アンとの出会い6
スコット先生が帰国する前に
花子に渡したもの。
友情のあかし、ANNE OF GREEN GABLES
というモンゴメリーの本だった。
これをいつの日か平和になったら
日本の少女たちに
紹介してほしいと。
やがて、戦争の足音はどんどんと近づいて
きた。
1947年昭和16年12月8日。
その日の朝、ラジオは臨時ニュースで
日本はアメリカ、イギリスの連合軍と
戦争状態にはいったと
つげた。
ご近所の方がラジオを聞かせてほしいと
村岡家に集まった。
「わが帝国陸海軍は
アメリカイギリスと戦って
どうなったんだろう?」
戦争の状況を心配するひとが
多かった。
朝の臨時ニュースでみんな
不安と心配と、落ち着かない
気持ちでいっぱいだった。
「今日は、一日ニュースを待つ
必要があるのかも」と英治は言う。
その時、チャイムが鳴った。
「臨時ニュースを申し上げます
臨時ニュースを申し上げます。
帝国海軍は、アメリカ方面のアメリカ艦隊並びに
航空兵力に対し決死の大空襲を敢行し
シンガポールその他をも大爆撃しました。」
そのニュースは人々を歓喜させた。
村岡家でもみんな万歳をし
カフェタイムでも
大喜びの歓声を上げた。
花子は、今日は来なくていいと
黒沢に言われたが、心配で
ラジオ局へ行ってくると
いって出かけた。
ラジオ局は騒然としていた。
人々がそれぞれの仕事を
するために、なぜか走っている。
花子はそんな人たちの流れをみながら
ある会議室へはいった。
テーブルに積まれた社類の山。
黒沢は花子に気が付き
部屋から出てくる。
「どうなさったのですか?」
と聞く。
「今日は休むようにご連絡を
いただきましたが、どうしても
番組のことが気になって
しまって・・・」といった。
そこへ漆原部長がやってくる。
「これは、これは、村岡先生。
本日はいらっしゃらなくて
結構でしたのに・・・。」
「漆原部長、今日のコドモの新聞は
どうなるのですか?」
漆原は
「それは気にしなくていいといった。」
黒沢は
「内閣情報局のほうで
その時間帯に重要な放送が
されることが決定されたましたの
コドモの新聞の放送は中止です。」
といった。
漆原は「米英と戦争になったということは
非常に勇ましいことですから
女の声で伝えるのはよろしくありません
から。」という。
花子は、うっとうしそうに漆原を見た。
漆原はそわそわしていた。
そこへたくさんの人がやってきた。
★先頭をあるいているのは、情報局を
取り仕切るえらい役人です。
漆原はぬけめなく、「みなさんご苦労さんです」
といった。
漆原は一同をスタジオに案内をした。
花子はその様子を見ようと廊下から
なかを伺っていた。
情報局の役人、進藤はマイクの前に座り
原稿を持ち、咳ばらいをした。
そのほかの役人は指揮室のほうに
待機した。
進藤と同じ、スタジオにいた有馬は
進藤に言った。
「僭越ながら原稿は抑揚をつけずに
淡々とお読みください。
発音、滑舌に特に注意を払って
お読みいただくとよろしいかと
思います。」
進藤は答えもせずじっと有馬を見た。
一緒に来た男たち二人が
有馬を両脇から支えて
指揮室から廊下に
追い出した。
花子は有馬に会釈した。
有馬と花子はスタジオの中をのぞいた。
村岡家のラジオの前には
ご近所の方々も
まだ大勢いた。
「もう六時ね。」
ももがいった。
美里は花子がどんな話をするのかと
英治に聞く。
英治は、今日は子供の新聞はない
そうだという。
やがて、チャイムが鳴った。
あの進藤が話し始めた。
「国民の・・・かたがた!!!!
ラジオの前にお集まりくださいっ!!!
