万事休す3
大阪から来た出資者にウイスキー造り
の話をした。
出資者野々村と渡はあぜんとした。
特に渡はウイスキー造りは許可しないと
いっていたのでかんかんに怒った。

政春は自信があるといって自分が
つくったウイスキーをグラスについで
二人に勧めた。
緊張の沈黙だった。
野々村がグラスをとった。
一口飲んでいった。
「結構癖が強いですね。」

「そのスモーキーフレーバーこそ
このウイスキーの特徴です。」
渡は、わしは「ええわ」という。
「これを飲んでコロッと考えが
変わったら困るのでその手には乗らない」と
態度を崩さない。

野々村は「黙ってウヰスキーを作った
ことは許せないけどここまで
造ってしまったら、売らないというわけには
いかない」といった。
政春は「許可なく作ったことは謝りますという。
その分ウイスキーを売ってご恩に報いたい」
といった。
どうしようもない沈黙だった。
そこへエマが帰ってきた。

野々村は「エマちゃん、ひさしぶりやね」と
いう。
エマは野々村を覚えていて「幸子さんは?」と
きくと、「もうお母さんや」といった。
エリーはエマに「ご挨拶を」という。

「こんにちわ、亀山エマです」と
渡に挨拶をした。

そしてエリーはもうすぐお昼なので
お食事を作るという。
自分におもてなしをさせてくださいと
いった。
エリーは自分の畑でつくった野菜を
取ってきた。
その頃工場ではお昼休みの時間でいま
大阪から来た出資者の話で
持ちきりだった。
ウヰスキーを売り出せないという話に
みんな不安を覚えた。

エリーは腕によりをかけて
ごちそうを作った。

「これはすごい。
大したものだ」と
二人は驚いた。

「いただきます」、と
食事がはじまった。

「おいしい、おいしい」と
二人は食べた。

「このにんじんは
北海道の気候で作るのは
大変ではないですか?」と野々村。

「寒い気候を乗り越えてこそ
おいしくなります」と
エリーは言った。

渡は、「あんたは幸せ者や、西洋人の
奥さんにここまでしてもろて、これで
しあわせにしてあげなんだら罰が
当たるで」という。

政春はここぞとばかりにウイスキーの
売り出しの話をした。

「何を野暮なことを言うてんねん。
今、エリーちゃんの料理のことを
いうてんねんで。」

そのころ、森野宅では一馬とハナと熊虎で
おそいお昼を食べていた。
どうなっているのかと気をもんでいる。
もしダメになったら、なんのために
マッサンにこの土地を売ったのか
わからないと熊虎はいった。
俊夫はどういっているかといえば、
会社がパーになっても
おらとの結婚はパーにせんといてくれ
といったとハナはいう。
熊虎は自分のことばっかりだと
怒った。
するとオルガンの音が聞こえた。

エリーが引きながらエマと「アーニーローリー」
を歌っている。
♪汝がため、アニーローリー
命捨てん・・・

そしてエリーとの英語での
アニーローリーも歌った。
♪Max Welton's braes are bonnie
Where early fa's the dew
And 'twas there that Annie Laurie
Gave me her promise true.
Gave me her promise true
That ne'er forgot shall be
And for Bonnie Annie Laurie
I'd lay me doon and dee.
マクスウェルトンの丘は美しく 朝露にぬれる
あの丘でアニー・ローリーは私に真実の愛をくれた
この愛を忘れる事はできない
愛しいアニー・ローリーのためなら
私の命を捧げる 死ぬ事すらいとわない


二人の出資者は拍手をした。

「ありがとうございます。
野々村さん、渡さん、お二人がいなかったら
ここまで来ることができませんでした。
お二人は恩人です。
黙ってウイスキーを造ったことは
謝ります。ごめんなさい。
だけどマッサンの作ったウイスキーは
とてもおいしいです。
ぜひとも飲んでください。
そして売り出すことお許しください。
おねがいします。」

エマも政春もお願いしますという。

渡は野々村を見た。

野々村は、「芳利さん」と促した。

そこへ熊虎入って来た。
一馬が止めようとしてもダメだった
らしい。
ハナもきた。

「なんや、あんた?」
と渡。

「森野熊虎だ。」

「熊虎?」

政春は熊さんはもともとここの
土地の持ち主で材料の調達を
してもらっていますと
紹介した。


熊虎は「あんたら、マッサンを信じて
金を貸したんだろ?
だったら最後まで信じたらどうだ?」

という。
「八年前、マッサンがここに来たとき
ここがニシンだけではなく
リンゴだけではなく
ウヰスキーの里にしたいと
いった。

その言葉にかけたから何も口出し
はしない。
ただ、信じて待っている。
人が人を信じるというのはそういうこと
ではないのか」と熊虎が言う。

「お願いします」とハナがいう。
一馬が言う。
政春が言う。

渡はため息をついてウイスキーを
飲んだ。

「わかった!!!
エリーちゃん、素晴らしい
おもてなしだったな?
エマちゃん、おおきに。

ほな、かえるわ。」

野々村は
「鴨居のマル瓶がそこそこ売れていると
いうても、まだまだ、広がっていません。
そこそこもうけが出ている事業を
たたんでウヰスキー一本でというのは
それ相応の覚悟を持ってもらわな
あきません。」という。

政春は
「言うまでもありません。
わしはもともとこのウイスキーに
すべてをかけていますから。」

こうして、ウイスキー事業は認め
られた。

マッサンは工場のみんなに言った。

「いよいよ出荷の準備に入ります。
これからこの会社はウイスキー一本で
やっていきます。
ここまで来たのは、この街のみなさん
に支えられたものと思います。
ここは自分にとって第二の故郷です。
恩返しをしたいです。
もっともっと作って
もっともっと売って、
この余市を
ニシンのころより
リンゴのころより
さらに活気のある
ウヰスキーの里にしたいと
思います。
どうかみなさん、よろしくお願いします。」

拍手が沸いた。
みんな嬉しそうだった。
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エリーとエマの支えで
政春の思いが通じた。
癖のきついウイスキーではあるが
ウヰスキー通にはたまらない
味のようである。
わかる人は買ってくれると
思う。
ただ、リンゴ汁の事業が終わるのは
もったいないかなと思った。
進おじさんが悲しむだろうなと
思った。
しかし、売れなければどれほど素晴らしい
商品でも認められなければ
利益にならない。
この部分は、鴨居で学んだことでは
なかったか??

政春のウヰスキーは会社を支えることが
できるのだろうか。

ドキドキしますね。