万事休す5
マッサンの会社は万全を尽くして
造ったウイスキーが売れず
窮地に立ってしまった。
在庫の山を抱え、工員たちも
うすうす、売れてないことに
不安を感じていた。
買い付けた原材料費の支払いもできず
今月は社員の給与も支払えるか
どうかわからないという崖っぷち
である。

政春は頭を下げて許しを得るしかない。
そんなとき俊夫や一馬が、自分たちの給与は
いいから
支払い先やほかの人の給与に充ててほしい
という。
またハナはマカナイのおかずや洗濯石鹸など
節約をするといった。


そんなやり取りをエマはじっと見ていた。

ところが、大阪から電話がかかり、
野々村が政春の大阪入りを
促した。

大阪の野々村邸で野々村と渡と
あった。「なんで呼び出されたのか
わかっているな」と渡が言う。

「ウヰスキーのほうはまだまだ結果が
だせずに・・・」
というと渡は
「なに寝ぼけたことを言うてんねん
結果は出ているやん。負けや、負け!!」
野々村は「何で売れないのかわかりますか?」
と聞く。
渡はいった。
「味は絶対に自信がある。
鴨居のウヰスキーよりもうまい、鴨居よりも
売れるウイスキーを必ず作りますとみんな
おまえが言うたやないか。
会社は畳んでもらうで。」

「そんな・・・・」

「あんたはな、賭けに負けたんや。」

そういって、渡はさっさと部屋を出て行った。

野々村は「残念ながら芳利さんの
いうとおりです。」といった。
政春は、野々村と話をすることになった。

「このまま会社をたたんで工場や土地を
売ったところでたいした金額にはならない。
出資した金がすべて帰って来るわけ
ではない。
それに貯蔵庫にはまだ6年分のウヰスキーが眠った
ままです。」

「はい・・。
もう一遍やり直させてください。」

「ぜひそうしてください。」

野々村は原酒をウイスキーにするのではなく
ワインやゼリーの時のように別の商品に
して売って欲しいという。
「薄めようが甘くしようがそれを考えるのは
あなたの仕事です。」
野々村はいまある品物で一銭でも多くの
売り上げを上げることを要求した。
そのうえ続けて
会社はその後にたたむこと。
利益率を上げるためには今の社員を
半分に減らすことと要求してきた。
在庫の処理は半分の社員でも
やっていけれるはずだという。

政春は「今の社員は一生懸命働いて
くれています」というが
野々村は「儲けてこそ商いだ」とつっぱねた。
一生懸命とか精一杯とか
そんなこと聞く耳は持たない。
それができないなら
政春に工場から出て行って
もらうと野々村は言う。

政春にとってはつらいことだった。

工場に帰った政春は働いている
社員、工員を見て彼らを切ることが
できるかどうか、悩んだ。
その時、
鴨居の言葉がよみがえった。
あの時も、ウイスキーが売れず
苦労していた頃だった。

『おまえは経営者にはなれない。
無理やり社長になったらみんなが不幸になる。
エリーちゃんも従業員もその家族も
経営者は授業員とその家族を食わしていかな
あかん、幸せにしてあげなあかん。
おまえはそこん所をわかっているのか!!!』

あの時も自分の理想のウイスキー造りに
走り、売れるウイスキーを造れという
鴨居とぶつかった。
政春は、ウイスキーの味をわかる人だけに
買ってもらったらいいといったことに
対して、鴨居の叱責だった。

『おまえはそこん所を
わかっているのか!!!』

あの叱責が耳の奥にこだました。

つまり、こういうことだったのか・・・。

政春が家に帰るとみんなが花の種を
まいていた。
きれいな花がさくとみんな心が
明るくなるから。

俊夫は「そうじゃのう。うちのハナだけでは
しょうがないからの。」といったので
みんなが笑った。

一馬は「どうでしたか?大阪は?」
と聞く。

「ああ・・・」と言葉を濁した。

すると熊虎は
「びしっと決めてやったんだろう?
ウイスキーづくりはあきらめません
のじゃけんのうって。」

熊虎が怪しい広島弁を使ったので
みんな笑った。

「それ、広島弁のつもりですか?」と
俊夫が言う。

「俺は会津のおとこだ。
広島弁なんかつかえっか」といった。

すると一馬が
「そりゃそうだ。親父にはむり
じゃけんのう。」
と言い返した。

明るい笑い声が響いたが
政春は心が重たかった。

家に入った政春を心配したエリー。

政春は、エリーに大阪で野々村から
言われたことを話した。

「社員を半分に・・・・
それができないと、わしがここから
出て行けと言われた・・・」と。

エリーは、「どうするの?」と聞く。

政春は頭のなかが真っ白だという。
エリーは政春の苦悩を知った。
「私はマッサンが決めたことを必ず
応援するから」といった。

「着替えてくる」といって政春は部屋に
入った。

エマはすべてを聞いていた。

そしてエリーに「大丈夫?」と聞く。
「私に何かできることはないか」と
聞く。
エリーは「大丈夫だよ」と言って
泣きながらエマを抱きしめた。

その翌朝だった。
ある紳士が訪ねてきた。
ハナが花に水をやっていた時
だった。
「おはようございます。」

ハナは「おはようございます」と
いった。

「亀山政春はいますか?」

というので
「少々お待ちください」と
いって、あわてて
エリーたちを呼びにいった。

エリーは驚いた。

彼は、

田中大作だった。

「おおお、エリーちゃん、久しぶり!!」

エリーは喜び、政春も驚いた。

リビングで田中と話をした。
田中は札幌の知り合いが結婚式を
するので、そのついでに足を延ばした
という。「ドウカウイスキー、飲ましてもろた
で、」という。
「立派な工場やな、大したものや。」
といいながらも、経営の状況を
心配した。

「ああ、それが・・・」と言葉が
つまる。

「長いこと商いしているとな。
悪いこともある。
そんな時こそ、上に立つものが
明るくしっかりせなあかんがな。」
と大作社長。
エリーは、買い物に行ってくると
いった。そして「ボス、ごゆっくり」と
いった。

マッサンになにかいい知恵を授けて
欲しい。エリーは気心の知れた
大作社長に大きな期待を抱いていた。
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野々村さんの言葉は正解ですよ。
経営には必ず利益がつかないと
何を言うても無駄なのです。
どんなに素晴らしいウイスキーを造った
ところで、無駄なのです。
売れないと・・・。

渡の言う通り、負けや、負け!!
なのです。

厳しいです。

自分たちが良かれと思って
造っても売れないと
その製品はダメな製品なのです。

一生懸命とか精一杯とか
そんな感情論は、売り上げの数字を
あげてから言うものなのです。

政春はうまいウイスキーを造ると
いうことだけを目標に20年間
頑張ってきました。

うまいウイスキーさえ作れば
売れると思っていました。

大きな間違いでした。

日本には、まだ本格的
ウヰスキーを受け入れる
文化がなかったからです。

その時代を読む力が弱かったため
夢を追いかけて
ダメになったわけです。
しかし・・・
あさいちで柳沢さんが言ってましたが
必ず、いい方向へ行くと・・・。

でないと、物語が終わってしまうと。

だから、いい方向へ行くという
のは読み過ぎですが。

「捨てる神あれば
拾う神ある」・・・という
ことわざが
「万事休す」を覆すと思っています。

私の推測も、おかしなものですが。(汗)