万事休す1
1940年昭和15年。
マッサンとエリーが北海道の余市へ
やってきて8年がたちました。
北国での生活にも慣れ
そのスタイルにもずいぶんとゆとりが
感じられるようになりました。
その頃の日本は中国との戦争が
長く続いていました。
幼かったエマも15歳女学校の
三年生です。
「おはよう」とエマがリビングに
入って来た。
政春が読んでいる新聞を見て
「また戦争の記事なの?
戦争なんかやめてオリンピックを
やればよかったのに」と
いう。「どうせならスポーツで勝ち負けを
決めればいいのよ。」
政春は驚いて「女学校でそんなことを
いったらいけないよ」という。
エマは「言うわけないでしょ」というが
「なんで人間は戦争をやめれない
のかしら」と不服である。
政春は「欧米列強と肩を並べて
自国の利益を守るためなんだ」という。
エマは「そのためにほかの国の人たちを
犠牲にするのいいわけでない」と正義感
を出した。
政春はつい、本音が出た。
「わしは日本の外交力を信じたいのう。
愚かな戦争にはならないと思うよ」
そんな政春にさきほどから台所にいた
エリーが「愚かでない戦争なんて
ないわよ」といった。
「勝っても負けても戦争はたくさんの人を
傷つけるから。」
「ほら」、とエマは政春に言う。
「お母さんは戦争を知っているものね。」
エリーはエマにお弁当をわたした。
「サンキュー、
See you later.」
エリーと政春は[気を付けて
行ってらっしゃい]
と言って送り出した。
[あの、思ったことをずげずげという
態度はどうかな]という政春にエリーは
[いいたいことは何でもいうと教えたのは
私たちでしょ]といった。
さて、ウイスキーを造り始めてから
6年がたった。
一年一年と原酒を熟成させていく
過程が6年も続いた。
そろそろ、原酒をブレンドする作業を
することになった。
原酒はそれぞれに個性があるが
政春は熟成の過程には満足している。
そして新たに一馬は、興味を示した。
俊夫は工場長として
意欲的にウイスキーづくりに取りくんで
いるが、まだまだ学びの多い一馬に
「何をわかったことを言っているのか」と
いう。
「工場長僕だってわかりますよ」と
反論した。
「一馬、工場長ではなく
お兄さんと言わんか!」
「嫌です。」
美しい琥珀色に変わった原酒。
マッサンは毎日、毎日原酒を
集めてはブレンドをしている。
中島のとこやでその話を熊さんが
する。進や三郎は将棋を打ちながら
それを聞いている。
「そのブレンドはうまいのか?」
と三郎が聞く。
鴨居商店のマル瓶よりうまいウイスキーが
できるのだろうかともいったりする。
熊虎は「マッサンはきっと
世界一うまいウイスキー
を作るはずだ」といった。
そして、やっとブレンドができた。
これでやって行こうと政春は決心を
した。
スコットランドから帰国して20年。
自らが建てた工場でマッサンが目指した
ウヰスキーができた瞬間だった。
政春はできたウイスキーを森野家との
夕餉にもっていった。
「おめでとう、」
「おめでとうございます。」
完成したウイスキーを見て家族たちは
口々におめでとうといった。
熊虎は「これがウイスキーか・・
きれいだな」
と瓶を光にすかしていった。
しかし、飲んでみるとかーっとくる。
俊夫は「坊ちゃまのこだわりの味じゃ」と
いった。
程よくきいたスモーキーフレーバーの
味だと評判だった。
エリーも飲んだ。
エリーの長年の夢だったからだ。
「どうだ?」
エリーは「おいしい」といった。
拍手がわいた。
その夜。政春は考えていた。
政春は以前、これだと思って
出荷したら売れなかったことがあった。
それが心配だった。
出来は最高だ。
しかし、日本人の口に合うだろうかと
心配した。
誰もかれも、あの時、まずいという顔をした。
そして売れなかった。
こんどのは
他の人たちはどうかなという。
エリーは鴨居のウヰスキーが売れて
日本人にもウイスキーが浸透している
事を話した。
しかし、政春は、鴨居のウヰスキーマル瓶と
比べて自分のは癖も強いしスモーキーフレーバー
も強いといった。
マル瓶が売れているからと言って
これも同じく売れるとは限らないと
いった。
「マッサンが信じた味でしょ。
私も信じているよ。」
「エリー、ありがとう。」
もし、これが売れなかったら、
大変なことになるわけである。
経営の問題である。
しかも、出資者を欺いている。
エマは、チャレンジして行こう。
といった。
政春は笑った。
そして、エマとハナは試飲活動を始めた。
ある日、中島のとこやでその
ウヰスキーを周りの人に飲んで
もらうことにした。
エマは、そこにいた人に
勧めた。
「どうですか?」とエマ。
