絵に描いた餅5
千加子に男の子が生まれた。
その喜びに沸く亀山家だった。
エリーは赤ちゃんをだっこさせてほしいと
千加子に言った。
早苗は赤ん坊を抱き上げてエリーに
渡した。
赤ん坊を抱くエリー。
早苗は疲れたからと席を立った。
エリーをみる政春はあることに
不安を感じた。
それを千加子は見逃さなかった」。

「おはようございます。」

亀山家の前をはき掃除をする
エリーは道行く人に挨拶をする。

でも、異人さんなのでみんなそそくさと
去っていく。

それでもエリーは負けない。
台所へ行くと
俊夫が入ってきた。
そしてエリーが蔵人たちのもとすり歌
で、お産中の千加子を励ましたことを
尋ねた。エリーはあの歌大好きだと
いった。
俊夫は喜んだ。
そして「この水を飲んでみてください」と
いった。
エリーは「おいしい」という。
俊夫は驚いて「この水のうまさが
わかるのですか」と聞く。
「もう一杯いいですか」と
エリーは言う。
そして俊夫は「こんなうまい水でも
酒造りには柔らかすぎて
難しかった。政志がそれを
何とかしようと広島の水でも
いい酒が作れることを
証明した」という。
「この蔵の酒にはそんな信念が
込められて
いる。自分もそんな信念のある杜氏
になりたい」といった。

エリーは、「すてきだ」といった。

千加子は部屋から顔を出して
政春を呼んだ。

この家に帰って来いという話だった。

子育ては骨が折れるし
いろんな人に支えてもらわないと
いけない。

エリーは廊下でそっとその話
を聞いていた。


まして、あんたとエリーさん
の子は・・・。

日本人ではないのだった。

この家に政春たちがいたら
千加子も近くにいるし
すみれも、島じいもいる。
みんなで助けてあげることができる
と千加子は言う。
早苗も、子供ができたら大事にして
くれる。
結婚は認めないといっても
大阪の社長さんにコメを送ったり
うその電報をうって呼び戻したり
している。
エリーさんのためにも、コドモのため
にも絶対、そのほうがいいと
千加子が言う。
「エリーさんはいい人だし
あんないい嫁さんはほかにはおらんて。
エリーさんには幸せになってもらいたい。
だからこの家に帰って来い」と
いう。

政春は「ちょっと考える」といって
外に出た。
階段に、エリーが座って
いたのに気が付いた。

二人は政春の部屋で話
あった。
「姉ちゃんの子供を抱いたエリーは
しあわせそうじゃった。
はよ、子供が欲しいと心底
思った。
結婚した時からずっと考えて
いた。
野球チームが作れるくらい大家族
にしたかった。
でも
姉ちゃんの言うことももっともじゃ。」

政春はエリーの手を握った。
「自分たちは二人で生き方を決めた。
だが、生まれてくる子供はそんな
ことは関係なく、何も知れないで
生まれてくる。
髪の毛の色や、肌の色が違うという
だけでいじめられる・・。
差別もされる・・・・

スコットランドに留学をしたとき
野蛮な東洋人だとかげ口をたたかれた
し、何べんも悔しい思いをした。

エリーもそうだろ?
わし、以上にわかるだろ?」

「わかるよ・・・

わかるよ・・・」

エリーは泣きながら政春に
抱き着いた。

「マッサン、私ずっとここで
暮らしてもいいよ・・。

マッサンが、それでいいなら
私はついていく。

じゃ、まだ女中の仕事のこって
いるから・・」

エリーは政春のおでこにキスをして
部屋を出た。
★エリーは政春にウイスキーづくり
をあきらめてほしくありませんでした。
でも、将来生まれてくる子を思い
揺れ動くマッサンを前にして
返す言葉が見つかりませんでした。


政志の部屋
濁り酒を飲む政志。
「わるないのう・・・。」

「で、しょ?
備前の米より広島の米でも
しっかりした酒が作れると
思います」と俊夫は言う。

「で、政春はどうしている?」と
政志は聞いた。
「あらあきません。
日本酒つくりをなめています。
全くやる気がありません。

おおかた、だんな様の腰が仮病じゃった
ということがわかってああいう、た」
「何じゃ?」
「とにかく、おぼっちゃまに蔵を継がせる
事はあきらめて
早く蔵に帰ってきてください」と
俊夫。
「誰が政春に継がすといった?」
「え???」
驚く俊夫だった。

その夜、政春は、うなされていた。
悩みが底なしなのだ。
俊夫に、絵に描いた餅だとウイスキーづくりを
否定された。

千加子に言われたこと。
あんたのためだけではないのよ。
エリーさんのためにも・・・
これから生まれてくる子供のためにも

エリーが言ったこと。
私ずっとここにいてもいいよ。

政春は横に寝ているエリーを見た。

エリーも、そっと目を開けて
考えていた。

その夜、マッサンもエリーも
ある決意を固めたのです・・・。
***************
この時代です。
混血の子は
いじめられます。
正しい評価をしてもらえません。

だから、亀山の家に帰ったら
みんなで守ってあげるからと
千加子が言います。

それはウイスキーづくりをやめると
いうことです。
こんなにも、厳しいのだから
そういえば、そうだと思いますが。
本当にエリーはそう思うのでしょうか。

早苗の様子が変わりましたね。
千加子と同じように思っているのかも
しれません・・・。