待てば海路の日和あり2
ついに北海道の余市にも
空襲がはじまった。
エリーたちは乾燥棟に逃げた。
政春の心に中には未来のウヰスキーへの
思いがあった。
何が何でも原酒を守らないといけない。。、
一馬が帰って来るまで・・・。
と思っていた。
エマは空襲警報を聞いて動けなく
なっていた。
エリーはエマを励まして逃げようと
連れ出した。
政春もやってきた。ハナは
早く逃げようと叫んだ。
空襲はすぐに終わった。
熊虎はなんだ二発で終わりかと
息巻いた。
ハナは「腹が減っては戦はできぬだ」
といってご飯を造ろうといった。
エマは笑ったが、エリーは心労が激しかった。
ママへの手紙にこうあった。
『私の住んでいる町も戦場になろうとしています。
大地は踏みにじられ空は黒煙でおおわれています。』
政春は樽を見ていた。
樽は無事だった。
「お坊ちゃま、爆弾が落ちたんは水産試験場
のほうです。
軍関係の施設と思われたんじゃ・・。」
俊夫が言った。
「だったら次は・・・?」不安そうに
俊夫が言った。
「すこしでもようけ・・・。この樽はのう、
わしらの未来なんじゃ。
皆のためにも帰って来る一馬のためにも
なんとしてもわしは、このウイスキーを
守りたい。」
俊夫は厳しい顔をして政春に近づいて
「はい!」と返事をした。
その夕方、森野家の囲炉裏端で
政春は、空から見ても
よくわからないような色に
屋根を塗り替えようかと
いう俊夫の提案に草の色にしようか
と話を合わせた。
熊虎はそこまでしなくても、と
アメリカの力なんかたかが
しれているといった。
俊夫は、「函館の連絡船も、
炭鉱からの鉄道も爆撃された
という話じゃ」という。
「石炭はあとどれくらい残って
いるのか」と政春が聞く。
「ふたつきは何とか」と
俊夫は答えた。
「二か月・・・か・・・。」
「失礼します。」
役所の兵役係がやってきて
一枚の封筒を差し出した。
「森野一馬さんのご家族はどなた
ですか?」
一瞬、沈黙があった。
ハナが「私が姉です」と言って
その封筒を開けてみた。
一馬の死亡通知だった・・・。
ハナの手は震えた。
「合同葬儀の日程が決まりましたら
改めてご連絡いたします。」
そういって頭を下げて帰って
いった。
「お父ちゃん・・・・」ハナは
熊虎に言った。
熊虎は厳しい顔をした。
あのとき、一馬を抱きしめ
「よし行って来い」といったとき
彼は敬礼して
「はい・・」と笑って
小さく返事をした
「一馬・・・」
ハナは泣きながら座り込んだ。
エリーはハナによりそった。
政春も俊夫も
厳しい顔をした。
そこへエマが帰ってきた。
「ただいま、今日はマッチと
布がたくさん手に入ったよ。」
ハナが泣いている。
「どうしたの?」
熊虎の持っている死亡告知書をみて
「うそ・・・・」といった。
「エマ・・・」エリーはエマを気遣った。
「言いたいことがあるって・・・
帰って来たら・・・
私に言いたいことがあるって
・・・」
エマは走り出した。
「エマ・・・」
エリーはエマを追いかけた。
エマは自室に入り
大声で泣いた。
エリーはエマを抱きしめた。
熊虎も政春も声が出ない。
ハナは泣き続けていた。
しばらくして
政春はウイスキーをもって
熊虎を訪ねた。
「熊さん座ってもいいですか?」
熊虎は囲炉裏端に座っていた。
政春は、一馬と一緒にブレンド
したウイスキーをグラスについだ。
「すまねぇ・・・」
と熊虎はいった。
「今はのめねぇ・・・・。」
熊虎は一人で泣いていた。
政春は家に帰った。
「エマは?」と聞くと
「泣き疲れて眠っている」と
エリーは言った。
「マッサン
どうしたらいい?
