人間いたるところ青山あり3
森野熊虎の息子、一馬は
父親と仲が悪いらしいと
エリーは気になった。

それはなぜ?と政春も思った。
翌朝、政春は井戸で顔を洗おうと
おもった。
水を両手ですくって
飲んでみた。

政春はうなずいた。
「おいしい、、、」と。

ハナは囲炉裏のそばでは昨日のけんぺい汁に
みそをいれて作り直していた。

一馬はもう出かけたという。

熊虎が起きてきて昨夜の残りものだと
しり、「客人に出すものではない」と
いった。

政春とエリーは「気にしないでください
充分です」といった。
ハナも仕事に出て行った。

熊虎はハナの仕事をひまつぶしといった。
そしてリンゴ園の経営者の叔父の進に
あとでマッサンが挨拶に行くと
行っておいてくれと熊虎はハナに
いった。

熊虎はエマに猟銃を見せてあげると
いった。
エマは好奇心満々だった。

政春はいよいよ行動開始と
なった。
「地主や組合長にあったらまっさきに
おらの名前を出せや。リンゴの組合長は
おらの死んだかかあの弟だ」という。
それがさっきの進という名前である。

「面倒見のいい男だから安心して
行って来い。」

政春は元気よく「ハイ」と返事をした。

ふたりが外を歩くと
北海道の人は
まだ異人さんにはなれてないらしく
じろじろと見たり
こそこそと話をしたり
びっくりした顔をしたりと
大変だった。

政春はエリーに気にするなという。
エリーは慣れているわといった。
近くで商売をしている男性を見て
「この川向こうの地主さんがいると
聞いてやってきました。」

と挨拶をした。

男は、ハッとした顔をして
エリーを見た。

「わしら、怪しいものではありません。
熊虎さんの紹介でやってきました。」

エリーは「こんにちわ」と挨拶をした。

すると男は頭を下げたものの
熊虎と聞いて
「おらしらね、なにもしらね」といって
背中を向けた。

エリーはおかしいと思った。
政春もおかしいと思った。

やっとのことで地主にあった。
挨拶をして川沿いの土地を買いたいと
いう話をした。

「ウイスキー工場を建てようと思っています」
と話すと地主はこの街でウイスキーを?
と、驚いていた。

政春は「わしら、熊虎さんの紹介で
きました」といった。
すると地主は
熊虎と聞いて
顔色がかわり

「帰ってくれ」という。
「土地はうらねぇ、帰ってくれ」といって
部屋から出て行った。

政春とエリーはあっけにとられた。
「どうして?」
「わからん・・・。」

家では熊虎がエマと遊んでいた。

リンゴ園についた。

エリーは「どうしてみんな帰ってくれ」
というのかなという。
政春もわからないと答えた。
熊虎の名前をちゃんと出した
のに・・・と不思議がった。

エリーはハナを見つけた。
一馬もいる。

政春は「二人ともここで働いて
いたのか」と声をかけた。

「収穫の時期だけここで
働いている」とハナは答えた。

そこへ組合長の進が声をかけた。
政春は、「お仕事中スミマセン」と
答えた。

政春は「熊虎さんから紹介して
もらった」といって自己紹介して
エリーも「妻です」と紹介した。

進は「ウイスキーとリンゴ汁の工場をたてに
来たんだと?」
と聞く。
「ウヰスキーができる間、日本一の余市の
リンゴでリンゴ汁を・・・」といっただけで

進は

「断る」といった。
「リンゴはうらねぇ。」

政春は進を追いかけて
「ちょっと待ってください」といって
「進さんは死んだ熊虎さんの奥さんの
弟さんですよね」と聞く。

進は「確かにそうだ」と答えた。
「だけどもおらは、もう熊虎のことは
兄だとは思っていない」と答えた。
「借金地獄で身内にまで迷惑をかけて。

おめえらも熊虎に騙されているのでは
無いのか」と聞く。

「借金?」
「だまされている?」

政春とエリーは、不思議がった。

「悪いことはいわねぇ。
あいつにかかわっていないで
さっさと内地さかえれ。」

進はそれだけを言ってさって
いった。

エリーは「どういうこと?」
と政春に聞く。

政春もわからない。

森野の家に帰った二人。

エリーは「熊さんが借金?
私たち騙されている?
どういう意味?」
と政春に聞く。

「とにかくもう一度話を聞いてみよう」
と、政春は答えた。

すると家の中から男の声がした。

「もういい加減、目を覚ましてくれ!!
兄さんがきっちり返すと約束したから
おら、保証人になったんだ。」
どうやら進の声である。

「いくらなんでもおらまで裏切らないと
思ったから、・・・
このままじゃ・・・
おらが借金を肩代わりすることに
なってしまう。」
すると熊虎は
「心配するな。
小樽の金貸しとはおいおい
話をつけるから。
春になったら金をまとめて返すから」と
熊虎は言う。

進は政春たちが帰ってきたので
「兄さん、この外国人とつるんで
こんどはなんだ?」と聞く。
「ニシンの次はリンゴ汁か?
ウヰスキーか?」

「ちょっと待ってください。
リンゴ汁とウイスキー工場は
わしが建てようとしているのです」と
政春は口をはさんだ。

「あんた、裏切り者呼ばわりされている
兄さんに何ができると思っているんだ?」

と進は言った。
「兄貴に対してその言いぐさはなんだ」と
熊虎は進にかみつこうとした。

それを制した政春だったが。

進は、熊虎に「このさい、この家と土地を
手放してこの街を出て行ってほしい」と
いった。
熊虎は
「おめえの指図はうけねぇ。
ニシンが来たら一発逆転だ。
借金は倍にして返してやらぁ」
という。

