出産クッサンベイビー5
店に出ている間に
歩実が熱を出して
病院へ運ばれた。
直美はそれでも母親かと
希を叱った。

希は「自分は母親失格や」と
つぶやく。
藍子は「そう思うなら
店はやめてしまいなさい、
お母さんは反対や」と
いった。

こちら
桶作家では
一徹と洋一郎
高志、そして圭太が
いた。
圭太は希にケーキを作れと言った
ことを悔やんでいた。

一徹は希は思いつめるほうだ
から、深刻になるという。
店をやめたら借金ばかりになる。
それをどうするのかと洋一郎が聞く。
圭太は万が一の場合は
自分がどうにかすると
いう。

一徹は「金よりねえちゃんをほぐして
やったほうがいい、夫婦はシーソーだ
から、片方が深刻な時は
片方が笑わすぐらいがちょうどいい・・」
と徹志をあやしながらいう。
圭太はあいかわらず
一徹が先生のようだと
思った。

「圭太が希の前で歌を歌ったら
誰でも笑う」と洋一郎がいう。

その間に一徹が寝てしまった。

高志は、だまっていたが
洋一郎は「だれが好きだったのか」と
聞く。高志は言えないので
「言わない」という。
「もしかして、芸能人なのか」と
変に盛り上がる。

こちらは女性陣。
一子は「希に出産祝いを
もってきたけど
渡すような雰囲気ではない」と
愚痴った。
こちらも
場所は別の部屋だが
桶作家である。
元冶、一子
マキ、みのりだった。

一子はネットのコラムが
ずっと続いているので
それが話題となった。
「今思えばあの第一回の
コラム、両方とれば付けが
くる?!という記事は
もしかしたら希ちゃんのことを
書いたのかな」と
マキが言う。
「付けがくるものだと
断定したわけではない」と
一子は言う。
「わざと希ちゃんのことを書いたのか」
とマキは思ったらしい。
「仲間の幸せをねたんで。」
という。

一子は「違う」というが、以前が以前だけ
に、こう思われても仕方がない。

「付けが来る??かもという意味だけど
希をみて確かにそう思ったかも
しれない。
希を見ていると女の人生は
障害物競走だと
一子が言った。
やっとの思いで
夢をかなえようという気になって
横浜へ行って
フランスへ修業だと思ったら
旦那がピンチで能登に戻って
やっと店をだしたら
今度は子供やろ・・・
子供は障害ではないが
・・」

「希ちゃんはいつも全力投球
だからね・・・」とみのり。
「一子に好きな人はいないのか」と
聞く。
一子はマキの鉄の教えを守って
今は仕事と決めているといった。

「仕事ができるほど男に敬遠されるね」と
マキ。

一子は
あわてて、「ほんなんけ?」と
マキにくいつく。
みんな無言。

「元冶さん、ほんなんけ?」と聞く。
元冶は、ノーコメント

折りたたんだ新聞で
一子側の顔を隠した。

塗師屋では
女将の仕事をしながら
子供を見ている希。

ふと、
怖くなって
歩実のほおをさわった。

「息をしている・・・

よかった・・・」

ホッとしていると後ろから
ふみが、「かわいいね」と
いってやってきた。

「びっくりした」というと
「あんたみたいにしょっちゅう
びっくりしていると
心臓が持たない」とふみがいう。
野菜を持ってきてくれた。
ふみは
「お茶入れてくだ
子供は見ているから」と
いう。

希は、ふみをみた。

「大丈夫や、息してなかったら
呼びに行くから」という。
希はむっとして
「茶化しているやろ」と
いった。
「うちは真面目に悩んでいるから・・」

店をやるかどうか・・・・

という悩みだ。

「子供を犠牲にしてまで
やりたいことをやって
いいのかな?」と希。

ふみは、「生活のためになくなく
子供を置いて働く親がいっぱい
いるからね。
働かなくてもいいのに
わざわざ借金までして
店だして・・・・
やりたいことなら
許されんのか???

問題はそれではない。
大事なのは子供に自分が
親の犠牲になっているのでは
と思わせないことだ。
これから子どもにそれをどう伝えて
いくのか・・・

おまえが悩むのはそこだけや。

そのまえに・・・
ほれ

もっと

笑え・・・」とふみがいう。

希は子供の
散歩のとき店の前に
いった。

「11月中旬までやすみます」と
の貼り紙。

希は考えていた。
そんな時圭太があるアイディアを
出した。

子供の観察掲示板を
つくった。
何時におむつを替えたか
何時にミルクを飲んだか
・・・
分担表も作った。
井田も亜美も協力すると
いう。

そして、圭太が二人用の
ゆりかごを作った。
それに寝かして仕事場に
おいておくという。

「寝かしてみて・・・」
目のあたりにかわいい
おもちゃがくるくる回る。

希が店にいるときは
これをここに置くという。
そのおもちゃ、圭太が
作ったらしい。

圭太も井田も
亜美も、コドモに
一生懸命だと
希は思った。
そして

希が笑った。
「ありがとうございます。」
「いいさけ
おれんときも
よろしく頼むな?」
と、井田。(え?)

こうして、
万全のサポート体制と
なった。

その夜希は圭太に言った。
「ありがとうね、あんなにいろいろ。
いつ用意してくれてたの?
気が付かなかった。

全然周りが見えてなかった・・

ごめんえ

うち、自分の気持ち
ばっかりで・・・。」

「希・・
店もおまえの子供やろ?
できる中でできることやって
育てていかんか?
俺たち二人で。
子供らも店も。」

「ありがとう。」

希は圭太に感謝した。」

翌日、希は店の貼り紙を変えた。
そこへあの日の
太った客が通った。

「店をまたはじめるの?
このままつぶれるのかと
思ったわ・・」

「またいらしてください。」

貼り紙には

「明日より営業します」



あった。
***************
女性の人生は
障害物競走である。
一子はジャーナリストらしく
そう表現した。

それがいけないのではなく
現実が聡なのである。

いよいよ仕事という時は
子供を産んで育てる
時である。
自分のキャリアをどう守るか
それが問題なのである。

ふみがいったこと。

好きなことをしたら
なぜ責められるのかと
いうことだ。
生活のために子供を産んですぐに
仕事に行く女性も
いる。
彼女たちは責められないのかと
いうことだ。

そして、圭太が言った。

店もおまえのこどもやろ?

店が希の子供・・
希にとってこれは
力強い応援となった。
圭太はやるときはやるんだ

思った。

しかし、圭太のお母さんは
かなりきついけどね。

子育てで好きなことをやめる
ということは
大きくなってそれが愚痴になる
場合がある。
あんたたちを育てるために
店をたたんだ。
くやしい・・・
と、母親がいったら
子供たちは
どう思うだろうか?

自分たちを育てるために
大好きなケーキを作ることを
やめたなんて
ありがとう、お母さん
ケーキを作ることをやめてくれて

と母親に感謝するだろうか?

しかし、現実は、希にとって
小さな命を守るために
必死なのである。
自分の方にずっしりとのった
命を守るという責任が
大変なのである。

もしものことがあったら
と思うと
怖くて、たまらないのである。

それをふみが見抜いた。
こうして
希と子供たちは大勢の
人たちに守られて
いると思った。

希の悩みや奮闘は
いま、見知らぬ土地に嫁いで
子育てをしている
若いお母さんたちに、ある意味
エールになるかもしれないと
思った。
心の壁をどうにか
とりはらう努力をして
児童館とかサークルなど
に、顔を出して
いろんな人に
であったらいいのでは
と思ったりする。