母娘キャロットケーキ3
希と幸枝は20年前にすっぽかした
藍子たちの結婚記念パーティ
をすることをきめた。
幸枝がお祝いにケーキを焼くと
いうことで。
さっそく、準備に取り掛かる。
皆寝静まった深夜・・・
希は台所へ自分の魔女のケーキの
レシピをもって降りていく。
すると、幸枝はもうケーキをやいていた。
地味なケーキだったが
一口食べると・・・
ことばがでない。
黙っているので幸枝は「嫌い?」
ときく。
希は「好き・・・」と小さくいった。
「大好き!!
すごくおいしい!!」
「キャロットケーキよ。」
「人参?」
「藍子が大好きなケーキなの。
結婚20周年記念はこのケーキで
お祝いしましょう!」
そしてもう一度焼くという。
何回か試作してアレンジして
みましょう。
材料の中には希が知らないものも
あった。
「これはなに?」
「カルダモンよ。」
「ね、これメモしていい?」
「なにそれ??
『まれのおかし』・・・」
レシピ集だった。
幸枝はじっと見ていた。
希は
「こんな贅沢なケーキ、もう
作られしんし、せっかくやさけ
・・・。」という。
幸枝は希を見て、「それなら一緒に
やってみる?
私の助手、やってちょうだい。」
希は喜んだ。
しかし、生地をつくるにも
卵を割るにも
幸枝のダメ出しがでてくる。
希にしたら知っていることなのに
幸枝にしたら、手つきが悪いのか
要領が悪いのか、技術が未熟なのか
なんなのか・・・
特訓のようでもあった。
幸枝は
作る過程のほんの少しの
加減のずれが、結果に出てくる。
だから、どこの加減がいいのか・・・
よくよく見極めることが大事だと
いった。
幸枝は希が岡野亜美に
何層も重ねることの大事さを
教えるために
いくつもミルフィーユを作ったことを
評価した。
夜中のケーキづくりで朝は寝不足の
希・・しかも
幸枝も寝不足・・・。
藍子は、怪訝そうな顔をした。
市役所の昼休みに希は徹に
サプライズのパーティ
の話をした。
しかし、藍子には始まるまで
黙っていてほしいという。
徹も俺のフレンチレストランの話
はパーティが終わるまで
内緒にしてくれという。
藍子にばれたら怒られるという。
希はどっちにしても怒られると
いった。
そこに紺谷課長がやってきて
昼休みはもう終わりだと
いった。
希はあわてて、さっていった。
「お父さん頑張ってね」といって。
徹は紺谷に
「紺谷さんも頑張ってください。
ちまちまと・・・」
と笑っていった。
キミ子が紺谷にいった。
「あの調子では
なにかたくらんでいますね。」
「昔からああです。
先の見えない夢などを追いかけて」
「見えないから追いかけるのでは」
とキミ子。
「希はどうですか?なかなか面白い子で
しょ?」
「あいつこそ何もわかっていない。」
希はパーティのことで
うきうきしていた。
塗師屋では
圭太が一番下っ端なので
まだ、掃除をしていた。
みんな、帰って行く。
そこへ一子が来た。
「圭太、お疲れ。
がんばっているね!」
岡野亜美がやってきて
「じゃまなんですけど、
ここに立っていると」
といって、一子を
突き飛ばした。
圭太に、「これが終わったら
親方の晩飯
風呂湧いたら
きっちり
お背中を流して
マッサージよろしく。
お疲れ~~~」
と言って去って行った。
一子は「やることが増えているね」と
いいながら、パーティの話を
して出られるかと聞く。
圭太は「でる」という。
一子が希が夜中にケーキの特訓
をしていると話すと
圭太は
「へぇ~~~」と
いいながら
ふっと笑った。
その様子に一子はふと
引っかかるものを感じた。
夜中の特訓。
「おばあちゃんはなぜケーキ職人
になりたかったの?」
と聞く。
幸枝は「パティシエというのよ。」
「なぜ、パティシエになりたかった
かというと
食べてくれた人の笑顔が
見たいからよ」といった。
それは、希とて
おなじことだった。
希は、「わかる~~~」と
うれしそうにいった。
が、
幸枝は「なんてことをいうやつは
まず脱落していくのよ。
世界一おいしいケーキを作りたかった
からよ。
誰のためでもない。
私自身が世界一おいしいケーキを
作りたかったのよ。」
希は
世界一なんて想像もできないという。
「結婚する前にはじめてフランスへ
修行にいった。
小さなアパートを借りたとき
小さなお人形を買った。
それはキッチンウイッチという。
ヨーロッパでは魔女のお人形を
台所にぶら下げる習慣がある。
家に幸せを読んだり
料理をおいしくしたり
・・・
世界一のケーキを作るまでは
人を頼らない。
絶対に負けないって決心したの。
悔しいことも
泣きたいことも
弱音は全部その子に吐いた。
あの子のおかげでやってこれたわ。
でも引っ越しの時に無くして
しまったの・・。」
「応援してくれたのですね。
その人形が。」
希はそういうと
幸枝は「希も人を応援するといって
いたけど。
