官能カスタードクリーム5
希はクレームパティシエ―ル
つまりカスタードクリームの
特訓をやりすぎて手首を痛めて
しまった。
なにをするにも痛くて顔がゆがむ。
ショーケースにケーキを入れるときも
落とすのではないかとハラハラする。
そんな希に大吾はクレームパティシエ―ルの
仕込みを命じる。
それを受ける希だった。
しかし、火にかかった鍋のなかの
クリームを手早くかき回す
仕事である。希はいくらがんばっても
無理なことである。

大吾はクリームが焦げていると
指摘した。
そして大吾は鍋をかき回すと
下のほうはすでに固まって
いた。
腱鞘炎がばれた。
このところミスが多く、その原因は
色ボケだったので
深く反省してがんばったが
むりだった。
腱鞘炎には勝てない。
大吾はすべて自分で捨てろといった。
重たい胴の大なべを持ち上げて
ゴミ箱に入れる。
それだけでも大変な力仕事だが
美南には手伝わせないように
一人でやれと大吾は言う。
クリームを捨てる。
その材料はあの卵である。
自然がくれたおいしい材料を
商品にすることなく
すてる悔しさを感じたのではないかと
思った。
大吾はクリームを捨てて出て行けと
命じたので
希はいつもよりも早く家に帰った。
そこに大輔が現れて
「早いね」と声をかけた。
そして「俺のことさけてないか?」と
聞く。
希は、「急ぐさけ」といって
部屋に入ろうとした。

大輔は「今度は焼き鳥屋に行こう」と
いう。
希は大声で「ほっといてくれ」と
叫んだ。
そして「ごめん」といった。
「いまあんたのこと考えたくないから」と
言い訳をした。

その頃、大阪では
退社の時間になって一子が
帰る格好ででてきた。
なんと、圭太が待っていた。

「どうしたの?」
一子が聞くと「サプライズだ」という。
「明日は休みだろうから、いまから
おいしいものでも食べに行かないか」と
いう。
一子に取ったらそれは、それで
自分の予定を狂わせるものだった。
いまから、同じ職場の仲間と
温泉に行く予定だった。
仲間たちは一子の彼氏が
やってきたので
だったら一緒にいこうと
いった。
圭太に取ったら自分が現れて
よかったのか、わるかったのか
どっちだろうと思った。
おそらく、悪かったのだろう。
仲間たちは「先にいってるから
後から合流したらいい」と
いって先に出かけた。

二人は喫茶店に入って話をした。
「温泉へ行くことを言って
たらよかったね」と
一子が言う。
圭太は「そんなこと別に」というが。
明らかに二人の間にはなにかしら
ぎくしゃくしている。

「俺がいろいろ言うから」というと
一子は「村と大阪で違いすぎるから」
と。村のことは好きだけど今はここの
生活が楽しいのだ。
「村のことを忘れてしまう。
それではいけないと思うけど」

圭太は「俺にどうしてほしい」と聞く。
「別れたいのか?」
一子はだまっていた。
「わからん・・・。
それでもなんかすっと圭太のことも
忘れてしまう時がある。」

「分かった。」
圭太は立ち上がった。

一子は、「かえるの?
もっと怒ってよ。
うちを捕まえててよ。」

「もし俺と続ける気があるなら
夏に成人式をするから
帰ってこいよ。
帰ってこなかったらそれが答えだと
思う・・。」

圭太はそういって去って行った。

希は能登の文と話をしていた。

「できたんけ?ジュテームなんとか
というケーキは?
このケーキは希にはまだわからんやろ?」

文は話をした。
「女の言う愛していると
言うのは男にとっては本当の愛では
ないということやろ?
女の求める愛と
男の
愛は違う・・・
女は確認したがるが
男は口に出さないのが本当の愛だと
思っている。」
そこへ藍子が「何の話ですか」と
いった。
「お風呂を先に頂きました。」
文は「ジュテなんとかという
ケーキの話や。」

そういって電話を藍子に渡した。
藍子の話はこういうことだった。
「いろいろは解釈があるのね。

言葉だけを信じたらだめだ
ってこと
行動がすべてだってこと
人の数だけ解釈がるから
希のジュテームを作ればいいのでは」
と。

希は「男の言葉に浮かれて
仕事にしっぱいして。」といった。

「男ってゴンタさんのこと
かな?
希の周りにはゴンタさんしか
いないしね。
そうか、ゴンタさんの言葉に
翻弄されたのね。」
藍子は愉快に笑った。
「面白いわね~~~
希がそんなになっていることが。」
藍子は「希だってそんな希がいるって
こと知らなかったでしょ」という。
「いろんな要素でできているので
知らない自分もいるのだ」と藍子は言う。
「人も人生もいろんなものが混ざって
いるから面白いのよ。」

改めて
希はジュテームモワノンプリョ
のもとになった歌を聞いた。
そして訳した詩を
みつめた。

さっきの藍子の話も思い出した。

陶子は大吾に「津村さんには
ジュテームモワノンプリョは
早すぎた」といった。
大吾は希がどんなものができるのか
見たくなったから造らせたという。

藍子の言葉を思い出しながら
希はなんとなくわかって来たような
気がしました。

あの卵をそっと手に取った。
そして混ぜ合わせた。
音楽も
絵も
おいしい料理も
きれいな花も
豊かな自然も
数々の言葉も

すべてがあって
自分もケーキも作られて
いく。
恋もそのうちのひとつなの
かもしれないと・・

希は、できあがった
ジュテームモワノンプリョを
大吾に試食してもらった。

「どうですか?
大人の男女の愛・・・」

大吾は
「小学生の初恋だな・・」
といった。
陶子も浅井も力が抜けた。
希も美南にしがみついた。

「やっぱりまだ早かったか。

半額で出しとけ。」

希は驚いた。
お店に出してくれる??

「お客さんに売っていいのですか?」

そっと希は大吾に聞く。
大吾は
「ああ・・」と答えた。
希は飛び上がって喜んだ。
陶子と浅井はあっけにとられた

ようだった。
*************
こうして希は大人の男と
女の愛を通して
人というものを学んで行った。
人生というものを学んで行った。

答えは出なくても
答えになっている場合もある
ということも
学んだはずだ。

愛しているといっても
それは男にとってすべてではない
ということも
圭太と一子の場合を見ていると
わかるような気がするのだ。

圭太は、いろいろ言い訳をする
一子をその言葉がすべてではないと
おもった。
だから、
成人式に帰って来いと
いった。
もし帰ってこなかったら
それが答えだと思う・・と。

言葉だらけの女の愛と
それを真に受けない
男の愛・・ってことで
しょうか??
では、希と大輔は?
希はすっかり言葉に翻弄
された。

かわいいね・・・。

この一言である。
この一言で希は色ボケに
かかった。
しかし大輔は
本当にかわいかったので
そういっただけで
深い意味などないと思う。
でも希がかわいいので
あのとき俺に部屋に来ないかと
いったのだ。
あれは言葉だけではなく
思ったことを
行動に移したのだった。
すると希は
その行動よりも言葉にやられて
しまって・・・それだけで
メロメロ。
ああ、ケーキひとつでここまで
哲学的になれるのかと
たかだか
19歳ぐらいで・・・
大きな人生経験だと
思いました。

で・・・

大輔と希は一緒になると思う?
圭太とよりを戻ると思う?
これも
ジュテームモワノンプリョ
かもね。