われ鍋にとじぶた6
政春は迷っていた。
鴨居から来てくれと言われたこと
田中社長から一緒にウイスキーを作ろう
と言われたこと・・
どうする?
どうする??
と、迷いながら仕事をした。
社長が、声をかけた。
「鴨居の大将に誘われとんやろ?」
「え?」
「今夜付き合え。」
その夜、社長と「こひのぼり」へいった。
政春は優しい男だからうそがつけない。
様子を見てわかったという。
特に鴨居は人材と思ったら
引き抜きをするというのは有名だ。
「もし、誘われたのが自分だったら
行く」といった。
「鴨居は魅力のある男だし経営もしっかり
しているから」と。
鴨居と自分は同じ社長で
どうしてこんなに違うのかと
田中は言う。
学校も自分のほうがいいところをでている
酒の知識もある。
しかし、向うは運転手つきの
ピカピカの車に乗って
いる。自分はさびた自転車だ。
この差はどこから生まれるのだろうと
いう。自分も早く世間ではやりの
商品を作りたい、それがわしの夢や。
それはウイスキーしかない。
しかし資金はない。社内でも反対する
やつもいる。
わしに遠慮せんでもええ。
おまえはお前の夢を追いかけろ。
それが田中の話だった。
家ではエリーがゴンドラの歌を
歌いながら政春の帰りを待って
いた。
♪いのちみじかし、恋せよ乙女
朱き唇 あせぬまに
熱き血潮の・・・
政春はその歌を聞いて難しい顔が
少しにこやかになった。
エリーは政春が帰ってきたので
「おかえりなさい」といって迎えに出た。
「社長とのんどった」と政春。
「難しい顔している、なにかあったの?
優子さんのこと?」
『うちは住吉酒造の一人娘
会社が大変な時にはうちは
うちの仕事をするだけです。』
「私の仕事ってなんだろう?」
「エリーはよく頑張っている」と政春。
「おなかすいたでしょ?」
すると政春はもう一回歌ってくれという。
エリーの歌を聞くと元気になると
政春は言った。
エリーは、またゴンドラの歌を
歌い始めた。(最初がちょっとメロディ
ラインが違うような)
♪熱き血潮の冷えぬまに
明日の月日の無いものを・・。
翌日政春は鴨居商店へ行った。
するとあの日とったポスターを見せて
くれた。
全体は白黒だけどワインだけが赤である。
それが象徴的だった。
政春は
「すごい、なまめかしいけど、はつらつとし
とって何より、この、赤が
赤が美しい・・・・。」
とワインを指差した。
「覚悟は決まったか?」
政春はしばらく沈黙したが
「自分はこれからも世話になった住吉酒造で
社長と一緒にウイスキーづくりを目指します。」
といった。
「そやろな、そうくるとおもとった。」
とあっさりと鴨居は言った。
「すみません」、と政春は謝った。
「謝ることはあらへん、無茶言うたんは
おれや。
それから新しい相談があるんやけど」
と鴨居が言う。
エリーにしばらくここで仕事を
手伝ってほしいという。
従業員ではなく・・・・しばらく
手伝ってほしいのだと鴨居が言う。
「と、申しますと?」と政春が聞いた。
その夜、夕餉をしあげたエリーは政春が
帰ってきたことに気が付いた。
「おかえりなさい~~」と出迎えるが
政春は、縁側から上がってどんどんと
寝室へ行って
上着を脱いだ。
かなり怒っている。
どうしたのかとエリーが聞くと
「鴨居商店へ行ってきた」と
いう。エリーは「もしかしてまた
新しいお仕事なの」と聞く。
「もう二度とあの男にはかかわらない。
エリーもかかわったらいけんぞ」
と政春は激怒しながら言う。
「どうして?」
あのエリーに手伝ってほしいというのは
モデルの話である。もう一枚
太陽ワインのポスターを作りたいという。
異人のモデルはめずらしい。
政春はぎょっとして
ポスターをじっと見た。
モデルは上半身裸である。
「新生太陽ワイン、狙うはご婦人方や。
日本のおなごは西洋人に憧れと
劣等感を持っているからその乙女心を刺激
したるんや。
どうやろ?一肌脱いでくれへんかな?」
政春は目を大きく見開いて
驚きながら上半身裸のポスターをみて
