母娘キャロットケーキ5
市役所に希の辞表が届けられた。
何も知らない希だった。
幸枝が送ったものだった。
幸枝は希がパテシエになりたいと
思ったらしい。
「知り合いの店を紹介するから
早く帰ってらっしゃい。」
電話の向こうで幸枝が言った。

藍子は怒った。
幸枝に勝手なことをしないでと
いう。
幸枝は「希がやりたがっているのよ。
気が付かなかったの?」という。
藍子は、「私の家族に手を出さないで。
自分の力でやっと手にいれた
家族なんだから。」といった。

文も元冶も聞いていた。

「都合よく表れて引っ掻き回さない
でよ!」
幸枝の考えは違う。
藍子に反論した。
「家族だから鳥かごに閉じ込めておく
つもりなの?
だから徹もどんどんつまらない
男になっていくのよ。
夢だけが取り柄だッた男よ。
あなたの顔色を見て
こそこそしちゃって・・・。」
「徹さんは何度も失敗している
のよ。ダメな人なのよ。」
「ダメにしたのはあなたでしょ?」
徹は幸枝に話をしていたらしい。
「自分がどんなに失敗しても
藍子は待っていてくれる。
許してくれる・・と。
そんな逃げ道を用意するから徹は
ダメになったのだ」と幸枝は言う。
「あなたはふところが広いように見えるけど
徹を飼い殺しにしているだけ。
徹の夢を一番信じてないのは
あなたではないの?」
藍子の顔をゆがんでくる。
元冶は「その辺でやめんかい」という。
藍子は幸枝に「家族なんていらない人が
なぜ愛せないのに産んだの?」と聞く。
幸枝は答えられない。
藍子は去って行った。
元冶は幸枝にいった。
「あんたの生き方が正しいのか
間違っているのか。
誰にもわからない。
だけど、俺の家であの子たちを
傷つけるのは絶対に許さないから」と
いって去って行った。

文は幸枝を見上げた。
幸枝はまた縁側に座った。
「お父さんは藍子さんたちを
かわいがっているから・・」という。
「来るべきではなかったのよね。
ここに・・・・」
幸枝はつぶやいた。

文は幸枝が何を考えているのか
何をしようとしているのかわからない。
何も言わないから。といった。
藍子が傷ついているのは
幸枝が、家族よりも夢を選んだ
からだけではないのではないかという。
その時々に幸枝がちゃんと気持ちを
伝えていたら傷つくこともなかった
のではないかという。

「何を伝えても言い訳にしかならないわ。」

文は「いいわけでも伝えるときが
あるから・・人生には・・・。」

翌日・・・祖母は姿を消した。
台所には作りあげたケーキの
飾りがあった。

「パーティ当日なのになぜ?」と徹。
「ケーキは諦めるしかないか」という。

希は「今度こそ藍子は幸枝と仲直りが
できないままになるのでは」という。

徹は「だってしようがないよ」といった。

「うちがつくる!!
やってみる!!」

希は決心した。
そこへはるたちが道具や料理を持ってきた。

圭太は必死でケーキを作る希を見た。

希はキャロットケーキを作っていた。
なんども作るがおいしくない。
また、作り直す。

-卵は入れる前に常温に戻すこと
-生地はふんわりするまで混ぜる。

希は幸枝の言葉を思い出しながら
作った。

はるたちの協力で藍子は白い花嫁さん
のかっこうをした。

-遅い、遅い。生地が分離してしまう
-はやく、はやく!!
希は必死だった。

―これはキャロットケーキよ
―藍子が大好きなケーキなの。

一方宴会のほうは浩一が
挨拶をしていた。
「徹さん
藍子さん
結婚20周年おめでとう・・・」

「とりあえず乾杯!!!」
「20周年おめでとう!!」
と慎一郎も盛り上げる。
「おめでとう~~~」
皆で乾杯をした。

なんどめなのか・・・やっと
ケーキができた。

希は一口食べると

感動して幸枝のケーキの
デコレーションを載せた。

「できた!!!!」
「できたけ?」とみのり。
「わあ~~」
「すごい~~~」
「うまそうやな~~」
とみんな台所に集まり
喝采をする。

藍子は希が必死で作っていること
を知っていた。
そしてやっとケーキができたことも
分かった。

部屋に帰って母のパテシエの写真を
みた。

希は藍子に声をかけた。
手にはお皿にケーキの切ったものを
持っていた。
「食べよう」というと
「私はいいわ」という。
「お母さんが好きだったキャロットケーキ。
たぶん20年前もおばあちゃんは
これを作るつもりだったのでは」という。

「あの人にケーキをつくってもらったこと
なんて一遍もないけど。」
藍子はそっけなくいった。
「家族のために造るわけないわ。
あのひとは。
でも希は作ってくれたよね。」
藍子は希が作ってくれたからと
ケーキを食べた。

そのケーキは・・・・
「キャロットケーキ・・・・」
と藍子はいった。

小さいとき
人参が嫌いだった藍子。
幸枝がキャロットケーキを作ってくれた。

それをおいしいと言って食べた。

「すっかり忘れていた・・」と藍子。

希は幸枝が家族のためにケーキを作った
ことがあることを喜んだ。

文は幸枝を不器用な人なんだろうと
いう。
「愛情というのは目に見えないから
やっかいだわね。」

藍子は、涙が出てきた。

見えないものに魂がこもる。
それは希が能登で暮らして
ずっと感じていたことでございました。

藍子はキャロットケーキを
おいしそうに食べた。
宴会を盛り上げていた
はるたちもその様子を見守った。

愛されずに育ったと思って生きてきた
藍子の心に幸枝のケーキの味が
一瞬にして母の愛情を思い出させました。

藍子は言った。
「希・・・・ありがとう・・」
希は泣きながらケーキを食べる藍子の
そばにいった。
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幸枝さんのハンサムな男前の生き方
がすごいです。
決めたことは断じてやり遂げると
いう背水の陣をしくことです。
そのためなら、コドモとも離れて
フランスへ旅立った人です。
徹をダメにしたのは藍子と
言い切りました。
藍子は、驚いたことでしょう。
そういえば、逃げ道はあります。
いつでも藍子は謝ったら
許してくれます。
だから、徹は背水の陣など
引くこともなく、おもうがままに
夢を追いかけました。
そして、弱さゆえにまた藍子の所へ
逃げて帰って来るのです。
徹の夢を一番信じてないのは
藍子といわれたことは藍子にとって
不本意なことでしょうが。
そうかもしれないと思いました。

キャロットケーキのこと
感動的でした。
忘れていたケーキの思い出が
よみがった藍子さん。
母に捨てられたとばかり思って
いたけど、母は藍子に嫌いな人参の入った
キャロットケーキを作ってくれた。
それを食べた藍子がおいしいといった。
これはキャロットケーキと言って
人参が入っているのよ。
偉いわ~~藍子~~~
と母は喜んだ。
藍子はよくぞ思い出したものです。

しかし幸枝さんはどこへ行った
のでしょうか??