一念岩をも通す4
悟がシベリアから帰ってきた。
その悟が酒に本物も偽物も
あるのかと聞く。
政春は高級品の酒を作っているが
その酒をどれほどの日本人が飲むのかと
聞く。
自分は傷ついて日本に帰ってきて
最初に飲んだ三級酒にやっと心が
落ち着いたことから、本物の酒は
そういうものだと主張した。

政春はウイスキーづくりの原点を思い出した。
ゲール語でウヰスキーとは命の水という
意味だ。
そういうウイスキーを造りたいと
思った。
そして、全国の三級酒をあつめてデータを
取り始めた。
悟は政春を手伝いながらも
彼の集中力と臭覚に
驚くばかりだった。
そして、エリーと悟がリビングで
話をしていた。
悟は「おじさんに失礼なことを言って
しまったのに、前向きだ」という。
政春は細かいことは意に介さず黙々と
やるべきことをやっている。
エリーは「マッサンはウイスキーのことになると
いつも前向きで一生懸命になるのよ」と
いった。
悟は「おじさんだけではなくこの家の
ひとはみんな前向きだ」といった。

エリーは
「チャレンジ
アンド
アドベンチャー」

といった。

「何事にも
挑戦し、冒険する。
それが私たち家族の合言葉
なのよ。」

「チャレンジ
アンド
アドベンチャー?」

「そう、完璧。」
そういって二人は笑った。

そこへ政春がやってきた。
「エリー、早く
早く!!」

何事なのかと驚くが
「悟も、早く来い」

二人は外へ出ると
そこには、千加子と政志が
いた。

千加子は悟の顔を見て
「悟」と名前を呼んだ。

「おかあちゃん・・・」

千加子はその場で泣き崩れた。

悟は母のもとに駆け寄った。

千加子は泣きながら
「おかえりんさい。
ご苦労様でした」といった。

悟は「ただいま・・」と答えた。

政春とエリーは嬉しそうに見ていた。

政春のリビングに
千加子、政志、悟
そして、俊夫、政春とエリーが
そろった。
千加子は「いつになったら悟が
帰って来るのかわからないし
お父さんは政春の工場が見たいと
いうので一度北海道へ行こうと
いうことになった」という。
「連絡をしなかったのは驚かした
かったからだ」と政志はいう。
「としよりは無理するなというだろうから
北海道へ行くことは内緒にしろと
いったくせに」と千加子はいう。
政志は悟に「よく帰って来てくれた
な」という。
「これからのことはゆっくり考えたら
ええ」と政志は言う。
政志は「息子はまだ一人前になって
ないのでくたばるわけにはいかん。
あの世に行ったらお母ちゃんに合わせる
顔がないわ」という。
千加子は立派な工場や家を見て
「これで安心したでしょう」と父に言う。
俊夫は会社をあげて身寄りのない人を
引き受けていることを言う。
「エリーさんもよく頑張ったね」と千加子は
いう。
政志も、「よくそばにいてくれた」という。

エリーは、「大丈夫です。
私は亀山エリーです」という。
「みんなそうだな」と言って
大笑いした。

政志は工場を見たいという。
俊夫は義理のおやじにも会ってくれと
いった。
「そういえばべっぴんな嫁さんをもらったら
しいな」と政志はひやかした。

何で知っているのかといえば
エリーがすみれに手紙を書いて
いたので、そこから知っていると
いう。
エリーは俊夫に言った。
「念のために言いますが
私はスパイではありません。」
そういうとみんな笑った。

「こらまた一本取られました」
と俊夫は笑いながら言った。

戦争が終わって、あのスパイ疑惑は
もう、過去のこととなってしまった。

政志は工場を見学した。
大きなポットスチルをみて
「すばらしい」と感動した。
ポットスチルにしめ縄をまいているのを
みて政志は「うちのと同じじゃ」と
喜んだ。
俊夫は「旦那様の精神を忘れないように
あのようにしています」と政春の気持ちを
話した。

