会うは別れの始め5

これからはマッサンのウイスキーを造って。
大将の会社を辞めていいよ。
マッサンの工場を造ろう。

夢中になって大将のいう商品を作るために
頑張ってきたが
敗北という結果への空しさ。

しかし、エリーの励ましに
新たなる目標を見出した。

エリーはマッサンを連れて
家主の野々村さんの
お宅にやってきました。

由紀子が玄関に現れた。
「そろってお待ちです。」

政春は、「そろって?」
と聞いた。

「しっかり説明してね」とエリーが小声
でいった。

その男は渡芳利という。
応接間で鴨居ウヰスキーの赤ラベルを
飲んでいた。

野々村が紹介をしてくれた。
関西に飲食店を何軒も経営している。
そして、野々村はこのひとが自分を
投資の世界に引っ張り込んだ
悪者だといった。
渡は、立ち上がり「あんた
そんな、人聞き悪い、ええ?」
とあわてて言った。

「相変わらず別嬪さんですね」と
お茶を持ってきた由紀子に言った。

「どうぞごゆっくり、失礼します」と
由紀子は去って行った。

野々村は、テーブルに座って
「お話を聞かせてもらいましょか」と
いった。
エリーと政春は顔を見合わせて
政春が話すことになった。

渡はそれが気に入らない。
「あんた誰や」と聞く。
「エリーさんのような別嬪さんの
話を聞いてほしいと
言われたから来たんや。」
野々村が「渡さん」と
たしなめた。

「冗談でんがな。
早い話が北海道で工場を作って
ウイスキーを造りたいと
こういうこっちゃな?」
とやっと本題に入れた。

エリーは、「はい」といって
テーブルに着いた。
政春も、ついた。

「ぶっちゃけ、なんぼかかるねん?」
政春は50万円という。

「そんなにかかるんかいな。」

渡は驚いた。
野々村は「そんなに北海道はスコットランド
に似ているのですか」と聞く。

政春は、「気候風土がそっくりなんです」
といった。
「気温が低くて
湿度が高い。
そのうえ、水も素晴らしく
原料である大麦やピートが
取れます。」

「工場で働く人の確保は?」と野々村。

「不況で職場を求める人が
多いので確保はできます」と答えた。
「わしらが新しい会社を造れば
働き先もできる。
地元の人にも歓迎されると
思います。」
技術や知識は政春が教えるといった。
工場は日本海側に建てるつもりなので
小樽まで鉄道、そのあとは
舟です。

時間がたってもウイスキーは痛みません。
寝かせば寝かすほどウイスキーは
うまくなります。

だから、交通事情においては
急ぐ必要がないという。

渡は「鴨居商店の後追いになるが
鴨居商店と同じ品物を作るわけでは
ないやろな?」と聞く。

的を得た質問である。
政春はそのことで悩んできた。

「わしは・・・・
政春は立ち上がった。
わしが目指すウイスキーは
本場スコットランドで作られている
独特のくせとこく・・・
スモーキーフレーバーのきいた
誰にもこびないウイスキーです。