いよいよ、その時が来ました。
国民総進軍の時がきました。」
有馬は驚いたのか目を見開いて
いた。
進藤の読み方は、アナウンサーと
ちがって、抑揚もあれば
滑舌も悪く
話しかけるというものではなく
一方的に命令をする口調であった。
「政府と国民ががっちりと一つに
なって1億の国民が互いに手を取り
互いに助け合って進まなければ
なりません。」
カフェタイムでもラジオをお客と
一緒に聞いていた。
「政府は放送によりまして、国民の方々に
対して」
甲府では、徳丸家に安東、木場の
家族が集まってラジオを聞いていた。
「国家の赴くところ
国民の進むべきところを
はっきりとぉ・・・
お伝え、いたします。
国民の方々は
どうぞ
ラジオの前にお集まり
ください。」
宮本家は、テーブルを挟んで
家族が、ラジオを聞いていた。
龍一は、怒りを含んだ表情を
していた。
「放送を通じて政府の申しあげます
ることは
政府が全責任を負い率直に
正確に
申し上げるものでありますから
必ずこれを信頼してください。
そして
放送により、お願いしますことを
必ず
お守りください。
御実行ください。
今晩から国民に早くお知らせ
致さねばならぬことがありました
ならば!
毎時間の最初に放送します・・から・・
どうか!
毎時間の始め・・・」
廊下では有馬がつぶやいた。
「あんな・・・
雄叫びを上げるかのように
原稿を読んで・・」
花子は「え?」と思った。
「原稿を読む人間が
感情を入れては
いけない・・・
それをあんな一方的に
押し付けるような・・・
今日からラジオ放送の在り方は
変わるのかもしれない。」
花子はじっと有馬を見た。
「国民一つになって進むところに
烏合の衆である敵は
いかに大敵でありましても
断じて
おそるるところはありません。」
放送が終わったとき
漆原は進藤に言った。
「素晴らしい放送でありました・・。
感動しました・・。」
進藤はあまたを下げて物も言わずに
廊下に出た。
案内に立っていた漆原は
廊下に花子がいたのをみて
「まだいたのかね」といった。
そして進藤に、「ラジオのおばさんの
村岡花子さんです」と
紹介した。
黒沢は花子のことを
「語り手として子供にたいそう
人気のある先生です」といった。
頭を下げた花子。
進藤は、「国論統一のために
今後一層、ラジオは重要になる。
放送を通じて
子供たちをよき少国民へと
導くことを期待しています。」
そういってさっていった。
花子は、ある決意をした。
花子はスタジオの中のマイクを
じっと
見た。
そして、漆原部長と黒沢に声をかけた。
「今日限りで子供の新聞をやめさせて
いただきます。」
花子は戦争のニュースを子供たちに
放送することはできないといった。
漆原は、「たったいま情報局の
ひとからあんなにありがたい
お言葉をいただいたばかりでは
ないですか。」という。
「それで決心がつきました。」
漆原は
「いいでしょう、おやめくださって結構
です。ラジオを通じて国民の心を
ひとつにしようとするときに
・・
あなたは所詮、ごきげんようの
おばさんだ!」と吐き捨てる
ようにいった。
花子は、じっと漆原を見た。
有馬もじっとその様子を見ていた。
漆原は去って行った。
黒沢も。
花子は有馬を見た。
「有馬さん、あとをお願いします。」
「私は、感情をこめず正しい発音
滑舌に注意して
一字一句正確に
原稿を読みつづけます。」
花子は、笑って「お世話になりました」
といった。
有馬は「お疲れ様でした」と言って
頭を下げて
去って行った。
黒沢が追いかけてきた。
子供たちから花子への
ファンレターを
花子に渡した。
楽しいうれしい文面だった。
「お考えは変わりませんか?」
「はい・・・」
「そうですか、残念です。」
「申し訳ございません
九年間お世話になりました。」
黒沢と挨拶を交わして
花子は呆然として
ラジオ局を去っていく。
★日本はとうとう大きな曲がり角を
曲がってしまいました。
ごきげんよう
さようなら
*****************
大変な世の中になりました。
花子は、蓮子ほどはっきりと
いわないものの
戦争は反対です。
外国には
大切は友人もいます。
なのに、戦争をするなど
