さよなら桜餅4
「おかあさんのいうとおりやね。
ここにおったほうがいいのは
うちらじゃないのね。」
希は、かみしめるように言った。
「八年目のチェックアウトか。」
徹が言った。
4人は思い出のアルバムをだまって
見ていた。
いよいよ引っ越しの日。
雨・・・
長年住み慣れた桶作の民宿の部屋を
そうじして
出て行く希たち。
いつも文さんがつまずく少し板がでた
廊下を木づちで打ち込んだ。
「ありがたかったね。
八年前ここに泊めてもらえて。」
と藍子。
ここを出て行くのが嫌なのは
みんなそうだった。
でも、荷物も出してしまったし。
四人がでていくとき
見送ってくれたのは元冶だけ。
「もう一度哲也さんたちと
話し合ったほうがいいよ。」と希。
「あんなふうに別れたら悲しいわいね。」
「ま、近いんだし。
何かあったらすぐに呼んでよ」と徹。
「年なんだからあまり無理しないで。」
「余計なお世話や・・・」
元冶は言葉少なく家の中に入ろうとした。
「元冶さん、
ほんとうにありがとう
いつも話を聞いてくれて
応援してくれて
ありがとう」
希はそういってぺこっとあたまを下げた。
四人とも頭を下げた。
そして、桶作家から
去って行った。
なごりおしそうに。
文は何も変わらず素知らぬ顔で
野菜を袋詰めにしている。
元冶はそんな文を見ていた。
新居についた希は
それでも文が気になる。
「あ、牛乳が明日までだった。
言わないと。
文さん、アバウトだから
飲んで後でおなか壊すかも。」
希は心配した。
「言いにいって来たら?」
と徹がいうので
行こうと思ったら
「そんなに風に行き来していたら
意味がないわいね。」
と藍子がいう。
希は足が止まった。
「あした畑で私が言うから。」
希は座った。
「あ、元冶さんの枕カバー・・・
出しといたかな・・・」と藍子。
四人とも、文と元冶が気になるらしい。
こちらはその文と元冶。
しずかな夕食となった。
こりこりと
歯ごたえのあるお漬物を
食べる音がするだけの
広い家だった。
あれほど、
うるさいと
どなっていたにぎやかさは
いつの話だったのか・・・。
「何か話したら?」
文が言う。
「何を?」
「なんでもいい。」
「希たちは今頃・・・」
「もういいわいね・・・。」
それっきりだった。
外で音がした。
文は、はっとした。
はるたちが
「寂しいやろと思って」と言って
お酒を持ってきた。
宴会である。
いっきににぎやかになった。
圭太は先輩の作業を見ている。
技を盗めと言われたので必死の圭太である。
弥太郎が「残業ごくろうさん」といった。
そして圭太に「客が来ている」という。
洋一郎だった。
一子を誘ったらしい。
すると圭太と約束しているというので
久しぶりに一緒に飯でも食わないかと
おもってやってきたという。
一子は圭太と毎日会っている。
洋一郎はここで初めて
圭太と一子が付き合っていることを
しって、愕然とする。
弥太郎は圭太は希という子と
付き合うのかと思っていたという。
希は京極に頼まれたことで
桜餅の練習をしていた。
お風呂から上がった藍子。
「一つ食べていい?」
藍子が食べるとおいしいという。
でも文の作った桜餅とは少し
ちがう。
希は、悩んだ。
「今日はいつもよりお湯が熱かったけど?」
藍子が言うと
「お父さんの好みに合わせた」という。
「いつもは?」と聞くと
「元冶さんの好みに合わせて
お風呂を焚いていた」といった。
元冶がお風呂から上がると
文が台所でぼんやりと座っている。
元冶を見て「ああ、」といって
立ち上がった。
「風呂のお湯加減・・・???」
「ああ?」
「いや・・・」
元冶はさっていった。
市役所では
希が入力に格闘していた。
「昨日言うてたリストはできた?」
と新谷に言われた。
「ああ!!!
