卒業ロールケーキ2
やはり一子をスカウトした
男は詐欺だった。
大手所属プロダクションの
スカウトマンであることはまち
がいないが、手口が
詐欺だったのです。

だから一子がこの会社に電話を
したら、一子のことなど聞いて
ないと言われたという。

「だったら・・
直接会社へ売り込みに行ったら
採用されるかも」とまれがいうと
みのりもそう思うというし
一子も自分だったら、採用されると
思うと自信はある。
「でも、あの事務所ではなく
あそこはけちがついたから
もっといい事務所に行く」と
宣言した。
高志がオーディションの情報誌を
だした。
一子は「だから私のことは
いいから希はどうなの?
一人の男として
圭太のことを・・
あの後なんていうつもりだった
の?」と聞く。
希は、びっくりして
「それは聞かないで」という。
洋一郎は、
「希にいった夢のことは圭太も反省
しているから」という。
しかし、希は本心が言えない。
圭太は今日も学校を休んで
いる。

ほんとうに学校をやめて
漆職人になるのか??

圭太は荷物をまとめて
祖父の弥太郎の家にやってきた。

「じいちゃん、おれ家を出てきた。
ここで漆職人の修業をさせて
ほしいと」いって
直談判である。

ところが弥太郎は女性と一緒
だった。

きれいな女性だった。
「挨拶ぐらいせんか」と
弥太郎にいわれる圭太。
この女性はかなえちゃんという。
「スナック崖っぷちの
ママさんだ」と弥太郎が紹介
する。

かなえは「こんにちわ」と笑顔で
いった。
「輪島塗の器を見せてもらおうと
思ってきたのよ」と
いう。
「蔵へ行ってみよう」と弥太郎は
かなえを連れて行こうとした。

「じいちゃん、俺は本気や」と
圭太が言うが
弥太郎は「父親に許してもらえず
飛び出してきたんだな」と
見抜く。
そして、希に振られたこともしって
いて・・・(振られたとは決まって
いないのだが)
「一人の女性の心をつかめないやつに
大勢の人の心をつかむ器を作れる
わけがない。
親父も説得できず女にももてない男を
弟子にはできない。」
圭太にとって、この二つの障害を
乗り越えることは困難だと
思った。

その夜、夕餉の席である。
藍子は一子のことを聞いて
たくましいねという。
文は希に圭太のことはどうなんだ
と聞く。
賭けの決着がつけれないと
いうのだ。
希はどうにもなってないと
いうが。
「あのアナウンスでもどうにもなら
ないのか」と文は言う。
徹は、希の味方で「本人が一度は
断っているのですから」と
いった。
「無理に賭けを盛り上げないでください」
というと藍子は「お隣さんは
黙っててください」という。
相変わらずの藍子に徹は
イライラしながらも
「御馳走様でした」と挨拶をした。
すると文が、「はい300円」という。
ますます徹がいじけているので
希が藍子に何があったのかと
聞くが。藍子は「何も」という。
文は一徹に「圭太に電話をして
はっぱをかけてやれ」という。
「このままほっといてもいいのでは」と
一徹が言う。
なぜなら、一徹はくっつかないほうに
賭けているといった。

夜半過ぎ。
部屋の外の廊下では徹が
ひとりぼさっとして
いる。
部屋の中には藍子がいる。
藍子の電卓をたたく音が聞こえる。

藍子は銀行の通帳を見て
ため息をついていた。

徹から「もう俺のことは嫌いか」と
聞かれたのだった。

その時、徹が声をかけた。
「お隣のものですが・・。」
「・・・」
「あけますよ・・・」

藍子は、通帳を隠そうと
したが、隠せないので
そのうえにうつぶせになって
寝たふりをした。

「起きているのだろう?
この間の話だけど
返事くれないのが返事なん
だな?」と聞く。
徹は、「ここを出て行く」という。
浩一たちに仕事を頼んでいるし
当座の金がたまったら
出て行く。

「ほんとうに寝ているのか?」

藍子は寝たふり。

徹は藍子の額に手を当てたが
立ち上がって
さっていった。
藍子は顔を上げた。

一方もう一組の迷える
カップルは??
圭太は、公衆電話のまえにいた。
10円玉をたくさん用意したが
電話をしようにも
なかなか勇気が出ない。
かけては切り
かけては切りと
くりかえして・・・。

