お姉ちゃんに笑顔を4
山道を逃げる途中
激怒した惣兵衛は
菊に襲い掛かる。
「死ね!!!」
はつは止めようとして菊と
惣兵衛の間に入り
さされてしまった。

「はつ」と言ってはつに近づいた
惣兵衛は
はつに「なんでこんなことを」
と聞く。

「やっとだす。」
とはつは答えた。
「やっとうちにもお家を守る
ことができました。

お家がなくなったのはだれの
せいでもない。
時代のせいです。
新政府のせいです。

其れに負けて旦那様が罪を
おかすなんておかしいと違いますか?」

「わしはどうしたらいいのか・・・」

「うちらにできることは
一歩でも前に歩くことだけだす。」

はつは惣兵衛にそういった。

惣兵衛は菊を
背負って
みんなは歩き始めた。

加野屋では
五代があさに怒っていた。

「わたしはあんたのことを
この国にしたら
珍しく骨のある人間やと
おもっていた。
それが何や。大商人の奥様に
おさまっておしとやかに
茶などだしくさって。

おなごいうもんは
やっぱりつまらんもんやな。

あんたにもこの店にももうようはない。
つぶれるんやったら
勝手につぶれたらええ。」

五代はだまってうつむいている
あさを見下すように
いって去っていこうとした。

「待っとくなはれ!」

五代は振り向いた。

「がっかりしたのはうちも
同じだす。
西洋の言葉を話
偉い物知りで、面白い方だと
思っていたあなた様が
憎たらしい新政府のお役人になって
はったってなぁ!」
五代はあさの前に立ち戻った。

「憎たらしいやと?」

うめは止めようとした
新次郎も止めようとした。


あさは続ける。

「いいえ、そこまで言わはんのやったら
言わしていただきます。
今お家が困っているのは新政府さんの
上納金のせいだす。
あなた方がおかねもあらへんのに
勝手に新しい時代なんか作りはって
その上、
上方の商人の10万両というびっくりぽんな
お金をせびっておいて
勝手につぶれたらええやて??
どの口が言うて
はりますのや!!!!!」


あさは五代に詰め寄って怒鳴った。

新次郎は
「あかんやめとき」と
止めに入るが
あさはやめない。
「それだけはあらへん
お大名家も戦を言い訳にすこしも
お金を返さへん。」

あさは、大阪の両替商が
苦しいのは山王寺屋がつぶれたのは
お金を返さない大名家と
戦にお金がいるといって
商人からお金をむしり取った
新政府のせいだと
いった。
(・・まったく
その通りですが・・・)

新次郎は店のものを呼び
「あさが殺される」と叫んだ。

「明治の世やなんてだれが作りはったんや!
くそくらえだす~~~~!!!」
あさは店の者に両脇から
捕まえられて
奥に連れて行かれた。

五代はあっけにとられて
いた。
新次郎は「すんまへんだす」といって
頭を下げて奥へ行った。
うめは五代に「すんまへん
すんまへん」
といって
「どうか命だけは助けてください」
と懇願した。

五代はつぶやいた。
「ワンダフル!」

「はい?」

「これや
わしが聞きたかったのは
これなんや」
といってなんてすばらしいんだと
英語で言う。
(たぶんね。よく聞き取れない)
うめは
「せばさす??
は??」

と聞く。

「そうや一つお願いがあります。」

五代がうめに言う。

五代が帰ってから
座敷に正吉と新次郎
にあさが座った。
うめは五代が言った言葉を
伝えた。
あさに、大阪の商人の集まりに
出るようにとのことだった。
よのは「旦那衆ばっかりの集まりに
でてどないしますの?」と
きく。

新次郎はいった。
「あさ、でときなはれ。」

あさはそんな心持ではないという。
しかし新次郎は役人の前で
あれだけの啖呵を切ったうえに
出るだけで許してもらえるなら
そのほうがいいという。
よのは驚いて
「そんなにひどいことを言うたんか」と
きくが。
新次郎は
「商いの勉強にはちょうどいいから
必ず行くのですよ」といって
また自分が出て行った。