もってのほかです。
だから、ラジオをやめたのです。
ラジオは国の思想統一
のために
戦争に勝つために
使われることに
なったのです。
有馬は、純粋なアナウンサーと
して、このラジオの在り方に
ショックを受けました。
上から命令するために使われる
ラジオです。
そんなことあるはずはないと
思ったのですね。
わたしもそう思います。
黒沢は、最後まで(最後なのかどうなのか)
いい人でした。
ある意味、常識的な
人を差別しない、しかし
ひとと小競り合いをしない
分別のついたポジションです。
これから、花子は苦労の連続と
なります。
スコット先生が帰国する前に
花子に渡したもの。
友情のあかし、ANNE OF GREEN GABLES
というモンゴメリーの本だった。
これをいつの日か平和になったら
日本の少女たちに
紹介してほしいと。
やがて、戦争の足音はどんどんと近づいて
きた。
1947年昭和16年12月8日。
その日の朝、ラジオは臨時ニュースで
日本はアメリカ、イギリスの連合軍と
戦争状態にはいったと
つげた。
ご近所の方がラジオを聞かせてほしいと
村岡家に集まった。
「わが帝国陸海軍は
アメリカイギリスと戦って
どうなったんだろう?」
戦争の状況を心配するひとが
多かった。
朝の臨時ニュースでみんな
不安と心配と、落ち着かない
気持ちでいっぱいだった。
「今日は、一日ニュースを待つ
必要があるのかも」と英治は言う。
その時、チャイムが鳴った。
「臨時ニュースを申し上げます
臨時ニュースを申し上げます。
帝国海軍は、アメリカ方面のアメリカ艦隊並びに
航空兵力に対し決死の大空襲を敢行し
シンガポールその他をも大爆撃しました。」
そのニュースは人々を歓喜させた。
村岡家でもみんな万歳をし
カフェタイムでも
大喜びの歓声を上げた。
花子は、今日は来なくていいと
黒沢に言われたが、心配で
ラジオ局へ行ってくると
いって出かけた。
ラジオ局は騒然としていた。
人々がそれぞれの仕事を
するために、なぜか走っている。
花子はそんな人たちの流れをみながら
ある会議室へはいった。
テーブルに積まれた社類の山。
黒沢は花子に気が付き
部屋から出てくる。
「どうなさったのですか?」
と聞く。
「今日は休むようにご連絡を
いただきましたが、どうしても
番組のことが気になって
しまって・・・」といった。
そこへ漆原部長がやってくる。
「これは、これは、村岡先生。
本日はいらっしゃらなくて
結構でしたのに・・・。」
「漆原部長、今日のコドモの新聞は
どうなるのですか?」
漆原は
「それは気にしなくていいといった。」
黒沢は
「内閣情報局のほうで
その時間帯に重要な放送が
されることが決定されたましたの
コドモの新聞の放送は中止です。」
といった。
漆原は「米英と戦争になったということは
非常に勇ましいことですから
女の声で伝えるのはよろしくありません
から。」という。
花子は、うっとうしそうに漆原を見た。
漆原はそわそわしていた。
そこへたくさんの人がやってきた。
★先頭をあるいているのは、情報局を
取り仕切るえらい役人です。
漆原はぬけめなく、「みなさんご苦労さんです」
といった。
漆原は一同をスタジオに案内をした。
花子はその様子を見ようと廊下から
なかを伺っていた。
情報局の役人、進藤はマイクの前に座り
原稿を持ち、咳ばらいをした。
そのほかの役人は指揮室のほうに
待機した。
進藤と同じ、スタジオにいた有馬は
進藤に言った。
「僭越ながら原稿は抑揚をつけずに
淡々とお読みください。
発音、滑舌に特に注意を払って
お読みいただくとよろしいかと
思います。」
進藤は答えもせずじっと有馬を見た。
一緒に来た男たち二人が
有馬を両脇から支えて
指揮室から廊下に
追い出した。
花子は有馬に会釈した。
有馬と花子はスタジオの中をのぞいた。
村岡家のラジオの前には
ご近所の方々も
まだ大勢いた。
「もう六時ね。」
ももがいった。
美里は花子がどんな話をするのかと
英治に聞く。
英治は、今日は子供の新聞はない
そうだという。
やがて、チャイムが鳴った。
あの進藤が話し始めた。
「国民の・・・かたがた!!!!
ラジオの前にお集まりくださいっ!!!
