虎穴にいらずんば虎児を得ず1
広島から大阪への帰り道
エリーは政春に言った。
もう一度鴨居の大将にやとって
もらえるよう頼みに行こうと。

政春はうなずき、それしかないといった。
エリーはよろこび
帰ったらすぐに行こうといった。
一人で大丈夫かとも聞いた。
「わしゃ、こどもじゃないけん」と
政春は言う。
「マッサン、時々子供になる・・」
笑いながらエリーは走った。
「大将、待ってて~~~」
岡の上からエリーは叫んだ。
「マッサン、鴨居商店に行きまっせ。」

「何が何でもウイスキー造るぞ~~」
とマッサン。
「はい!日本で初めてのおとこに
なるんじゃ~~!!」
エリーの日本語に、広島弁が入った。
政春が目指すのはすべて大麦から作る
日本初のピュアモルトウイスキー。

大阪に着いた
政春は鴨居商店へ向かった。
ところが
すごい騒ぎだった。
にぎやかな商店の前だった。
しばらく鴨居商店へ顔を出さなかった
間に、大きな変化があった。
あの、ワインのポスターが
ドイツの世界ぷスター品評会で
一等賞になったという。
鴨居商店はそのお祝いに
焦点の前でもち投げをする。

白井がいる、規子がいる、黒沢が
いる。
それを見ていると鴨居がやってきて
政春に声をかけた。
「おお、何しとんじゃ、見てみい。
うちのポスターがドイツの品評会で
一等賞になったんや。」
自慢げに言う鴨居に政春は
「すごいですのう」といった。
鴨居は「相変わらず辛気くさい」と
いった。
政春は餅を拾いに来たわけで
はない。
鴨居に話があるといった。
「なんや?」
「実は・・」
すると鴨居は白井に連れて
いかれた。
餅まきの挨拶である。
「あとでな。」といった。


「高いところから失礼します。
鴨居です~~~!!!」

「わぁ~~」と歓声が上がる。
「みんな笑って暮らしていますかぁ?」

「わぁ~~」と歓声が上がる。

「そこのおかあさん、旦那は毎晩飲んで
くれてますか?」

「太陽ワインがうますぎるからな!」と
観衆から声が上がる。
のりに乗る鴨居だった。
「わては人が笑う顔が大好きです。
近い将来皆さんの度肝と抜く
新しい酒を提供します・・。」
「わぁ~~」と歓声が上がる。

それをいぶかしげに政春はみていた。

社長室で政春は紅茶を飲んでいた。
かなり緊張している。
何度も頬を叩く。
そこへ鴨居が入ってきた。

「最高のタイミングやった。」
「わしがですか?」と政春は誤解した。
ポスターが品評会で一等を
とったことだ。「新しい事業を
しようとしたときのまさかの
天命や、」と鴨居が言った。

「なんやねん、ふん詰まりのイノシシみたいな
顔をして。いつも辛気くさい顔をして
いたら運も逃げてしまうで。」

政春は、「ふん詰まりって・・」と
腐った。
「大将が陽気すぎるんじゃないですか?」
政春が切り返した。

鴨居は自分は苦労をしているという。
ウヰスキーを作るために政春をと思った
が断られ、今スコットランドに手を広げて
国内の大学教授も巻き込んで
「わての右腕になる男を探してんねん」
といった。
スコットランドのプロと国内の開発
チームで作ろうと思うといった。

「ほんで、おまえの話は?」

政春は、ここに自分が入ってもいいのかと
言葉が出なかった。

「今何してんねん。
エリーちゃん元気か?」

「実は・・・」

「そや、ええもんのましたる。」

鴨居は立ち上がってある商品を
グラスについた。

泡が出る。

「これは」?と聞く。

「今度売り出す、ウイッキーや。」

つまり、ウイスキーを炭酸で割った
やつである。
この原材料のウヰスキーは輸入物
と思われる。

それを飲んだ政春は驚いた。
「何で薄める必要があるのですか。」
「飲みやすいからや。
大衆はまだ、ウイスキーの味を知らない。
ここから入ってもらうと
ウヰスキーが飲みやすくなる」という。
「大発明やろ?」

政春は、「なにをいうてるのやら、
さっぱりわからない。
原酒はなんですか?どこのウヰスキーですか?」

「それは秘密や・・・。
身内でもないおまえに教えられるか。
いよいよ、はじまるで~~~。」

政春は、がっかりした。

そこへ英語会話の先生が来たと
黒沢が言う。

「これからは世界を相手に商いを
するからな」と大将。

政春は、「失礼します」と帰った。

政春はどうしてもピュアモルトの
ウヰスキーが作りたい。

「マッサン、おかえり~~~」とエリーが
いった。
「どうだった?」
政春は、「あそこへ入ってもウイスキーは
つくれない」といった。
エリーは、決裂したと思った。
「何がウイッキーじゃ~~」と
怒っていた。

