生きている証6
★空襲が激しくなる中
花子は家中の原稿用紙をかき集め
「ANNE OF GREEN GABLES」の
翻訳に取り掛かりました。
★そして学徒出陣で陸軍に入り
訓練を受けていた純平が一年ぶりに
蓮子のもとに帰ってきました。
宮本家の玄関が開く。
「お母様ただ今戻りました。」
「純平、お帰りなさい。」
「特別休暇をもらえましたので・・」
蓮子は、その意味の重さを感じた。
家に上がって話をした。
「東京で空襲が始まったので心配して
いました。」
蓮子はどこにいるのかと聞く。
「それは軍規で
家族にも言ってはいけないというので
いえない。」と純平。
「今夜は泊まれるのか」と聞くと
「泊まっていいのですか?」と純平がいう。
「ここはあなたのおうちなのよ」と
蓮子は言った。
純平は龍一のことを聞いた。
なにも音信がないと蓮子は言う。
「何が食べたいのか」と聞くと
「お母様の作るものなら
なんでも」という。
蓮子は、喜んだ。
しかし、食糧事情のわるい時代で
ある。
蓮子は、カフェタイムにいった。
かよは久しぶりですと喜んだ。
蓮子は、「入営している純平が帰って
きたけど、お恥ずかしい話ですが
今晩食べさせてやるものが
なにもなくて困っています」という。
かよは、そういうことならと快くいって
蓮子を待たせた。
一方村岡家では、玄関先に来客が
あった。
戸を開けた花子は驚いた。
純平だった。
「大変ご無沙汰しております。」
花子は純平を招き入れた。
蓮子の様子を聞くと元気だという。
「じつは、しばらくお逢いしていないの」と
花子は言った。
純平は「以前はよく花子叔母様のことを
話していました。とても楽しそうに。
でもある時からぱたりと何も言わなく
なりました。」という。
「ごめんなさい、私たち衝突して
しまったの、譲れないことがあって。」
「みんな離れて行きます。
うちは父も母も変わっていますから。」
そして、花子に「母のことを助けて
やってください」といった。
畳に両手をついて、頭を下げた。
なんとしても、純平は蓮子のことを
花子にお願いしたくて
伺ったという。
花子は、純平に吉平から持たされた
葡萄酒をわたした。
皆さんで飲んでという。
味は実家が作ったのものだから
保証はないという。
そして、純平に歩が生きていたら
おなじように兵隊さんになって
出征していたはずだといった。
「あなたのを送り出す蓮子さんの気持ちを
思うとたまらないの。」
純平は花子をじっと見た。
花子は純平に言った。
「お母様のためにも必ず帰ってきなさい。」
純平は答えず、「母のこと・・・
どうか、どうか、よろしくおねがいします。」と
いって頭を下げた。
そして去って行った。
宮本家では心づくしの料理が
ふるまわれた。
お鍋だった。
すごいごちそうに純平も富士子も
喜んだ。
富士子が「もう少し、よく見たい」
というので純平は電気を
つけた。
すると明るくなって、テーブルの上の
葡萄酒が目に入った。
「これは?」と蓮子が聞く。
「大学の友人からもらったんだ、いまどき
めずらしいだろう?葡萄酒だなんて」
と純平はいった。
蓮子は、怪訝そうな顔をした。
「さぁ、いただこう」と純平が言った。
その夜、繕いものをしている蓮子に
純平は話しかけた。
「もう、飲まなくていいのですか?」と。
「なんだか今日は胸がいっぱいで。
純平召し上がれ。」
「はい・・・
ああ、うまい・・・。」
「その葡萄酒は甲府のではないかしら。」
「・・」
「そうなのね・・。」
純平は花子に会ったことを話した。
「お母様のことをお願いしてきました。」
蓮子は緊張した顔になった。
「花子叔母様に言われました。
お母様のためにも帰ってきなさいと。」
蓮子はじっと純平を見た。
「でも僕はお母様や富士子のために戦って
死ぬなら悔いはありません。」
「純平、親より先に死ぬくらい
親不孝なことはないのよ。」
蓮子はかみしめるように言った。
純平は明るく「そんなこと言わないで
下さい」と言った。
「どうか明日は笑顔で送り
出してください。」
蓮子は泣きそうな顔をした。
翌朝のこと。
蓮子と富士子は純平が家を出るのを
見送った。
「お母様、行ってまいります。
・・・・・
お元気で。」
純平は敬礼をした。
そしてくるっと踵を返して
純平は去って行こうと
した。
蓮子は
やっと
声をかけた。
「純平!!!!」
振り向くと今まで唇を
かみしめ暗い顔をしていた蓮子が
精一杯の笑顔でいった。
「武運長久を祈っています」。
純平はそんな母をじっと見て
あかるく
「はい!!」と返事をして
敬礼をした。
手を戻した純平はさっと振り向いて
去って行った。
後姿を見送る
蓮子は…
涙があふれた。
1945年昭和20年4月15日。
花子は翻訳に打ち込んでいた。
「曲がり角をまがった先に
なにがあるのかは、わからないの。
でもそれはきっと・・・・
きっと一番良いものに違いない
と思うの・・・」
すると、空襲警報のサイレンが
なった。
花子は美里を呼んだ。
ラジオをつけると
「敵機は相模湾から帝都南西部地区へ
侵入する模様であります・・・」
という。
美里が降りてきた。
英治は、夜勤で遅くなるという。
そのとき、外で空の上から
大きなエンジン音が聞こえた。
飛行機が何機も飛んでいる音だった。
花子は美里に防空頭巾をかぶせた。
するといきなりの
爆撃で窓ガラスが割れた。
ふたりはかばいあった。
「お母様?」
「美里、大丈夫よ。
逃げましょう。」
すると部屋が燃えている。
花子の原稿に火がつこうとしている。
花子はその火を必死で消した。
そして、辞書と原書をもって
外へ出た。
大きな爆撃音と逃げ惑う人々の群れ。
爆弾が落ちたところから
火花が散る。
その中を「大丈夫よ」といいながら走った。
★焼夷弾が雨のように降る町を逃げながら
花子は祈りました。
『生きたあかしとしてこの本だけは
訳したい。』
★花子の祈りは届くのでしょうか??
