若奥さんの底力3
あさが宇奈山藩の蔵屋敷で
勘定奉行を待つという作戦に出た。
屋敷で通されたところは
加子部屋という人足がたくさん
常駐している部屋だった。

「悪いことは言わんもう帰って・・」
と御家人がいうより先に
あさは「おじゃまします==」と
いって、奥のほうへさっさと
入っていった。
「ここなら雨風はシノげるし
充分だす」という。

そしてうめを先に返すという。
しかしといううめに
「心配あらへん
ここはうちと亀助さんで
充分です」と
いった。
亀助はびびってしまい
「いやいや、十分なことはあらしまへん」
といったが。
うめは「承知しました」といって
帰って行った。
「亀助さん、はよこっちへ==」と
あさがよぶ。

あっちこっちへぶつかりながら
あさのところへやっとのことでたどり
ついた。
「何でこんなことまでしますのや?」
と亀助が効くと
「なにをいうのですか
これは

好機です!!!」

というので、

亀助は理解できない。

あさは

今まで門前払いだったのが
ここまで入れていただいたのだから
少しは認めてもらえたという
ことではないかと
あさは満足している。

「ここは加子部屋だっせ」と
亀助は呆れて言う。

あさは

「へえ・・・
加子部屋いいますのん?」

そういって、周りの男たちに
「こんばんわ」と
挨拶をした。
「うちはお武家様の
お屋敷は初めて入りました。

えらいぎょうさんで
一緒に寝はりますのやな。
今の季節はそのほうが
寒くなくていいですね」と
あっさりと
声をかける。

さきほど案内した御家人は
呆れてしまって
「勝手にしろ」とって去って行った。
認められたのではなくて
呆れられたのだと
亀助が言う。

あさは頓着なしに
「では寝ましょう」という。
「いつになるかわからないから」
といって
持ってきた枕をだして
さっさと寝てしまった。

亀助は

「なんてお人や・・・」

ため息をついた。
あさは
すやすやと寝ている。
翌朝になった。
御家人たちが様子を見にきた。

ぐっすりと寝ているあさをみて
呆れていた。

加野屋では
新次郎があさが帰ってこないので
うろうろと店の中を歩き回り
心配している。
正吉もそろばんがよく入らないほど
心配している。
だが、心配しているところを
悟られたくなくて
仕事をしているふりをしている。

「男のくせに落ち着きなはれ」と
正吉が新次郎に言う。
「わてのせいや
わてが商売なんて興味あらへんというて
逃げてしまったから
あさに無理をさせてしまった

こんなんやったらついて行ったらよかった
・・・けどなにがあっても
加子部屋なんかに寝たくない」

「そらそうですね」と雁助が言う。

うめは「心配ですが
いまのおあさ様は
大阪に来て
いちばん、生き生きしています
きっと御無事に戻られます」と
いう。

あさはかわいらしいだけの
女性ではないとうめがいう。
新次郎が
じっと考えていると
弥七が
「新次郎さん~~~~~」

と、店の外から新次郎を呼び
あさが帰ってきたという。

新次郎、正吉以下
店の者は全員外へ出た。

「旦那様~~~~~」
「あさ~~」

「また、大股で・・・」とうめ。

あさは、「お金を返してもらえた」
という。
貸したお金の10分の1にも
ならないけど
という。

「これどうやって返してもらったのか」と
正吉が聞くと

「格別なことは何も」とあさは
いった。

雁助は
「寝泊まりしたこと自体
格別なことだっせ」と
つぶやく。

「その通りだす。」と亀助。
「朝になって
ようよう勘定奉行のひとが
でてきてこれ以上
この若奥さんに居座れては
かなわんというて
返してくだはったんだす」

「おお~~~」

と声が上がった。

正吉は
「お侍さんがおなごのあさちゃんに
負けたんかいな。」
亀助は

「根負けですわ。
しかも返してもらったとたん
おなかすいたと言って
使用人たちと朝ごはんまで
食べて・・・」という。
あさは
「へぇ
たいへん、おいしくいただきました」
とあっさりといった。


うめは

手を合わせて
「京都の旦那様
奥様
お許しください」という。

新次郎は
「は~~
かんべんしてえな。
わてがどんだけ
心配したか・・・」

あさは「心配かけて
すんまへんどした」
といって、
「それでもこれで
ようようお役に立てたと
申しますか・・・」
というと
新次郎が
「あほ、
わてが心配していたのは
お金やあらへん
あんたや。

