内助の功5
さて、田中家に二人の紳士がやって
きた。
ひとりは大株主の守谷。もうひとり
は優子の婚約者の父親、藤岡正太郎
である。

株主でウイスキー事業の承認について
話し合った結果を話に来た。

座敷には、テーブルを挟んで守谷と
藤岡。こちら側は
田中と矢口・・・政春である。
田中は下座にいた
政春に守谷の前に
座るように言った。

その結果、下座は矢口となった。
これが田中のお気に入りの序列
である。

エリーがお茶を持ってきた。
政春は緊張した。
守谷が先日の会議の結果を報告
するといった。
「ウヰスキー事業は承認できん
これは株主の総意や」といった。

「どうしてですか!!!!」

政春は大声になった。

守谷はウイスキーづくりに夢を感じた
という。しかし、絶対反対するという
人がいた・・・
その人が賛成した株主を説得した。

政春は「絶対反対の人とは?」と聞いた。
お茶を飲んでいた藤岡が
「わたしです」といった。

「ウヰスキーの魅力や料理とのハーモニー
もよくわかりました。
でもそれと商いは別です。」

「商い??」田中はつぶやいた。

「仕込んでから5年も商品にならない
ものに投資するのは危険すぎます。」
守谷は付け加えた。
「将来有望な事業に投資するのは大事なこと
なのはわかる。」
藤岡が言った。
「けどいまは、葡萄酒の爆発以来の
経営難を解消することです。」

政春は「だけどですね!!!と」
いって納得しない。

守谷はそこで聞いていたエリーに
席を外すようにいった。

エリーは外に出てそっと廊下で
聞いていた。

核心はまた別にあった。

藤岡は「ウイスキー事業を認めるなら
優子との縁談はなかったことにして
ほしい」という。

藤岡が話し始めた。
「現実が見えていない男がいる
会社に息子を送り出すことはできません。」

守谷は「亀山君のことや」という。
「人間なぁ、夢だけでは生きて行かれへん
のや。亀山君、この会社のためにウイスキーの
夢、あきらめてくれんやろか?」

政春は「え?」といった。
いきなりの展開である。
田中は「亀山君だけではなく・・」と
援護しようとしたが、
守谷は「黙っといてくれ」と
いった。

「頼む・・・亀山君

ウイスキー、あきらめてくれ!」

守谷はそういって頭を下げた。

突然のことである。

エリーは目をつむった。

政春は大声で
「それはできません!」といった。

「ほうか・・・・ほな
しゃーない・・・

亀山君


この会社を・・・・辞めてくれ!!」

大作は「お父さん!」と守谷に
いったが

守谷は続けた。
「ウヰスキー事業には金輪際手を出さん。
それに異論があるなら、亀山君に辞めて
もらう。」

藤岡が言った。
「その二つを飲んでいただけない場合
次郎と優子さんの縁談は破談。
無かったことにさせていただきます。」
といって頭を下げた。

守谷は
「優子のためだけではない。
この会社のためや。
大作君、わかってくれるな?」
といった瞬間

政春はテーブルを
バン!!

たたいて、立ち上がった。
守谷の茶碗がころげた。

どんどんと足音を立てながら
廊下を歩く政春。

エリーは追いかけた。

大作も追いかけた。

「俺が株主を説得するという。
ウイスキーづくりは俺らの夢やないか」
と大作が言うが

政春は外へ出ていた。

優子は驚いて様子を見ていた。

「おい!!」と大作が声をかけても
政春は答えない。
エリーは追いかけた。

「待って・・・」と政春に言う。
エリーは「大丈夫、ウイスキーは作れるよ」
という。

政春は声を荒げた。
「優子さんはどうなる?
わしがこの会社を辞めることが
結婚の条件なんじゃ。
優子さんだけではない。
社長にも迷惑をかけることになる。」

「マッサン・・・」

政春はエリーの手を振りほどいて
「もう、ひとりにしてくれ」といった。

取り残されたエリー。
涙が出た。

田中家では、佳代が「こうなったら
亀山君に辞めてもらうしかない」
といった。

優子はだまっていた。
大作はじっと優子を見た。


家に帰ったエリー。
だれもいない。

縁側に座った。

優子が来た。

「エリーさん?」


政春はこひのぼりにいた。

「よ、おまえひとりか?エリーさんは?」
と春さんが言った。
「酒!!」

「昼間から飲むんか?さては夫婦喧嘩
やなぁ?
異人のおなごは理屈っぽい
というからのう。」
「酒じゃ!!!
ちいとだまっとってつかあさい。」
「へい!!」

優子はエリーに言った。

「娘は親の商売の道具やいうことが
骨身にしみて分かったわ。
うちは何も決めることができへんし。」

優子の話が分からない。
「どうして?一緒に白いシャツを
つくりに言うと約束したでしょ?」というが
優子は「もうふたを開けんといて」ときっぱりという。
「政春さんに言うといて。
うちのことは気にしないでガンバって夢を
追いかけてって。
話はそれだけ。ほな。」
優子が帰りかけた。
エリーはあとをおったが
「さよなら」といって去って行った。