焼夷弾の炎の中を花子は必死で逃げた。
★ごきげんよう
さようなら
********************
純平が去っていく。
二度とあえないところへ去って
いくのを母は止めることができない。
「どうか笑顔で送り出してください。」
笑顔になれるわけがない。
それを蓮子は精いっぱいの笑顔で
純平を送り出した。
もし、歩君がいたら・・・
同じように花子もつらい思いをした
ことだろうと思う。
よかったのか
わるかったのか・・
人生わからない。
しかし、蓮子の言う通り
親より早く死ぬことほど
親不孝なことはない。
花子も蓮子も
親不孝な息子を持ってしまった。
「お母様のためにも必ず帰ってきなさい。」
これが常識であるが
常識が通じない時代である。
それでも花子は精いっぱい
純平に訴えた。
答えられなかったのは純平だった。
みすみすと若い命をごみのように捨てて行く
時代である。
お話はあの第一話へと戻る。
最初のシーンである。
辞書と原書をもって
炎の中を逃げる花子。
もし・・・
この夜
この本が焼けてしまったら
深くて大きな後悔に沈んだことでしょう。
花子さんはなによりも
本をもって
逃げたので救われました。
★空襲が激しくなる中
花子は家中の原稿用紙をかき集め
「ANNE OF GREEN GABLES」の
翻訳に取り掛かりました。
★そして学徒出陣で陸軍に入り
訓練を受けていた純平が一年ぶりに
蓮子のもとに帰ってきました。
宮本家の玄関が開く。
「お母様ただ今戻りました。」
「純平、お帰りなさい。」
「特別休暇をもらえましたので・・」
蓮子は、その意味の重さを感じた。
家に上がって話をした。
「東京で空襲が始まったので心配して
いました。」
蓮子はどこにいるのかと聞く。
「それは軍規で
家族にも言ってはいけないというので
いえない。」と純平。
「今夜は泊まれるのか」と聞くと
「泊まっていいのですか?」と純平がいう。
「ここはあなたのおうちなのよ」と
蓮子は言った。
純平は龍一のことを聞いた。
なにも音信がないと蓮子は言う。
「何が食べたいのか」と聞くと
「お母様の作るものなら
なんでも」という。
蓮子は、喜んだ。
しかし、食糧事情のわるい時代で
ある。
蓮子は、カフェタイムにいった。
かよは久しぶりですと喜んだ。
蓮子は、「入営している純平が帰って
きたけど、お恥ずかしい話ですが
今晩食べさせてやるものが
なにもなくて困っています」という。
かよは、そういうことならと快くいって
蓮子を待たせた。
一方村岡家では、玄関先に来客が
あった。
戸を開けた花子は驚いた。
純平だった。
「大変ご無沙汰しております。」
花子は純平を招き入れた。
蓮子の様子を聞くと元気だという。
「じつは、しばらくお逢いしていないの」と
花子は言った。
純平は「以前はよく花子叔母様のことを
話していました。とても楽しそうに。
でもある時からぱたりと何も言わなく
なりました。」という。
「ごめんなさい、私たち衝突して
しまったの、譲れないことがあって。」
「みんな離れて行きます。
うちは父も母も変わっていますから。」
そして、花子に「母のことを助けて
やってください」といった。
畳に両手をついて、頭を下げた。
なんとしても、純平は蓮子のことを
花子にお願いしたくて
伺ったという。
花子は、純平に吉平から持たされた
葡萄酒をわたした。
皆さんで飲んでという。
味は実家が作ったのものだから
保証はないという。
そして、純平に歩が生きていたら
おなじように兵隊さんになって
出征していたはずだといった。
「あなたのを送り出す蓮子さんの気持ちを
思うとたまらないの。」
純平は花子をじっと見た。
花子は純平に言った。
「お母様のためにも必ず帰ってきなさい。」
純平は答えず、「母のこと・・・
どうか、どうか、よろしくおねがいします。」と
いって頭を下げた。
そして去って行った。
宮本家では心づくしの料理が
ふるまわれた。
お鍋だった。
すごいごちそうに純平も富士子も
喜んだ。
富士子が「もう少し、よく見たい」
というので純平は電気を
つけた。
すると明るくなって、テーブルの上の
葡萄酒が目に入った。
