親を思う心にまさる親心4
熊虎がひとりでふらっと家に帰って
きて中に入らず
なぜ外にいたのか?
俊夫は熊虎が遅いと
ハナに言った。
「また飲み過ぎているのでは?
一馬の出征が決まって毎晩だ」
とハナが言う。
「ホンマは一馬と顔を合わせるのが
つらいのでは?」と俊夫が言った。
「ああ見えて気が小さいところがあるから。
母親が死んだときも平気な顔をして
よくしゃべって、一人になると・・・。」
ハナの言葉が詰まった。
俊夫は
「一馬は飯を食うたか?」
とハナに聞いた。
一馬はエマの言葉を思い出していた。
『私は一馬さんが好き。
一馬さんは?』
そこへ俊夫が入って来た。
一馬は遺書をかくしてほかの
本を出して読むふりをした。
「一緒に酒を飲もうというが」
一馬はもう少しやることがあると
断った。
「しょうがないな」と言って俊夫は
部屋を出ようとした。
「工場長!!!」
いきなり一馬が俊夫に言った。
「今までお世話になりました。
工場長には酒造りに対する
考え方心構えを教えていただき
ました。
感謝しています。
ほんとうにありがとうございました。
姉ちゃんや親父のことくれぐれもよろしく
お願いします。」
「いや、あの・・・
こんなときどういうていいのか。」
「気を使わないでください。」
「わしは戦争もいっとらんけん。
兵隊のことやら戦地の決まりやら
教えられんしのう。
ホンマに何の役にも立たん
バカたれ兄貴じゃ。
せっかく兄弟になれたのにのう。」
俊夫は座れやと言って自分も畳に座った。
「これだけは約束する。
おまえが帰って来るまでこの工場は
わしが守る。
たとえなにがあってもこの命に代えてでも
守って見せるけん。
お坊ちゃまはお前を跡取りにしようと
している。
エリーさんもエマお嬢様も
みんなお前を待っているから。
おまえは
死んでも生きて帰ってこい!!!
・・・・?
あれ?死んだら生きて帰ってこれんし
なぁ?
日本語まちごうとるわ・・
邪魔してスマンかったのう」といって
俊夫は部屋からあわてて出た。
そして一緒に飲めなかった盃をみて
泣いた。
ハナは「俊夫さん?」と声をかけると
「先に去ぬ」といって帰って行った。
そとには熊虎がいた。
驚いた俊夫だったが
さっさと帰って行った。
エリーがやってきた。
「熊さん?」
「のみすぎてな。
よいざましだ。
星がきれいだ・・・。」
「エリーこれをみろ」といって
バリカンをだした。
エリーは「一馬喜ぶね」という。
「もっと勉強させてやりたかった。
上の学校へ行きたいというのだから
やらせておけばよかった。」
「帰ってきてからでも
勉強はできるよ」とエリーは言う。
「闘いは勝つことだ。
戦争は勝たないといけない。
命を投げ出しても勝たないと
いけない。
そういってやらないと・・・
腹をくくれねえで・・・。
いってこい!
死ぬ気で戦って来い!!!
