虎穴にいらずんば虎児を得ず6
鴨居は言った。
鴨居商店の人間になれ
わてにはおまえの技術が必要や。
日本でウイスキーが作れるのは
おまえしかおらん
わては二年前この樽の酒を飲んだ
とき、目覚めた。
時間をかけて熟成する酒を造りたい
わてもいつか、ウイスキーを造って
みたい。

これがわてが本気でウイスキーを造りたいと
思った原点や。

政春は、本気なんですねときく

二人でメイドインジャパンの新しい時代を
造ったろうやないか。

鴨居の差し出した右手に政春は手を
だしてハイと元気よく返事をした。

その翌日、エリーは政春をせかして
早朝からでかけた。
行先は、広島だった。

亀山家はいつもの朝餉だった。

すみれが御馳走様でしたと
いったとき、
島じいが政春たちが帰ってきたと
いった。

いったい何事だと政志は驚く。
大事な報告があるらしいと
島じいが言った。

お茶の間にふたりが姿を見せた。

エリーはお久しぶりでございます
と挨拶をした。

政春は実は、折り入って話があるので
といった。
親父にもお母ちゃんにも喜んでもらえる
話じゃと言う。

早苗は何か合点したらしく
エリーさん、はよう、あがりんさいと
せかした。

座敷にそろった家族に、島じいがお茶を
出す時だった。
早苗は島じいにエリーさんからじゃと
いった。
すみれは大事な報告は何?と聞く。
きかんでもわかるじゃろ。
ウイスキーを造るまでこの家の敷居は
またがないといったお前が帰ってきた
ということは・・・そういうことじゃろ?

エリーさん、よう決心したのうと早苗は一人で
話し始めた。
決心したのは政春だとエリーは言う。
早苗は男は決心するのは当然だ。
よう決心した・・と涙声になった。

政春は、母に喜んでもらえたので
うれしいといった。」
早苗はエリーに国に帰ったら
親孝行しんさいという。
お母さんもやっとエリーさんが目を覚まして
よろこぶじゃろ・・。
と嬉しそうに話す早苗だった。

が・・・・

エリーには何のことやら?

早苗は二人が別れる決心をしたと
誤解をしたのだった。

エリーは、マッサンがウイスキーを造る
会社にはいることになったと
報告をした。

政春はやっと鴨居商店に入ることができて
本格的にウイスキーを造ることに
なりましたと報告をした。

良かったね、お兄ちゃん!と
すみれがよろこぶ。

早苗は怒った。
鴨居とは何かと聞く。
大阪では有名な会社だと
いうとそんな会社は広島では
しらないという。
ウイスキーなど成金が飲む酒だと
思っている早苗はすぐにつぶれると
いった。
そこへ紀州みかんのはこをもった
従業員が大阪から贈り物だそうです
といって置いて言った。
手紙が添えてあった。
それは鴨居欣次郎からの手紙だった。
政春の両親への感謝と報告と
挨拶がそえてあった。
律儀だと政春は言う。
すみれは、ちゃんとしてるねと
喜んだ。
早苗はみかんひと箱といっしょにされて
政春も安く見られたものだと
くさした。

すみれが紀州のみかんは高級品じゃろ
というとそこへ
残りもこちらにもってきましょうかと
先ほどの運送会社の従業員が
つぎつぎと
紀州みかんの箱をもってきた。
全部で10箱。
さすがの早苗も驚いたまま声が
でない。

政春は自分が鴨居商店に入ることができた
のはエリーのおかげだという。
エリーが鴨居の社長をもてなすことを
考えて料亭まで手配して
それがきっかけでわしゃようやく
ウヰスキー造りを始められる
ことになったんじゃ。
エリーはお父さん、お母さん、これからも
ふたりで力を合わせて頑張って行きます。

不束者ではございますが、今後とも
どうかよろしくお願いいたします。
と政春も一緒に頭を下げた。

顔を上げると、
父は笑っていたが、早苗は仏頂面を
していた。
なんで喜んでくれないのかと
政春が早苗に言った。
日本人はウイスキーを飲まんけん。
はよう、大阪いね!
そういって、座敷から出て行った。

エリーはその後を追いかけた。
早苗は自分の部屋に入った。
エリーは廊下側に座った。

おかあさん、お母さんに頂いた
お金、マッサンのために使いました。

ありがとうございます。
と頭を下げた。

早苗ははっとして、エリーを見た。
そして、いった。

エリーさん・・・
何度も同じこと言うようで悪いけど
外国人はうちの嫁にはなれん。
あんた・・・
なんで外国人に生まれたんじゃ。
日本に生まれなかったんじゃ?

