人生は冒険旅行3
雪を踏みしめて政春が家に帰ってきた。
「上を向いて歩こう」が
ラジオからきこえてくる。

政春が図面をもっている。
家に帰るとエマがいた。
エリーは病院へ
マイクは写真を撮りに行っている。
「それは?」とエマが図面をさした。
「新しい工場の図面だ」と
政春が言う。
新しい工場を建てる計画が
あるのだ。
場所はまだ未定。
東北の仙台か
関西の西宮か・・

「今度グレーンウイスキーを造ろうと
思っている」と政春は説明する。
「大麦麦芽にとうもろこしとか
他の穀類をまぜて発酵させるんだという。
いまある麦の濃い原酒に軽くて
華やかなグレーンを加えたら
もっともっと味わい深いウイスキーになる
はずじゃ」とわくわくしながら
政春が言う。

政春はエリーが遅いのが気になった。
診療所に迎えに行ってくると
いった。

「年を取りたくないがあっという間に
年を取るからエマには将来のことは
ちゃんと考えるように」と
いった。
エマは、「はいはい」と返事をしながら
エリーを迎えに行く政春に
「相変わらずアツアツですね」と
いった。
政春は、「わしらはアツアツなんじゃ」と
いって出て行った。

政春がしばらく歩くと
川の横を歩いているエリーを見た。
エリーは、遠くを見ながら何か歌を
歌っていた。
♪今まで私が持っていたお金は
すべて気の合う仲間たちと使ってしまった
人を傷つけたりしたけれども
結局最後に傷つくのは自分だった。
後先考えずにやったことなんて
今となっては思い出すこともない
別れの一杯をついでおくれ
さようなら
楽しんで生きておくれ
・・
とぎれとぎれにこんな歌を歌って
エリーはため息をついた。
そして、政春をみつけた。

「マッサン・・」

「エリー」

政春は手を振った。

「迎えに来てくれたの?」
「どうだった?」
「別に、いつもの薬をもらって
先生とおしゃべりしてきた
だけよ・・。」

「それだけか?」

「うん・・・」
「ほうか、それじゃ、かえろう。」

二人は手を取り合って雪の中を
歩いていった。

家ではエマが怒っていた。
「悪いところがなくてよかったけど
去年、お母さんが倒れたなんて
ちっとも知らなかったわ。」

「エマ、大したことないのよ
年寄りだから」

「何で教えてくれなかったの?」

「エマこそ、二人が一緒に暮らして
いたことをなんで話してくれなかった
のか」と政春は言う。

「またその話?」

「問題は何も解決してない。」と政春。

「問題なんか何もない。」

マイクは食事をおえて
「御馳走様でした」といった。

「お母さんの料理、
とてもおいしかったです。」

政春はマイクにイラつきながら
いった。
「君はエマとの将来を
どう考えているか?」
「いろいろと・・・」
「ほうか、じゃちゃんというてみい。」


エリーは笑ってマイクに言った。
「マイク、エマのどこが好き?」
「Every thing」
政春は「何が全部じゃ!」と怒った。
マイクは英語で答えた
「いつも前向きで何事にもチャレンジする
あかるい性格です。」

エリーは「そうね」といった。
「エマはマイクの一番好きなところは?」
と聞く。
「夢に向かって一生懸命頑張って
いるところ。」とエマはいった。

エリーは、英語で「二人とも好きな人に出会えて
よかったわ・・・」という。
「きっと運命の出会いよ
私は応援する。」という。
政春は、「おいエリー・・・」
といった。

食事が終わった後の散歩では
工場の中を政春はマイクを案内した。
マイクは、感動して写真を何枚もとった。
エマがモデルにもなった。

「エマが選んだ人を信じよう」と
エリーは政春に言った。
「エマの人生はエマのものだから」
という。

「いや、じゃけど・・・」と
政春が言うとマイクたちが雪をなげて
ふざけはじめた。

「なつかしいのう。
わしらもあんなころがあったな?」

政春が蒸溜窯を掃除しているとエリーが来た
ので隠れて驚かしたり
川でピクニックへ行ったとき
水を掛け合ったり

まるで自分たちとエマたちは一緒だと
政春は思った。
政春はエリーの手を握って歩いた。

エマがマイクを連れて帰国して五日目の
ことだった。この日は主治医の一恵先生が
往診の帰りに立ち寄ってくれた。
「いただきます・・・」
先生はエリーにビスケットを
手土産にもってきた。

「うん・・おいしい!!」

「そうでしょ、おいしいからもって
来たのよ。
この間より元気そうだけど、元気の
素は娘との再会かな?」
と聞く。
「ふふふ・・・」
「それとも夫のラブ?」
「どっちも」
「この幸せ者!!!」

「幸せ者です・・・ふふふ」
「素敵なことよ・・。」

外へ出た一恵は政春とであった。
「なにか?」と政春が聞くので
一恵は「往診のついでにビスケットを
とどけにきただけよ」といった。

しかし政春はこの間から気になって
いることを聞こうと
一恵をもうだれも住んでいない
向かいの森野家の引き戸を開けて案内した。

「エリー・・・本当に大丈夫ですか?」
「なぜですか?」
「エリーはよく昔話をするし
このところ歌っている歌がスコットランドの
別れの唄で・・・」

「へぇ・・・・」

「先生・・・
ホンマのことを教えてつかあさい。」

政春は頭を下げた。
そして頭をあげると
一恵は厳しい顔をして告げた。
政春は、目を見はった。

『大好きなマッサン。
私と出会ってくれてありがとう。
お嫁さんにしてくれてありがとう。
この美しい国そして私の故郷に
なった日本に連れてきてくれて
ありがとう。

おかげで私はとっても素敵なアドベンチャー
ができました。
だけど、アドベンチャーの終わりが近づいて
きたようです。
最後に感謝をこめてこの手紙を
書き残します・・』

机の上には
エリーの手紙がつづられていた。
エリーは手紙を書き終えて
外を見た。
雪が降っていた。
********************
政春はおそらくエマとマイクを
許すことと思います。
将来の確固たるものは何もなくても
二人は愛し合っているし
しっかりと人生をアドベンチャーして
いる。
それは人生という大きな山を
登って降りてきた政春に
とって、二人は大きな山を登る前の
自分たちと同じだったと
気が付いたのでしょう。

笑いながら、エリーと微笑み合う
政春の胸には不安がいっぱい膨らんで
いたのですね。
エリーは何か悪い病気なのでしょうか。
こんなラブラブなのに・・・
もう、別れが近づいているなんて。
穏やかに年をとって行くエリーと政春。
並んで歩く二人の肩は
ひとつはこのまままっすぐに
もうひとつの肩は、人生を終えようと
している。
雪の北海道はきれいですね。
熊虎たちとリンゴジュースを作ったり
三級酒を作ったりしていた頃は
雪がふる季節はなかったように
思います。
しんしんと降る雪を見るエリー。
スコットランドを思い出している
のでしょうか。