卒業ロールケーキ4
いよいよ、緊張のコンテストが
はじまった。
まれが作るのは能登ではただで
手に入る食材ばかり。
おいしさと安さを兼ね備えた
食材ばかりで貧乏でもおいしくて
楽しい家族を描いていた。

終了となった。
貧乏家族のロールケーキ
エントリーナンバーは10。
それをテーブルにおいて
審査を待つ。
となりの11番の選手が
「あんたのケーキ、おいしそうやし」
と声をかけてくれた。

「ほんとうですか。」
希は嬉しくなった。
「自分はへたくそだから」と
いう。
希は「そんなことはない、おいしそうだ」と
いった。
「このコンテストは有名なお菓子会社が
主催だから審査員も有名な職人だ」と
彼女は言った。

「だから、みんな気合が入っているから
おいしそうだ」という。
希は初めてほかの人の作品を見て
みんなおいしそうだと
感動した。
だが、この女性、「あんたのが
一番だ」といった。
希は嬉しくなった。
審査結果を待つことになった。
魔女姫にほめてもらったと
報告をした。

審査室では厳しい審査が行われて
いた。
その中に有名なお菓子職人が
いた。
彼は、ため息をついた。

結果は、三位から
「二番の三島裕子さん
二位、5番の風間里香さん
いよいよ、第一位は

エントリーナンバー・・

11番、安達ゆかりさん・・・」

先ほど、あんたのが一番おいしそうやわ
といった、あの女性だった。

希は驚いた。

たしかに、世間にいるタイプだ。
私は全然勉強してない・・と
いって100点取るやつ。

今頃思い出しても遅いのだ。
がっかりする希だった。
「10はお父さんの誕生日でも
あった。縁起わるいな・・・」

希はふとみると安達ゆかりが
勝因はときかれている。
食材がおいしかったといって
いる・・

そこに、「先生この後懇談会が」と
と、主催者が話をしているが
「必要ない」と言ってその先生は
帰ろうとしている。

希は、「あのひとはもしかしたら
審査員?」と思って声をかけた。

彼は足早に去っていこうとして
いる。
希は追いかけて
「先ほどの審査員の方ですよね」と聞く。
「個別のアドバイスはしない。」
足を止めることもなく
急いでいる。
「すこしでもいいのです、どうだったかと」

「まずかった!」

「まだ番号は言うていません・・」

「一位はかろうじて(うまい)
二位はぎりぎり
三位はおなさけ。
それ以外は、全部まずかった。」

「10番です
無花果と能登芋とクリと・・・」
「ああ、あの貧乏くさいやつ。」

「そういうテーマなんです。」

「お金をかけずにおかあさんが・・」
「能書きはどうでも、まずかった。」
「どういうふうに??」
希は、この男に食い下がるように
話しかけるが・・・
男は希を振り切ろうと必死になった。

「俺は今機嫌が悪いんだ。まずいケーキを
山ほど食わされて。」

「うち、ケーキ職人になりたいのです。
どこが悪いのですか。何がいけないのですか。」

「どけ、電車に乗り遅れる。」
さっさと歩いていく男に
希はまた、立ちふさがって言った。

「少しでも見込みがあるかどうか
だけ・・・」

と手を合わせた。

男は、椅子に座った。
「何でなりたいのだ?
早くいえ・・
昔話はイラン、一言でいえ。」

「ケーキは、食べた人を
笑顔にするからです。」

「ふん!
ケーキは見込みだの才能だの
そんな得体のしれないもので
何とかなる世界ではない。
まず、修行、修行、・・
そこで初めて見えてくるものがある
のかどうかだ。
そこを飛び越えていきなり
見込みがあるかどうかなんて
聞いてくるような奴には
見込みはない。
以上だ。
笑顔が見たければ
家族や友人に造ってやれ。
趣味ならみんな喜んでくれる。」

男は去って行った。
希にとっては衝撃だった。
悔しかった。

能登に帰った希。

ずっと悔しく思っていた。

希は、一子と合流するため
学校の教室にいった。

そこで圭太に会った。
自分の道具を取りに来たという。
「誰もいないと思っていた。
おまえは?」
「一子と待ち合わせ。一緒に帰らな
まずいから。」

「ほうか・・・
で、今日は?
だめやったんか?」

「ぼろくそやった。」
「ほんで、どうする?
ダメだったらもうやめるのか?」

「そんなことわからん・・。」

「ごめん、」
そういって圭太は出て行こうと
したが。
急に話を始めた。
「焼き物は嘘をつかないと
じいちゃんが言ってた。」

希は「急になにごと?」と
思った。

圭太は何でおれが輪島塗を
好きになったのかという話をした。
「焼き物というのは陶器の
ことで、手を抜いたら
それだけ作品に出てくる
という。
だから、うそをつかないのだ。

だが、漆は嘘をつく。
輪島塗は特に、何べんも塗り重ねる
から、手抜きをして上から
きれいに塗ったら
わからない。

だから、嘘をついたらダメだ。
これが輪島塗や・・・

だませるからよけいだませたら
ダメや。これが輪島塗だと
いうことにかっこいいと
すごいと思った。
だから、どうしてもやりたくなった
という話や。」

「なしていまほれを話すのけ?」

「わからん、なんか言いとうなった。」

「うん・・・」
希は笑った。

圭太もほっとしたとき

大きな音がした。

希が廊下に出ると
一子がよろよろとやってきた。

そして倒れた。

「一子、なしたん?
救急車?」

「オーディションダメやったんか?」
と圭太。
一子は、いきなり泣き出した。

それで落ちたと思ったが
結果は後日郵送だった。
ただ、一子は
がんばったことで
自分を納得していた。
その緊張が希を見たとき
ほどけたので
泣いたらしい。
「よくやったと思う」と
一子が言う。

希は「偉いわ
偉いわ一子」と
いって激励した。

圭太はじっと見ていた。

遅くなって帰ってきた
希に、徹は「何も言わずに
あやまれ」といった。
何事なのかと
思うと藍子が現れて
希の頬を叩いた。

「こんな遅くまでどこへ行って
いたの?
親に嘘をついてまで。」

藍子の怒りに希は・・・

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この日一日、大変だった。
早くにおきて
そっと能登を出たからだ。
そして、激闘の一日が終わって
帰ってきた。
夢を追いかけた希だった。
ただ、追いかける心構えが
世間ではまだ甘すぎた。
ケーキ職人になるには
まだまだあまいと分かった。

そして、藍子の怒りに触れた。
希はこれからどうするのかな??