エリーは、英語でいった。
泣かないでください・・・。
お母さん、私は日本人にはなれない。
よくわかりました。
でも私はマッサンにウイスキーを造って
ほしい。
マッサンにしか作れないウイスキーづくりを
応援したい。
だから、私マッサンと生きていきます。

うちはな、あんたのお母さんとは
違う。
と、涙をふきながら早苗は
それでも、いじわるをいった。

それまでじっと見ていた政春は
その部屋に駆けつけ
エリーは、最高の嫁さんじゃ。
世界一の嫁さんじゃといった。
早苗はぽかんと政春の頭をたたいた。

バカたれ。
男のくせにのろけよって。
はよう、大阪いね!
早苗はそういって向うの部屋に行った。
なんじゃぁ~と
政春は頭に手をやった。
エリーは、あハハハハと笑った。
そして大丈夫と聞いて
キスをした。
ありがとう。
とエリーが言う。

二人は実家を後にして大阪へ
むかった。
それを俊夫が追いかけた。

ぼっちゃん~~!!!
まにおうた。
ほら、これは・・・
一緒に造った
広島の米で作った
しぼりたての新酒じゃ

といって、お酒の入った
一升瓶を差し出した。

旦那様が持って行けって。

ほうか、ありがとう。
と政春が手を出したら
俊夫はくるっとエリーの
ほうをむいて、酒を差し出した。

わしが、初めて杜氏をまかされて
造った酒です。
ぜひ、エリーさんに飲んでもらいたい
でがんす。

はい、いただきます。
わしも、いただくけん

おぼっちゃまには飲んでもらわなくて
結構です。
ウイスキーなど作る人に酒の良しあしなど
わからんでしょ。
そっけなく俊夫が言う。

なんじゃとう!
政春が怒ったが
俊夫は、エリーに
エリーさん、御達者でといった。

エリーはわらいながら一升瓶を政春に
わたした。
そして、俊夫さんもといって
俊夫に抱き着いた。
俊夫は驚いた顔をした。
おい、エリー、ハグはいいからと
政春はエリーを俊夫から離した。
それじゃ・・・といって
俊夫はおとずさりをしながら
そして振り向いて走って
店に入って行った。

エリーは政春の腕にだきついて
笑った。
わたし、俊夫さん大好き!
あの嫌味メガネのどこが好きになったんじゃ?

お母さんの言う通り私は日本人には
なれない。でもわたしは日本人の心をもった
スコットランド人になりたい。

エリー、ずっとわしの嫁さんでいてくれ

どうしようかな?

笑いながらエリーは言う。
マッサン、やっとボートに乗れたね。

それはあの歌の意味だった。
「The Water Is Wide(O Waly, Waly)」。
邦題は「悲しみの水辺」。

The water is wide, I cannot cross o'er,
But Neither have I the wings to fly.
Give me a boat, that can carry two,
And both shall row, my love and I.
エリーは歩きながら小さい声で歌った。
この水辺は広すぎて私には渡れません。
空を飛ぶ翼もありません。
堂か二人が乗れる小舟を下さい
二人で漕いで行きます。
私の愛する人とわたしで・・。

エリーは政春の肩にあたまをのせ
しあわせそうだった。
夢の大海原へ小舟を漕ぎ出したマッサンと
エリー。しかしまだまだ
嵐ふく日々が待ち受けているようです。
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いいお嫁さんですよね。
外国人でも
日本人の心をもっているエリーに
早苗も認めざるを得ないのでは
ないでしょうか。
耐えたなぁ~~~エリーは。

と思います。

本当にいままで苦労ばかりで
大変だったです。
政春はウイスキーづくり以外は
何にもできない男だと
わかりましたし・・・。
エリーはバイトと内職で
食いつないできました。
その苦労がどうか
結実されますように。