誰かがそう言ってやらないと
あいつ、迷うべ
かわいそうだべ
何のために戦争へ行くのか
わからないべ・・・・」
「その気持ちは一馬に伝えたら?」
熊虎は
「ああ、星がきれいだな・・・」と
いった。
エリーはそれ以上、
ことばがない。
熊虎は家の中に入っていった。
何でも言えばいいというものではない。
これが日本の文化だ。
推して知るべしという言葉がある。
察するという言葉がある。
それを熊虎はいいたかったのでは。
自室にいるエマ。
千人針をエマに縫うように言うエリーだった。
「こんなもので玉をよけることが何て
できるわけがない。」
エマは否定した。
エリーは「大切なことは一馬
の無事を祈ることなの」という。
エマは「いくら祈っても鉄砲の弾はよけ
られないと反抗した。
鉄砲どころか大砲かもしれない
爆弾かもしれない。
それが戦争でしょ!!」
エマはヒステリックになって
怒鳴って部屋から出ようとした。
「どこへ行くの」と聞くとエマは
「一馬さんの所よ。どうしても聞きたいの。
一馬さんの気持ちを!!!」
という。
「だめ、だめ」とエリーは止めた。
「エマの気持ちわかる
一馬の気持ちもわかる
もし、一馬がエマを好きでも
今は好きだとは言えない。」
「私たちにはもう時間がないの。」
そういって、出て行こうとした。
「ダメ!!」
エリーは止めた。
「離して!!」
「ダメ離しません!!」
エリーはエマを止めようと
必死だった。
エマは力尽きてベッドの上に
転がった。
「辛いのはエマだけではないのよ。
熊さんもハナちゃんもみんな我慢している。
大人になってエマ!!!」
エマは大声で泣いた。
エリーはエマを抱きしめた。
一馬は書こうとして描けない遺書に
向かっていた。
熊虎は、一馬の小さい時の
映写を見ていた。
小さい一馬。
きれいな母親。
死んでいった人のことを
思っていた。
フィルムは、まき終わり
それでも熊虎は動かなかった。
翌朝、出征前日の朝である。
熊虎は剣道の素振りをした。
一馬は研究所に入った。
そして、テーブルに
フラスコに入った酒石酸を置いた。
エマは明るく
「おはよう」と政春とエリーに
いった。
そして千人針を縫ったことを報告した。
「ハナさんにとどけてくる」といって
でかけた。
*******************
吹っ切れたエマ。
熊虎も
俊夫も
明るいハナも
ほんとうは
一馬を戦争にやりたくない
のだ。
でも、迷ったままでは
一馬がかわいそうだと熊虎。
ふっきれさせてやらないと
これは決まったことだから
仕方がない。
だから、がんばってこいと
誰かが言わないと
一馬が何のために戦争に行くのか
わからなくなると熊虎の親心だった。
明るくひょうきん物の俊夫も
ほんとうは一馬と別れたくないのだ。
辛くてさみしくて悲しくてたまらない
それは、政春も同じだった。
だれもが、エマのように「いかないで」とは
いえない。
みんな我慢している。
大人になってエマと叫んだエリーの
気持ちは・・・・
熊虎やみんなへの申し訳なさだった
のかもしれない。
一人前に正義ぶっても
自分の気持ちに忠実
でも
それは
未熟ゆえの
自己利益主義であることを
エリーは知って
いたのだった。
熊虎がひとりでふらっと家に帰って
きて中に入らず
なぜ外にいたのか?
俊夫は熊虎が遅いと
ハナに言った。
「また飲み過ぎているのでは?
一馬の出征が決まって毎晩だ」
とハナが言う。
「ホンマは一馬と顔を合わせるのが
つらいのでは?」と俊夫が言った。
「ああ見えて気が小さいところがあるから。
母親が死んだときも平気な顔をして
よくしゃべって、一人になると・・・。」
ハナの言葉が詰まった。
俊夫は
「一馬は飯を食うたか?」
とハナに聞いた。
一馬はエマの言葉を思い出していた。
『私は一馬さんが好き。
一馬さんは?』
そこへ俊夫が入って来た。
一馬は遺書をかくしてほかの
本を出して読むふりをした。
「一緒に酒を飲もうというが」
一馬はもう少しやることがあると
断った。
「しょうがないな」と言って俊夫は
部屋を出ようとした。
「工場長!!!」
いきなり一馬が俊夫に言った。
「今までお世話になりました。
工場長には酒造りに対する
考え方心構えを教えていただき
ました。
感謝しています。
ほんとうにありがとうございました。
姉ちゃんや親父のことくれぐれもよろしく
お願いします。」
「いや、あの・・・
こんなときどういうていいのか。」
「気を使わないでください。」
「わしは戦争もいっとらんけん。
兵隊のことやら戦地の決まりやら
教えられんしのう。
ホンマに何の役にも立たん
バカたれ兄貴じゃ。
せっかく兄弟になれたのにのう。」
俊夫は座れやと言って自分も畳に座った。
「これだけは約束する。
おまえが帰って来るまでこの工場は
わしが守る。
たとえなにがあってもこの命に代えてでも
守って見せるけん。
お坊ちゃまはお前を跡取りにしようと
している。
エリーさんもエマお嬢様も
みんなお前を待っているから。
おまえは
死んでも生きて帰ってこい!!!
・・・・?
あれ?死んだら生きて帰ってこれんし
なぁ?
