人間いたるところ青山あり4
どうやら、熊虎にはなにかあると思っていた
政春は・・・熊虎の秘密を知ることに
なった。
莫大な借金があること。
その保証人に義理の弟西田進がなっていること。
一馬は家と土地を政春に買ってもらおうと
提案する。
政春は・・・・困惑する。
その夜
「どうする?一馬からお願いされたこと。」
エリーが政春に聞いた。
政春は「ここは川のそばだし水はいいけど
まさかここに工場を建てるとは
夢にも思ってなかったので
考えがまとまらない」という。
そしてもう一つの疑問。
「熊虎がなぜ裏切り者なんだろう?」
ニシンが不漁で借金だらけになった
ことや、進さんに保証人になってもらった
ことなどそんなことで裏切り者とは
いえない。熊虎と組合長進の間に
なにかがあったと政春は思った。
翌朝、政春は進の所へ行った。
そして「話を聞いてください」といった。
進は「帰れ」と冷たくいった。
政春は、「自分も覚悟を決めて
ここに来た限りはちょっとのことでは
引き下がるわけにはいかない」と
いった。
「覚悟だと?」
進は政春の顔を見た。
「ここがこれだけの町になるまで何年かかったか?
俺たちのおやじがどれほど苦労したか
知ってるか?と聞く。」
政春知る由もない。
ついて来いと進が言う。
リンゴ園の丘に登ると
一本のリンゴの木がある。
この木が日本で初めて実をつけた
木だと進が言う。
今から35年まえのことだ。
親父たちがここに来たのはその8年
前の明治4年だ。
「それでは10年近くかかってやっと?」
進たちの両親は会津出身で元侍で
あったけど、時代が明治になってからは
逆族の汚名を着せられた。
そして無理やり船に押し込められて
この北海道に流されたという。
「親父たちは刀をくわに持ち替えて
来る日も来る日も開拓をした。
まずそばや豆をまいた。
熊が出る。キツネやうさぎもでる
夜中にシカが出る。
植えても食べられた。
自然との闘いだった。
親父の手はいつも豆だらけ
母たちの手はいつもあかぎれ
だらけだった。
そんなとき、初めてリンゴの苗を
手にした。
親父たちは必死で見たことも食べたことも
無いリンゴの苗を植えて
育てた。
4年目にやっと実がなった。
何でそこまで我慢できたかというと
親父たちが会津の魂、武士の
誇りを捨てなかった
からだ。
おまえにそこまでの覚悟は
あるのか?
あるのか???」
政春は答えられない。
「会津だけではない。
北海道には日本中のひとたちが
やってきた。そして死に物狂いで
この土地を開拓したんだ。
だからおらたちは
死に物狂いでここを守らないと
いけない。
生半可ではここではやっていけない。
分かったらとっとと内地へ帰れ。」
そういって進は去って行った。
政春は川に向かって歩いた。
先ほどの進の言葉が浮かんだ。
「おまえにそこまでの覚悟があるのか
あるのか???」
以前ここに来たとき
政春はこの土地をみたとき
喜んだ。
清涼なる水、湿度のある気候、
そして、大麦にピート。
あのとき、ここだと確信した。
ここは理想的な土地だと思った。
今政春はここで生きる人たちの
気持ちに触れて
今その覚悟を突き付けられました。
進は一馬に声をかけた。
そのころ森野家ではエリーが先祖の写真を見て
いた。
熊虎が来た。
一番新しい写真は女性だった。
「おらのかかあだ。20年前に死んだシノだ。
会津から同じ船に乗って北海道に来た。
彼女は一族の大反対を押し切って
おらの嫁になってくれた」という。
「どうしてみんな反対したの?」
「進が言ってたべ。
おらが会津を
ふるさとの仲間を
裏切ったって。
おらのおやじは北海道に来てリンゴづくりをした。
台風でリンゴができなくなって
酒びたりになって
食うや食わずの生活になった。
熊虎は親父と大喧嘩して
家を飛び出し青森で漁師になった。
青森から秋、山形と漁場を転々とした。
ここがニシンで賑わうようになると
飛び出したけど帰ってくるように
なった。その頃シノと再会してな。
家族はもちろん待ち中の人から
裏切り者と結婚するのかと
言われたという。
それでも、うちを飛び出してきてくれた。」
エリーはじっと聞いていた。
そして「わかる」といった。
自分も家を飛び出して政春についてきた
わけで。
「シノさんは熊虎さんをたくさん愛していた
からでしょ?」
「おらもシノを幸せにするために必死で
ニシンを取った。
そして親方になった。
四のは流行病で死んだ。
おらはシノの笑う顔を見るために
必死で働いたのに
そしてこの家を建てたのに・・・」
熊虎は泣いた。
報われなかった苦労だらけの妻への
後悔なのだろうか。
「人生ですね」とエリーはいった。
河では政春は考え事をしていた。
雄大な自然の中だった。
**************
何食わぬ顔で生きているけど
みんな毎日、悩んで、後悔して
がんばって、前を向いている・・・
それが人生なのである。
しあわせそうでうらやましいという
人生もある。
だけど、それは他人のものである。
熊虎は思い通りにならなかった
自分の人生の中で妻のシノを
しあわせにできなかったことを
悔いた。
だから、この家を手放せないのだ。
この家は妻への供養だったわけだ。
それを知らない一馬はどうするんだろう?
