情熱ミルフィーユ3
市役所の先輩、裕子から
とんでもない話を聞いて希は
驚いた。
あの、移住定住体験ツアーに参加した
安西が実は経営コンサルタントで
その本性を隠して
能登に移住したいと希の
考えた体験ツアーを利用した。
そして輪島塗の内部情報を
圭太から聞き出したのだった。

輪島塗の実態を知ったうえで
輪島中の塗師屋から職人を
高額の給料で引き抜きを始めた
という。

安西がなぜ輪島の塗師屋の情報に
詳しいのか。それは圭太からだった。
塗師屋のなかでも八島は若くて輪島塗の
業界では革命を起こしたいと願って
いるひとだと圭太から聞いた。
安西はその人を巻き込み、事を仕組んだ。
八島の話をしたのは圭太。
圭太に輪島塗の話をしてくれと頼んだのは
希。
まさか、安西がそんな人だったとは、と
愕然となる希だった。

希は圭太のいる弥太郎の家をめざした。
その頃圭太は、安西とむきあっていた。
経営コンサルタントだったこと。
漆職人になりたいといっていたのは
うそだったということ。
それを確認したが。
安西は漆職人にこの年でなるのは難しい
けど、輪島塗に貢献するには
こうしたほうがいいと思ったという。
経営の合理化である。
それをもって輪島塗に貢献したいと
いうのだ。
何十年も漆を塗り、やっと世に商品を
だしたとしても、その間にかかった
コストを上乗せして売るので
高価なものになる。
多少、ものは雑になっても早く、安く
世に出ればもっと輪島塗は
繁盛するはずだ。
そのために貢献するというのだった。
何十年も漆を塗り、人の手を
幾重にもかけて出来上がる
輪島塗の素晴らしさは認めている
ものの、お金にならないと続かないと
安西は言う。
高いものは、売れない。
すると職人は食えない。
やめていく。
技術がそこで途絶える。
それを警戒するためにコストカット
をするんだと
いう。

「だったらその粗悪品を売り出せ」
というのかと圭太が言うと
「粗悪品ではない、それは
古い考え方だ」と安西。
「今は安くて丈夫な食器が100円で買える時代だ。」
「輪島塗はそんなものとは全然違う」と圭太が
反論した。
「そう、全然違う。
輪島塗は海外からの評価も高い。
しかし
生産システムの脆弱さが
大きな問題だ」と主張する安西。

「まずは妥協してでも輪島塗をバブルのころ
のように復活させることだ。
そこから改めて理想を追求して
いけばいい。
この世の中、正論だけでは食っていけないんだ
から・・。」

あっけにとられる圭太。
希は「そんな!!」と声を上げた。

じっと聞いていた弥太郎は
「もういい」といった。
妥協して作った輪島塗は
輪島塗ではないと圭太は言うが
弥太郎は安西はそんなことは
百も承知で言うているという。

弥太郎のところでは20年も寝かせた
漆を使っていて
生地のことでも優秀であることを
安西は認めている。

「本来なら老舗の紺谷さんに手伝ってもらいた
かったのだが、圭太君の話を聞いて
説得するのは難しいと
判断した。

圭太君、情報をありがとう。
輪島塗を守るためにも安くて
丈夫な輪島塗を世界に
売り出してみせるよ。」

圭太は、とうとう我慢できなくて
「ふざけるな」と安西に食って掛かろうと
したが、弥太郎が止めた。

「安西さんあんたの言うことは最もや。
世の中正論だけでは食っていけない。
だけど、何がどうなろうとも
正論を守り通さなくてはならないことも
ある。
そうでなければ、世界に売り出す前に
輪島塗は終わる。

お帰り下さい。

これ以上あんたと話すことはない。」

安西はふっと笑って
立ち上がり
一礼して去って行った。

圭太は「八島さんの所へ行く」と
言って出て行った。

このことははるさんたちにも
知るところとなった。

「圭太は子供のころから弥太郎さんに
ついて回っていたからよく知って
いるから・・」とはるさん。

「許せんね、安西!!」と藍子は怒った。

「能登に移住というのは嘘やろ。
警戒されんようにツアーに入って
地元に食い込もうとしてたのだ」と
文は言う。
「あくどいね、安西!」と藍子。
「経営コンサルタントというのも
うそかもね。輪島塗を安く作らせて
儲けるつもりではないの?」とマキちゃん。

みのりの母は
「東京の男は信用できない
ね・・・
徹さんのことを言うたんと違うけど。」
といった。
藍子は、
徹「さんが考えそうなことだと
思う」と肯定した。

「よけい頭に来るわ、安西!!」

と怒った。


この件に関して男たちは
別のコメントをした。

特に徹は、何を怒っている
のかわからないという。
真人は徹だったらそういう
だろうと思ったといった。

徹はビジネスとしては正しい。
売れないと商売にならないからと
いう。

伝統工芸をいかに守るかという
話になり、国も援助しないからと
浩一たちが言い始めた。
そこで徹はひらめいた地方発信のビジネスを
書いた紙を出した。
こまかいアイディアという
にはあまりにもせこい内容が
書かれていた。