こひのぼりでは
政春が早いピッチで飲んでいる。
秋は「マッサンのみすぎと違うか」と
聞く。

政春は「どれだけ飲んでも酔わない」と
いう。酔いたいのに・・・。
そこはキャサリンがやってきた。
「夫婦喧嘩でご機嫌斜めじゃ」と
春が言った。
「けんかの原因は?エリーは家
におるん?」
と聞くと
「もういいからわしにかまわんといて」
と政春は言う。
「あんたのことよりエリーのことを心配
しているのよ」という。
春は、「仲直りさせてやるからエリーを
ここに連れて来い」と言った。

「感謝せなあかんで。あんたみたいに夢見る
しか能のない辛気くさい男と結婚してくれん
たんやからね。」

政春はテーブルをバンとたたいて
立ち上がった。

「夢を見て何が悪いんじゃ!!!」

キャサリンは、同じく
バンとテーブルをたたいて立ち上がって
「大きな声を出したら女は黙ると思ったら
大間違いやで!!!!
何があったかしらへんけど
酒に逃げてもしゃーないねん!!!
さっさと帰り!!!
エリーとちゃんと話をしぃ!!!
ゲット アウト ナウ!!!
今すぐや!!!!」

キャサリンの迫力勝ちである。

呆然としながら政春は家に帰った。
井戸で水を汲んでいるエリーとあった。

政春は水桶をもって家に入った。

椅子に座るとエリーが言った。
優子が来たこと。
会社を辞めたくないなら辞めなくていい
ということ。
それは優子の本当の気持ちでは
ないとエリーは言った。

「本当は次郎さんと結婚したい・・」

「わしが間違うとんかのう・・・・。
わしがウイスキーを作りたいというているから
みんなを振り回して
みんなに迷惑をかけて
・・
あきらめたほうがええんかのう。」

エリーは政春のそばに行って
畳に座って政春を見上げて言った。

「違う、違う・・マッサン間違ってない。
スコットランドで頑張った。
お父さんとも約束した。
じゃけど

大丈夫

大丈夫、人生は冒険。
わたし、夢を食べて生きていく。
夢を食べて。
マッサンの夢があれば
私は生きていける
どんなことも我慢できる

マッサン、日本で初めての
男になる。
世界一うまいウイスキー造る男になる。」
・・・・

エリーは
ゴンドラの歌を歌った。

命短し
恋せよ
乙女
朱き唇褪せぬまに

熱き血潮の冷えぬまに

明日の月日の無いものを・・

うつむく政春を励ますように
エリーは政春を抱きしめた。
ゴンドラの歌が続く・・
政春は、
顔を手で覆って
泣いた・・・・。
**************
最悪の事態です。
商い・・・これは厳しいです。
いくらいいものでも
売れなかったら
資金を回収できなかったら
あかんということです。
それも、いづれではなく
一年ぐらいの間に。

しかも、藤岡は切れ者らしく
いいものはいいとみたうえで
こんな現実から離れた男が
いる会社に息子をやりたくないと
いう。
政春を首にするのが結婚の条件
となった。
しかも、優子さんも藤岡の
息子と結婚したいと思っている
らしい。
政春がウイスキーづくりの夢を
見る間は、会社を辞めなければ
いけないのです。
やめて・・・
どこでウイスキーを作る???

だれが、ウイスキーづくりを
応援してくれる???

一人ではできないのです。

エリーは、私は夢を食べて
生きていくといいました。
つまり乞食になっても構わない
ということです。
そんな思いをさせてまで政春は
またまた悩みます。
自分の夢のせいで実家の父母を
困らせたこと。
また、自分の夢のせいでエリーを
彼女の家族から奪い悲しい思い
をさせたこと。
また、田中家では今回優子さんの
めでたい縁談にひびを入れるようなことを
したこと。
自分の夢のせいで誰一人幸せになった
人はいないことにさみしさ以上の悲しみを
感じたことでしょう。
でもエリーは人生は冒険だという。
エリーの優しさと強さは
これこそ、内助の功。
政春は
鴨居商店へいくしかないでしょうね!!
鴨居さんはどういうかな???