あんなところに女一人で。

ええか

いざとなったらお金はどうでも
ええんや。
大事なんはあんたの身やで。」

「はぁ、
身ですか・・・」

新次郎は

「もうええわ。風呂にはいろ」といって
去って行った。

栄三郎が
「昨夜からふろにも入らないで
待ってました」という。

あさは、びっくりした。

あさは正吉と
離れで話をした。

「ようやってくれた」と
正吉は喜ぶが
あさは、「やりすぎたかな」という。

正吉は
「そうやな
けど
泳ぎ続けるものだけが
時代の波に乗っていけれる」と
いった。
「あんた今日から正式に加野屋の
働き手です。
どうぞ、よろしくおたの申します」と

正吉は頭を下げた。

あさは
びっくりして

「へぇ
もちろんだす
こちらこそ、よろしゅうに。」
といって
頭を下げた

あさが頭を上げると

正吉は
まだ
下げたままだった。

あさも
あわててまた下げた。

それからというものあさは
正吉に頼まれて
取立てに歩いた。
すこしづつ、借金の取り立てが
できてくるようになった。

水を得たあさだったが

はつは・・・

落ち込む日々だった。

そんなとき
栄達が
マキ割をしている。

「旦那様がそんなことをして」と
はつとふゆは驚くが

「最近は店の者が少なくなった
ので」、という。

栄達はこの店の丁稚から
番頭になり
一人娘の菊の婿になったと
いう。
だからマキ割などは
なれているといった。
手には立派なタコが
あるぐらいだった。

そして菊のことを栄達は
わびた。

「この店に嫁いできたことを
後悔しているのは」という。
自分もこうしてとんとん拍子
にすすんだけど
今が一番きついからという。
「何せ嫁はんがあれだから」というが
「菊は御先祖様から引き継いだ店を
守ろうと必死だ」という。

そこへ惣兵衛がきた。
まっさおだ。
「どうした」と栄達が聞く。

「えらいこっちゃ。
徳川さまの幕府が亡くなった」

といって

倒れた。

町中は
徳川さまが負けて
大阪城に逃げ帰って
きたと

大騒ぎとなっている。

こうして
激動の時代の
幕が開いた。

大阪にとっても
あさにとっても。

大阪城が燃えていた。

あさは
どうなってしまうのかと
心配する。

そんなとき
新政府の
長州と薩摩が
大阪の商人たちを
二条城によびだした。

やっとの思いで
帰ってきた正吉は
ふらふらになっている。
店にたどり着き
「水~~~」とさけぶ。

正吉は、腰をやられて
「いたい===」といった。

話しというのは
新政府が江戸へせめて行くために
加野屋に
10万両を調達しろという御沙汰
だったと
正吉は
苦しそうに言う。

店の者は大騒ぎとなった。

よのは、「10万両ってどんだけ?」
と聞く。
あさは
「千両箱、100箱です」というと

「ええええええ」と初めてびっくり
した。
「数字に強いな、若奥さん。」と亀助。

栄三郎は
「そないな大金聞き間違いでは」という。
新政府の江戸攻めの話をして
軍資金だと正吉は言うが
「そんなお金を支払えるものか」と
怒る。
とたんに
腰のいたみに
倒れてしまった。
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あさの痛快な活躍に正吉は
あさを認めた。
おなごは商売に口出しをしたら
あかんというが
あさの力を認めたという事
だった。
しかしあの加子部屋というのは
寝れるものではないと思いますが。
こうして
慶応がおわり
明治となる。

この大阪の経済にしろ
加野屋の経済にしろ
新政府はどうしたものか
庶民の味方なのか
自分たちの満足感だけなのか
10万両とは
何事だと
思いますが

何事も、お金がないとダメなんですね。
しかも、どんどん時代が変わるので
お金の値打ちも変わっていくものでしょう。
貨幣経済の行く先は大きな変化の
中に入ったという事になるのでしょう。
ここで正吉のいう
「泳ぎ続けるものだけが
時代の波に乗っていけれる」
という言葉。
男だけではどうしようもできない
時代に
才能あるあさがどんな活躍をするのか
が、たのしみになりました。