恋愛泥沼チョコレート1
朝、目覚まし時計が鳴った。
午前5時である。
希は飛び起きた。

「行ってきます~~」
「気を付けてな。」
「お父さんも遅刻せんように。」

「おはようございます。」
天中殺の朝食に陶子
浅井、美南が来ていた。
「朝から大きな声はやめて」と
陶子に言われた。

ようやく大吾の許可が下りて
パティシエとして修業が
はじまる。
希は張り切っている。

そして、店の更衣室でそっとみた
鏡にうつった自分のパティシエ
服姿・・・。
希は満足した。
うれしかった。
帽子を頭に載せると
プロみたいである。

陶子が声をかける。
「なに見とれてんの?行くわよ!」

希は
「はいっ!!」と
返事をした。

あのテレビ放送以来、店は繁盛して
危機を乗り越えることができた。

パティシエとして働き始めた
希。
といっても新人の仕事は
相変わらず、下準備や
仕上げのみ。

ひたすらフルーツを載せる。

ひたすらトレーに乗せていく
ひたすらピックを載せていく。

タイマーが鳴って

「失礼します」と言って

皆の服のホコリをころころで取る。
合間にホコリをころころ・・。

ひたすらピスタチオをカット

合間に肉体労働・・・
材料を運んだり、ごみを運んだり。

ひたすら、フィルムを巻く。

そういえば、ケーキを食べるとき
あのフィルム・・うまいこと
まけているなと、感心するけど。
新人がやっているのか・・。

ひたすらケーキをトレーに乗せる。
合間に誇りを取る・・

こんな作業が朝から晩まで延々
と続くのだ。

そして、夜中・・・
ひたすら、自主トレ。

「どうしたらこんな味が出るの
かな???」
と、台所で研究と練習に余念がない。

そうなると

こうなる・・・。

昼間、リンゴの皮をむきながら
寝てしまう希。

店に外に出るとなにやらわいわいと
にぎやかだ。
徹を中心に
美南と徹と浅井と
お客様たちが騒いでいる。
どうやら、徹の会社で依頼した
店のHPが仕上がってそれをみて
いるらしい。

あの放送のシーンも入っている。
「この放送見たわよ、よかったわ。」

「このひと収録が終わってからが
良かったんだよ。
感極まってしまってね・・」

と徹が自慢げに言う。

「輪子、愛している。
ジュテーム・・・って
あはははは・・・」
徹が大吾のものまねをしている
間に周りにいた人たちが
去っていく。
後ろを見ると大吾が立って
いた。

そして、「なんだこれは消せ!!」と
怒った。


厨房でのこと
大吾が「津村!」と希を呼ぶ。

希は、「お父さんがスミマセン」と
いった。
「テンパリングをとっておけ。」
と大吾が言う。

「テンパリング・・???」
チョコレートを溶かして
固める作業における
温度調整のことを
テンパリングという。

まずはチョコを50度で溶かす。
そしてその2/3をこうやって溶かす。
と、台の上にチョコを平たく流し
ながら説明する。
希はメモを取る。
手の使い方手順
などを見る
28度までにさがったら2/3を
取って
あとはのこして
これだけを31度まであげる。
こうするとチョコに含まれる
カカオバターは安定した
結晶体となる。
つややかで口どけのいい
チョコレートを作るためには
欠かせない作業である。

バレンタインまであと20日。
テンパリングができないと
使い物にならないと
大吾に言われた。

「バレンタインけ・・・」
希はつぶやいた。

桶作家では、一徹のそばに
みのりがいて。
ふたりでPCを見ていた。

「バレンタインか。
希ちゃん、また忙しいのね。」

「そうだね」と一徹が答える前に
真人が一徹をどかせて
みのりの前に座った。

「お父さん、また来たんけ。」
「みのりこそ来すぎだ。
迷惑だろ?元冶さんたちに。」

文は「うちは全然」という。
「春から、一緒に住むんだから
今から子離れをしないと
つらいよ」とみのりが言って
「お手伝いします」と言って
台所へ行った。

一徹が、
「後は俺が引き受けるさけ」
というと

真人は「やかましい」といって一徹を
突き飛ばした。
元冶はそっと真人にお茶を出した。

大阪のにぎやかな
ショッピングモールで一子が働いて
いた。
一子は、圭太と電話をしている。
すごく楽しいという。
こんなことなら、早く大阪に
来るんだッたと元気である。
そして今月は帰れそうにもないと
いう。
また来月だなという話で
バレンタインは休みをもらっている
からと、一子。
圭太に似合いそうなシャツを見つけた
から楽しみにしててという。

