秒読みコンクールケーキ1
横浜の大吾が突然訪ねてきた。
驚く圭太と希。
何も言わずにまっすぐ店にはいり
厨房に掲げられて
いた徹の
メッセージ
『希、世界一を目指せ』をじっと
みていた。
ご、ご無沙汰しております
お久しぶりです
と二人はあわてるが
大吾は自分のペースである。
歩実と匠に圭太は挨拶をしようと
声をかけるが
ふたりは何食わぬ顔である。
「とにかくコーヒーをお持ちします
ので、あちらに」と希が言うと
「それか!!」
と指をさす。
子供たちが食べているケーキである。
「コンクールに出したケーキはそれか?」
「はい、そうですが・・」
大吾は歩実のケーキを取り上げて
じっとみた。
歩実は
「うちの!!!
返して!!」
と叫ぶ。
「歩実のやぞ」と匠も
応戦するが
大吾はそしらぬかおで
ケーキを眺める。
「新しいのをお持ちしますので」と
というが・・・
子供たちの反撃で大騒動になった。
やっとの思いで収拾して
大吾にケーキを見てもらった。
大吾は一口食べた。
「何を入れた
どうやってこの味を出した」
「昆布です」
大吾は昆布と言って黙った。
「どっから思いついた?」
「昆布にはグルタミン酸が・・」
「そんなこと知っている、おおもとの
発想だ。」
「失敗おっぱいです。
このケーキ、母親とパティシエを
両立したいと
思って味を探しているうちに・・・」
「つまり、発想のおおもとはあいつらか。
行くぞ
おまえの家だ。早く案内しろ。」
「え、シェフ、え??」
相変わらずの大吾に希は
あわててしまった。
この日マキが結婚のため
東京へ旅立とうとして
おりました。
マキは、店をかたづけて
エプロンを外した。
それを椅子にまるめておいた。
「ほなら、行くね。」
はると浩一はマキを見た。
マキは二号店を任せると
まで言ってくれたのに
期待に応えられなくてと
いう。
「だらやね。」とはるさんは
「そんなことより自分と旦那さんの
しあわせを考えなさい」と
いう。
浩一も「何も心配しなくていい」という。
マキは、いつまでも変わらない二人に
どこの誰だとも分からない自分を
おいてくれたことを感謝した。
本当に救われたという。
「わたし、青森には誰もいないし」という。
「家族や、自分たちは家族や」
「救われていたのは私たちでもある」と
はるさん。
「あんたの故郷はここだ」といった。
マキは涙が出た。
「いっといで」と浩一は
マキにお餞別を渡した。
マキは受け取って店を出た。
はるさんと浩一は
見送った。
ふりむいて
マキは
「行ってきます」といった。
「いってらっしゃい」
「気を付けて」
ふたりは、手を振って
見送った。
さて・・・
桶作家では
大吾が歩実たちに
「失敗、おっぱいのほかに
気に入っている言葉はないか」と
聞く。
歩実は無視
匠は「ない」と答える。
「出し惜しみするな
俺にもヒントをよこせ」といった。
ふみに事情を話す希。
「陶子さんから
聞いたみたいです。
私のケーキが失格だったけど
一位だったと。」
ふみは
「どんなケーキだったのか
気になって探りに来たという
わけか」と
いう。
歩実は絵をかいていた。
「それは食べ物か?」
と大吾が聞く。
「徹!!!」
と歩実は言った。
「人間か?
どこが人間なんだ?」
「歩実にどなるな」と
子供たちは大吾をクッションで
大吾をたたこうとした。
希はあわてて
止めに行く。
ふみさんは
「おまえたち、相撲で投げ飛ばせ」と
いった。
ここで子供三人と
大吾の相撲取りとなった。
その日の食事は
地元産のおいしそうな食べ物ばかり
だった。
大吾は
「ほぉ~~~~~」と
声を上げた。
皆で「いただきます」という。
「これはなんだ?」
おつゆの中の魚を
聞いた。
みのりは「ししっぽです。
取立てですよ」という。
ししっぽとは
正式にはかながしらという
魚である。
「フライもいいけど
汁にしたらエキスが出て
まんでうまいんですよ。」
「あ、うまい!!!」
「へへへ
おかわり、ありますさけね。」
みのりは相手がどう出ても動じない。
藍子は、「お久しぶりですね。
ご無沙汰してしもて
輪子さんたちもお元気ですか」と
聞く
が・・大吾には
通じない。
「これはなんだ?」
料理に夢中である。
「バイ貝です。」
希は藍子に
「いまなにをいうても
聞こえんさけ」
といった。
ふみは「相変わらず
おかしな男だな」という。
「何?」
大吾が聞く。
希は
小声で
「悪口は聞こえるげんよ」という。
「それも聞こえているぞ。」
希ははっと手を口に当てた。
「うまい!!!!」
大吾は夢中である。
そこに元冶と一徹が帰って
きた。
希は紹介すると
大吾は
あの塩を作った人だと
気が付き
圭太に「どけ」といって
どかせて元冶を
座らせ、
「お話を聞かせてください」
と、敬語である。
「どうやったらあのまろやかな
塩ができるんですか?