忘れていた」という希に新谷は
「やることはいっぱいあるのだから
しょうもないことを請け
負うんじゃないよ。」
という。
そこへ哲也が来た。
こっちで商売ができないかと
知り合いに聞いて回っていたのだが
難しいという。
哲也はリストラで一年前から
無職である。
しおりも大変で焦っているという。
カフェは本当に考えている。塩田は
手伝っていたこともある。
だから食にかかわる仕事がしたいと
思っている。
子供のころから文は
よくお菓子を作っていた。
一番好きだったのが桜餅。
一味違うから、好きなんだよ。
希は、ハッと思った。
文はあのとき桜餅を作った。
もう一生作ってもらえないのかなと
哲也が言う。
希は哲也の手を握って
「もう一度文さんと元冶さんのところへ
帰ってくれませんか」と聞く。
紺谷はその様子を見ていた。
哲也は両親から帰って来いと
言われたことがないという。
だから無理だという。
「そう思っているから帰れないのですよ」
と希は、昔人が足りなくて祭りが中止に
成りかけた話をした。
あの時文さんはいっていた。
「意地はあるぞ。
出て行ったものは当てにせん。
自分の生きる場所は自分で守る。」
その言葉を哲也に伝えた。
希は、文の気持ちを語って
「塩田をつぶさなくてもカフェができる
ように安く借りられれるところを
探すから、もう一遍だけ
話をしてくれませんか。」
希は必死で頼み込んだ。
哲也は、「俺よりおふくろのことを知って
いるようにいうんだね」と
つぶやいた。
「じゃ、これで・・・・」
哲也は立ち上がって去って行った。
「え?」
希はあっけにとられた、
紺谷が希に言う。
「公私混同をするなと
いったはずだ。
頼まれてもいないのに
安く借りられる店を探すとは。
そんなやり方しかできないのなら
もうやめろ。
この仕事には向いてない。」
紺谷はそう言って去って行った。
呆然とする希。
*********************
長年住み慣れた桶作の民宿を
出た希。
多感な少女時代からいままで
家族のように一緒に住んできた
文と元冶と別れることは
寂しい。
しかし、彼らには本当の息子夫婦が
いるのだ。
家族で一緒に住むのが
しあわせなことだと津村家は
思っている。
だから、引っ越しをした。
引っ越しをするお金も
たまっていた・・・ようである。
なにしろ、希が市役所勤務で
あてになるし
徹は清掃員で働いているから
収入はある。
良かったと思う。
そして、哲也と
紺谷の
このリアクション。
希を追い込む。
どうして、誰もわかってくれない
のかと、
希は呆然とするのだった。
公務員は向いてないのか???
サービス業に向いているのか??
地道にコツコツイコール
公務員ではないということなのだ
ろう。公務員は一応
行政サービスという要素があるが
親切にしてはいけないと
いう。
この辺が難しい・・・・・。
規則の範囲で話を聞いて
規則の範囲でアドバイスをして
そこまで、というのが
希には合ってないのかもと思う。
「おかあさんのいうとおりやね。
ここにおったほうがいいのは
うちらじゃないのね。」
希は、かみしめるように言った。
「八年目のチェックアウトか。」
徹が言った。
4人は思い出のアルバムをだまって
見ていた。
いよいよ引っ越しの日。
雨・・・
長年住み慣れた桶作の民宿の部屋を
そうじして
出て行く希たち。
いつも文さんがつまずく少し板がでた
廊下を木づちで打ち込んだ。
「ありがたかったね。
八年前ここに泊めてもらえて。」
と藍子。
ここを出て行くのが嫌なのは
みんなそうだった。
でも、荷物も出してしまったし。
四人がでていくとき
見送ってくれたのは元冶だけ。
「もう一度哲也さんたちと
話し合ったほうがいいよ。」と希。
「あんなふうに別れたら悲しいわいね。」
「ま、近いんだし。
何かあったらすぐに呼んでよ」と徹。
「年なんだからあまり無理しないで。」
「余計なお世話や・・・」
元冶は言葉少なく家の中に入ろうとした。
「元冶さん、
ほんとうにありがとう
いつも話を聞いてくれて
応援してくれて
ありがとう」
希はそういってぺこっとあたまを下げた。
四人とも頭を下げた。
そして、桶作家から
去って行った。
なごりおしそうに。
文は何も変わらず素知らぬ顔で
野菜を袋詰めにしている。
元冶はそんな文を見ていた。
新居についた希は
それでも文が気になる。
「あ、牛乳が明日までだった。
言わないと。
文さん、アバウトだから
飲んで後でおなか壊すかも。」
希は心配した。
「言いにいって来たら?」
と徹がいうので
行こうと思ったら
「そんなに風に行き来していたら
意味がないわいね。」
と藍子がいう。
希は足が止まった。
「あした畑で私が言うから。」
希は座った。
「あ、元冶さんの枕カバー・・・
出しといたかな・・・」と藍子。
四人とも、文と元冶が気になるらしい。