圭太は一子からの電話を置いて
すごくご機嫌になった。

店のみんなあっけにとられて
その様子を見ていた。
そして、大声で笑った。
会えない時間が愛を育てている・・と。

天中殺では疲れ切ったスタッフが
ご飯を食べていた。
どうやら、ここの店の激辛は
大吾の好みらしい。
新しいメニューを食べてと
輪子と珍さんがもってくる。
陶子は
バレンタインのことを
「人の恋愛のために疲れはてる
空しい季節だ」といった。

美南は合コンのことをばらして
いった。
陶子は浅井の友達と合コンしたのだ。
しかし、浅井の友達とは
浅井が3人きたといった。浅井の友達
でも浅井とは違うと思っていた
自分が馬鹿だったと反省したのだ。
浅井は「ひどいんですよ、僕たちを無視して
がんがんのんで食べて
お金も払わずかえって。」

つぎに
材料をもって来る宅配の人の
話になって、担当が変わったねと
陶子と美南がいう。

「パティシエって
出会いが少ないんだ」と
希はいった。

「何なの上から
どこで出会うのよ・・
朝から晩まで働いて
こんな夜中にこんな
脂っこいご飯を食べて。」

陶子は怒った。
「私の人生詳しく聞きたいの?」
「すみません、結構です」

試食を持ってきた
輪子と珍さん。
「激辛三倍」。
と珍さんがいう。

「辛そうですね。」
「こんなの誰も頼みませんよ」
希が食べた。
「うん、うまい・・・」
「うまいでしょ?」

「カラっ!!!」
と希。
辛さは後で来る。

輪子さんは辛さ好きの醍醐のために
新しいメニューを作って
いる。
しあわせそうだと希は思った。
すると大輔が「あんなスピーチひとつで
納得してしまうなんて」と
よこから、口をはさむ。
美南は大輔に毎日あのお店で
バイトをすることにしたという。

大学もあるから、不規則だけど
販売中心のスタッフをする
という。

大輔が釣りに行こうとしたら
美南は「厚着していきなさい」と言った。
「すぐ、風邪をひくから」と
なにやら、やさしい。

希はお店に行こうと思った。
陶子が「私の人生を聞くのでは」と
いう。
「また後で」というと
「若いと思って余裕をこくんじゃない
わよ、人生設計をしっかりし
ないと」というので
希は
「立ててます。人生設計なら」と
パタパタと自分の
人生設計を書いた
おお書きを
出した。

一流パティシエの道・・と
題したその設計図。
19歳でスタート。
洗い物
掃除、接客の仕事をしながら
メレンゲ1000回。
ナッペ1000回・・・
とにかく基本技術を1000回練習。
22歳で一人前のパティシエになって
25歳でスーシェフになるとの
設計図に陶子は怒った。
「そんなにとんとん拍子に行くわけが
ないわよ。
もっとここらへんで挫折するのよ!!

つかスーシェフは私なんだけど
ぬかすつもり?」
美南は「こんなに厳密に立ててたら
恋する暇もないんじゃないの?」と。

希は恋をしている暇などないのは
わかっているという。
「恋愛より今は仕事やさけ。」

「くだらん!」
と大吾。

「そんな干からびた人間にうまい菓子が
作れるか!!

おまえ、男と付き合ったこと
ないだろ?」

「お父さん、セクハラ!!」

大吾は希の額に手を当てた。
「36度2分」
そして、希の手を取って自分の額
にあてた。
「何度だ?」

希は答えられない。
「人の肌の音頭を知らないやつが
チョコレートを
人肌に暖められるか!!
一人前になりたかったら
愛におぼれろ!!!」

(おおおお!!)

「色恋沙汰を起こせ
おまえバレンタインまでに恋をしろ。」
「テンパリングじゃなくて?」
「両方だ!!
書き直せ、その下らん計画表!!」
そういって大吾は去って行った。

ええええええええ!!
そんな・・・
希の人生設計はどうなる?
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わらったのは
恋愛をしないのは干からびた
人間だと大吾が言ったところ。
そんなやつに人肌にあたためると
いうチョコレートの温度さえ
わからないという。
そして
「一人前になりたかったら
恋愛におぼれろ・・」

大吾は

おぼれたというわけか。

その顔で??(ぷっ)

希は、二度失恋をした。
出会いの少ないパティシエの世界で
どう恋愛をするのか???

浅井はちがうだろうし・・
珍さんも違うだろうし
高志も相手にならないし・・

大輔??

大輔???

ゴンタは相手にならないよね。

圭太?

全く違う!!!