「何であの子は出て行くのでしょうか。
何でやろ、なんでやろ」と
よのは正吉にいう。
かのは、よのが何でやろと
あさの口癖が写ったといった
ので一同笑った。

が、あさは
はっとした。
新次郎が何でやろと
不思議がった
ことを思い出した。
あのとき、あさが奈良から帰り道
はつとあったとき
はつがなぜか
「お互いお家を守りましょう」と
いったことを。

はつは、家を守ろうとしている
のでは・・・。

そしてあさは正吉に連れられて
大阪商人の寄合にでることに
なった。

「よろしゅうたのみます」といって
まずは、お酌からはじまった。

旦那衆は加野屋の若奥さんと
知っているが
「何でこんなところへ来たのだろう」と
面白がる。
「相変わらずええおいどやな」と
いわれる。
いまでいうと
セクハラである。
が、世は男尊女卑の時代。
そんな悪口に居場所のない気持ち
のあさでしたが
旦那衆の話は今の最先端の経済の話
だった。
「大阪の造幣局ができるのは五代様のおかげ」とか
「金貨や銅貨をつくるために鉱山にも
手を出すらしい。」とか
「五代さまの話では
エゲレスではレイルウエイという
鉄の塊が走っているそうな・・」
「鉄の塊がどないしたら走るのやろ?」
「さぁ?」
「帳面の上だけではどうにもならない。
幕府がなくなり
大名も当てにならない
山王寺屋もそれが先にわかっていたら
あんなことにならなかったのに。。」とか

「とにかく五代さまから新政府の話を
聞かないことにはどうにもならない」

とか・・

あさは目を丸くして聞いていた。


こうして世の中の流れが少しずつ
あさは理解できるようになって
きた。

あさは、正吉が退屈しなかったかと
きくので「五代さまに
お礼をしたい気持ちだす」といった。
「もっと早くここに来ていたら
いろんなことを聞いて
はつと話をしたらよかった」と
あさは、後悔する。
「お家を守るためには
おなごだって
知識は必要だ」とあさは強く
感じたのだった。

正吉はそれをきいて
「あさがいまやるべきことは
落ち込むことではなく
はつを探すことでもなく
こういう所へ来て話をする
ことがいいのかもしれない」と
いった。

あさは
「へ?」といったが
それから、あさは
積極的に
旦那衆の寄合に参加して
商売のことを教えてもらった。

紅一点のあさは、良くも悪くも
大阪の話題となった。

家に戻っては帳簿の確認をした。

よのは、仕事中のあさに、新次郎のきものが
ほつれているといった。
彼女はあさが仕事をするのがよけいなこと
らしい。

あさは夜になって本をよみ
独学で商売の勉強をした。

あさははつが無事でいるようにと
つぶやく。
それをみて新次郎は
・・・・・
外出が多くなった。

あさは、一人で旦那衆の
寄合に行くという。

正吉は
雁助に一緒について行けと
いった。
仕事は自分がするからという。
そしてそっと正吉は雁助に
いう。

どうやら、あさが
何で何で何で何でと
うるさく聞くので
だれぞ、つけてくれと旦那衆から
頼まれたというのだ。

雁助は納得して一緒に出掛けた。

一方新次郎は
毎日、大阪ではつを探して歩いていた。
それは内緒である。

ある山道で新次郎は
ふとすれちがった大八車を引く
農家の夫婦に声をかけた。

「ええお天気だすなぁ~~」

「へぇ~~」

新次郎はふとその女性を見た。

女性は立ち止まって振り向いた。

新次郎は声を失うほど
驚いた。

「加野屋さま・・・」
という
それははつと
惣兵衛だった。
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落ち込んだあさは
五代からみればみっともなかった
かもしれない。
しかし、あれだけの啖呵は
誰にでも切れるものではない。
五代はなにかしらハッピーになった
ようである。
新次郎、正吉
そして、五代と
あさをめぐる男性陣はひとり
またひとりと
あさを応援する立場を濃厚にして
いく。
次は誰だと思うけど。

はつは大八車を引いて
野菜を運んでいたので
食べるものに困るというものでは
ないように思える。
でも生活は苦しんだろうなと
思う・・・けどね。

しかし
はつという女性は
強い女性である。
愚痴を言わない。
あれほど、井戸にはまる前には

もういややと
泣いていたのに

こうなると
かえって強くなるのだろうか。
あさの根性のつよさと
はつの、つよさは
似ているがまた違うようにも
おもえる。