さわらぬ神に祟りなし2

「下のナツは由紀子さんをおかあさんと
呼んでいるけど上の幸子はまだ一度も
お母さんと呼んでないんやて。」

エリーたちの借家の大家は
野々村というお金持ちだった。
野々村家にいったとき、エリーはふと
違和感を感じた。
「この姉妹と母親って?」

「実の母親はなくなり長女の幸子は
母のことが忘れられないので
二回目のお母さんにはなついて
いなかった。」

そして由紀子と野々村はこのまま幸子が
母親を受け入れなかったら別れようって。
そのほうがお互いのためやからと
話しあったという。
それを聞いてエリーはなんとかし
なくてはと思った。

英語教室は亀山家でおこなった。
ことばの絵を描いた裏には
英語が書かれてあるカードを
畳の上において、一枚一枚
読みながら発音をしていった。
「飴は・・・」
「CANDY・・・」
「家族は」
「FAMILY」
「そうそう、エフの発音に気を付けてね。」
幸子は黙ってしまっていた。
「もう一度、
Family」
「・・・」
何回言っても幸子は黙ったままだった。
そこへ政春が帰ってきた。
「ただいま。
マカナイの残りをもらってきたぞ~~」
という。

「マッサン、ハウ アー ユー?」
とナツが言う。

政春は
「アイム ファイン サンキュー」と
いって「すごいのう、英語であいさつが
できるようになったんか。」と
驚いた。

「幸子もできるよね?」とエリー。

「幸子、ハウ アー ユー?」と
政春が聞くが
幸子は黙っていた。

「なんじゃ、さみしいのう。」

エリーは「ナツは合格、
マッサンと遊んでいて」という。
そして幸子と話をすることにした。
エリーは小さいころの家族の写真を
みせた。
「これが私、ディス イズ ミー
お父さん、ファーザー
エドワード。
お母さん、マザー
ローズマリー
妹、シスター。ヘレン。」

幸子は、「エリーもお姉ちゃん
だったの?」
幸子と一緒だという。
「そう、一緒よ。」

「どんなお母さんやった?」
「すごく優しくて、料理が上手で・・」

「幸子のお母さんも。」

エリーは自分は一番上だったから
なんでも、しっかりしなさいとか
我慢しなさいと言われていたことを
話した。

「幸子もいつもおかあさんにお姉さんやから
しっかりしなさい、我慢しなさいと言われて
いる。」

「お姉ちゃんは大変だよね。」

二人は共感した。
「でも幸子はナツのこと好きでしょ?」
「うん。」
「お父さんは好き?」
「すきやけど、嫌いな時もある。」
幸子は、由紀子のことをお母さんと
よばないとお父さんが怒るといった。

「幸子は由紀子さんのことは嫌い?」
「嫌いやない。」
「由紀子さんも幸子のこと大好きだって。
前みたいに仲良くなりたいって。」

「幸子のお母さんはお母さんだけやから。
由紀子さんのことはすきや。
でもお母さんと違う。」
幸子は、「お母さんはどこかで見ていて
幸子が由紀子さんのことをお母さんと呼んだら
お母さん悲しむやろ?」
と語った。
子供なりの愛情である。

エリーは幸子に「大丈夫だ」といった。
「お母さんに会いたい?」と聞くと
うなづいた。
「エリーのお父さんも病気で死んだよ。
毎日たくさん泣いた。
お姉さんだからしっかりしなさいって。」
幸子も同じくそういわれたという。
「でも、幸子、
いつもしっかりしてなくていい。
悲しいときは泣いていい
怒りたいときは怒っていい
同じ人間だから。」
「ほんま?」
「ほんま。
今度悲しくなって泣きたくなったら
エリーに言って。」
「うん、エリーも幸子に何でも言って。」

「ありがとう・・・。」

そこへ由紀子が迎えに来てくれた。
ナツは楽しかったことを話した。
エリーは幸子も頑張っていることを
由紀子に言った。

「よかった」、と由紀子は言う。

「じゃ、幸子ちゃん、帰りましょう。」
幸子とナツは先に門の外へ出て
由紀子が挨拶をしてでてきた。
そして三人、そろって帰って行った。

「気を付けて」
「バイバイ」

と政春は手を振った。

「幸子、バイバイ」とエリーが言うと

幸子は振り向いて手を振った。

「はよ、仲良くなればいいな」と
政春は言う。
「お姉ちゃんというものはそんなに大変
なものなのか」と聞いた。

話を聞いていたらしい。
「うちのお姉ちゃんもそうなのかな」と
政春は言う。千加子のことである。

千加子に、もうすぐベビーが生まれると
いってエリーは笑った。

政春はエリーにお父さんに会いたいかと
聞いた。
エリーは私にはマッサンがいると
いった。
それとはまだ別だろうと政春は言うが。
照れて家の中へ入って行った政春。
そのときエリーは空から
お父さんの声を聴いた気がした。

「エリー・・・」

「エリー・・・??」

エリーは子供のころ、医者だった
お父さんと一緒に往診に行くことあ
あった。
お母さんにおこられて泣いていた時
お父さんは、お母さんは妹が小さいから
エリーを頼っているといった。
しっかりしなさい、がまんしなさいと
言われてエリーは泣いていたのだった。
お父さんはそんな時はエリーの味方だった。
ビスケットかってあげるよと
約束もしてくれた。
ただし、ママとヘレンには内緒だよと。
エリーは嬉しかった。

パパが病気になったとき
ベッドの横にいるエリーに言った。
「エリーいろいろありがとう。
感謝している。」

「なにいってるの?早く元気になって。」
「パパが病気になってからよく看病して
くれた・・。
でもその必要もなくなる。
パパが天国へ行ったら
どこへでも好きなところへいって
やりたいことをやりなさい。
失敗してもいい
間違ったらやり直せばいい
おまえの人生はお前のものだ。
いいかいエリー。

人生は

冒険旅行だ・・・

Life should be an adventure.

悔いなく生きるんだよ。」

エリーは、その思い出にひたっていると
隣のベッドで政春が
「ウヰスキー。ウイスキー」と
寝言を言っていた。

「マッサン、ウイスキー早く作ろうね。」

エリーはパパの写真を見た。
そして笑ってつぶやいた。
「わたし、冒険しているよ・・」

それから二週間。
教会の歌のお稽古の時だった。
もう、幸子は大きな口を開けて
歌えるようになっていた。
すっかりエリーになついた幸子だった。

赤い鳥小鳥なぜなぜ
赤い
赤い実を食べた・・・

キャサリンが「少し休もうか?
金平糖やで~~」と
おやつをもってきた。
子供たちはわぁ~~っと
キャサリンの所へ行った。

「おおきに、」
「ちゃんと座って食べるんやで」

「おおきにぃ~~」

キャサリンは幸子が明るくなったと
エリーに言った。
「わたしたちは、friends
になったのです」
とエリーは言う。

「ごめんやす。

こちらにいてはると伺いまして。」

やってきたのは
鴨居商店の社長の側近。
黒沢だった。
****************
よくある話で、二度目のお母さんを
お母さんと呼べないという話。
それで子供も
おとなも悩むのですよね。
幸子の言うことは正しいです。
二度目のお母さんが来たからと言って
すぐにお母さんというたら
死んだお母さんが悲しむ・・・
確かにそう感じます。
でも、じょじょに気持ちがほぐれて
いくと、目の前の人もお母さんだけど
なくなったあのひともおかあさんだと
割り切ることができるのですね。

幸子の
心のさみしさを埋めることができたエリー。
喜びもひとしおですが
今度はなにがはじまるのでしょうか。
黒沢がやってきました。