いた・・・。
「一肌脱いでくれ?」の言葉に
ぎょっとして
「脱ぐ???」と答えた。
鴨居は「何ぼやったら引き受けてくれる
かな?」という。
政春は頭を左右に振った。
「最低じゃのう!!!」
と怒った。
「何がや、どないしたんや?」
鴨居が聞いても政春はさっさと
部屋を出て帰ってきたのだった。
そして政春はエリーに話を
続けた。
「この間の撮影では、見ていた限りでは
エリーは裸にもされかねん・・。
人の嫁さんをなんやと思っているのか
あの男は信用できない。
迷っていたわしが馬鹿だった」という。
エリーは「迷っていた?」と聞き返す。
そして、鴨居商店へ引き抜かれた
ことを察した。
何故そんな大事なことを話してくれ
なかったのかと政春に聞く。
決まったら言うつもりだったし
変わる気はなかったという。
「それでなに?断ったの?」
「うん。
わしの仕事の話じゃ。」
「もっとしっかり考えるべきで
はないの?」とエリーは言う。
もう断ったと言われてエリーは
合点がいかない。
「エリーは鴨居商店に行ったほうが
いいというのか?」と政春が聞くと
エリーは頭を縦に振った。
「いまさら住吉酒造をやめるわけには
いかんじゃろが。」と政春は言う。
「社長には恩義がある。
会社へ入れてもらって
留学までさせてもらって
そのおかげでエリーと出会えて
それを後足ですなかけて出て行く
ようなまねは・・・。」
「砂をかける?」エリーはたとえがわからない。
「日本人は義理と人情を大切にするんじゃ。」
「義理、人情・・・
マッサン、難しい言葉つかわないで。」
「外国人のエリーには何ぼ話しても
わからんわ・・・」
この言葉にエリーは激怒した。
政春は「もう寝る。明日も早いんじゃ」と
いって寝室へ入ろうとすると
寝室を背にして立っていた
エリーは、立ちふさがった。
「なに?」と政春は聞く。
エリーは政春を突き飛ばした。
「今、外国人の私にはわからない
っていったわよね。
わかるよ、
義理、人情はわからないよ
でもボスや優子さんにお世話になったこと
それはわかるよ。
だけどそれでももっと考えたほうがいい。」
鴨居と仕事をしている政春が
大変楽しそうだったことを
エリーは話をした。
大将の話をする政春がうれしそうで
たのしそうだったという。
あんな政春を見たことがないという。
「そがなことは・・・」と政春が言うが
エリーは「わかるよ」という。
「だってマッサンの嫁さんでしょ。
マッサンと一緒に悩む、考える・・
それは私の仕事
マッサンは私が外国人だから
わからないという。You make me feel
so悲しい・・・
so,寂しい・・
マッサン、大将が私をバカにして
るといったけど
一番私のことバカにしているのは
マッサン・・」
エリーは立っている寝室のふすまを閉めた。
ふすまは天の岩戸となった。
エリーはつぶやいた。
「マッサン
マッサンのアホ
ドアホ・・・!」
*************
この時代にもスカウトの要素が
ビジネスにあったのかと
思った。
もともとお殿様には生涯尽くすという
のが日本人の精神なので、政春も
後足で砂をかけるといっていますが
一度、道を示してくれた恩人を裏切る
ような気がするのでしょう。
エリーは、政春が鴨居商店へ出向をして
いたとき 楽しそうだったのを
目ざとく感じていた様子です。
政春も、鴨居のマジックのような
なにもないところからとんでもない
起死回生の手を打つところまでみて、
感心するやら感動するやら・・・でありました。
それを「不思議やのう」といいながら
エリーに語る政春のウキウキ感を
エリーは見抜いていた様子ですね。
「何故断った。もっと考えるべきだ」と
いうのも無理はありません。
ただ、エリーに仕事を手伝って
ほしいといった鴨居の
真理は、エリーにヌードモデルになれと
言ったわけではないと思いますけどね。
政春は迷っていた。
鴨居から来てくれと言われたこと
田中社長から一緒にウイスキーを作ろう
と言われたこと・・
どうする?