いよいよ、その時が来ました。
国民総進軍の時がきました。」
有馬は驚いたのか目を見開いて
いた。
進藤の読み方は、アナウンサーと
ちがって、抑揚もあれば
滑舌も悪く
話しかけるというものではなく
一方的に命令をする口調であった。
「政府と国民ががっちりと一つに
なって1億の国民が互いに手を取り
互いに助け合って進まなければ
なりません。」
カフェタイムでもラジオをお客と
一緒に聞いていた。
「政府は放送によりまして、国民の方々に
対して」
甲府では、徳丸家に安東、木場の
家族が集まってラジオを聞いていた。
「国家の赴くところ
国民の進むべきところを
はっきりとぉ・・・
お伝え、いたします。
国民の方々は
どうぞ
ラジオの前にお集まり
ください。」
宮本家は、テーブルを挟んで
家族が、ラジオを聞いていた。
龍一は、怒りを含んだ表情を
していた。
「放送を通じて政府の申しあげます
ることは
政府が全責任を負い率直に
正確に
申し上げるものでありますから
必ずこれを信頼してください。
そして
放送により、お願いしますことを
必ず
お守りください。
御実行ください。
今晩から国民に早くお知らせ
致さねばならぬことがありました
ならば!
毎時間の最初に放送します・・から・・
どうか!
毎時間の始め・・・」
廊下では有馬がつぶやいた。
「あんな・・・
雄叫びを上げるかのように
原稿を読んで・・」
花子は「え?」と思った。
「原稿を読む人間が
感情を入れては
いけない・・・
それをあんな一方的に
押し付けるような・・・
今日からラジオ放送の在り方は
変わるのかもしれない。」
花子はじっと有馬を見た。
「国民一つになって進むところに
烏合の衆である敵は
いかに大敵でありましても
断じて
おそるるところはありません。」
放送が終わったとき
漆原は進藤に言った。
「素晴らしい放送でありました・・。
感動しました・・。」
進藤はあまたを下げて物も言わずに
廊下に出た。
案内に立っていた漆原は
廊下に花子がいたのをみて
「まだいたのかね」といった。
そして進藤に、「ラジオのおばさんの
村岡花子さんです」と
紹介した。
黒沢は花子のことを
「語り手として子供にたいそう
人気のある先生です」といった。
頭を下げた花子。
進藤は、「国論統一のために
今後一層、ラジオは重要になる。
放送を通じて
子供たちをよき少国民へと
導くことを期待しています。」
そういってさっていった。
花子は、ある決意をした。
花子はスタジオの中のマイクを
じっと
見た。
そして、漆原部長と黒沢に声をかけた。
「今日限りで子供の新聞をやめさせて
いただきます。」
花子は戦争のニュースを子供たちに
放送することはできないといった。
漆原は、「たったいま情報局の
ひとからあんなにありがたい
お言葉をいただいたばかりでは
ないですか。」という。
「それで決心がつきました。」
漆原は
「いいでしょう、おやめくださって結構
です。ラジオを通じて国民の心を
ひとつにしようとするときに
・・
あなたは所詮、ごきげんようの
おばさんだ!」と吐き捨てる
ようにいった。
花子は、じっと漆原を見た。
有馬もじっとその様子を見ていた。
漆原は去って行った。
黒沢も。
花子は有馬を見た。
「有馬さん、あとをお願いします。」
「私は、感情をこめず正しい発音
滑舌に注意して
一字一句正確に
原稿を読みつづけます。」
花子は、笑って「お世話になりました」
といった。
有馬は「お疲れ様でした」と言って
頭を下げて
去って行った。
黒沢が追いかけてきた。
子供たちから花子への
ファンレターを
花子に渡した。
楽しいうれしい文面だった。
「お考えは変わりませんか?」
「はい・・・」
「そうですか、残念です。」
「申し訳ございません
九年間お世話になりました。」
黒沢と挨拶を交わして
花子は呆然として
ラジオ局を去っていく。
★日本はとうとう大きな曲がり角を
曲がってしまいました。
ごきげんよう
さようなら
*****************
大変な世の中になりました。
花子は、蓮子ほどはっきりと
いわないものの
戦争は反対です。
外国には
大切は友人もいます。
なのに、戦争をするなど
もってのほかです。
だから、ラジオをやめたのです。
ラジオは国の思想統一
のために
戦争に勝つために
使われることに
なったのです。
有馬は、純粋なアナウンサーと
して、このラジオの在り方に
ショックを受けました。
上から命令するために使われる
ラジオです。
そんなことあるはずはないと
思ったのですね。
わたしもそう思います。
黒沢は、最後まで(最後なのかどうなのか)
いい人でした。
ある意味、常識的な
人を差別しない、しかし
ひとと小競り合いをしない
分別のついたポジションです。
これから、花子は苦労の連続と
なります。