政春は「そんなことではないけど」というが
「照ることはない」と俊夫はいった。
「息子が父親を手本にする、あたりまえ
のことです。」

穏やかな父の顔を見てマッサンは少しだけ
ホッとしました。

見学が終わってまたリビングに
集まった。軽い食事をするため
だった。
千加子の長男勝は学校の先生になって
しまった。
これはますます、悟に期待がかかる。
「酒の仕込みと絞り込みは?」と政春が
聞くと、「去年までは杜氏と戦争から
帰ってきた蔵人でやったけど
今年はどうなることやら」と千加子が
いう。

「なに、わしの目の黒いうちは大丈夫じゃ。
悟も帰ってきてくれたし」
と政志はいう。
「で、ウイスキーは不況だからぱっと
しないのだろう?」と政志は
いったが、
三級酒を作るという計画を立てていると
政春はいう。
「悟を迎えに来ただけだから
忙しいなら仕事をするように、
妥協はするな、とことんやれ」といった。
「安くてうまいウイスキーづくりは
あきらめるなよ」という。
その上にエマがアメリカに行く話になって
いるので、さみしくなるなと
政志はいった。

悟は政志に、はっきりという。
「しばらくウイスキーづくりを手伝いたい」
と。
政春の臭覚と集中力のすごさに
悟はウイスキーづくりへ興味がわいたらしい。
千加子は悟にうちの蔵を継いでもらわねばというが
俊夫はここでウイスキーづくりを
学んだらそれは広島に帰ってきっと
生きてくると思いますと
弁護した。

千加子は父にどう思うかと聞く。
政志は政春にどう思うかと聞いた。
「新しいウイスキーづくりに挑戦しようと
いうときにそがな
余裕はなかろう」といった。
悟はじっと政春を見た。
政春は考えて
「よっしゃ、やってみるか?」と
悟に聞いた。

悟は「はい」と嬉しそうに返事をした。

みんな笑った。
俊夫は「政春の弟子になるということは
自分の下につくということだから
ビシビシ行くから覚悟しろよ」と
いった。
悟は「よろしくお願いします」と
答えた。
エリーは「俊夫さんは仕事になると
怖いよ。
ほら、どこにめぇつけとるんじゃって。」
エリーが俊夫のものまねをしたので
「よう似ている」と
笑った。
数日後他社製のデータをだしおえた
マッサンはある決断をした。

香料も着色料もなるべく使わない
三級酒をつくるというのだ。
俊夫はなんのためにこんなデータを
だしたのか、と怒った。
政春はどこまでもウイスキーづくりに
こだわった。
おいしくて、安いウイスキーである。
香料や着色料は時間がたつと
変質するのでいつも同じような味とは
限らない。
そこにこだわりを持ったのだった。
俊夫とここで激突した。
「ただ安いだけでは意味がないんじゃ。
わしは命の水を作りたいんじゃ。
口に含んだ瞬間華やかで
滑らかなのどごしのウヰスキー独特の
風味を持った商品を作りたい。」
俊夫は「無理だ」といった。
「うまいと安いは両立しません!!!

一級酒は原酒を10%まぜているから
高い。
三級酒は5%以下だから安い。
安いのは安いなりの理屈がある」と
俊夫は言うが
「そこを原酒に頼らなくても
うまい酒を作りたい」と
政春は言う。
安くてうまいウイスキーを目指したいと
いう政春。
「これだけは絶対妥協せん!!」

俊夫は「勝手にしてください。
鼻から無理だとわかっている作業を手伝う
きにはなれまへん」
といった
自分の机の前に座った。

「俊にい・・・わかった
悟、はじめるぞ。」

「はい・・・。」

果たしてマッサンは香料も着色料も
一切使わずに
安くてうまいというウイスキーを
作ることができるのでしょうか。
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鳴り響く
愛情あふれる家族の笑い声の
ハーモニーと
また別の日には、思惑違いの
不協和音・・・。

パイオニアはいつの時代も
理解してもらえないものです。

悟はそんな人間関係を見て
何を学ぶのでしょうか。
政春は三級酒を作る上にも
職人であるプライドを
持っています。
たんに、他社のものまねを
することをよしとしないでしょう。
うまくて安いウイスキーが
できてもできなくても俊夫は
自分の進退を考えることになるので
はないでしょうか。