アンとの出会い5
1939年昭和14年
★9月に第二次世界大戦がはじまり
スコット先生もカナダに帰国すること
に決まりました。

そのとき、花子に贈られた本が
ANNE of GREEN GABLES

・・・
★花子はついにあの本に出会いました。
「ルーシーモンゴメリというカナダの作家の
作品です」とスコット先生はいった。
「日本にいる間この本が心の友でした。」

花子は「そんな大切は本はいただけません」
といった。

「私たちの友情の記念に
あなたに持っていてもらいたいの」


「友情の記念・・・」

そこへ美里が何のお話をしているの
とやってきた。

「スコット先生がね、この大切な御本を
くださるとおっしゃっているのよ。」

花子は美里にタイトルを読んで
「そのまま訳すると緑の切妻屋根の
アンっていうのよ。」といった。
美里はその本に興味を持った。
「あなたの子供のころに似ているわね」と
スコット先生が言った。

そこへももがお茶を持ってきた。

花子は美里に「おかあちゃまの小さいときに
美里が似ているというのよ」といった。
「おかあちゃまは子供のころ
英語が大嫌いだったのよ。」

ももは、驚いて、「信じられないわ」と
いった。
「修和にはいったころみんながなにをしゃべって
いるのか、さっぱりわからなかったんだもの」
と、花子は言う。

「でも、スコット先生のお歌を聞いたら
初めて英語がやさしく心に
響いてきたの・・。」

「私はスコット先生の、The water is wideが
大好きです。」

「本当?」

美里もももも歌ってみて、聞いてみたい
とリクエストをした。

花子は、「え?」とたじろぎながら
スコット先生を見て
「一緒に歌ってくれますか?」と聞いた。

「もちろんよ。」と先生は答えた。
ふたりで歌い始めた。
The water is wide,
I can’t cross over
And neither have I
wings to fly Give me a boat
but can carry two
and both shall row
my love and I

その水辺はひろくて向う側に
わたれない。
あなたもわたしも飛ぶためのツバサもない
わたしに舟を下さい。
彼と私で漕いでいくために・・・。

美里はじっと聞いていた。
そこへ英治と旭が帰ってきた。
そして歌をにこにこと
聞いていた。

歌い終わった二人は
ふふふふとお互い笑いあった。
すると英治たちが
拍手をした。

「素敵な歌だね。」
と英治が言った。

「どういう歌ですか」と旭が聞いた。

「この歌は別れた恋人への
気持ちをうたったものなのよ」
と花子は言った。

「悲しい歌なのね」とももがいう。

スコット先生は「あのころはカナダにいる
恋人を思って毎晩歌っていたわ」といった。

「その彼も・・・」

スコット先生は言葉を切った。

そして

「先の大戦で戦死したわ・・・。」
花子は驚いた。
先生はペンダントをにぎりしめて
いった。
花子はスコット先生のお部屋の
掃除をしていた時にペンダント
を開けてみたことがある。
あのペンダントには確かに恋人の
写真がはめこまれていたことを
花子は覚えていた。

スコット先生が帰る時間と
なった。
玄関の外まで見送ると先生は
「ありがとう、楽しい時間だったわ。
いい思い出ができました。」
といった。
「私もです」と花子が言うと
先生は
「いつかきっと平和が訪れます。
そのときあなたの手で
日本の少女たちに
この本を紹介してあげて
ほしいのです。」

花子は「必ず」といって約束を
した。
「平和になったら・・・
必ずこの本をたくさんの人に読んで
もらえるようにします。」

「ありがとう。さようなら花・・」
「きっとまたお会いしましょう」と
花子が言った。

先生は、
「GOKIGENYO」と
いって笑った。

花子も「ごきげんよう」と
笑って言った。

先生は別れを惜しむように
ふりむきそして
歩いて行った。

★日本が戦争へと向かう中
日本とカナダを結ぶ大切な一冊が
花子の手に託されたのでした。

花子は書斎で
その本をなぞり
そしてページを
丁寧にめくった。
★それはカナダのプリンスエドワード島を
舞台にした物語でした。
そばかすだらけのやせっぽちな
人参のような赤い髪の少女
アン・シャーリーが
人々と心を通い合わせていく様子が
生き生きと描かれています。
花子はみるみる夢中になりました。


夜になっても花子は本に夢中で
小さい声で翻訳をしていた。
英治は美里が寝ているのを確かめて
花子を見ると
まだまだ・・終わらない様子だった。
「おおダイアナ・・・やっとの思いで
アンは言った。
ねぇ、私のことを少しばかり
好きになれると思って?
私の・・bosom friend・・・
親しい友・・
親友になってくれて?」