「おいしいよね?」とハナ。
ハナは三郎に
「鴨居のマル瓶よりおいしいと
思いますか」と聞く。
進も三郎も、おいしいとは
いわない。
「これはなんだろう???」
という疑問形である。
つまり、やさしい、飲み心地だったのが
マル瓶だったのではないだろうかと
思った。
力強くて、癖の強いのが亀山のウヰスキーと
したら、日本人の口を研究しぬいた
マル瓶のほうが受けがいいに決まっている。
鴨居は、ウイスキーのなんたるかよりは
売れることを重視したからだ。
チエは、「それはいくらで売るのか」と聞く。
ハナは「まだ決まっていない」という。
「どうせ高いんでしょ?」
「手は暇かかっているんだよ、六年も
かかっているんだから」とハナはいった。
しかしチエは、「買う側はそんなこと
関係ないし。」
と割り切っている。
進は
「ようはうまいかうまくないか・・だ。」
チエは「値段に合う味でないとね。」
これが世間である。
エマは、「だからそれを
確かめに来たんですよ。」
と立ち上がって強調した。
「どうですか?」
三郎は、「どうだろう、なんていったら
いいのかな・・・」
と、口ごもった。
反応は、悪いのだ。
そのとき、ひげをそってもらって
いた客がタオルのしたから
声を出した。
「あの、わたしにも飲ませて
いただけませんか?」
そしてタオルをはずして振り向いて
いった。
「ウヰスキーには目がないんですよ。」
みんな驚いた。
見慣れない客である。
「御嬢さん、一杯よろしいですか?」
エマは、目をまるくした。
客はうれしそうにタオルで顔を
ふいた。
********************
政春のウヰスキーはスコットランド
仕込みである。
イミテーションと言われてもいいと
割り切って商売をする鴨居とは違う。
その辺がなかなか成り立っていかない
ところである。
エマが必死で父親を応援する。
それがなんと頼もしい娘だろうかと
思ったりする。
もちろん、本当の父親ではない
ことを乗り越えての親子である。
その絆はもしかしたら血より
濃いかもしれない。
三郎たちの反応の悪さにエマは
焦り始めたのではないだろうか。
これが商品化されてはたして
売れるだろうか???
そしてこの客は・・・ウイスキーが
好きだというが・・・
マッサンのウヰスキーを理解して
くれる人なんだろうか???
1940年昭和15年。
マッサンとエリーが北海道の余市へ
やってきて8年がたちました。
北国での生活にも慣れ
そのスタイルにもずいぶんとゆとりが
感じられるようになりました。
その頃の日本は中国との戦争が
長く続いていました。
幼かったエマも15歳女学校の
三年生です。
「おはよう」とエマがリビングに
入って来た。
政春が読んでいる新聞を見て
「また戦争の記事なの?
戦争なんかやめてオリンピックを
やればよかったのに」と
いう。「どうせならスポーツで勝ち負けを
決めればいいのよ。」
政春は驚いて「女学校でそんなことを
いったらいけないよ」という。
エマは「言うわけないでしょ」というが
「なんで人間は戦争をやめれない
のかしら」と不服である。
政春は「欧米列強と肩を並べて
自国の利益を守るためなんだ」という。
エマは「そのためにほかの国の人たちを
犠牲にするのいいわけでない」と正義感
を出した。
政春はつい、本音が出た。
「わしは日本の外交力を信じたいのう。
愚かな戦争にはならないと思うよ」
そんな政春にさきほどから台所にいた
エリーが「愚かでない戦争なんて
ないわよ」といった。
「勝っても負けても戦争はたくさんの人を
傷つけるから。」
「ほら」、とエマは政春に言う。
「お母さんは戦争を知っているものね。」
エリーはエマにお弁当をわたした。
「サンキュー、
See you later.」
エリーと政春は[気を付けて
行ってらっしゃい]
と言って送り出した。
[あの、思ったことをずげずげという
態度はどうかな]という政春にエリーは
[いいたいことは何でもいうと教えたのは
私たちでしょ]といった。
さて、ウイスキーを造り始めてから
6年がたった。
一年一年と原酒を熟成させていく
過程が6年も続いた。
そろそろ、原酒をブレンドする作業を
することになった。
原酒はそれぞれに個性があるが
政春は熟成の過程には満足している。
そして新たに一馬は、興味を示した。
俊夫は工場長として
意欲的にウイスキーづくりに取りくんで
いるが、まだまだ学びの多い一馬に
「何をわかったことを言っているのか」と
いう。
「工場長僕だってわかりますよ」と
反論した。
「一馬、工場長ではなく
お兄さんと言わんか!」
「嫌です。」
美しい琥珀色に変わった原酒。
マッサンは毎日、毎日原酒を