日本語まちごうとるわ・・
邪魔してスマンかったのう」といって
俊夫は部屋からあわてて出た。
そして一緒に飲めなかった盃をみて
泣いた。
ハナは「俊夫さん?」と声をかけると
「先に去ぬ」といって帰って行った。
そとには熊虎がいた。
驚いた俊夫だったが
さっさと帰って行った。
エリーがやってきた。
「熊さん?」
「のみすぎてな。
よいざましだ。
星がきれいだ・・・。」
「エリーこれをみろ」といって
バリカンをだした。
エリーは「一馬喜ぶね」という。
「もっと勉強させてやりたかった。
上の学校へ行きたいというのだから
やらせておけばよかった。」
「帰ってきてからでも
勉強はできるよ」とエリーは言う。
「闘いは勝つことだ。
戦争は勝たないといけない。
命を投げ出しても勝たないと
いけない。
そういってやらないと・・・
腹をくくれねえで・・・。
いってこい!
死ぬ気で戦って来い!!!
誰かがそう言ってやらないと
あいつ、迷うべ
かわいそうだべ
何のために戦争へ行くのか
わからないべ・・・・」
「その気持ちは一馬に伝えたら?」
熊虎は
「ああ、星がきれいだな・・・」と
いった。
エリーはそれ以上、
ことばがない。
熊虎は家の中に入っていった。
何でも言えばいいというものではない。
これが日本の文化だ。
推して知るべしという言葉がある。
察するという言葉がある。
それを熊虎はいいたかったのでは。
自室にいるエマ。
千人針をエマに縫うように言うエリーだった。
「こんなもので玉をよけることが何て
できるわけがない。」
エマは否定した。
エリーは「大切なことは一馬
の無事を祈ることなの」という。
エマは「いくら祈っても鉄砲の弾はよけ
られないと反抗した。
鉄砲どころか大砲かもしれない
爆弾かもしれない。
それが戦争でしょ!!」
エマはヒステリックになって
怒鳴って部屋から出ようとした。
「どこへ行くの」と聞くとエマは
「一馬さんの所よ。どうしても聞きたいの。
一馬さんの気持ちを!!!」
という。
「だめ、だめ」とエリーは止めた。
「エマの気持ちわかる
一馬の気持ちもわかる
もし、一馬がエマを好きでも
今は好きだとは言えない。」
「私たちにはもう時間がないの。」
そういって、出て行こうとした。
「ダメ!!」
エリーは止めた。
「離して!!」
「ダメ離しません!!」
エリーはエマを止めようと
必死だった。
エマは力尽きてベッドの上に
転がった。
「辛いのはエマだけではないのよ。
熊さんもハナちゃんもみんな我慢している。
大人になってエマ!!!」
エマは大声で泣いた。
エリーはエマを抱きしめた。
一馬は書こうとして描けない遺書に
向かっていた。
熊虎は、一馬の小さい時の
映写を見ていた。
小さい一馬。
きれいな母親。
死んでいった人のことを
思っていた。
フィルムは、まき終わり
それでも熊虎は動かなかった。
翌朝、出征前日の朝である。
熊虎は剣道の素振りをした。
一馬は研究所に入った。
そして、テーブルに
フラスコに入った酒石酸を置いた。
エマは明るく
「おはよう」と政春とエリーに
いった。
そして千人針を縫ったことを報告した。
「ハナさんにとどけてくる」といって
でかけた。
*******************
吹っ切れたエマ。
熊虎も
俊夫も
明るいハナも
ほんとうは
一馬を戦争にやりたくない
のだ。
でも、迷ったままでは
一馬がかわいそうだと熊虎。
ふっきれさせてやらないと
これは決まったことだから
仕方がない。
だから、がんばってこいと
誰かが言わないと
一馬が何のために戦争に行くのか
わからなくなると熊虎の親心だった。
明るくひょうきん物の俊夫も
ほんとうは一馬と別れたくないのだ。
辛くてさみしくて悲しくてたまらない
それは、政春も同じだった。
だれもが、エマのように「いかないで」とは
いえない。
みんな我慢している。
大人になってエマと叫んだエリーの
気持ちは・・・・
熊虎やみんなへの申し訳なさだった
のかもしれない。
一人前に正義ぶっても
自分の気持ちに忠実
でも
それは
未熟ゆえの
自己利益主義であることを
エリーは知って
いたのだった。
