下剋上駄菓子ケーキ5
幸枝は希と大吾のケーキを
食べ比べて解説をした。
大吾のケーキは帰国後コンクールで
優勝したケーキだ。
「足し算につぐ足し算の味の構成
で、うるさいぐらいに口下手の
くせに自己主張が強いところは
昔から変わっていない」と
幸枝は言う。
「これだけの材料をこんなにも
豊かな表現でまとめられる
パティシエはそういないわよ。
腕を上げたわね、大吾。
この真っ白なショコラの中に
情熱が込められているわ。
まさにあなたの人生ね・・。」

「泣いてんの?」
徹は大吾の顔を見て
そう聞いた。

「それから希!
40点!!」
浅井は「低い」といった。
「修業する前は35点で
5点しか上がっていないの?」
と希は悔しそうに言う。
「食材を愛する気持ちは伝わって
くるわ、でも未熟
全く未熟
とことん未熟!!

その未熟さが一般受けする
食べやすい味になって
いるのね。」
だから、売り上げが上がる
時もあるらしい。

一般受けということで説明を
大吾の求める幸枝だった。

大吾は「ウイ シェフ」といって
立ち上がって説明した。

「要するに高級フレンチと
茶漬だ!!!
俺の歌詞は伝統的なフランス菓子
だ。
欧米人には受けるが日本人には
成れていない場合もある。
あくまでフランス菓子としての
味で勝負をしたのだ。
茶漬けが悪いというわけではない。」

美南は
「私分かるような気がするという。
本格的なチョコより
安いチョコのほうが好き。」
輪子は
「私も本当は高級なモンブランより
安い黄色いモンブランが
好き。」

高級なお菓子より安い駄菓子が
好きという理論である。
希はふとおもった。
「うちのケーキのほうが奥さんの
口に合うといったあの人は・・・」

榊原に電話をしたら
確かに奥様は駄菓子が好きだという
いう。

「だからつまりは一般受けする
食べやすいケーキにすればいい
のですね?」と
希が聞くと確かにそうだと
いう。
「できたら、いっそうのこと
イチゴのショートケーキでも
いい」と榊原はいった。
希は迷った。
イチゴのショートは
もともとフランス菓子ではない。
しかし、客は駄菓子のケーキでもいい
というのだ。
ますます悩む希だった。
榊原も離婚届に妻の母の
名前も署名されていて
ますます離婚が近くなった
と、なやんでいた。

天中殺に帰ると希は
大吾に謝った。
「自分のほうがうまいと言われて
舞い上がるからだ」と大吾は
いう。
「俺を叩きのめすと豪語して
いたんだろうが・・

まさか、シェフの孫だったとはな
どうりで・・・あの小憎らしい
人形・・・あのキッチンウイッチ・・」

あれは、幸枝が持っていたものだ。

「あれはシェフが持っていたものだろ?
妙に威圧感があった」と
大吾が言う。
あの人形は
不思議な縁で自分が持っていると
希が言う。
「こんな風につながっていたのか。」
大吾はつぶやいた・・・。