いいの?人の応援だけで
自分のしたいことはないの?」
「あ、」と思う希だったが
「卵が大変」と言われて急いで
手を動かした。
その様子をじっと藍子が
見ていた。
翌日の昼間。
台所でご飯を食べる藍子。
腹が立つと
おなかがすくという。
文は、「何で徹と結婚したのか」と
聞く。
「徹と幸枝さんは似ているから
なぜ、嫌いなタイプと結婚したのか」
と聞いた。
「自分の夢のことになると
周りが見えなくなるところが。
よく似ている」
藍子は、「似ていない」といった。
徹は家族のための夢だけど
幸枝のは自分のためだけの夢だと
いった。
文はだまって去って行った。
希の高志をのぞくいつもの
メンバーが朝市の食堂にいる。
そこで、希はプロのケーキ職人の
技や知識の豊富さに圧倒された
話をした。
今まで自分がやってきたケーキ作りは
何だったのだろうと疑問に思うくらい
プロはすごいと力説した。
その様子を圭太は食い入るようにみて
いた。
一子はその圭太の様子を見て
顔が曇った。
希はパーティの招待状を
みんなにくばり
忙しいからといって先に帰って
いった。
圭太は自分もといって
希を追いかけた。
洋一郎はどういうことだ、
圭太が一子を置いていくなんて。
一子のことは本気だと言っていたのにと
圭太を非難した。
一子はもういいからと
洋一郎をたしなめた。
圭太にそのことを
口に出して話すと彼は自分の
気持ちに本気になるから
やめて。という。
圭太は自分のほんとうの
気持ちに気づいていない。
わざわざ気づかせることもない。
洋一郎はそれでも・・・というが
一子はもっと自分が魅力的に
なってグイッとむかせてみせると
いった。
圭太は希を追いかけた。
「楽しそうやな、ケーキ作り・・・。」
「楽しいよ。」
「好きなことをするって楽しいな。
俺も夜中漆の修業をしているけど
楽しい。」
希は圭太は何を言おうとしているのか
わからない。
圭太は希にケーキ職人になるのかと聞くと
ならないと答えた。
即答である。
「いま、ケーキ作っているのは
お母さんのためやから。」
圭太は希が押している自転車の
ハンドルに手をかけて
止めた。
「無理していないか?」
圭太は先ほどのケーキを作って
いる話をしている希の顔が
生き生きとしていたので
市役所に入って
後悔していないかと
思ったという。
希は後悔していない。
圭太は父親から希の仕事の様子を
聞いていて、どうもうまくいって
いないのではと思っていたらしい。
「市民の皆さんを応援している」と
希は自信を持っていう。
希は急いでいたので自転車に乗った。
圭太は「ありがとうな、」と声をかけた。
希は驚いて振り返った。
「俺・・・
おまえに喝をいれられんかったら
漆をやめているところやった。
ありがとうな。
無理してなかったらいい。
お互い頑張ろうな。」
希は「うん」と答えた。
「ほんなら・・」
圭太は振り返って去って行った。
**************
キッチンウイッチの話はなるほどと
思った。
希も知らぬこととはいえ、ウイッチを
持っている。今は封印をしているが。
ケーキを作るとみんなが笑顔で
おいしいと言って食べてくれるのが
うれしいというのは希のケーキ作りの
原点である。
笑顔がみたいからという理由だ。
幸枝はそんなことを言うやつは
脱落するといった。
あのロールケーキコンテストに
落ちて、審査員の先生に
感想を聞いたとき
彼は、みんなの笑顔を見るために
ケーキを作るのなら
趣味でご家族や友人に造って
あげたら喜んでくれるものだと
いった。
プロとはそういうもので
ケーキへのこだわりは
お客が100人いたら
100のケーキへのこだわりが
ある。
この100人が全員おいしいと
言うケーキこそ、プロのケーキ
である。
幸枝さんはそれを世界一おいしい
ケーキを作ることを
目標にして頑張ってきた。
世界が相手である。
希が圧倒されるのももっともである。
で、希は自分は趣味でケーキを作る
だけだと自覚した。
まだ、人の応援が楽しいのである。
地道にコツコツと働いて
毎月のお給料を母に届けたいと
思っているからである・・。
一子は圭太が希を好きだとわかって
しまった。
圭太はそんな自分の気持ちに
気が付かない。
希はまだ・・・心の隅っこに
圭太を好きだという気持ちが
あるのかもしれない。
それは自分でもわかっていない。
希と幸枝は20年前にすっぽかした
藍子たちの結婚記念パーティ
をすることをきめた。
幸枝がお祝いにケーキを焼くと
いうことで。
さっそく、準備に取り掛かる。
皆寝静まった深夜・・・
希は台所へ自分の魔女のケーキの
レシピをもって降りていく。
すると、幸枝はもうケーキをやいていた。
地味なケーキだったが
一口食べると・・・
ことばがでない。
黙っているので幸枝は「嫌い?」
ときく。
希は「好き・・・」と小さくいった。
「大好き!!