この辺は揚げ浜式の塩田ですよね。
あんなうまい塩は世界を探しても
そうそう見つかるものでは
ありません。」
そして小皿のあった塩を
手のひらでなめて
「うまい
うまい
うまい」
と連発したので
「ありがとう」と
元冶は、固い顔をほぐした。
夜になって
希は大吾に座敷に布団を敷いていると
告げに言った。
行った先は台所である。
食材の研究なのか
山と積んだ食材の中で大吾は
格闘していた。
「徹はまだ帰ってこないのか」と聞く。
「はい・・」
「今度はどのコンクールに出る?」
「つぎ?」
「決まってないから俺が適当に
見繕ってやろうか?」
「つぎは・・・」
「まさか、昆布で評価されて
安心しているのではないだろうな。
あれはアイディアだけだ。
あんなセンスのないデザインで俺に勝ったと
思うなよ。」
希は
「自分の力のなさを
実感したので
もっと勉強します。」
という。
「勉強したいならなおさらだ。
もっと腕を磨け。
本場の空気を吸え。
世界一になりたいなら
自分のケーキを世界に問い続けろ。
・・・・たく。」
大吾の久しぶりの説教だった。
「あのシェフ・・・
世界一ってなんなんでしょう??」
「はぁ?」
大吾は聞き返した。
希は「ふとそう思ったので」という。
「しるか、俺の話を台無しにしやがって。」
希は「すみません」といって
「世界一うまいケーキを作るのと
コンクールで世界一になるのは
同じことかなと思った」という。
大吾は「それは世界一になってから
悩め。
禅問答している暇があったら
練習しろ。」
「はい」
「俺は忙しいんだ。
あっちへいけ。」
「はい、失礼します!!」
希は出て行った。
ひきかえに
圭太が来た。
「ちょっといいですか。」
無言である。
「あの希のことなんですが
すみませんでした。」
大吾は手をとめた。
「あんとき、フランスで勉強しとれば
パティシエとしての人生は
大きく
かわっとったと思います。
せっかく大事に育てて
もらっていたのに・・
本当にすみませんでした。」
「謝って済むか。
おまえのおかげで8年もブランクがあった。
貧乏くさいセンスもそのままだ。」
「すみません・・・」
「唯一の進歩は
ケーキが豊かになったことぐらい
だな。
ここでの家族との暮らしがあいつを
成長させている。
それが味の深みになっている。
それでよしとしろ。
ぜいたくだ。
分かったらあっちへ行け。」
「はい、邪魔してスミマセンでした。」
また頭を下げて
圭太は出て行った・・・・
大吾はメレンゲを作る。
「ちょっといいけ?」
「なんだ???」
「珍しい野菜をもってきたけど
いらんがな?」
「見せてくれ!!」
ふみは、じっと見る大吾の
肩をたたいて
「ありがとうえ」
と言って去って行った。
豊かな食材が
台所にあふれた。
大吾は、ほっとした表情をした。
**************
大吾は何を見に来たのか。
弟子だった希が失格になった
ケーキの噂を陶子から聞いて
パティシエとしての
好奇心がうずいたのか。
弟子が何を作ったのか。
自分は弟子に負けそうになって
いるのかと
パティシエとしての
プライドをかけてきたのかも
しれない。
俺にもヒントを教えろとは
子供たちにとっては
意味の分からないことである。
久しぶりに希は大吾の
せっかちで
合理的な話に引き込まれた
ようである。
世界一を目指せと
この変わり者の師匠は
希を激励する。
圭太も長年の罪悪感を
払拭するチャンスとなった。
ひたすら謝ることしか
できないのである。
希は大吾と出会ってから
また、世界一を目指すのだろうか。
目指さないと
だめでしょう。
大吾の久しぶりのおかしな
言い回しに、ほっとしました。
めざせ、しっぱい、おっぱい
世界一。
横浜の大吾が突然訪ねてきた。
驚く圭太と希。
何も言わずにまっすぐ店にはいり
厨房に掲げられて
いた徹の
メッセージ
『希、世界一を目指せ』をじっと
みていた。
ご、ご無沙汰しております
お久しぶりです
と二人はあわてるが
大吾は自分のペースである。
歩実と匠に圭太は挨拶をしようと
声をかけるが
ふたりは何食わぬ顔である。
「とにかくコーヒーをお持ちします
ので、あちらに」と希が言うと
「それか!!」
と指をさす。
子供たちが食べているケーキである。
「コンクールに出したケーキはそれか?」
「はい、そうですが・・」
大吾は歩実のケーキを取り上げて
じっとみた。
歩実は
「うちの!!!
