破れ鍋にとじぶた4
ミーティングが始まった。
鴨居が言う。「知ってのとおり
よその葡萄酒の爆発騒ぎの
あおりをくらってうちの太陽ワインの
返品騒ぎが起きている。
主だった小売店にこれまでどおり太陽ワインを
置いてもらえるように頼んでみたけど
答えはノーや。
そこの住吉酒造さんも、力貸してくれ
はったんやけどな・・」

亀山は紅茶を飲もうとして
名前を言われたのが自分だと分かり
手が止まる。
そして周りを見た。

「鴨居商店は創業以来の危機や。」

「みんなに聞きたい。太陽ワインを
どうするか?

撤退か・・・存続か・・・・??」

「太陽ワインは鴨居商店の看板商品。
存続以外ないのとちゃいますか。」

「宣伝部から言わしてもらうと
うちの焦点の名前を出す時は
太陽ワインの鴨居といいます。
太陽ワインがない鴨居商店は
牙のない虎のようなものです。」


「ええですか?」青山が手を挙げた。
「昨日、ある御客さん言うてました。
洋酒は怖い。もうよう飲まれへんと。
一度ついた印象を変えるのは簡単ではない
と思います。」


「つまりほとぼりが冷めるまで待てと?」
と宣伝部の規子が言う。
「はい。
一時的な撤退を提案します。」

政春は「青山君勇気あるなぁ」と感心した。
何に勇気あるなぁと思ったのだろう?
「その間に他社が黙っていると思うか?
洋酒は新しい分野や。
なんや、住吉酒造さん、こそこそとなにか
をやっているらしいが。」

政春は、はっとした。

別の社員。
「一度撤退したらお客の印象はさらに
悪くなる。下手したら二度と買ってくれない
かもしれない。」

「そやな、それがお客の心理や・・・。」


シーンとなったとき、鴨居が言った。

「亀はどう思う?
なんでもいうてみ。」

「太陽ワインの中身を全くあたらしい
ものにします。」

「別商品?」
「味が違うの?」口々に聞く。

「何ぼええこというても中身が
同じなら怖さは変わらないでしょ?」と
亀はいった。

「味を変えるにはまた設備とか材料も
かえることになる。
時間がかかる。」と黒沢。

「いや、味を変えるだけなら配合を
かえるだけだから、手間暇はかからない」
と、別の社員。

政春は、「そのとおり。」といった。
「いっそ、イミテーションワインをやめて
欧米の本格的なワインづくりをめざしたら
いいのでは?」という。
「そしたら住吉さんに製造してもらう
必要ありまえへんがな。」と
厭味ったらしく某社員が言う。

「お宅の工場からは完全撤退に
なりまっせ。」

「あかん、あかん、あかん・・・・」
政春はついに、頭を使い始めた。
今まで適当に言っていたのではと
思ったりする。
「えーーとえーーーーーと。
甘味料をすべて天然ものにします。
薬草、香辛料で風味をつけます。」

(ワインって、風味をつけるの?だから
イミテーションで言うのか・・)
「さらに安全で健康にもええ、ニュー太陽
ワイン!!これ、できると思います。」

「健康・・・」青山がいった。
「それいいかもしれませんね。」

「美容もつけたら?女性は美容と健康
が大好きやし。」
と女性社員規子。

一同の意見がまとまった。
鴨居に意見を聞く。
「中身はかえんでええ。」と鴨居。

政春は「いま問題なのは中身です。
世間の見る目を180度かえんと。」

「今何というた?」

鴨居が気にしたのは世間の見る目を
180度かえるということだった。

多くの社員はぴんときた。

来なかったのは政春だけ。

「世の中がアッと驚くような新しい
広告を打てば?」
と女性社員規子。

「もしかしたら太陽ワインの印象を
大きく変えられるかもしれません。」

「歌うは安心安全。」

「ついでに美容と健康。」

「健康的で美しい広告図案考えてみよう。」
と鴨居。

規子は「はい」と元気よく答えた。
鴨居はにこやかな表情になった。

白井は「こんな騒動でわしらの太陽
ワインの火を消したらあかん」という。

黒沢は、「大々的に宣伝する費用が・・」

というと鴨居が「金の心配はいらん。
全部わしが責任を取る」という。
「みんなが鴨居商店から目が離せん
ようになる新しい広告を作ったろや
ないか!!」

すると一同「はい!!」と元気よく答えた。
「よし行こう!」と
みんなそれぞれの部署に戻って行った。

残ったのは政春と黒沢。

鴨居は「なんやまた辛気くさい顔をして。」
という。
「結局広告で目先を変えるんですね」と
政春は呆れて言った。
「すねるな、自分の意見が通らなかった
から・・って。物事を突き動かすのは
切り替えの早さや。」

政春は「なぜ自分をここに呼んだのか」と
きく。
「これは事務方だけでは騒いでもあかん。
あらゆる方向からの物差しが必要
なんや。
職人というか作り手の生の声を聴かな
ええものはできまへん。」

あきんどの哲学である。

政春は一本取られた気がした。

家に帰るとエリーが待っていた。

エリーは、「鴨居商店にしばらく行くことを
いってくれなかったのはなぜ?」と聞く。
政春は「仕事だから」と答えた。
「全部話す必要はない」という。

「わたし、報告があります。」
「あ?」
「わたし、優子さんと友達になりました。」

「へ~~。」

「優子さんのお見合いボスが断りました。」

「へぇ~~~。」

「・・・」

「ええ???」

驚く政春。

夕餉である。
「しかし、なんでじゃ??」
と政春。

政春は今日あの会議でまとまらなかった
ものがまとまった不思議観を感じていた。
しかしエリーは、優子のことと思って
「優子さんは結婚したくない。その気持ちを
ボスがわかってくれました・・」といった。