すごくおいしい!!」
「キャロットケーキよ。」
「人参?」
「藍子が大好きなケーキなの。
結婚20周年記念はこのケーキで
お祝いしましょう!」
そしてもう一度焼くという。
何回か試作してアレンジして
みましょう。
材料の中には希が知らないものも
あった。
「これはなに?」
「カルダモンよ。」
「ね、これメモしていい?」
「なにそれ??
『まれのおかし』・・・」
レシピ集だった。
幸枝はじっと見ていた。
希は
「こんな贅沢なケーキ、もう
作られしんし、せっかくやさけ
・・・。」という。
幸枝は希を見て、「それなら一緒に
やってみる?
私の助手、やってちょうだい。」
希は喜んだ。
しかし、生地をつくるにも
卵を割るにも
幸枝のダメ出しがでてくる。
希にしたら知っていることなのに
幸枝にしたら、手つきが悪いのか
要領が悪いのか、技術が未熟なのか
なんなのか・・・
特訓のようでもあった。
幸枝は
作る過程のほんの少しの
加減のずれが、結果に出てくる。
だから、どこの加減がいいのか・・・
よくよく見極めることが大事だと
いった。
幸枝は希が岡野亜美に
何層も重ねることの大事さを
教えるために
いくつもミルフィーユを作ったことを
評価した。
夜中のケーキづくりで朝は寝不足の
希・・しかも
幸枝も寝不足・・・。
藍子は、怪訝そうな顔をした。
市役所の昼休みに希は徹に
サプライズのパーティ
の話をした。
しかし、藍子には始まるまで
黙っていてほしいという。
徹も俺のフレンチレストランの話
はパーティが終わるまで
内緒にしてくれという。
藍子にばれたら怒られるという。
希はどっちにしても怒られると
いった。
そこに紺谷課長がやってきて
昼休みはもう終わりだと
いった。
希はあわてて、さっていった。
「お父さん頑張ってね」といって。
徹は紺谷に
「紺谷さんも頑張ってください。
ちまちまと・・・」
と笑っていった。
キミ子が紺谷にいった。
「あの調子では
なにかたくらんでいますね。」
「昔からああです。
先の見えない夢などを追いかけて」
「見えないから追いかけるのでは」
とキミ子。
「希はどうですか?なかなか面白い子で
しょ?」
「あいつこそ何もわかっていない。」
希はパーティのことで
うきうきしていた。
塗師屋では
圭太が一番下っ端なので
まだ、掃除をしていた。
みんな、帰って行く。
そこへ一子が来た。
「圭太、お疲れ。
がんばっているね!」
岡野亜美がやってきて
「じゃまなんですけど、
ここに立っていると」
といって、一子を
突き飛ばした。
圭太に、「これが終わったら
親方の晩飯
風呂湧いたら
きっちり
お背中を流して
マッサージよろしく。
お疲れ~~~」
と言って去って行った。
一子は「やることが増えているね」と
いいながら、パーティの話を
して出られるかと聞く。
圭太は「でる」という。
一子が希が夜中にケーキの特訓
をしていると話すと
圭太は
「へぇ~~~」と
いいながら
ふっと笑った。
その様子に一子はふと
引っかかるものを感じた。
夜中の特訓。
「おばあちゃんはなぜケーキ職人
になりたかったの?」
と聞く。
幸枝は「パティシエというのよ。」
「なぜ、パティシエになりたかった
かというと
食べてくれた人の笑顔が
見たいからよ」といった。
それは、希とて
おなじことだった。
希は、「わかる~~~」と
うれしそうにいった。
が、
幸枝は「なんてことをいうやつは
まず脱落していくのよ。
世界一おいしいケーキを作りたかった
からよ。
誰のためでもない。
私自身が世界一おいしいケーキを
作りたかったのよ。」
希は
世界一なんて想像もできないという。
「結婚する前にはじめてフランスへ
修行にいった。
小さなアパートを借りたとき
小さなお人形を買った。
それはキッチンウイッチという。
ヨーロッパでは魔女のお人形を
台所にぶら下げる習慣がある。
家に幸せを読んだり
料理をおいしくしたり
・・・
世界一のケーキを作るまでは
人を頼らない。
絶対に負けないって決心したの。
悔しいことも
泣きたいことも
弱音は全部その子に吐いた。
あの子のおかげでやってこれたわ。
でも引っ越しの時に無くして
しまったの・・。」
「応援してくれたのですね。
その人形が。」
希はそういうと
幸枝は「希も人を応援するといって
いたけど。
いいの?人の応援だけで