どうする??
と、迷いながら仕事をした。
社長が、声をかけた。
「鴨居の大将に誘われとんやろ?」
「え?」
「今夜付き合え。」
その夜、社長と「こひのぼり」へいった。
政春は優しい男だからうそがつけない。
様子を見てわかったという。
特に鴨居は人材と思ったら
引き抜きをするというのは有名だ。
「もし、誘われたのが自分だったら
行く」といった。
「鴨居は魅力のある男だし経営もしっかり
しているから」と。
鴨居と自分は同じ社長で
どうしてこんなに違うのかと
田中は言う。
学校も自分のほうがいいところをでている
酒の知識もある。
しかし、向うは運転手つきの
ピカピカの車に乗って
いる。自分はさびた自転車だ。
この差はどこから生まれるのだろうと
いう。自分も早く世間ではやりの
商品を作りたい、それがわしの夢や。
それはウイスキーしかない。
しかし資金はない。社内でも反対する
やつもいる。
わしに遠慮せんでもええ。
おまえはお前の夢を追いかけろ。
それが田中の話だった。
家ではエリーがゴンドラの歌を
歌いながら政春の帰りを待って
いた。
♪いのちみじかし、恋せよ乙女
朱き唇 あせぬまに
熱き血潮の・・・
政春はその歌を聞いて難しい顔が
少しにこやかになった。
エリーは政春が帰ってきたので
「おかえりなさい」といって迎えに出た。
「社長とのんどった」と政春。
「難しい顔している、なにかあったの?
優子さんのこと?」
『うちは住吉酒造の一人娘
会社が大変な時にはうちは
うちの仕事をするだけです。』
「私の仕事ってなんだろう?」
「エリーはよく頑張っている」と政春。
「おなかすいたでしょ?」
すると政春はもう一回歌ってくれという。
エリーの歌を聞くと元気になると
政春は言った。
エリーは、またゴンドラの歌を
歌い始めた。(最初がちょっとメロディ
ラインが違うような)
♪熱き血潮の冷えぬまに
明日の月日の無いものを・・。
翌日政春は鴨居商店へ行った。
するとあの日とったポスターを見せて
くれた。
全体は白黒だけどワインだけが赤である。
それが象徴的だった。
政春は
「すごい、なまめかしいけど、はつらつとし
とって何より、この、赤が
赤が美しい・・・・。」
とワインを指差した。
「覚悟は決まったか?」
政春はしばらく沈黙したが
「自分はこれからも世話になった住吉酒造で
社長と一緒にウイスキーづくりを目指します。」
といった。
「そやろな、そうくるとおもとった。」
とあっさりと鴨居は言った。
「すみません」、と政春は謝った。
「謝ることはあらへん、無茶言うたんは
おれや。
それから新しい相談があるんやけど」
と鴨居が言う。
エリーにしばらくここで仕事を
手伝ってほしいという。
従業員ではなく・・・・しばらく
手伝ってほしいのだと鴨居が言う。
「と、申しますと?」と政春が聞いた。
その夜、夕餉をしあげたエリーは政春が
帰ってきたことに気が付いた。
「おかえりなさい~~」と出迎えるが
政春は、縁側から上がってどんどんと
寝室へ行って
上着を脱いだ。
かなり怒っている。
どうしたのかとエリーが聞くと
「鴨居商店へ行ってきた」と
いう。エリーは「もしかしてまた
新しいお仕事なの」と聞く。
「もう二度とあの男にはかかわらない。
エリーもかかわったらいけんぞ」
と政春は激怒しながら言う。
「どうして?」
あのエリーに手伝ってほしいというのは
モデルの話である。もう一枚
太陽ワインのポスターを作りたいという。
異人のモデルはめずらしい。
政春はぎょっとして
ポスターをじっと見た。
モデルは上半身裸である。
「新生太陽ワイン、狙うはご婦人方や。
日本のおなごは西洋人に憧れと
劣等感を持っているからその乙女心を刺激
したるんや。
どうやろ?一肌脱いでくれへんかな?」
政春は目を大きく見開いて
驚きながら上半身裸のポスターをみて
いた・・・。
