さようなら桜餅3
しおりたちの本音を盗み聞きした
まれたち。
口と腹の中の大きな違いに
驚き、怒るばかりです。

その夜の食事時は藍子も
希も頭に来ているのか
険悪な表情だった。

「なにかあったんでしょうか?」
徹が聞く。
「さわったらやけどするげよ。」
と一徹がいった。

隣の部屋で食事をしていた
しおりが文のもとにやってきた。
哲也が食事の時間に間にあわなくて
と謝る。「昔の友達に会いに
いっててまだ帰ってこない」というのだ。

文は「客として泊めているので
お客さんのご都合なのは
構わないことだ」という。

しおりは友美と麻美に
合図を送った。
ふたりは、たちあがり
友美が
「このおかずすごくおいしい。
作り方教えてください」と
文に言う。
麻美が
「あ、おばあちゃんを独り占めするき?
私も教わりたい。」という。

文が「あとで教えてあげるから」と
いう。
麻美が「おばあちゃん大好き」というと
「へぇ初耳」と一徹が言う。
友美はす「っごくおいしい、お醤油のかげん
なんか・・」と
ごまをすり続ける。

希はイライラしながら食事を終えた。

夕飯後だった。
「ああ、もう我慢できない」と
いって、高校の制服を着て
その下にはいていたジャージーを
脱ぎ捨てた。

意味の分からない徹は
「トイレか?」と聞く。
「何で制服を着てんだよ」というと
「ださいかどうか、見せてやるわいね。」
といってしおりたちの部屋へ行こうとした。

「希!!」
と藍子が言う。
「とめても無駄やわよ
一言言うてやる!」

「お母さんも行く!!」

「その怒り俺にもくれ!!」

一徹が「フミさんに聞こえたら
血管切れるから」、と忠告。

希は「わかっとる。
ここに呼びだして静かにガツンと!!」
扉を開けるとそこにしおりがいた。

しおりは話をしにやってきた。

驚く希たちだった。

「私たちも話があります。」
しおりは部屋に入りながら
自分の話をとうとうとする。
「昨夜はお騒がせしました。
哲也さんの言い方が悪かったので
ほんとうは店よりなにより
お母さんとお父さんのことを思って
同居をきめたのです。」
「うそ・・・」と希。
「お二人ともお元気そうに見えても
もう年だし・・・」
「ちょっと・・・希にも話を・・」と徹。

「失礼ですけど、こんな風に部屋を貸している
のも、負担ではないかと心配で
そもそも体がきついから
民宿もやめたわけですし。」

「掃除も洗濯も自分たちは
やっています、お風呂も私たちが
沸かしています」と希は言った


が、

しおりは
「要するに」

と結論を言う。

「私たちに出て行けってことですよね」と藍子は
先にいった。
「住んでしまえばこっちのもんですからね。
私たちがいたら邪魔ですよね。」

しおりは、さっきから話を勝手にして
いたが初めて黙った。

一徹が言う。「田舎は壁が薄いから
全部聞こえていました。」


「ほんと・・・
邪魔よね

あなたたち!」

しおりは開き直った。

「一人息子が田舎に帰るといえば
泣いて喜んで多少のことには
目をつむるのがふつうでしょ。
中途半端にあなたたちがいるから
あんなに強気になってしまって。
迷惑なのよ。」

「喜んでいたのを台無しにしたのはそっち
ではないですか。」
と藍子。
「文さんたちの都合も考えずに
自分たちの都合ばっかり。」

希は「声が大きい」といった。
「外に聞こえるがいね。」
「あ~~わかった」と徹。
「同居して店をやるために
じいさんばあさんの前では
猫をかぶっていたのだ!」と
徹はやっと事の成り行きを理解した
らしいが、藍子は
「うるさいな!!」と徹をけなす。
「だからさっきからそういっているでしょ。」

「息子夫婦が同居するって言って
いるのに、家族気取りで何を目当てに
居座っているのかしら。
赤の他人のくせに!!」
しおりは徹底的な攻撃をした。
赤の他人・・・
言われてみれば
赤の他人である。