返して!!」
と叫ぶ。
「歩実のやぞ」と匠も
応戦するが
大吾はそしらぬかおで
ケーキを眺める。
「新しいのをお持ちしますので」と
というが・・・
子供たちの反撃で大騒動になった。
やっとの思いで収拾して
大吾にケーキを見てもらった。
大吾は一口食べた。
「何を入れた
どうやってこの味を出した」
「昆布です」
大吾は昆布と言って黙った。
「どっから思いついた?」
「昆布にはグルタミン酸が・・」
「そんなこと知っている、おおもとの
発想だ。」
「失敗おっぱいです。
このケーキ、母親とパティシエを
両立したいと
思って味を探しているうちに・・・」
「つまり、発想のおおもとはあいつらか。
行くぞ
おまえの家だ。早く案内しろ。」
「え、シェフ、え??」
相変わらずの大吾に希は
あわててしまった。
この日マキが結婚のため
東京へ旅立とうとして
おりました。
マキは、店をかたづけて
エプロンを外した。
それを椅子にまるめておいた。
「ほなら、行くね。」
はると浩一はマキを見た。
マキは二号店を任せると
まで言ってくれたのに
期待に応えられなくてと
いう。
「だらやね。」とはるさんは
「そんなことより自分と旦那さんの
しあわせを考えなさい」と
いう。
浩一も「何も心配しなくていい」という。
マキは、いつまでも変わらない二人に
どこの誰だとも分からない自分を
おいてくれたことを感謝した。
本当に救われたという。
「わたし、青森には誰もいないし」という。
「家族や、自分たちは家族や」
「救われていたのは私たちでもある」と
はるさん。
「あんたの故郷はここだ」といった。
マキは涙が出た。
「いっといで」と浩一は
マキにお餞別を渡した。
マキは受け取って店を出た。
はるさんと浩一は
見送った。
ふりむいて
マキは
「行ってきます」といった。
「いってらっしゃい」
「気を付けて」
ふたりは、手を振って
見送った。
さて・・・
桶作家では
大吾が歩実たちに
「失敗、おっぱいのほかに
気に入っている言葉はないか」と
聞く。
歩実は無視
匠は「ない」と答える。
「出し惜しみするな
俺にもヒントをよこせ」といった。
ふみに事情を話す希。
「陶子さんから
聞いたみたいです。
私のケーキが失格だったけど
一位だったと。」
ふみは
「どんなケーキだったのか
気になって探りに来たという
わけか」と
いう。
歩実は絵をかいていた。
「それは食べ物か?」
と大吾が聞く。
「徹!!!」
と歩実は言った。
「人間か?
どこが人間なんだ?」
「歩実にどなるな」と
子供たちは大吾をクッションで
大吾をたたこうとした。
希はあわてて
止めに行く。
ふみさんは
「おまえたち、相撲で投げ飛ばせ」と
いった。
ここで子供三人と
大吾の相撲取りとなった。
その日の食事は
地元産のおいしそうな食べ物ばかり
だった。
大吾は
「ほぉ~~~~~」と
声を上げた。
皆で「いただきます」という。
「これはなんだ?」
おつゆの中の魚を
聞いた。
みのりは「ししっぽです。
取立てですよ」という。
ししっぽとは
正式にはかながしらという
魚である。
「フライもいいけど
汁にしたらエキスが出て
まんでうまいんですよ。」
「あ、うまい!!!」
「へへへ
おかわり、ありますさけね。」
みのりは相手がどう出ても動じない。
藍子は、「お久しぶりですね。
ご無沙汰してしもて
輪子さんたちもお元気ですか」と
聞く
が・・大吾には
通じない。
「これはなんだ?」
料理に夢中である。
「バイ貝です。」
希は藍子に
「いまなにをいうても
聞こえんさけ」
といった。
ふみは「相変わらず
おかしな男だな」という。
「何?」
大吾が聞く。
希は
小声で
「悪口は聞こえるげんよ」という。
「それも聞こえているぞ。」
希ははっと手を口に当てた。
「うまい!!!!」
大吾は夢中である。
そこに元冶と一徹が帰って
きた。
希は紹介すると
大吾は
あの塩を作った人だと
気が付き
圭太に「どけ」といって
どかせて元冶を
座らせ、
「お話を聞かせてください」
と、敬語である。
「どうやったらあのまろやかな
塩ができるんですか?
