絵に描いた餅6

亀山家のある日
政春は両親を前に
これからの話をした。

「わしとエリー・・この家に帰って
来ようと思う」といった。

早苗はにこっと笑って政志をみた。
政志は驚いた顔をした。

両親がこの家を継いでくれと
いうのだからそうしたい。
千加子もそれを進めてくれた。

「エリーのためにもいつか生まれてくる
コドモのためにも、そのほうがいいと
思う」という。

しかし、政志は男である。
「ウヰスキーをあきらめるのかと聞く。
命を懸けるといったのは誰だ?」
と怒った。
「エリーさんだってお前の夢のために
日本についてきてくれたんじゃろ?

コドモにかこつけて弱音を吐くな。」
大声で怒鳴られた。

政春は早苗だったらわかってくれる
と思って母のほうを向いて意見を聞いた。

早苗は政春の手を取ってよう改心した
という。
「だが、帰ってくるならお前一人だ」と
いった。
エリーは嫁ではないという。
「それができないなら大阪にいね」という。
「話はそれだけじゃ」と言って
さっていった。

政志は政春に蔵を手伝えと言った
のは、汗をかいてほしかったからだ
という。
「頭で考えてうまくいかない場合は
汗をかいてみる。
すると道が見えてくる。
まだ見えないなら、もう少し
汗をかいてみい」という。

縁側廊下をふき掃除をするエリーに
早苗は言った。

「あんた、コドモは好きか?」

エリーは、「ハイ」と答えた。

早苗は「そうか」といって去って行った。

蔵の仕事がはじまった。

「わしにもやらせてつかあさい」というと
俊夫は「気まぐれは困ります」という。

政春は、もう一度「お願いします」といった。
俊夫は政春に本仕込みの作業を任せた。

政春は遅くまで蔵にいた。
蔵の酒が発酵をしている。
ここで相撲を取った日
親父に一番最初にうまいウイスキーを
飲んでもらうといった。
エリーが声をかけた。
ままならぬ毎日にこれから先の不安を感じた。
「汗をかけばかくほどウイスキーづくりで
汗をかきたいと思うようになった」と・・・

エリーに言った。
「こんな中途半端では親父にはなれない。
エリーとわしらのコドモに合わせる顔が
ない」という。

エリーは何も知らない日本にきたこと。
日本人にどうみられるかなんて
考えてもみなかったこと
こんなに外国人が少ないことも
知らなかったという。
だからじろじろ見られたこと。
仕事もない・・・。
悔しい思いをたくさんした。

だけど・・

マッサンがいた。
いつもマッサンがいてくれた。
だから私たちのコドモも同じ。
いつも私たちがついている。
一番大事なものはラブ。
私たちが愛し合っていれば
子供のことも愛していれば
きっと

何があっても大丈夫。
マッサン、安心して。
ウヰスキーをつくって・・。

政春はエリーを抱きしめて
ありがとうといった。

二人は再び、国産ウイスキーづくりへ
頑張ろうと決意した。

翌日母に話をした。
「なにが、がんばるんじゃ?
大阪で何をがんばるんじゃ?
ウヰスキーも作れんのに
なにをがんばるんじゃ?
こがな息子に育てた思いは
ないが・・・

西洋留学がわるかったのか・・・。」

早苗はエリーに言った。
「あんたのお母さんに合わせる顔がない。
な?はよう、このバカたれと別れて
国に帰りなさい。」

そしてたちあがって戸棚から
袱紗を出した。
それをエリーの前に置いた。

「これは、あんたがうちで女中さんと
して働いてきた給金じゃ。
うちは女中さんをタダ働き
させる家ではない。
これをつかって早く国に帰りなさい。」

「おかあさん。」

「うちはあんたのおかあさんじゃないけん。
はよ、でていけ。」

「おかあちゃん・・・。」と政春。

エリーは、「ハイ」と返事した。
「そして、また来ます。
おかあさん・・・」といった。
また早苗は「うちはあんたのお母さん
じゃないけん・・。」という。
そして部屋から出て行った。

エリーは嬉しくて涙が出た。

亀山家の朝餉。
早苗は味噌汁をお替りした。
千加子は「どう?」と聞く。
「いつもと同じじゃ」と早苗は
いう。
「エリーさんが作っていたんよ」
と千加子が言うと
すみれが驚いた。
早苗はおわんをおいて
「道理でうまくないと思った」といった。
政志はわらった。
千加子も笑った。

エリーと政春は手を取り合って
大阪への道を
杜氏の歌を歌いながら
歩いていた。
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挫折はつきものです。
しかし、仕事の無い息子に
情けない思いをする早苗の気持ち
もわかります。
それでエリーに苦労を掛けていることも
早苗はわかっていることでしょう。
あのお給金・・・
すごいお金なんだと思います。
エリーを決して難いわけではない
のですね。
早苗さんの頑固な優しさが
垣間見えた今週でした。