集めてはブレンドをしている。
中島のとこやでその話を熊さんが
する。進や三郎は将棋を打ちながら
それを聞いている。
「そのブレンドはうまいのか?」
と三郎が聞く。
鴨居商店のマル瓶よりうまいウイスキーが
できるのだろうかともいったりする。
熊虎は「マッサンはきっと
世界一うまいウイスキー
を作るはずだ」といった。
そして、やっとブレンドができた。
これでやって行こうと政春は決心を
した。
スコットランドから帰国して20年。
自らが建てた工場でマッサンが目指した
ウヰスキーができた瞬間だった。
政春はできたウイスキーを森野家との
夕餉にもっていった。
「おめでとう、」
「おめでとうございます。」
完成したウイスキーを見て家族たちは
口々におめでとうといった。
熊虎は「これがウイスキーか・・
きれいだな」
と瓶を光にすかしていった。
しかし、飲んでみるとかーっとくる。
俊夫は「坊ちゃまのこだわりの味じゃ」と
いった。
程よくきいたスモーキーフレーバーの
味だと評判だった。
エリーも飲んだ。
エリーの長年の夢だったからだ。
「どうだ?」
エリーは「おいしい」といった。
拍手がわいた。
その夜。政春は考えていた。
政春は以前、これだと思って
出荷したら売れなかったことがあった。
それが心配だった。
出来は最高だ。
しかし、日本人の口に合うだろうかと
心配した。
誰もかれも、あの時、まずいという顔をした。
そして売れなかった。
こんどのは
他の人たちはどうかなという。
エリーは鴨居のウヰスキーが売れて
日本人にもウイスキーが浸透している
事を話した。
しかし、政春は、鴨居のウヰスキーマル瓶と
比べて自分のは癖も強いしスモーキーフレーバー
も強いといった。
マル瓶が売れているからと言って
これも同じく売れるとは限らないと
いった。
「マッサンが信じた味でしょ。
私も信じているよ。」
「エリー、ありがとう。」
もし、これが売れなかったら、
大変なことになるわけである。
経営の問題である。
しかも、出資者を欺いている。
エマは、チャレンジして行こう。
といった。
政春は笑った。
そして、エマとハナは試飲活動を始めた。
ある日、中島のとこやでその
ウヰスキーを周りの人に飲んで
もらうことにした。
エマは、そこにいた人に
勧めた。
「どうですか?」とエマ。
「おいしいよね?」とハナ。
ハナは三郎に
「鴨居のマル瓶よりおいしいと
思いますか」と聞く。
進も三郎も、おいしいとは
いわない。
「これはなんだろう???」
という疑問形である。
つまり、やさしい、飲み心地だったのが
マル瓶だったのではないだろうかと
思った。
力強くて、癖の強いのが亀山のウヰスキーと
したら、日本人の口を研究しぬいた
マル瓶のほうが受けがいいに決まっている。
鴨居は、ウイスキーのなんたるかよりは
売れることを重視したからだ。
チエは、「それはいくらで売るのか」と聞く。
ハナは「まだ決まっていない」という。
「どうせ高いんでしょ?」
「手は暇かかっているんだよ、六年も
かかっているんだから」とハナはいった。
しかしチエは、「買う側はそんなこと
関係ないし。」
と割り切っている。
進は
「ようはうまいかうまくないか・・だ。」
チエは「値段に合う味でないとね。」
これが世間である。
エマは、「だからそれを
確かめに来たんですよ。」
と立ち上がって強調した。
「どうですか?」
三郎は、「どうだろう、なんていったら
いいのかな・・・」
と、口ごもった。
反応は、悪いのだ。
そのとき、ひげをそってもらって
いた客がタオルのしたから
声を出した。
「あの、わたしにも飲ませて
いただけませんか?」
そしてタオルをはずして振り向いて
いった。
「ウヰスキーには目がないんですよ。」
みんな驚いた。
見慣れない客である。
「御嬢さん、一杯よろしいですか?」
エマは、目をまるくした。
客はうれしそうにタオルで顔を
ふいた。
********************
政春のウヰスキーはスコットランド
仕込みである。
イミテーションと言われてもいいと
割り切って商売をする鴨居とは違う。
その辺がなかなか成り立っていかない
ところである。
エマが必死で父親を応援する。
それがなんと頼もしい娘だろうかと
思ったりする。
もちろん、本当の父親ではない
ことを乗り越えての親子である。
その絆はもしかしたら血より
濃いかもしれない。
三郎たちの反応の悪さにエマは
焦り始めたのではないだろうか。
これが商品化されてはたして
売れるだろうか???
そしてこの客は・・・ウイスキーが
好きだというが・・・
マッサンのウヰスキーを理解して
くれる人なんだろうか???