そして、先人の苦労の上にできた
余市という街を政春はまた、その苦労を
越える苦労をする覚悟が自分に
あるのかと考える。
こうなると哲学者である。
どうやら、熊虎にはなにかあると思っていた
政春は・・・熊虎の秘密を知ることに
なった。
莫大な借金があること。
その保証人に義理の弟西田進がなっていること。
一馬は家と土地を政春に買ってもらおうと
提案する。
政春は・・・・困惑する。
その夜
「どうする?一馬からお願いされたこと。」
エリーが政春に聞いた。
政春は「ここは川のそばだし水はいいけど
まさかここに工場を建てるとは
夢にも思ってなかったので
考えがまとまらない」という。
そしてもう一つの疑問。
「熊虎がなぜ裏切り者なんだろう?」
ニシンが不漁で借金だらけになった
ことや、進さんに保証人になってもらった
ことなどそんなことで裏切り者とは
いえない。熊虎と組合長進の間に
なにかがあったと政春は思った。
翌朝、政春は進の所へ行った。
そして「話を聞いてください」といった。
進は「帰れ」と冷たくいった。
政春は、「自分も覚悟を決めて
ここに来た限りはちょっとのことでは
引き下がるわけにはいかない」と
いった。
「覚悟だと?」
進は政春の顔を見た。
「ここがこれだけの町になるまで何年かかったか?
俺たちのおやじがどれほど苦労したか
知ってるか?と聞く。」
政春知る由もない。
ついて来いと進が言う。
リンゴ園の丘に登ると
一本のリンゴの木がある。
この木が日本で初めて実をつけた
木だと進が言う。
今から35年まえのことだ。
親父たちがここに来たのはその8年
前の明治4年だ。
「それでは10年近くかかってやっと?」
進たちの両親は会津出身で元侍で
あったけど、時代が明治になってからは
逆族の汚名を着せられた。
そして無理やり船に押し込められて
この北海道に流されたという。
「親父たちは刀をくわに持ち替えて
来る日も来る日も開拓をした。
まずそばや豆をまいた。
熊が出る。キツネやうさぎもでる
夜中にシカが出る。
植えても食べられた。
自然との闘いだった。
親父の手はいつも豆だらけ
母たちの手はいつもあかぎれ
だらけだった。
そんなとき、初めてリンゴの苗を
手にした。
親父たちは必死で見たことも食べたことも
無いリンゴの苗を植えて
育てた。
4年目にやっと実がなった。
何でそこまで我慢できたかというと
親父たちが会津の魂、武士の
誇りを捨てなかった
からだ。
おまえにそこまでの覚悟は
あるのか?
あるのか???」
政春は答えられない。
「会津だけではない。
北海道には日本中のひとたちが
やってきた。そして死に物狂いで
この土地を開拓したんだ。
だからおらたちは
死に物狂いでここを守らないと
いけない。
生半可ではここではやっていけない。
分かったらとっとと内地へ帰れ。」
そういって進は去って行った。
政春は川に向かって歩いた。
先ほどの進の言葉が浮かんだ。
「おまえにそこまでの覚悟があるのか
あるのか???」
以前ここに来たとき
政春はこの土地をみたとき
喜んだ。
清涼なる水、湿度のある気候、
そして、大麦にピート。
あのとき、ここだと確信した。
ここは理想的な土地だと思った。
今政春はここで生きる人たちの
気持ちに触れて
今その覚悟を突き付けられました。
進は一馬に声をかけた。
そのころ森野家ではエリーが先祖の写真を見て
いた。
熊虎が来た。
一番新しい写真は女性だった。
「おらのかかあだ。20年前に死んだシノだ。
会津から同じ船に乗って北海道に来た。
彼女は一族の大反対を押し切って
おらの嫁になってくれた」という。
「どうしてみんな反対したの?」
「進が言ってたべ。
おらが会津を
ふるさとの仲間を
裏切ったって。
おらのおやじは北海道に来てリンゴづくりをした。
台風でリンゴができなくなって
酒びたりになって
食うや食わずの生活になった。
熊虎は親父と大喧嘩して
家を飛び出し青森で漁師になった。
青森から秋、山形と漁場を転々とした。
ここがニシンで賑わうようになると
飛び出したけど帰ってくるように
なった。その頃シノと再会してな。
家族はもちろん待ち中の人から
裏切り者と結婚するのかと
言われたという。
それでも、うちを飛び出してきてくれた。」
エリーはじっと聞いていた。
そして「わかる」といった。
自分も家を飛び出して政春についてきた
わけで。
「シノさんは熊虎さんをたくさん愛していた
からでしょ?」
「おらもシノを幸せにするために必死で
ニシンを取った。
そして親方になった。
四のは流行病で死んだ。
おらはシノの笑う顔を見るために
必死で働いたのに
そしてこの家を建てたのに・・・」
熊虎は泣いた。
報われなかった苦労だらけの妻への
後悔なのだろうか。
「人生ですね」とエリーはいった。
河では政春は考え事をしていた。
雄大な自然の中だった。
**************
何食わぬ顔で生きているけど
みんな毎日、悩んで、後悔して
がんばって、前を向いている・・・
それが人生なのである。
しあわせそうでうらやましいという
人生もある。
だけど、それは他人のものである。
熊虎は思い通りにならなかった
自分の人生の中で妻のシノを
しあわせにできなかったことを
悔いた。
だから、この家を手放せないのだ。
この家は妻への供養だったわけだ。
それを知らない一馬はどうするんだろう?
そして、先人の苦労の上にできた
余市という街を政春はまた、その苦労を
越える苦労をする覚悟が自分に
あるのかと考える。
こうなると哲学者である。