「それでどうしますか?駄菓子のオーダー
ケーキ???」

「おまえに任せる」と大吾は言う。

部屋に帰ると幸枝がいた。
希は大吾とのやり取りを
報告して、駄菓子ケーキの
下りを言うと

「俺様の味がわからないやつに
食わせるケーキはないというと
思ったのに・・・」

幸枝は「大吾も変わったわ」といった。
「あなたを育てようとしているのね」と
いう。
希はいままでのことを思い出し
ついに笑ってしまった。

「そうか、おばあちゃん
の弟子なんだ。
そうか・・・」と納得した。

以前幸枝が言った、「みんなを喜ばせる
笑顔になるケーキを作るために
パティシエになったというやつは
脱落する」と。
大吾も同じ反応だったという。

あのコンクールの後
希はケーキは食べた人を
笑顔にするからパティシエに
成りたいと思うというと
大吾は
「ふん
ふん
ふん」

と、鼻で否定した。

幸枝は笑った。
「あはははは・・・

とにかくあなたは頑張りなさい。
駄菓子のケーキを。」

しかし、デザインを書いて
榊原にみせると
これは駄菓子ではないという。
いろいろ考えて
妻が離婚したい理由が
わかったという。
榊原はブランド志向だが
奥様はいいものはいいという
悠然とした趣味の方だという。
フリーマーケットで買ったような
服を着て
音楽は俗っぽいものを聞くし
それが嫌いな夫は趣味を押し付けて
みたが・・・限界となったらしい。
その妻の気持ちは最近ますます
わかってきたという。
「お願いします。
妻を失いたくないのです・・。」


「どうすればいいかなぁ??」

一日一回の圭太コール
で圭太と話をした。
「断ればいい」と圭太は言う。
「おまえのところは伝統的な
フランス菓子なんだから
そんな看板背負って変なものは
作れないだろう?」と
いうが。
客のリクエストにはこたえたい
希だった。
圭太は「俺なら断る」という。
「輪島塗の名前に傷がつくし・・」
「輪島塗はそれでいいだろうけどね。」
そういったら圭太が怒った。
「その言い方はなんだ」という。
切ろうとしたら「喧嘩したまま
切らないというルールがある」と
圭太が言う。
「そっちが一人で怒っているだけ
だ」と希が反論。
「あたりまえだ。怒る。
輪島塗っていうと・・・」

と、輪島塗の話が長くなるので
希は
「もう~~~
しつこい~~~」という。
「謝るまで絶対切らんさけな」と圭太。
「謝るほどのことは言うてないわ」
「ごめんなさいは」
「ごめんしない」

「なして」
「ごめんなさらない!!」
「おまえ!!
輪島塗をなめとるのけ!!」

「もう~~~しつこい!!」

大声で叫んでいたのが
共同洗濯場だったので
各部屋の住人たちが

やってきた。

徹が
「ごめんなさい」

という。

「うるさいよ、君たち!!」

と小声で言った。

みんなじっと見ている。

「あ・・・

ごめんなさい!!!」

希は謝った。

もう一つの問題は・・・
徹のケーキ作りである。

藍子の好きなキャロットケーキを
徹は作ろうとしている。

「ケーキの材料はきちんと図る!」
「はい!!」
「手早くかき回す!!」
「はい!!!」

いくらやっても
うまくいかない。

それでも、どうみても
駄菓子のようなキャロット
ケーキができた。
四枚のクッキーが
それぞれの似顔絵になっている。

「お母さんは喜ぶわいね・・」と
希が言う。
徹も満足そうだった。

大吾のケーキが好きで
それが目標となって
ケーキ作りをやってきた希
だった。
子供のころのルセットを見直す
希。
「お母さん喜ぶかな」
「喜ぶよ」
みのりもいった
「へたくそやけど、」と
結婚お祝いケーキを
作ってくれた。
「うれしいよ」と、希は言った。

榊原は
「あなたのケーキが一番妻の
口に合うと思うんです。」

・・・

自分が作りたいケーキと
食べる人が喜ぶケーキは同じなのか
・・・・・
希は考えた。
その様子を大吾が見ていた。
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これは、深い哲学ですね。
自分の求めるものと
客が求めるものは
一致するのか???
でも、大方一致している。
大吾の店の場合はそうだ。
フランス菓子を食べたいと
思って客は来る。
そして大吾のケーキは売れる。

だが・・・

あまりにも未熟な希の
ケーキが一般受けをして
時に大吾のケーキの売り上げを
抜くのだ。
これは時々高級フレンチ
たまに茶漬けのサークルでは
ないだろうか???

茶漬けもいいけど
高級フレンチもいい。
つまり
服で言うと
よそいきの服ばかりだと
リラックスできないし
普段着ばかりだと
場所によっては失礼になるし
自分もシャキッとしない。
だから、この相反する
要素は同時に存在しても
いいのではないのだろうか?
駄菓子と
高級菓子が
同時に存在して

お互いに
エールを送る・・

って・・

ことでは

ないですか?