エマ、ハナ、熊さんのために
私たちに何ができるの?」
政春はエリーに近づいて
泣いた。
彼も、人前では泣けない。
エリーは一緒に泣いた。
皆が大きな悲しみに包まれた
まま、月日は淡々と流れ
20日は過ぎました。
熊虎とハナは一馬の遺骨の入った箱を
白い布にくるんで連れて帰ってきた。
家に入るとハナは白木の箱に向かって
いった。
「お帰り。。。
やっと帰って来たよ・・・。」
一馬が無言で家に帰って
来た。
***************
小さいとき、古いおうちに行くと
明らかにおじいさんおばあさん
らしき黒の紋付の着物姿の写真が
天井近くに吊り下げられていた。
亡くなったご先祖様だと思った。
でも・・・そうではなく
国民服をきた若そうな男の人の
写真もあった・・・。
兵隊で死んだんだと
思った。
これから森野家に一馬の写真が
母とともにならんで飾られるので
あろう。
戦争へ行くと生きて帰ることはできない
と覚悟はあったというが
ほんとうは怖かったはずだ。本当は
行きたくなかったはずだ。
ほんとうは、行ってほしくなかった
はずだ。
それが、あの家の御主人も
あの家の青年も、戦争へ行ったと
なるとうちだけは、行きたくない
などと言えないし
何事も横並びであることを望む
日本人にとって、みんなが戦争へ
いくから、
皆が苦労しているのだから
皆が死んでいるのだから
と
皆のほうにウエートを置く
習慣がある。
それが正義であるかのように。
熊虎が生きて帰ってこいといった
あの言葉を勇気をもって
いったことで
一馬は最高の父親の愛情を感じたことだ
ろう。
しかし・・・
一馬は二度とみんなと笑うことも
できなくなった。
これが戦争である。
戦争は始まったら止められないから
平和な時に反対し続けることが
大事だ。
このお話では
エリーたちを苦しめる戦争は
もうすぐ、終わるだろう。
でも、この地上で戦争がない
時代は・・あれからいまだに
一度もなかった。
どこかで戦争が行われていた。
いまも、戦争で人が死んでいる。
やられたからやり返せで
平和が来るのかというと
来ない。
平和にならない。
平和とは軍隊をもって威嚇して
これでもかと軍事力を誇示すると
守られるものではないはずだ。
『戦争は人の心の中で生まれるもので
あるから、人の心の中に平和のとりで
を築かなければならない。』
ユネスコ憲章の一部
である。
この素晴らしい憲章には
民族間の諸文化
の違いを理解することが平和に
つながるとも書かれてある。
エリーの人生は、民族間の大きな文化
の違いを常に乗り越えてきた。
そして、深く日本を理解して日本を
誇りに思ってくれた。感謝します。
あれほど、異人だの、鬼畜だのと
言われて、自分の人生とはなにかと
常に軌道修正しながら耐えてこられたと
思います。
そんな厳しい時代を
日本で暮らしていつ殺されるのかと
の恐怖と戦われたことと思います。
「この手を離すなよ」といった政春の
言葉を信じて、
また、会いたくても
会えない母を思って生きてこられた
強さに尊敬します。
ついに北海道の余市にも
空襲がはじまった。
エリーたちは乾燥棟に逃げた。
政春の心に中には未来のウヰスキーへの
思いがあった。
何が何でも原酒を守らないといけない。。、
一馬が帰って来るまで・・・。
と思っていた。
エマは空襲警報を聞いて動けなく
なっていた。
エリーはエマを励まして逃げようと
連れ出した。
政春もやってきた。ハナは
早く逃げようと叫んだ。
空襲はすぐに終わった。
熊虎はなんだ二発で終わりかと
息巻いた。
ハナは「腹が減っては戦はできぬだ」
といってご飯を造ろうといった。
エマは笑ったが、エリーは心労が激しかった。
ママへの手紙にこうあった。
『私の住んでいる町も戦場になろうとしています。
大地は踏みにじられ空は黒煙でおおわれています。』
政春は樽を見ていた。
樽は無事だった。
「お坊ちゃま、爆弾が落ちたんは水産試験場
のほうです。
軍関係の施設と思われたんじゃ・・。」
俊夫が言った。
「だったら次は・・・?」不安そうに
俊夫が言った。
「すこしでもようけ・・・。この樽はのう、
わしらの未来なんじゃ。
皆のためにも帰って来る一馬のためにも
なんとしてもわしは、このウイスキーを
守りたい。」
俊夫は厳しい顔をして政春に近づいて
「はい!」と返事をした。
その夕方、森野家の囲炉裏端で
政春は、空から見ても
よくわからないような色に
屋根を塗り替えようかと
いう俊夫の提案に草の色にしようか
と話を合わせた。
熊虎はそこまでしなくても、と
アメリカの力なんかたかが
しれているといった。
俊夫は、「函館の連絡船も、
炭鉱からの鉄道も爆撃された
という話じゃ」という。
「石炭はあとどれくらい残って
いるのか」と政春が聞く。
「ふたつきは何とか」と
俊夫は答えた。
「二か月・・・か・・・。」