・・・花子は親友で思い出した。
蓮子のことである。
蓮子とはこの間、絶交をした。
『私は時代の波に平伏をしたりしない。
世の中がどこへ向かおうと
言いたいことを言う
かきたいことを書くわ

さようなら・・』

そしてまた、大文学会で
笑いながら、学校から逃げたことも
思い出した。

しおりを示されて
『翻訳者、安東花子』
と蓮子が読んだ。
『歌人、白蓮・・・』
と花子が読んだ。
あのしおりは、くたびれてしまった
とはいえ、絶交したとはいえ
花子の手元にあった。

そうそう、何年かして
結婚した後初めて蓮子と会ったとき
蓮子は、ひざをまげて
もう片方の足をうしろにのばして
片腕を上からまわして
体の横でポーズをとって
「おひさしぶり!!花ちゃん」と
いって笑った。

花子も「蓮様、会いたかったぁ~~」と
手を取り合って喜んだこと。

いま、アンが親友のダイアナとめぐりあ
った所を読んで
蓮子を思い出したのだった。
「蓮様・・・・」
花子はあの時のしおりを手に取り
そっと
横に置いた。

★スコット先生から託されたこの本を
日本の少女たちに送り出すことが
できる日を心から願う
花子でした。

★けれども
二年過ぎても中国との戦争は
終わる気配はありませんでした。

1941年昭和16年の冬。
町内では戦争へ行く青年たちを
送り出す壮行会が
あちこちで見られた。

「武運長久を祈って」
「バンザーイ」
「バンザーイ」

花子は、戦争へいく青年を
悲しそうに見つめた。

ある朝早くのことだった。
村岡家の電話が鳴った。
こんな朝早くだれだろうと
花子は上着を着て
電話を取った。

黒沢からだった。
今日は緊急のニュースがあるので
コドモの時間はお休みだという。

緊急のニュースとは?
花子は気になったが
新聞にはそれらしいことが
載っていない。
いったい何が起こったのかと
思った。
ラジオ局ではなにやら
不穏な雰囲気だった。
そして
スタジオでは
有馬が汗をかきながら
緊張していた。

村岡家では
ラジオが聞いたこともない
チャイムを鳴らした。

「何のチャイムかしら?」
「臨時ニュースを申し上げます。
臨時ニュースを申し上げます。
大本営陸海軍部12月8日午前6時
発表・・
帝国陸海軍は本8日未明
西太平洋において
アメリカ、イギリス軍と
戦争状態に入れり。
帝国陸海軍は本8日未明
西太平洋上において
アメリカ、イギリス軍と
戦闘状態に入れり。」

花子の顔が曇り
険しくなった。
★とうとう、太平洋戦争が
はじまりました。
ごきげんよう
さようなら
***************
スコット先生もカナダへ帰って
いった。
友情のあかしに本を置いて
いった。
ANNE of GREEN GABLES・・・
のちの赤毛のアンだった。

もう時代は翻訳物を出版しない
ことになった。
英語でも敵国語といって
話してはいけないことに
なった。
わざわざ、野球ではセーフのことを
よしと言い換えたり・・
あほらしいです。
その逆にどんどんアメリカは日本語ができる
人材を軍に登用して
情報をつかんで攻撃する。
日本は物量ではかなわない上に
こういう情報戦でも負けていた。

1945という映画がある。
スチーブンスピルバーグ監督の
映画である。昔発表された
ものではあるが・・
たまたまこの映画を夜遅くテレビ
でみた。

三船敏郎が日本軍の大将で
アメリカの国土を
攻めようと近づいてくる。
しかし、アメリカ人は上をしたへの
毎日のにぎやかな生活を
送っていた。

ちょっとした、戦争風刺の毒が効いた
映画で面白かったです。
よかったらみてください。

これは、アメリカは日本ほど必死で
戦争をしようと思ってはいなかった。
しかし日本は必死で戦いを挑んできた。
で、最初は、冗談だろ?とかいいながら
笑っていたが、これでは
被害を食らうばかりだと思って
アメリカはきちんと参戦した。
すると、アメリカの連戦連勝という
戦果となったというもの。

あほらしくて・・・・
戦争が・・・です。
龍一の言うことは
本当に正しいのです。
でも・・・戦争は動き出したら
とまりません。
龍一らは、平和な時代に
平和を守る活動をするべき
です。