「あの人は何もわかっていない。
ウヰスキーに炭酸を混ぜる必要などない」
といった。

「大将はなんでもやってみる人だ」と
エリーは言う。

「あのひとは、本気でウイスキーを作ろうと
思っていない、と感じた」と政春。

鴨居は別の技術者を探している。
エリーはマッサンには技術がある、
大将はお金あるけど技術がある。

「ふたりで一緒にやればいい。
きっと
うまくいく。」

政春は「鴨居にはいかない」といった。
「じゃ、どこへいく?」
「ほかをあたる」という。

「考えただけでも腹が立つ」と
政春が言うが、エリーも
かなり頭に来ていると思う。
鴨居ではなく、政春へである。

あの、三人の奥様達が
やってきて、エリーと話をしている。

この件である。

政春がけんか別れをしたことを
話した。
「またなの」と聞かれた。
自分の前で鴨居の話はするなと
言われたとエリーは言う。
梅子は「男はいつもそうだ」という。
「日本の男はすぐに面倒くさい
ことを
いうからな~~。」とキャサリン。

「筋が通るとか通らないとか・・。
顔が立つとか立たんとか。
顔なんかたっても座っても
辛気くさい男は辛気くさいねん。」

政春に聞こえるように言う。

「こうなったらウイスキーのことは忘れて
なんでもいいから仕事を探させいた
ほうがいい。」
「がつんというたれ、がつんと」・・・・梅子

エリーは政春にはウイスキーしかないといった。

桃子はエリーは優しすぎるわという。
「男にとって都合のええ女になったら
あかん」とキャサリン。
「甘やかしたらつけあがるばっかりや。」
「だけど
ウヰスキーはマッサンの夢だから・・・」

「夢食べておなか一杯になりません。」と桃子。
「昨夜夢の中でお寿司一杯食べていて
これ以上食べられへんと思ったら
目が覚めて
おなかすいていたわ~~」と梅子。

「あんたいっつも腹ペコやん。」とキャサリン。

「あ、ばれた?」

政春はその間そっと玄関に回って
「行ってくるけん」といって
戸を開けた。

「今日も皿洗いですか~~~?
ご苦労様です~~~」

とキャサリン。

エリーは、それはひどいといって
政春に、「行ってお帰り」といった。

政春は苦々しい顔をして
でていった。

「あまい顔をしたらあかん。がつんや。」
と三人は立ち上がってエリーに言った。

エリーは「マッサンは私の旦那様でしょ」
といった。

「そら、そうやな」
「そうやわ・・・」

三人はエリーの勢いに言葉が詰まった。

政春はこひのぼりに入った。

すると秋がはるさんに抗議している。
あのワインを置きたいというのだ。

春さんは日本人なら酒を飲んでたらええと
いう。

政春は日本は開国以来西洋化が進んでいる。
酒や食べ物はもちろん文学も
芸術も・・・。

秋は喜んだ。

「だが、太陽ワインはおかんでええ!!」

「なんで?」
「あの会社が気に入らん。
あの大将が気に入らんのじゃ!!!」

男はこうなったら、どうにもならない。

そのころ、鴨居商店では
黒沢がウイスキーを作る
チーム編成のための人選を頼んだ
ミスターアンドリュースが突然やってくると
鴨居に言った。
鴨居は早速その件なら承知した
からほかの約束は
キャンセルしてくれといった。
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日本の男は面倒くさい。
キャサリンが言うのは自分の
経験か?
筋が通るだの通らないだの
顔が立つだの、立たないだの・・
そんなどうでもいいことを
ぐちゃぐちゃというのが
日本の男で一番肝心なことは
避けて通るのである。

まさしくマッサンがそうだ。

鴨居の大将に頭を下げて
頼むといいながらも、いろんな
邪魔が入ってその決意も崩れた。
もともと決意が弱かったのかもしれない。
鴨居に行かないと別の酒造で
ウヰスキーを作るなど
誰も考えていないのに・・
しかも、それだけの投資をする
会社となると
数も知れている。
大阪にはないかもしれない。
どんなに相手が軽くてばかばかしい
男であっても、政春は最初に決めた
鴨居の大将に頭を下げてたのむことを
実行しなくてはいけない。
自分のプライドでその決意を
反故にして、それを自分の弱さだと
認めないところが、イラつく。
エリーの苦労が続く。