情けは人のためならず2

梅子が箱いっぱいの橙をおすそわけと
いってもってきた。
キャサリン、桃子、梅子と亀山家にそろ
っていた。

エリーは初めて見る橙のにおいをかいだ。
いつぞやの渋柿のように渋いことは
ないだろうと聞く。
でもこれはたべるにはちょっと酸っぱいと
キャサリンが言う。
「お正月のお飾りや」
エリーは「これでマーマレードを作ったら
食べられる」といった。
キャサリンは「ジャムね。」といって喜んで
作ろうといった。
かくして、甘いいい香りが亀山家に
ただよっていた。

で、くだんの政春はというと、ベッドの上で
ウヰスキーの資料を読んでいた。
それを読んでいると就活をわすれて
しまう。

台所では奥さん方がマーマレードができる
のを見ていた。

エリーは「スコットランドでは一月に
一年分のマーマレードを作る」という。
「それは奥さんの仕事なの」といった。
三人の奥さん方は「うん、うん」と
うなずいた。

キャサリンは、ベッドルームのほうを見て
いった。

「辛気くさい旦那はまだ寝てんの?
あまやかしたらあかんやんか・・・。」

それは、つつぬけだった。
家賃の締め切りまであと二日。
いまだに、就職はない。

「マッサンも苦しんでいます。
ウヰスキーを作れなくて・・」

エリーの言葉に政春は我に返ったのか
立ち上がって、出かける用意をした。

エリーはキャサリンに自分でもできる仕事は
無いかなと聞く。

キャサリンは、「エリーにこんなに気を遣わせて
ホンマに甘ったれのボンボンや」と
政春のことを言った。

「どうにかなると思ってるのかいな」と
話が政春への攻撃となった。

「ガツンと言うたらあかん。ガツンと!」
(梅子)
そこへ政春がそっとふすまを開けて
入ってきた。

桃子は「おはようございます」といった。

政春は、縁側から玄関に走って行き靴を
はいた。
「ええ身分やなぁ、職なしのくせに
朝寝坊して・・・」とキャサリンは嫌味を
いう。
「マッサンどこへ行くの?」とエリーが聞くと
「職探しに気待っとるやんか」と政春。
キャサリンは「その寝起きの頭で?」と
髪の毛がつんつんと立っている
頭を見て言った。

政春はあわてて帽子をかぶった。

みんな笑った。
「マッサン朝ごはんは?」とエリーが聞くと
「くえるか、こんな状況で」と
奥さん方を指差して言ってでていった。

キャサリンは、「えらそうに・・・。
働かざる者食うべからずや!!」
といった。

とにかく、エリーは自分も何か仕事を
という。
桃子は「うちの内職やってみる?」と聞く。

政春は、いくあてもない。
しかし、家にいてられない。
こひのぼりに入った。

春さんに、酒というと
「今までの付けを払ってからじゃ」という。
「そんなこと言わんと一杯だけ。
県人会の好でしょうが。」
春さんは「ふん」と言って奥へ行った。
政春が椅子に座るとそのうしろにいた
男が、「人が働いているときに飲む酒は
なんともいえませんな」
と政春に嫌味を言った。

「おい、ケンカ売っとります?」
と聞くと
「おお、やるか?」
と男は乗った。
政春は立ち上がった。
その身長の高さに男は驚き
「おお、でかいなぁ」といった。
つまりは、将棋の戦いとなり
どうみても政春がつよい。
男が唸っている間に、男の
お銚子をとってぐびぐびと
飲む政春。
春さんはそれを取り上げた。
そこへキャサリンが来た。
形勢は政春の勝ちだが飛車がない。
おかしいなというと
キャサリンが手に持っていた。
どこかで落としたのを拾ったのだ
ろう。
「こら、職なし!!」とキャサリンが言った。
「ああ、」と政春は驚いた。
「まるで信じられない汚い食堂で
べっぴんの踊り子に出会ったような
顔をして(どんな顔や?)」
「どこにべっぴんがおるんや」と政春がいった。
そして、将棋に向かった。
キャサリンはいきなり将棋盤を
ぐちゃぐちゃにした。

そんな頃、亀山家ではエリーは桃子から
下駄の鼻緒を挿げ替える内職を
教えてもらってやっていました。
家賃は私が払うと決めて。

こひのぼりでは政春が
キャサリンに「ホンマに働く気が
あるんやな」と念を押されていた。

「ホンマに働く気があります」という。
すると
「あ、角の八百屋さんはどうかな?」と店の
客がいう。
「旦那が足の骨を折って人手が足らない」
という。
政春は、「野菜の中にいる芋虫が嫌いだ」
といって却下した。
秋さんは「二丁目の魚屋さんは?」
政春は
「あそこのおやじはいつも早口で何を言うて
いるのかわからない」といって却下した。
別の客が「駅の荷卸しはどうや?
荷物を下ろすだけ。だれにでもできる」
という。
政春は「いや~~駅は遠いしのう」と却下。

「とことん働く気なし!」とキャサリンは言う。

「いや、ありますって」と政春はそれでも
主張する。

「このままずるずる仕事を始めたら
ウヰスキーのことはあきらめなあかん
ようになると…そない、おもてんのやろ?」
とキャサリンは怒った。

「自分の都合ばっかりや、エリーを
泣かせたらあかんて。」

「いわれんでもわかっとります。」

「わかってない。」

「ほっといてつかあさい、もう!!!!」

政春はあらぬ方向へ怒りをぶつけたが
ある客がウイスキーの仕事やったら
あるで、といった。

それは、酒店で商品を運ぶ仕事
だった。
住吉酒造で運んでいたから慣れているものの
酒店に貼っているあの、みどりちゃんが
上半身裸で赤いワインをもっている
ポスターをみて、政春はため息が出た。
「一緒にウイスキーを造ろ?」と鴨居が
いった。
それを思い出した途端、力が抜けた。
自己嫌悪である。
よろよろと大八車に乗せたワインの
箱に腕を載せてしゃがみこんだ。
すると客が、政春に「これなんぼや?」と
ウヰスキーをみせた。