「失礼します。」
役所の兵役係がやってきて
一枚の封筒を差し出した。
「森野一馬さんのご家族はどなた
ですか?」
一瞬、沈黙があった。
ハナが「私が姉です」と言って
その封筒を開けてみた。
一馬の死亡通知だった・・・。
ハナの手は震えた。
「合同葬儀の日程が決まりましたら
改めてご連絡いたします。」
そういって頭を下げて帰って
いった。
「お父ちゃん・・・・」ハナは
熊虎に言った。
熊虎は厳しい顔をした。
あのとき、一馬を抱きしめ
「よし行って来い」といったとき
彼は敬礼して
「はい・・」と笑って
小さく返事をした
「一馬・・・」
ハナは泣きながら座り込んだ。
エリーはハナによりそった。
政春も俊夫も
厳しい顔をした。
そこへエマが帰ってきた。
「ただいま、今日はマッチと
布がたくさん手に入ったよ。」
ハナが泣いている。
「どうしたの?」
熊虎の持っている死亡告知書をみて
「うそ・・・・」といった。
「エマ・・・」エリーはエマを気遣った。
「言いたいことがあるって・・・
帰って来たら・・・
私に言いたいことがあるって
・・・」
エマは走り出した。
「エマ・・・」
エリーはエマを追いかけた。
エマは自室に入り
大声で泣いた。
エリーはエマを抱きしめた。
熊虎も政春も声が出ない。
ハナは泣き続けていた。
しばらくして
政春はウイスキーをもって
熊虎を訪ねた。
「熊さん座ってもいいですか?」
熊虎は囲炉裏端に座っていた。
政春は、一馬と一緒にブレンド
したウイスキーをグラスについだ。
「すまねぇ・・・」
と熊虎はいった。
「今はのめねぇ・・・・。」
熊虎は一人で泣いていた。
政春は家に帰った。
「エマは?」と聞くと
「泣き疲れて眠っている」と
エリーは言った。
「マッサン
どうしたらいい?
エマ、ハナ、熊さんのために
私たちに何ができるの?」
政春はエリーに近づいて
泣いた。
彼も、人前では泣けない。
エリーは一緒に泣いた。
皆が大きな悲しみに包まれた
まま、月日は淡々と流れ
20日は過ぎました。
熊虎とハナは一馬の遺骨の入った箱を
白い布にくるんで連れて帰ってきた。
家に入るとハナは白木の箱に向かって
いった。
「お帰り。。。
やっと帰って来たよ・・・。」
一馬が無言で家に帰って
来た。
***************
小さいとき、古いおうちに行くと
明らかにおじいさんおばあさん
らしき黒の紋付の着物姿の写真が
天井近くに吊り下げられていた。
亡くなったご先祖様だと思った。
でも・・・そうではなく
国民服をきた若そうな男の人の
写真もあった・・・。
兵隊で死んだんだと
思った。
これから森野家に一馬の写真が
母とともにならんで飾られるので
あろう。
戦争へ行くと生きて帰ることはできない
と覚悟はあったというが
ほんとうは怖かったはずだ。本当は
行きたくなかったはずだ。
ほんとうは、行ってほしくなかった
はずだ。
それが、あの家の御主人も
あの家の青年も、戦争へ行ったと
なるとうちだけは、行きたくない
などと言えないし
何事も横並びであることを望む
日本人にとって、みんなが戦争へ
いくから、
皆が苦労しているのだから
皆が死んでいるのだから
と
皆のほうにウエートを置く
習慣がある。
それが正義であるかのように。
熊虎が生きて帰ってこいといった
あの言葉を勇気をもって
いったことで
一馬は最高の父親の愛情を感じたことだ
ろう。
しかし・・・
一馬は二度とみんなと笑うことも
できなくなった。
これが戦争である。
戦争は始まったら止められないから
平和な時に反対し続けることが
大事だ。
このお話では
エリーたちを苦しめる戦争は
もうすぐ、終わるだろう。
でも、この地上で戦争がない
時代は・・あれからいまだに
一度もなかった。
どこかで戦争が行われていた。
いまも、戦争で人が死んでいる。
やられたからやり返せで
平和が来るのかというと
来ない。
平和にならない。
平和とは軍隊をもって威嚇して
これでもかと軍事力を誇示すると
守られるものではないはずだ。
『戦争は人の心の中で生まれるもので
あるから、人の心の中に平和のとりで
を築かなければならない。』
ユネスコ憲章の一部
である。
この素晴らしい憲章には
民族間の諸文化
の違いを理解することが平和に
つながるとも書かれてある。
エリーの人生は、民族間の大きな文化
の違いを常に乗り越えてきた。
そして、深く日本を理解して日本を
誇りに思ってくれた。感謝します。
あれほど、異人だの、鬼畜だのと
言われて、自分の人生とはなにかと
常に軌道修正しながら耐えてこられたと
思います。
そんな厳しい時代を
日本で暮らしていつ殺されるのかと
の恐怖と戦われたことと思います。
「この手を離すなよ」といった政春の
言葉を信じて、
また、会いたくても
会えない母を思って生きてこられた
強さに尊敬します。