希は、「もうやめてください」という。

「こっちにだって事情があるのよ。」
しおりも譲らない。
「でないとこんな田舎でわざわざ同居なんか
するもんですか!」
本音である。

そこへ哲也がやってきた。
しおりの本音を聞いたのだ。

「なによ、わたしばっかり悪者にして。
あなたが説得できないから
でしょ。」

麻美も
友美も

「おとうさんのせいだ」と哲也を
攻撃する。
「私たちこんなところに住みたく
ないのにさ!!」

文が聞いていた。

「もういい、わかった。
お客さんたち明日は帰ってください。
うちはもう、店じまいやさけ。」

藍子は文の心を思いやった。

台所にたつ文はさみしそうだった。

夜、希たちはぼそぼそと
暗がりのなか布団に寝ながら
話をする。

藍子は「ひどいことをして
しまった。大声を出して」と
いった。
「そして、自分たちこそ
出て行かないといけない」と
いう。
「息子さんたちが帰って来るんだったら
自分たちは邪魔だわ」と。
赤の他人という意味である。
「自分たちは甘え過ぎていた」と
反省した。

「今は文さんを怒っているかも
しれないけど、がっかりして
いるはずだ」という。
「あんなひどいことを言われても?」と
希が聞くと「それは家族で解決する
問題だ」と
藍子はいう。
確かにそうだ。
徹は鉄也たちの様子では
「金に困っているのだろうな」という。
「とにかく食っていくのに必死なんだろうな」
と察した。
「うちと一緒だ」と一徹が言った。

希は文さんと元冶さんをおいて
いけれないというが。

「赤の他人だから。
ほんとうの家族ではないから」と
藍子に言われたが
希は「そんなことわかっている」と
つぶやく。

翌日新谷がぼっとしている希を
注意した。

「山田さんがやってくる」という。

「安請け合いをするな。
規則以上のことをするな」と
新谷が言う。

希は「そうはいっても」というが
それを聞いたキミ子が「あんたが
津村希か?」と聞く。
そして、市役所が後援している
大漁祭という祭りに便乗させて
あげることはどうかとアイディアを
だした。
キミ子は別名裏市長といわれている。

言われてみれば、市役所の協賛だと
ある程度協力はできると希は思った。

新谷は反対したが
希は乗り気となった。
「断るところはきちんと断ります
から、やらせてください。
お願いします」と希は頭を下げた。

すると、山田典子がやってきたのが
モニターに見えた。

そして京極ミズハ(にしますね)は
希の話を聞いて「わかった、まかせる」と
いった。「企画書も書いて」といった。
市役所が準備をしてくれると
何でも人任せである。

「違います。
一緒にやるんです」と希は
必死に食い下がった。
「サロンコンサートにしたいの。
音楽を聴きながら
お茶とお菓子を召し上がっていただいて。」

「あの、市役所は全部の準備はできません
さけね。
あくまでも強力ですさけ。」

希が言った。

「あっそ。
じゃ、あんたが個人的に手伝って
よ。」

「は?」

「あんた個人に頼んでいるの。
困っている人を助けるかどうか。
あんたの人間性にかかっている
からね。
あ、お菓子はあの桜餅にしてね。」

そういってミズハは帰って行った。

家に帰ると
哲也たちは帰ってしまっていた。

「これで永遠に帰ってこないだろう」と
文はさっぱりといった。

しかし、彼らはやはり親である。
子供たちの思い出のアルバムをみながら
思い出を話し合っていた。

そんな文を見て希はなにもいえない。

「麻美と友美にあんなことを
いわせてしまったね。
かわいそうなことをしてしまった。」

文はつぶやいた。

こっちの夫婦もアルバムを見ていた。

「お母さんの言うとおりやね。
ここにおったほうがいいのは
うちらではないね。」と希。
徹も一徹も
なっとくした。

「八年目のチェックアウトか・・・。」
徹が言う・・・

***************
哲也たちの家族も大変なのである。
両親とその息子夫婦の問題である。
津村家は本当にこの家を出て行くの
だろうか。

しかし、いずれは出て行かなければ
ならない。

その時が来たのかもしれない。

たとえ塩田を続けても
元冶が体を壊したら
その時点でリタイアである。
世代交代は確実に迫っている
わけだ。
寂しいことである。

そして、京極ミズハの
コンサートのお手伝いは
希の職域を超えた仕事に
なった。

ミズハはこの時点で
希を雇うことを考えないといけない。
なんでも人任せで、手間も暇も
金もかけないとなると
非常識である。

こうして、希はどうあがいても
人にこき使われることになる。

これでは、公務員は務まらない。
公務員は多少無愛想で
気の付くことが少ないほうが
いいのかもしれない。

親切で丁寧なのは
民間のすることなのかもと
思う。