「ああ、90銭です。」

「ほな、もらおか?」

政春は、そのウヰスキーを見て
いった。
「いやぁ~お客さん、やめといたほうがいい
ですよ。
これはウイスキーと違う。ウイスキーに
似せて作ったまがい物ですけん。」

政春は自分は本場のスコットランドで
ウイスキーづくりの修業をしたことを
話した。
それでこれは全くの偽物と言い切った。
「わしはこんな酒は売れん。悪いことは言わん。
これはもうやめてつかあさい。」

すると主人がでてきて、「こいつは見習いなもので
全くわかってない」と客に言って
「おまえは首だ」といった。

「おお、おお、おお。
結構じゃ、こがな店
こっちから止めたるわい!!!」
といって政春は
本当に店をやめた。

桃子と内職にいそしむエリー。
やっとコツをつかんだらしく
できたぁ~~と
喜ぶエリー。

「わしはどこで間違ったんだろう?」
政春は家の近所に来て
ふと、考えた。
親父と相撲を取った日。
政志は「日本で初めての男に
なるんじゃろ?
世界一うまいウイスキーを作って新しい
時代を作ってみい」といった。

政春はため息が出た。
今のままではとてもウヰスキーには
届かない。

その時足元に転がってきた
ボールを政春は拾った。

近所の子供の健太である。

ボールを渡すと
健太は
「マッサン、相変わらず職なしか?
働かざる者、食うべからずとお母ちゃんが
いうてたで!!」
といって、呆然とする政春をおいて
去って行った。(子供にまで馬鹿にされる
ようになったと自覚したのでは?)

家に帰るとエリーが内職をしていた。
政春はなにをしているのかと怒った。
こんな仕事をしても家賃は払えないと
いった。
桃子は「マッサン、まだ仕事見つからない
のでしょ?」といった。
イライラしていた政春は、「大きなお世話じゃ」
と怒鳴った。
桃子は、「ほなさいなら」といって帰って行った。
エリーは桃子に「ごめんなさいね」といった。
政春は「どうして謝るんじゃ?」と聞く。
エリーは反対に「じゃ、どうするの?」と
聞く。

政春はベッドルームのふすまをしめて「いいと
言うまであけてはいけない」といった。

政春は便箋を取りだした。
書くあいてはこともあろうに両親だった。

そのころ、実家では茄子のお味噌汁を
おいしそうに早苗が食べていた。
「秋ナスは嫁に食わすなというけど
島じい、千加子の所へ届けて
やんなさい。おなかの子供の分まで
ようけ食べというて・・」といった。

するとすみれが、
「なすは体を冷やすからお嫁さんには食べさせたら
いけないというのでは?」と聞く。

「秋ナスはうまいけん、難い嫁にはくわすな
という意味では?」と早苗。

政志は、「いや、いや
秋ナスは種が少ないけん。
子宝に恵まれんようになると困るから
嫁にはくわすなというて聞いたけど」と
いう。
すると早苗が「じゃ、島じい
千加子のところはやめじゃ」といった。

「ゲン担ぎじゃろ」とすみれ。
「それにおねえちゃんは子宝に恵まれているし
あとは元気な子供を産むだけじゃ。
そういや、お兄ちゃんもナスの味噌汁が
好きだったなぁ。
エリーさんと仲良くやっとるんじゃろか?」
というので早苗は、機嫌が悪くなった。

「あの人らのことは心配しなくていい。
うちらとは関係ないけん。」

そんな話をされているとは知らず
政春は実家にお金の無心の手紙を書いて
いた。
エリーは心配して、というか
不思議に思って
ふすまを開けた。

政春は怒ったが、
「何一人でぶつぶつ言ってるの?
何か書いていた?」

「小説・・・」

「小説?」

「本を書いてみようと思ったんじゃ・・」

(言うに事欠いて、こいつは・・・。)
****************
とことんやる気はない。
ウイスキーづくりでなければ
マッサンは働く気はないと
思う。
しかし、食べられへんでしょ!!!
奥さん養えないでどうするの?
男の責任を果すべきだと私は思う。
職なしとは、これほどまでに
さげすまれるものである。
自分がどこに所属しているのか?
これがその人間の価値を決める。

大企業に勤めていれば
その人は素晴らしい人だと喝采される。
しかし、乞食だとさげすまれる。
あたりまえの社会である。
今、ニートの若者。
なにを恐れているのだろう?
何を格好つけているのだろう?
仕事をするということは、知らない世界を
知るということと、今までにない
知識や見聞を広げて、社会に奉仕する喜び
を、感じることだ。
そうなればやっと一人前の大人である。
どうも、大人になりきれない大人が
多いように思う。
マッサンも、働く気はないと思った。
そして、両親に無心の手紙など・・
こうなると早苗はおそらく、
援助する代わりに家に帰って家を
継げというだろう。
そしてエリーを祖国に帰せというだろう。
エリーをそこまで追い込む
ことをするのか????
政春!!
我慢して、働け!!!
今日の糧を手に入れるために。