「これは?」と蓮子が聞く。
「大学の友人からもらったんだ、いまどき
めずらしいだろう?葡萄酒だなんて」
と純平はいった。
蓮子は、怪訝そうな顔をした。
「さぁ、いただこう」と純平が言った。
その夜、繕いものをしている蓮子に
純平は話しかけた。
「もう、飲まなくていいのですか?」と。
「なんだか今日は胸がいっぱいで。
純平召し上がれ。」
「はい・・・
ああ、うまい・・・。」
「その葡萄酒は甲府のではないかしら。」
「・・」
「そうなのね・・。」
純平は花子に会ったことを話した。
「お母様のことをお願いしてきました。」
蓮子は緊張した顔になった。
「花子叔母様に言われました。
お母様のためにも帰ってきなさいと。」
蓮子はじっと純平を見た。
「でも僕はお母様や富士子のために戦って
死ぬなら悔いはありません。」
「純平、親より先に死ぬくらい
親不孝なことはないのよ。」
蓮子はかみしめるように言った。
純平は明るく「そんなこと言わないで
下さい」と言った。
「どうか明日は笑顔で送り
出してください。」
蓮子は泣きそうな顔をした。
翌朝のこと。
蓮子と富士子は純平が家を出るのを
見送った。
「お母様、行ってまいります。
・・・・・
お元気で。」
純平は敬礼をした。
そしてくるっと踵を返して
純平は去って行こうと
した。
蓮子は
やっと
声をかけた。
「純平!!!!」
振り向くと今まで唇を
かみしめ暗い顔をしていた蓮子が
精一杯の笑顔でいった。
「武運長久を祈っています」。
純平はそんな母をじっと見て
あかるく
「はい!!」と返事をして
敬礼をした。
手を戻した純平はさっと振り向いて
去って行った。
後姿を見送る
蓮子は…
涙があふれた。
1945年昭和20年4月15日。
花子は翻訳に打ち込んでいた。
「曲がり角をまがった先に
なにがあるのかは、わからないの。
でもそれはきっと・・・・
きっと一番良いものに違いない
と思うの・・・」
すると、空襲警報のサイレンが
なった。
花子は美里を呼んだ。
ラジオをつけると
「敵機は相模湾から帝都南西部地区へ
侵入する模様であります・・・」
という。
美里が降りてきた。
英治は、夜勤で遅くなるという。
そのとき、外で空の上から
大きなエンジン音が聞こえた。
飛行機が何機も飛んでいる音だった。
花子は美里に防空頭巾をかぶせた。
するといきなりの
爆撃で窓ガラスが割れた。
ふたりはかばいあった。
「お母様?」
「美里、大丈夫よ。
逃げましょう。」
すると部屋が燃えている。
花子の原稿に火がつこうとしている。
花子はその火を必死で消した。
そして、辞書と原書をもって
外へ出た。
大きな爆撃音と逃げ惑う人々の群れ。
爆弾が落ちたところから
火花が散る。
その中を「大丈夫よ」といいながら走った。
★焼夷弾が雨のように降る町を逃げながら
花子は祈りました。
『生きたあかしとしてこの本だけは
訳したい。』
★花子の祈りは届くのでしょうか??
焼夷弾の炎の中を花子は必死で逃げた。
★ごきげんよう
さようなら
********************
純平が去っていく。
二度とあえないところへ去って
いくのを母は止めることができない。
「どうか笑顔で送り出してください。」
笑顔になれるわけがない。
それを蓮子は精いっぱいの笑顔で
純平を送り出した。
もし、歩君がいたら・・・
同じように花子もつらい思いをした
ことだろうと思う。
よかったのか
わるかったのか・・
人生わからない。
しかし、蓮子の言う通り
親より早く死ぬことほど
親不孝なことはない。
花子も蓮子も
親不孝な息子を持ってしまった。
「お母様のためにも必ず帰ってきなさい。」
これが常識であるが
常識が通じない時代である。
それでも花子は精いっぱい
純平に訴えた。
答えられなかったのは純平だった。
みすみすと若い命をごみのように捨てて行く
時代である。
お話はあの第一話へと戻る。
最初のシーンである。
辞書と原書をもって
炎の中を逃げる花子。
もし・・・
この夜
この本が焼けてしまったら
深くて大きな後悔に沈んだことでしょう。
花子さんはなによりも
本をもって
逃げたので救われました。