希は居間で勉強をしていた。

電話が鳴った。

元冶が出た。
希に、「一子ちゃんからや」と
いった。

よく日
圭太とあった。
あの電話・・・圭太からだった。
文は気づいていたかもしれない。

雨が降っていた。

「ごめん、雨なのに。
また呼び出して」、と圭太が言った。

圭太と少し離れて希は立ち止まった。

「この間、村の放送で言うとった
やろ?
夢のことを置いてたらって。」

「うん・・」

「おいておくことなどやめて
くれ。輪島塗という夢があるから
俺だから」と怒った声で言った。

「すみません・・・」
「俺は真剣に漆と向き合っている。
漆に惚れている。」

希は、「は・・・」とため息をついた。

「だれが反対しても絶対に日本一の
漆職人になって、日本一の器を
つくるから。」
希はきっとなって言った。
「日本一、日本一って桃太郎か?」
希は怒っていった。
圭太は「あん?」と聞く。

「ほういうでかいこというの
やめてくれんけ。またじんましん
でる!!!」

「なんや、もも太郎って。」

「もも太郎って日本一という
旗を背中にしょっているがね。」

圭太は、少しまれに近づいて
いった。
「しらんわいえ、ほんなん。」
「小学校の図書館に絵本があったやろ。
あの入ってすぐ、右の棚のところ。」

圭太は一歩また前へ行った。
「絵本は入って左やがい。右は
おすすめ図書だ。」
希は一歩前に進んだ。
「ちがいます。
入って右です。
絶対右です。」

圭太はまた一歩前進していった。

「おまえ一年半しかおらんかった
くせに。」

まれは、「五年もおったくせに
もうまちごうとる。」
と驚く。

「なら、学校に電話して聞いてみる
かいえ。」
この会話、話すたびに二人は
近づいていくのですね。

「日曜日やから
だれもおらんわいね。」

「おるかもしれんがい。」

このどうでもいい話は
二人がまともに向き合う距離に
なるまでつづく。

そして、圭太は、「おまえはケーキ職人
はどうするつもりねん?」
と聞く。
「はぁ、なしてそんなはなし。」

希の傘の先が圭太の圭太の目の前
まできた。
圭太は傘の先を手でおおって押し返した。
「やりもせんとって、ごちゃごちゃ
言い過ぎねんわいえ。」

希は押し返された格好で
「ほれとこれとは話が別やろがいね。」
と反論した。
圭太は希をにらんだ。
希は、怒って回れ右をして
去って行った。

物別れである。

家では徹が落ち込んでいた。

そこへ希が帰ってきた。
どんどんと勢いよく家に
帰ってきた。
怒っている。
「どいつもこいつもむかつく。」

「どうした」と徹が聞くと
「そもそも、おとうさんのせいやさけ。」
という。
「男ってなんなん。
本当にもう!!!!」

といってぷんぷんおこりながら
去って行った。

希は、それでもケーキを作った。
こまかく
こまかく
測りながら作った。
これでケーキ職人とは決別しようと
思ったのだろうか。
すると圭太の声が聞こえてきた。

「おまえケーキ職人はどうする
んや?何でもやってみなければ
わからないだろう。」

希は、その声をかき消そうと
「あああああ!!」と顔を手で覆って
声を上げた。

「もう・・・どうしよう・・・・」。

そうこうするうちに九月の半ば。
輪島市役所の一次試験だった。

試験を受けたものの
希の迷いはますます強くなって
いった。
バイト先の食堂で
一子は、「このオーディションを
うけよう」と決めたという。

どれどれと一子があの高志の
くれたオーディション情報誌を
希は一緒に見ながら
ぱらぱらと頁をめくった。

その時、希の目に留まった
頁があった。
「これだ!!!
これでてみる。
やってみなわからんがなら
やってみる!!!」

そのページは
第10回
ロールケーキ甲子園
北陸大会とあった。
*************
今回のポイント1.
一徹がくっつかないほうにかけている
といった。
つまり、くっつかないのだ。
一徹の予想はたいてい、あたる・・
らしい。

ポイント2
圭太が二回目希を呼び出したこと。
この、やってみんとわからんという
言葉。
やってみないとわからないではないかと
圭太がいったけど、それって
どうしろということなんだろうかと
希はもんもんとしていたのですね。

で、一子のオーディション情報誌に
のっていたロールケーキ甲子園。
それに出て、世に自分の力と
自分の情熱の程度を問おうと
思ったのでしょうか。

地道にコツコツが
座右の銘の希。
けっして、一か八かは
しないと決めている限り
ケーキ職人ものるかそるかでは
なく、必ずはっきりとした
保証が欲しい、努力して
どうにかなるとわかったら
そうしたいと思ったのかもしれない
なんて、思いました。