないのよ、心配しないで」という。
うめはふと、思った。

「品のいいお顔?」とよのは繰り返すが
その横をはつがとおった。

「お邪魔しました」といって挨拶をして
廊下を通り過ぎて言った。

「いいえ、なにもおかまいしませんで・・」


よのは答える。
「たしかに、あさより品のいいお顔だ」と。
「しかしどこかで見たことがある」と
よのは、考える。

廊下を歩きながら

はつが
おなかを抑えた。

そして苦しそうにし始めた。

あさは、「お姉ちゃん」と
声をかけた。

よのは、
「お姉ちゃん?」と
いった。

そして、はつが苦しそうにしている
そばに走り寄った。
うめは
「たいへん、赤ん坊が
うまれる」といった。

「ええ!!」

あさは
「どうしよう
どうしよう」と
うろたえた。
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あさは、大阪商人の間ではよきにつけ
わるきにつけ
噂の的だった。というのは
ある意味、アイドル的存在なので
あろうか?

しかし、美和と間違いがおこる寸前に
着物の袖が破れたとは
あさの呪いでも降ってわいたのだろうか
と思う。
縫い目を見て
あさを思い出した新次郎は、悪夢から覚めた
顔をして、帰ってしまった。
あさと美和の一騎打ちは
まずはあさの勝ちだった。
しかし、よのが美和に味方する。

借金まみれの加野屋であるのに
よのは、商売のことなどわからないので
妾をとると新次郎に言うが
現実離れしている話だと新次郎は
あきれている。
でもこの時代ではそうなのかもしれない。

妾を取る話を聞いたあさは
さすが落ち込む。
そんなときのはつの訪問だった。
あさに笑顔がでてくる。
あさは落ち込んではいられないけど
炭鉱を買うことを反対する新次郎
をどう、説き伏せるのか・・・
あさの、本領発揮
はまだまだこれからですね。