わしは、日本人の舌をうならせて
みせます。」

「いうとくが、
鴨居の大将はやり手やで。」
渡は鴨居商店をライバルとして
みるなら、という話を始めた。

「鴨居は宣伝は派手にバーンと
ぶちかます。
営業はどんどん攻めてくる。
あんた、それで勝ち目ありマンのかいな?」

「もちろんです。
わしの理想のウイスキーを造ることができ
たら・・・わしは絶対負けません。」

野々村は「それは頼もしい」といった。

渡は「それぐらいの気持ちを持ってないと
独立して自分の工場を持てるわけ
ないわな・・・。
で、工場ができてどのくらいで
商品ができますんや?」

「最低5年の熟成期間が必要です。」

「あかん!!!
わてら、大金を出資して回収する
のに五年はちょっと無茶だっせ!!!」

たしか、鴨居商店でもこの点が問題
になった。


渡はそこのところをよく考えてもらわんと
この話は前へ進みませんといった。

政春は、唇をかんだ・・・。

その夜、エリーにありがとうと
いった。
出資してくれるひとに5年間の
間の利益を得るためにはどうしたら
いいのかと政春は考えた。

太陽ワインのように、利益をつなぐ
商品を探した。

エマがリンゴをかじった。
エリーはじっと考えた。

これはとてつもないことだと
政春はいった。

エリーは、ふとリンゴジュースを
思い出した。

マッサン、これは?
リンゴをさした。

そして渡と野々村の話し合いを
開始した。

つまり、5年の間はリンゴジュースを
つくって、利益を得ていくという
わけだった。

北海道の日本海側では
リンゴがたくさんできるという。

この間の森野のりんごはその地の
りんごであった。

あれはおいしかったと由紀子が言った。
渡も興味を示した。
だから、リンゴジュースを作って
売る。それを運転資金に回すと
いうのだ。

日本にはまだ天然のリンゴジュースはない。
砂糖や着色料を一切使っていない
ジュースを健康にいいと宣伝したら
少々高くても買ってもらえる。
それにジュースにするのでリンゴの
見た目には
こだわらない。
つまり形の悪いものでも傷が言ったものでも
安く仕入れることができるというのだ。
野々村は「なるほどな。」といった。
由紀子は「ええんと違いますか」という。
渡はしばらく考えて「出資する」と答えた。

「ありがとうございます」といった。

「ただしや、我々が出資するのは
20万円づつや。
後の10万円は自分でなんとかしなはれ。
あんたな、自分は金を出さずに工場が
持てると思ったんかいな?
それは甘い。」
野々村は渡をみた。
「わしはあんたの顔も立てた積りや」という。
「あんたの推薦がなかったらこの投資
話、間違いなく断っている
ところや。
はははは・・・。
なんぼエリーちゃんがべっぴんさん
でもな・・・。
あはははは・・・。」
渡は帰って行った。

この当時の10万円はいまでいう
5000万円です。
マッサンには逆立ちしても用意できない
金額でした。

帰り道、
政春は、10万円の都合は難しいといった。
それに、鴨居商店に勤めているので
この話をまず大将にしなければと
エリーに言った。

エリーはそうだねと納得した。
家の前につくと
英一郎が声をかけた。
お元気になられてよかったですね、
あの時はありがとうという会話が
あった。
そして・・・
英一郎は
政春に話があるというのだ。

リビングでお茶をだす
エリー。
話とは何かと聞くと
鴨居ウヰスキーのレッドラベルは
完全な失敗だったと
英一郎は言った。
もう一度スモーキーフレーバーの
聞いたウイスキーを造りたいと
いうのだった。


政春は、英一郎に鴨居商店をやめさせて
もらおうと思っていると
話をした。

英一郎は、
あまり表情が変わらない。

政春は北海道に工場を建てられないものかと
思っていることを話した。

「本気ですか?」

「ああ・・・。」

「工場長は山崎にはなくてはならない
ひとです。父よりずっと
日本で一番ウイスキーを知り尽くしている
人です。
・・・・・・・・・

僕らを見捨てるんですか?」

英一郎も、苦しんでいるのだった。
どうしても売れるウイスキーが作れない
のだ。

「やめるつもりで父からいろいろ言われても
ずっと平気な顔をしてブレンドをしてきたの
ですか!!!」

英一郎は立ち上がって
怒鳴った。

いや、北海道の工場の件は過労で
倒れてから考えたことだった。
鴨居の大将が、どうのこうのでは
ないのだったが・・・。

政春は「違う」というが

英一郎は聞かない。

「失望しました!!!

失礼します・・。」

英一郎は家を飛び出した。

「英一郎、まって・・
待って・・・」エーは叫んだが
答えない。
英一郎は帰ってしまった。

「明日、ちゃんと大将に話をして
みる。」

政春はエリーに言った。

「私も一緒に行く」と
エリーは言った。

そして翌日、鴨居商店の社長室。

金魚をみている鴨居。
政春がドアをノックして入ってきた。

ふりむく鴨居。

しばらくしてエリーが入って来る。

「なんや、ふたりして?」
鴨居は聞いた。

政春とエリーは顔を会わせて
うなづいた。
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やり手の技術者が経営者と意見が合わずに
退職をするという
流れだ。
自分の作りたいものを作る。
それが政春の信念である。

鴨居でできなければ
自分が作る・・。

しかし、10万円の資金の都合は
どうするのだろう?

とりあえず、余市へ行って
リンゴ農家でバイトでもするのだ
ろうか???

森野が言った。
この街は敗者が復活する町だと。

あの言葉をもう一度
かみしめた政春
だったのかもしれない。