夏は日向を行け冬は日陰を行け6
特高が突然やってきてスパイ容疑で
エリーを連れて行こうとする。
その場は騒然となった。
エマの叫び、
政春の叫び
特高の怒号が
とびかった。
エリーは連行されながらも
「大丈夫、大丈夫」と
エマや政春に声をかけて
いた。

その時、「待て!何の騒ぎだ!」

と声がした。

政春はその声の方向を見た。
特高ボスは直立不動になった。
数人の海軍の兵隊がやってきた。
熊虎は深々と頭を下げた。

「いったい何事だ?」
と海軍将校は
特高のボスに聞いた。
「この英国人をスパイ容疑で
取り調べます。」

ボスは頭を下げていった。

「スパイ?」

「我が国の情報を敵国に流した容疑で
あります。」
「内容は確認したのか?」
「徹底的に調べ上げます。」

「取り調べは手紙の内容を確認して
からでも遅くはないと思うが・・。」

「しかし・・」

「ここは海軍省指定工場だ。
この人がスパイだとしたら
我々の監督不行き届きということになるが・・

そういいたいのか?」

沈黙があった。

特高ボスは
「わかりました。
では、手紙を調べたうえで
出直します。」
そういって特高ボスは
「いくぞ!」と
声をかけ
部下を連れて出て行った。

政春はエリーに走り寄った。
エリーは政春にだきついた。
エマも、「お母さん」といって
よってきた。

「けがはないか?」と将校。

「ありがとうございます。」と政春
はいった。
「誤解するな。日ごろからあいつらの
やり方が目に余ると思って
いたのだ。」

熊虎は離れたところで
頭をさげた。

「行くぞ。」

海軍は去って行った。

静けさが戻ってきた。

その日は家の中を片付ける作業を
する二人だった。
政春は、エリーの目の前で
離婚届を破った。

「すまんかったのう、エリー。
日本に
おってくれ。
わしのそばに・・
ずっと・・・。

守ってやるなんて簡単なことは
言えん。

そがな時じゃないことはよく
わかっている。
じゃけど、もし、エリーが捕まるなら
わしも一緒に捕まる。
エリーが殴られる前に
わしが殴られる・・・。

じゃけんど・・」

政春はエリーの手を取った。

「この手。。。


離すなよ・・・。」

エリーは涙が出た。

「マッサン・・・。」

キスをした。

その様子をエマは微笑みながら
見ていた。

次の日、マッサンはすべての
社員、工員にニシン御殿に
あつまって
もらった。

政春はエリーとエマを横に
いった。
「わしは、エリーに日本に残ってもらう
ことに決めた。

いま日本はエリーの生まれた国と
戦争をしている。

じゃけどエリーはだれよりも
日本人の心を持った。
スコットランド人じゃ。
政春はエリーとエマの真ん中に
たった。
わしら、家族三人、ずっと一緒に
おることに決めた。
そのことでみんなにもまた昨日みたいな
迷惑をかけることになるかも
しれん。
だけどどうか
どうか
わしらに力を貸してつかあさい。
よろしくお願いします。」

「エリーさん、おら応援するから。」
とハナが言った。
「マッサン、腹くくったんだな?
わかった。わしら全力で
エリーさんを守るだけだ。」と熊虎が言った。

「まかせておいてつかあさい。」
俊夫が言った。

「工場長はたよりにならないから。」
一馬が言った。

「わしがおったら、そがなやつら
トントントンって・・・(やっつける?)
蹴散らしとったんだ。」
わらいごえが響いた。
「口だけは達者なんだけどね?」
ハナが言った。
俊夫は
「なんじゃとぉ?」
と返したのでみんな大笑いとなった。
熊虎が拍手をした。
みんな拍手をした。