自分のしたいことはないの?」
「あ、」と思う希だったが
「卵が大変」と言われて急いで
手を動かした。
その様子をじっと藍子が
見ていた。
翌日の昼間。
台所でご飯を食べる藍子。
腹が立つと
おなかがすくという。
文は、「何で徹と結婚したのか」と
聞く。
「徹と幸枝さんは似ているから
なぜ、嫌いなタイプと結婚したのか」
と聞いた。
「自分の夢のことになると
周りが見えなくなるところが。
よく似ている」
藍子は、「似ていない」といった。
徹は家族のための夢だけど
幸枝のは自分のためだけの夢だと
いった。
文はだまって去って行った。
希の高志をのぞくいつもの
メンバーが朝市の食堂にいる。
そこで、希はプロのケーキ職人の
技や知識の豊富さに圧倒された
話をした。
今まで自分がやってきたケーキ作りは
何だったのだろうと疑問に思うくらい
プロはすごいと力説した。
その様子を圭太は食い入るようにみて
いた。
一子はその圭太の様子を見て
顔が曇った。
希はパーティの招待状を
みんなにくばり
忙しいからといって先に帰って
いった。
圭太は自分もといって
希を追いかけた。
洋一郎はどういうことだ、
圭太が一子を置いていくなんて。
一子のことは本気だと言っていたのにと
圭太を非難した。
一子はもういいからと
洋一郎をたしなめた。
圭太にそのことを
口に出して話すと彼は自分の
気持ちに本気になるから
やめて。という。
圭太は自分のほんとうの
気持ちに気づいていない。
わざわざ気づかせることもない。
洋一郎はそれでも・・・というが
一子はもっと自分が魅力的に
なってグイッとむかせてみせると
いった。
圭太は希を追いかけた。
「楽しそうやな、ケーキ作り・・・。」
「楽しいよ。」
「好きなことをするって楽しいな。
俺も夜中漆の修業をしているけど
楽しい。」
希は圭太は何を言おうとしているのか
わからない。
圭太は希にケーキ職人になるのかと聞くと
ならないと答えた。
即答である。
「いま、ケーキ作っているのは
お母さんのためやから。」
圭太は希が押している自転車の
ハンドルに手をかけて
止めた。
「無理していないか?」
圭太は先ほどのケーキを作って
いる話をしている希の顔が
生き生きとしていたので
市役所に入って
後悔していないかと
思ったという。
希は後悔していない。
圭太は父親から希の仕事の様子を
聞いていて、どうもうまくいって
いないのではと思っていたらしい。
「市民の皆さんを応援している」と
希は自信を持っていう。
希は急いでいたので自転車に乗った。
圭太は「ありがとうな、」と声をかけた。
希は驚いて振り返った。
「俺・・・
おまえに喝をいれられんかったら
漆をやめているところやった。
ありがとうな。
無理してなかったらいい。
お互い頑張ろうな。」
希は「うん」と答えた。
「ほんなら・・」
圭太は振り返って去って行った。
**************
キッチンウイッチの話はなるほどと
思った。
希も知らぬこととはいえ、ウイッチを
持っている。今は封印をしているが。
ケーキを作るとみんなが笑顔で
おいしいと言って食べてくれるのが
うれしいというのは希のケーキ作りの
原点である。
笑顔がみたいからという理由だ。
幸枝はそんなことを言うやつは
脱落するといった。
あのロールケーキコンテストに
落ちて、審査員の先生に
感想を聞いたとき
彼は、みんなの笑顔を見るために
ケーキを作るのなら
趣味でご家族や友人に造って
あげたら喜んでくれるものだと
いった。
プロとはそういうもので
ケーキへのこだわりは
お客が100人いたら
100のケーキへのこだわりが
ある。
この100人が全員おいしいと
言うケーキこそ、プロのケーキ
である。
幸枝さんはそれを世界一おいしい
ケーキを作ることを
目標にして頑張ってきた。
世界が相手である。
希が圧倒されるのももっともである。
で、希は自分は趣味でケーキを作る
だけだと自覚した。
まだ、人の応援が楽しいのである。
地道にコツコツと働いて
毎月のお給料を母に届けたいと
思っているからである・・。
一子は圭太が希を好きだとわかって
しまった。
圭太はそんな自分の気持ちに
気が付かない。
希はまだ・・・心の隅っこに
圭太を好きだという気持ちが
あるのかもしれない。
それは自分でもわかっていない。