「一肌脱いでくれ?」の言葉に
ぎょっとして
「脱ぐ???」と答えた。
鴨居は「何ぼやったら引き受けてくれる
かな?」という。
政春は頭を左右に振った。
「最低じゃのう!!!」
と怒った。
「何がや、どないしたんや?」
鴨居が聞いても政春はさっさと
部屋を出て帰ってきたのだった。
そして政春はエリーに話を
続けた。
「この間の撮影では、見ていた限りでは
エリーは裸にもされかねん・・。
人の嫁さんをなんやと思っているのか
あの男は信用できない。
迷っていたわしが馬鹿だった」という。
エリーは「迷っていた?」と聞き返す。
そして、鴨居商店へ引き抜かれた
ことを察した。
何故そんな大事なことを話してくれ
なかったのかと政春に聞く。
決まったら言うつもりだったし
変わる気はなかったという。
「それでなに?断ったの?」
「うん。
わしの仕事の話じゃ。」
「もっとしっかり考えるべきで
はないの?」とエリーは言う。
もう断ったと言われてエリーは
合点がいかない。
「エリーは鴨居商店に行ったほうが
いいというのか?」と政春が聞くと
エリーは頭を縦に振った。
「いまさら住吉酒造をやめるわけには
いかんじゃろが。」と政春は言う。
「社長には恩義がある。
会社へ入れてもらって
留学までさせてもらって
そのおかげでエリーと出会えて
それを後足ですなかけて出て行く
ようなまねは・・・。」
「砂をかける?」エリーはたとえがわからない。
「日本人は義理と人情を大切にするんじゃ。」
「義理、人情・・・
マッサン、難しい言葉つかわないで。」
「外国人のエリーには何ぼ話しても
わからんわ・・・」
この言葉にエリーは激怒した。
政春は「もう寝る。明日も早いんじゃ」と
いって寝室へ入ろうとすると
寝室を背にして立っていた
エリーは、立ちふさがった。
「なに?」と政春は聞く。
エリーは政春を突き飛ばした。
「今、外国人の私にはわからない
っていったわよね。
わかるよ、
義理、人情はわからないよ
でもボスや優子さんにお世話になったこと
それはわかるよ。
だけどそれでももっと考えたほうがいい。」
鴨居と仕事をしている政春が
大変楽しそうだったことを
エリーは話をした。
大将の話をする政春がうれしそうで
たのしそうだったという。
あんな政春を見たことがないという。
「そがなことは・・・」と政春が言うが
エリーは「わかるよ」という。
「だってマッサンの嫁さんでしょ。
マッサンと一緒に悩む、考える・・
それは私の仕事
マッサンは私が外国人だから
わからないという。You make me feel
so悲しい・・・
so,寂しい・・
マッサン、大将が私をバカにして
るといったけど
一番私のことバカにしているのは
マッサン・・」
エリーは立っている寝室のふすまを閉めた。
ふすまは天の岩戸となった。
エリーはつぶやいた。
「マッサン
マッサンのアホ
ドアホ・・・!」
*************
この時代にもスカウトの要素が
ビジネスにあったのかと
思った。
もともとお殿様には生涯尽くすという
のが日本人の精神なので、政春も
後足で砂をかけるといっていますが
一度、道を示してくれた恩人を裏切る
ような気がするのでしょう。
エリーは、政春が鴨居商店へ出向をして
いたとき 楽しそうだったのを
目ざとく感じていた様子です。
政春も、鴨居のマジックのような
なにもないところからとんでもない
起死回生の手を打つところまでみて、
感心するやら感動するやら・・・でありました。
それを「不思議やのう」といいながら
エリーに語る政春のウキウキ感を
エリーは見抜いていた様子ですね。
「何故断った。もっと考えるべきだ」と
いうのも無理はありません。
ただ、エリーに仕事を手伝って
ほしいといった鴨居の
真理は、エリーにヌードモデルになれと
言ったわけではないと思いますけどね。