この辺は揚げ浜式の塩田ですよね。
あんなうまい塩は世界を探しても
そうそう見つかるものでは
ありません。」
そして小皿のあった塩を
手のひらでなめて
「うまい
うまい
うまい」
と連発したので
「ありがとう」と
元冶は、固い顔をほぐした。
夜になって
希は大吾に座敷に布団を敷いていると
告げに言った。
行った先は台所である。
食材の研究なのか
山と積んだ食材の中で大吾は
格闘していた。
「徹はまだ帰ってこないのか」と聞く。
「はい・・」
「今度はどのコンクールに出る?」
「つぎ?」
「決まってないから俺が適当に
見繕ってやろうか?」
「つぎは・・・」
「まさか、昆布で評価されて
安心しているのではないだろうな。
あれはアイディアだけだ。
あんなセンスのないデザインで俺に勝ったと
思うなよ。」
希は
「自分の力のなさを
実感したので
もっと勉強します。」
という。
「勉強したいならなおさらだ。
もっと腕を磨け。
本場の空気を吸え。
世界一になりたいなら
自分のケーキを世界に問い続けろ。
・・・・たく。」
大吾の久しぶりの説教だった。
「あのシェフ・・・
世界一ってなんなんでしょう??」
「はぁ?」
大吾は聞き返した。
希は「ふとそう思ったので」という。
「しるか、俺の話を台無しにしやがって。」
希は「すみません」といって
「世界一うまいケーキを作るのと
コンクールで世界一になるのは
同じことかなと思った」という。
大吾は「それは世界一になってから
悩め。
禅問答している暇があったら
練習しろ。」
「はい」
「俺は忙しいんだ。
あっちへいけ。」
「はい、失礼します!!」
希は出て行った。
ひきかえに
圭太が来た。
「ちょっといいですか。」
無言である。
「あの希のことなんですが
すみませんでした。」
大吾は手をとめた。
「あんとき、フランスで勉強しとれば
パティシエとしての人生は
大きく
かわっとったと思います。
せっかく大事に育てて
もらっていたのに・・
本当にすみませんでした。」
「謝って済むか。
おまえのおかげで8年もブランクがあった。
貧乏くさいセンスもそのままだ。」
「すみません・・・」
「唯一の進歩は
ケーキが豊かになったことぐらい
だな。
ここでの家族との暮らしがあいつを
成長させている。
それが味の深みになっている。
それでよしとしろ。
ぜいたくだ。
分かったらあっちへ行け。」
「はい、邪魔してスミマセンでした。」
また頭を下げて
圭太は出て行った・・・・
大吾はメレンゲを作る。
「ちょっといいけ?」
「なんだ???」
「珍しい野菜をもってきたけど
いらんがな?」
「見せてくれ!!」
ふみは、じっと見る大吾の
肩をたたいて
「ありがとうえ」
と言って去って行った。
豊かな食材が
台所にあふれた。
大吾は、ほっとした表情をした。
**************
大吾は何を見に来たのか。
弟子だった希が失格になった
ケーキの噂を陶子から聞いて
パティシエとしての
好奇心がうずいたのか。
弟子が何を作ったのか。
自分は弟子に負けそうになって
いるのかと
パティシエとしての
プライドをかけてきたのかも
しれない。
俺にもヒントを教えろとは
子供たちにとっては
意味の分からないことである。
久しぶりに希は大吾の
せっかちで
合理的な話に引き込まれた
ようである。
世界一を目指せと
この変わり者の師匠は
希を激励する。
圭太も長年の罪悪感を
払拭するチャンスとなった。
ひたすら謝ることしか
できないのである。
希は大吾と出会ってから
また、世界一を目指すのだろうか。
目指さないと
だめでしょう。
大吾の久しぶりのおかしな
言い回しに、ほっとしました。
めざせ、しっぱい、おっぱい
世界一。