「これが知れたら藍子さんは怒るだろうな」と
結論ができた。

葉っぱビジネスとか
言い始めたからだ。

徹は「藍子には内緒だ」という。
「希ちゃんには気の毒だね。」
と浩一。
「希ちゃんは責任を感じて
いるかもね」という。
徹は希を心配した。

市役所では希が
突如書類をもって
立ち上がった。

すると紺谷が「塗師屋の所へ
乗りこむつもりだろうが
ダメだ」といった。
市役所の行動範囲外である。
「なぜわかるのか」と希は
驚いた。
「じゃ・・・・」と考えた。
すると「抜け道を考えるのはやめろ」
と紺谷が言う。

「すみません・・・」

「感情で動くな。
まだ、悪い癖が直ってないな。」

それまで手元を見ながら話をしていた
紺谷は
「おまえ」といって顔を上げて希を見た。
「何のためにこの仕事をしている??」

希は、考えたが・・
答えが出ない。


「ただいま・・・」

暗い部屋で夫婦と一徹が
じっとテーブルの上のお菓子を
凝視している。

「一個、いくらだと思う?」と徹。
420円である。
「この大きさなら四口で食えるから
一口で約105円。」と一徹。

「一口、105円・・・・」と希。
「久々に見たなこういうの。」
と徹は感動している様子だった。


このお菓子は安西が持ってきたらしい。
「え?」
藍子は「こんなものでごまかそうとして」と
怒った。

安西は来ていた。

安西は元冶の塩田を見ていたらしく
元冶と一緒にやってきた。

希はあわてた。

「希ちゃんお帰り。いろいろ
お世話になったね。
お礼に来たんだよ。」

元冶のかまだき小屋を見ていたらしい。
塩田の話を聞いて
見せてもらっていたというが。

元冶さんの塩田も狙っているのかと
聞くと「正直
考えた」という。
「しかし、弥太郎と同じく元冶も説得が
難しそうだったので辞めた」という。

希は頭に来てもらったお菓子を
なげつけようとしたが
皆が止めた。
高いお菓子だからだ。

「ひどいじゃないですか、こんなの!」
希が安西に抗議をした。
「弥太郎さんにも言ったけど輪島塗のためだ
よ」と安西に罪の意識はない。
それよりも正義の味方のようにも思って
いるらしい。
希は抗議した。
「輪島塗は職人さんが手をかけて
地道にコツコツと作っているのです。
ここにもあります。
100年たってもどこもかけてないですよ。」

しかし、安西は「手に取ってもらえな
かったら、その価値は伝わらないよ」と
いう。

藍子はいった。
「大嫌いです。あなたのやり方。
夢を持つ若い子をたぶらかすようなことを
して。
気持ち踏みにじって利用して
村のみんなだってこの子だって
あなたを応援しようとしていたでは
ないですか。
自分のしていることが輪島塗のために
なると思うなら
ツアーに紛れ込んだりしないで
正々堂々と正面から来なさいよ!!」


「お母さん、かっこいい!!」
一徹はつぶやいた。

薄い笑みを浮かべて安西は
「おっしゃる通りですね」という。
「希ちゃん、ごめんね。」

希は「考え直してください」という。
安西は出て行った。
「安西さん・・・」

「待ちたまえ」と徹は言ったが
安西はいなかった。

「塩をまこう」と徹がいうと
藍子が「だめ!もったいない」
という。
「すいません・・・。」

藍子もまいった。
希も参った。


翌朝、希は弥太郎の家に行く。
すると一子が「希!!
大変よ」といって、希を連れて奥へ行く。」
「どしたんけ?」
部屋では弥太郎と圭太が向かい合って
いた。

「八島さんを説得できなかった」
と圭太が弥太郎に言う。

「ごめん、俺が余計なことをしゃべった
から・・・」

圭太は謝った。

弥太郎はいった。

「おまえは
破門だ!!!」

圭太は驚いた。
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安西の素性が知れ渡ることに
なった。
これは厳しい話である。
希にとっては
どうしてこんなツアーを
計画したのかと責任を問われる。

希はどうして圭太にあんなことを
頼んだのかと悔やんでも仕方がない。

圭太は、破門という代償を得た。
これからどうする?
藍子が安西にいったことは
正義中の正義である。
「若い子の夢をたぶらかすようなことを
・・・
皆の気持ちを踏みにじって!!」

という内容。

一徹がお母さんかっこいいと
いったのは、的確に安西を非難している
からである。
希が悪いわけではない。
圭太が悪いわけではない。
みんな安西が悪いのだった。

しかし、弥太郎は何を考えて
いるのだろうか??