「爆発事件で追い詰められているはずなのに・・
みんなが意見が割れていても最後にはちゃんと
ひとつになっている・・」

「マッサン、わたしいま、優子さんのことを
話しているよ。」

「そうじゃった。スマンスマン!」

「鴨居商店のことは後!」

「そうそう、その鴨居商店の大将じゃ。
あれは最初から答えをだしとったんかのう?
太陽ワインを存続させようと答えを
だしていて、そのうえでみんながその
こたえに向かうようにしむけていたの
じゃろか?」

「どうじゃろね?」

「そうなんじゃ~~。これが不思議じゃ。」

政春は「自分の意見に反対する鴨居と最後は
自分のような人間も必要だと鴨居がいった。
どっちがホンマ物の大将なんじゃ?」

「は!!!」

「え??」

「ごちそうさまでした。」

エリーはあきれたのか、それとも
優子の話に乗らなかった政春を
せめているのか、それから
口をきいてくれない。
政春はわからないことが多かった。

翌日鴨居商店へ行くと数枚の広告の
見本があった。
女性のモデルである。

政春は「ええ感じじゃのう」というが
鴨居は「まだまだ」という。
規子は「色使いですか?構図ですか」と聞く。
「根本的なものだ」と鴨居は言う。

「今までと違う何かで女性を引き付ける
には・・・どうしたいいのか」と
社員が言う。
「イメージを言われても」と政春。
そこへエリーが来た。
驚く政春。
呼んだのは鴨居。
「ハピートーミートユー」と
さっそく青山が言う。
エリーはよろこんで「こんにちは
エリーです」といった。
鴨居が「エリーちゃんのハズバンドが
いい案を出さないのでセンス抜群の
エリーちゃんを呼んだ」といった。

政春は「意見を言うた」というが
「おまえの意見はまじめくさってつまらん」と
鴨居が言う。

「もっと遊び心を持てと
エリーちゃんからもいうたって。」
「マッサン、もっと遊び心ね!!」
みんな大笑いをした。
政春だけは「安心安全に遊び心はいらん」と
大声で言った。
鴨居は「辛気くさいのう~~」
という。
「わしのどこが辛気くさいんですか?」
「どこがっておまえ・・」


その日の夕餉では政春は
エリーに愚痴った。

「あの人はしつこい、まいったわ~~~。
社員でもないのにこき使われて
妥協したらあかんて
粘る粘る!
社員は社員で大将がやってみなはれって
背中を押すから、どんどん、無理難題でも
ぶつかっていくわけ。わしもいつか驚かして
やるけんのう。
大将が思いもつかないことを
ずばっと・・・」

エリーは大声で笑った。

「マッサンと大将、仕事している楽しそう。」
政春は自分は参っているのにという。
「マッサンにこにこしている。私うれしい。」
なにをいっているのかと政春は言う。
「早く住吉に帰りたいという。」

「Really do?」
「あたりまえじゃ。」
政春は意地になってご飯を食べた。

エリーはまた笑った。


さて、住吉酒造では、大変なことになって
いた。
葡萄酒の爆発事件で
銀行からの融資が受けられなくなった。
これ以上、増資はできないと笹塚は言う。
驚く大作。


好子の妄想か予想かわからないが
倒産の話はあたったと池田は言う。

あたらしい、働き口を探さないと
といった。

エリーはなんだかうれしい。
優子はどうしたのという。
「マッサンが楽しそうなので自分もうれしい」と
いった。
そこへ守谷がやってきた。
祖父である。
「お父さんお母さんを呼んできなさい」と
いった。

エリーはその話し合いをそっと聞いていた。

「どういうことだ」と祖父は聞く。
優子が縁談を断ったことである。
「会社の窮地を救うために
この縁談を持ってきたのに」と
守谷は言う。
「しかし・・・」と大作は言葉に詰まった。
祖父は「藤岡さんに頭を下げて
見合いを予定通りにやってもらいたいと
お願いしてきた」という。
優子の顔色が変わった。
「この縁談を断るということは
この住吉酒造が倒産するということや。」
と祖父が言う。
そこまで追い込まれていたのだった。
「佳代」と祖父が言う。
佳代は、「はい」といって
「優子、わかってくれますな」と聞く。

「わかりました。」
と優子が言う。
ふたたび心にふたをした優子。
エリーはさみしくなった。
**************
目が離せないほど面白い鴨居の
リーダーシップである。
会議の話は興味深い。
しかし、マッサンの180度印象を
変えるという意見が味噌となった。
これがきっかけでこうなったのだろうか?
しかし、鴨居も同じことを考えていた
のではないか?
そして印象を変えるコマーシャル。
これはすごい。鴨居は切り替えは
スピードが必要というあたりは
ほとぼりが冷めるまで待つという
意見とは正反対である。
確かに打って出ることが大事だと思う。
そして、エリーとマッサンの夕餉は
楽しいものになったらしい。
仕事の話は奥さんにしないのが日本の
男性であるが、マッサンはこのとき
仕事の話をしました。
エリーは喜んだ。マッサンが元気で
仕事の話をするのを見るのが
エリーは嬉しい、にこにこしている
マッサンをみるのがうれしいエリーです。
良かったですね。