こちらはその文と元冶。
しずかな夕食となった。
こりこりと
歯ごたえのあるお漬物を
食べる音がするだけの
広い家だった。
あれほど、
うるさいと
どなっていたにぎやかさは
いつの話だったのか・・・。
「何か話したら?」
文が言う。
「何を?」
「なんでもいい。」
「希たちは今頃・・・」
「もういいわいね・・・。」
それっきりだった。
外で音がした。
文は、はっとした。
はるたちが
「寂しいやろと思って」と言って
お酒を持ってきた。
宴会である。
いっきににぎやかになった。
圭太は先輩の作業を見ている。
技を盗めと言われたので必死の圭太である。
弥太郎が「残業ごくろうさん」といった。
そして圭太に「客が来ている」という。
洋一郎だった。
一子を誘ったらしい。
すると圭太と約束しているというので
久しぶりに一緒に飯でも食わないかと
おもってやってきたという。
一子は圭太と毎日会っている。
洋一郎はここで初めて
圭太と一子が付き合っていることを
しって、愕然とする。
弥太郎は圭太は希という子と
付き合うのかと思っていたという。
希は京極に頼まれたことで
桜餅の練習をしていた。
お風呂から上がった藍子。
「一つ食べていい?」
藍子が食べるとおいしいという。
でも文の作った桜餅とは少し
ちがう。
希は、悩んだ。
「今日はいつもよりお湯が熱かったけど?」
藍子が言うと
「お父さんの好みに合わせた」という。
「いつもは?」と聞くと
「元冶さんの好みに合わせて
お風呂を焚いていた」といった。
元冶がお風呂から上がると
文が台所でぼんやりと座っている。
元冶を見て「ああ、」といって
立ち上がった。
「風呂のお湯加減・・・???」
「ああ?」
「いや・・・」
元冶はさっていった。
市役所では
希が入力に格闘していた。
「昨日言うてたリストはできた?」
と新谷に言われた。
「ああ!!!
忘れていた」という希に新谷は
「やることはいっぱいあるのだから
しょうもないことを請け
負うんじゃないよ。」
という。
そこへ哲也が来た。
こっちで商売ができないかと
知り合いに聞いて回っていたのだが
難しいという。
哲也はリストラで一年前から
無職である。
しおりも大変で焦っているという。
カフェは本当に考えている。塩田は
手伝っていたこともある。
だから食にかかわる仕事がしたいと
思っている。
子供のころから文は
よくお菓子を作っていた。
一番好きだったのが桜餅。
一味違うから、好きなんだよ。
希は、ハッと思った。
文はあのとき桜餅を作った。
もう一生作ってもらえないのかなと
哲也が言う。
希は哲也の手を握って
「もう一度文さんと元冶さんのところへ
帰ってくれませんか」と聞く。
紺谷はその様子を見ていた。
哲也は両親から帰って来いと
言われたことがないという。
だから無理だという。
「そう思っているから帰れないのですよ」
と希は、昔人が足りなくて祭りが中止に
成りかけた話をした。
あの時文さんはいっていた。
「意地はあるぞ。
出て行ったものは当てにせん。
自分の生きる場所は自分で守る。」
その言葉を哲也に伝えた。
希は、文の気持ちを語って
「塩田をつぶさなくてもカフェができる
ように安く借りられれるところを
探すから、もう一遍だけ
話をしてくれませんか。」
希は必死で頼み込んだ。
哲也は、「俺よりおふくろのことを知って
いるようにいうんだね」と
つぶやいた。
「じゃ、これで・・・・」
哲也は立ち上がって去って行った。
「え?」
希はあっけにとられた、
紺谷が希に言う。
「公私混同をするなと
いったはずだ。
頼まれてもいないのに
安く借りられる店を探すとは。
そんなやり方しかできないのなら
もうやめろ。
この仕事には向いてない。」
紺谷はそう言って去って行った。
呆然とする希。
*********************
長年住み慣れた桶作の民宿を
出た希。
多感な少女時代からいままで
家族のように一緒に住んできた
文と元冶と別れることは
寂しい。
しかし、彼らには本当の息子夫婦が
いるのだ。
家族で一緒に住むのが
しあわせなことだと津村家は
思っている。
だから、引っ越しをした。
引っ越しをするお金も
たまっていた・・・ようである。
なにしろ、希が市役所勤務で
あてになるし
徹は清掃員で働いているから
収入はある。
良かったと思う。
そして、哲也と
紺谷の
このリアクション。
希を追い込む。
どうして、誰もわかってくれない
のかと、
希は呆然とするのだった。
公務員は向いてないのか???
サービス業に向いているのか??
地道にコツコツイコール
公務員ではないということなのだ
ろう。公務員は一応
行政サービスという要素があるが
親切にしてはいけないと
いう。
この辺が難しい・・・・・。
規則の範囲で話を聞いて
規則の範囲でアドバイスをして
そこまで、というのが
希には合ってないのかもと思う。