「往生際が悪い、それでも会津の男か」
と進が言うが「会津のことなどとっくに
捨てた」と熊虎は言った。

進は「駄目だ」といって
絶交を言い渡した。
そして、ハナと一馬の面倒は自分が
みるといった。
「この裏切り者のことはもうあきらめろ」と
大声で言って帰って行った。

ハナは「この家を売らねえでこれからどうする
んだ?」と熊虎に聞いた。

熊虎は、こともあろうに政春に
「おらに金をかしてくんねぇか」と
いう。
「なぁ頼む。」
「いや、待ってください。
わしの持っている金は
リンゴ汁とウイスキー工場を
建てるために大阪の出資者から
預かった大事なかねです」と
いった、

それでも熊虎は春になったら
必ず返すからという。
「借りた金は二倍にして
いや、三倍にして返すから」と
いう。

そこで一馬がいった。

「いい加減にしろ!
この際ニシンのことはきっぱりと忘れて
このうちさ売って借金返して
地道に暮らすことを考えたらどうだ?」

熊虎は、
「おらこのうちはうらねぇ。
どんなことがあってもうらねぇ。」

「だったらどうするんだ?
これからどうやって生きていくつもりだ?」

すると熊虎は
立ちあがり
「おら、ニシンを待つ」といった。
「もう一回天下を取ってみせる。」

そういって、部屋から出て行った。

ハナは父を呼んだが
熊虎は家を出て行った。

「借金てどういうことなんだ?」

と政春はハナに聞いた。

「ニシンが来なくなって・・」
政春が来たときは、ニシンがたくさん取れて
景気が良かった。

あれが最後だったとハナは言う。
確かに政春が来たときは
にぎやかで大宴会をしていた。
あの、借金を取りに来た武井も
あのときは漁師としてここで働いて
いた。

まだ熊虎はあのころの夢を見ていた。
去年も今年も
ニシンは一切来ていない。
熊虎の家は借金で首が回らなくなった。
ニシン漁は博打だと一馬は言う。
莫大な元手がいるのだ。
漁に供えて大勢の漁師や
女衆をあつめて船を用意して
それでも海さえくきるとたった
二週間の漁で一年中遊んで暮らせる。

だけど、ニシンが来なけりゃその逆で
ひと春で破産する。
それが二年も続いたという。

「もし、来年の春ニシンが来たとしても
うちには漁師を雇う金もない、船もない。
だから、もうニシン漁はできないんだ。」

政春は何かしら理解したような気がした。

一馬は、政春が工場を建てる土地を探して
いるのならこの家を買ってくれないかと
聞いた。

「このままでは叔父の進に迷惑がかかる」と
一馬が言う。

ハナは父親の住むところがなくなると
反対をするが
一馬は自業自得だといった。
「会津の仲間を裏切って
おっかちゃんを苦しめて
いつも自分勝手に
生きてきて・・・、天罰が
下ったんだ!!!」

だけど、実の父親だからと
ハナは反論するが。

「親父だと言っても今まで
父親らしいことなど
してこなかった。
おらたちのことなど一つも考えて
くれなかった。見捨てられて当然だ」と
はき捨てるように言った。

一馬は政春に向かっていった。

「土地のこと真剣に考えてください。
よろしくお願いします。」

そういって、頭を下げて、出て行った。

政春とエリーはその姿をじっと
見ていた。
***********************
あの時送られ来たリンゴは
だれが送ったのか?何のために送ったのか?
なんだか疑問だった。
政春が余市に行った年が最後の
ニシン漁だったとすれば、あのりんごは
その後のことだった。

ってことは???

熊さんが贈ったものではなく
ハナちゃんだったのかなと思ったり
しますが??

あのリンゴがなかったら出資者に
お金を出してもらうことができず
政春は大阪にとどまっていたかもしれ
ないし・・・
とりあえず出てきたとしても
途方に暮れていたことだろう。
リンゴ汁の工場など
鴨居商店に造ってもらえば
なんとかなったかもしれない。

しかしウイスキーの熟成の5年間を
忍んでいけれるリンゴ汁の工場である。
大がかりなものになるはずだ。

熊虎の没落は大きく、いまだに政春に
金を貸してもらってニシンさえ来たら
一挙に金持ちになれると信じている。

悲しいが、あれは宝くじに当たった
もので、毎年宝くじにあたるとは
そんな保証はどこにもない。

あぶく銭は身につかずというけど
そのとおりで、地道に働いて稼ぐことをしないと
人間ダメになる。一時はよかったとしてもだ。

そのことがわかってなかったのか
熊虎は自分が借金地獄でみんなから
嫌われているはずなのに、政春に
熊虎の名前を出せばいいなんて、よく
ぞいったものだ。
できる話もできなくなった。
政春の計画の甘さである。
他人を頼るとこうなるという学習である。

自分の目と耳と足と口をたよりに
探すほうがいいのであって
そんな時は役所を頼ったり
誰かに保証人になってもらうとしたら
しばらくそこで地道に働いて
信用をつけることが大事ではなかったのかと
思う。
なにしろ、外国人の妻がいるのでよけい
胡散臭そうに見るわけだ。

ソーラン節に歌う
ニシン来たかとカモメに聞けば
わたしゃ立つ鳥、ちょい波に聞け・・
やさえんやーさーあのどっこいしょ
って・・・ありますよね。
ニシンが来たかと海を見るのだけど
なかなか来ない年もあるということだ。
きたら、一攫千金である。

だからカモメにさえも聞きたくなる
ほど、待っているわけだ。
だったらニシンではなく普通のサケとか
普通にまぐろとか
の漁をしたらよかったかもしれない。
そう思った。