「みなさん、ありがとうございます。」
エリーも
エマも、「ありがとうございます」と
いった。

秀子は「よかったね?」と
美紀に言った。
美紀は固い顔をしていた。
「どうしたの?」

「では、みんな持ち場に戻って
つかあさい。」と、俊夫。
「はい」、と一同返事をした。

「よろしくお願いします」とハナが
声をかけた。

工員たちが解散をした。
俊夫は、「それにしても特高は
何で家の中まで入っていったのか」と
政春に言った。
一馬は「エリーさんの手紙の場所まで
知っているとは?」と疑問を
なげかけた。

「申し訳ありませんでした!!」
悲痛な声が響いた。
何と美紀がひれ伏してお詫びを
している。

「私が教えたんです。」

エリーは驚いた。

「お母ちゃんうそでしょ?」秀子は
近寄った。


「私の主人はマレーの戦いで
エリーさんの国の人に殺されたん
です。」


みんな、深刻な顔になった。

「わかっています。
エリーさんは何も悪くありません。
親切で心の優しい方です。」

「へじゃったらなんで?」俊夫は怒鳴った。
「悔しかったです。
日本人の私たちがぜいたくは敵だと
いって食べるもの着るものもなくて
くるしんでいるのに外国人のエリーさんは
こんな立派な家に住んで何不自由なく・・・」

エリーは出会った時からのことを
思い出していた。
カーテン越しに美紀と出会った
こと。立派な家に住んでいると
いうアピールに映ったかもしれない。

日本人が食べるものがないときに
お土産に持って帰ってといって
秀子にクッキーを包んでくれようと
したこと。

エリーは美紀のそばに寄った。

「美紀さん。
ごめんなさい。
私美紀さんの気持ちわかりません
でした。」

「間違っていたのは私です・・・
昨日のエリーさんの姿を見て
言葉を聞いて
よくわかりました。
たとえ生まれた国は違っても
髪の毛も肌の色も違っても
エリーさんは私たちと同じ
人間だということが。」

「ありがとう。」

秀子は「お母ちゃん」と言ってそばに
いった。

「秀子ごめんね。
あなたを女学校へ行かせたかった。
苦労ばかりさせてごめんね。」
「そんなことはない。
私にはお母ちゃんがいる。
大丈夫だよ。」

「秀子・・・。」

引き留めるエリーに美紀さんは
故郷で一からやり直したいと
さっていきました。

「さよなら」とエマは手を振った・

「さよなら・・・」と秀子もいった。
去っていく後姿に
エマは、大きく手を振った。

「グッバイ!!!」

エリーはエマにキスをして
ふたりを見送った。
政春もエリーとエマと一緒に
見送った。
エリーはヘレンに手紙を書いた。
「お返事が遅れてゴメンナサイ。
マッサンとよく相談して決めました。
私は日本に残ります。」

「行って帰り・・・」
エリーは学校へ行くエマを見送る。
「行ってきます。」
エマは元気に登校する。
日常がもどってきた。
ヘレンへの手紙はこう結ばれた。

「いろいろと大変なことはあるけど
日本に来たときに決めたとおり
私はマッサンのそばにいます。
愛しているから・・・」

エリーは梅干を付けた。
すっぱすぎた。

キャサリンにも手紙を書いた。

「心配してくれてごめんなさい
誘ってくれてありがとう。
キャサリンの素敵な笑顔と再会する
事を願っています。」

政春と踏みにじられた花畑を
手入れするエリー。

日本で生きていくことを決意した
エリー。
間もなく始まる暗黒の時代に
二人は懸命に立ち向かっていくのです。

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エリーも日本に来たときは
何もわからず、じろじろと見られて
陰口を言われる気配だったり
嫌な思いはしてきた。
政春が失業した時は
経済的にも苦しくて
あまりの空腹に
渋柿の生を食べたことも
あった。

そんなこともわからないほど
今や裕福になったことで
しっとされたこと。
エリーにはつらい戦争の影響
だと思う。

海軍省指定工場の力はすごいです。
こうして、経済的にも
私生活的にも
軍がまもってくれるなんて。

そして、食べ物がなくなるという
恐怖の時代がやってきますが
エリーは野菜を作って
いるので、もしかしたら
何とか乗り越えるのでしょうか。