アンとの出会い3
蓮子の家に憲兵が来て
夫、龍一を連れて行った。
蓮子は、花子が吉太郎に龍一が中国との
和平工作をしているとの
話を流したと誤解した。

家に帰った英治と花子は
話し合っていた。
「どうなるのかしら?と」花子が不安そうに
いうと、英治は「僕は
お兄さんの忠告に従った
方がいいと思う」と返事をした。
「これ以上深入りしたら
君まで巻き込まれるよ。」

花子は美里の寝顔を見た。
花子はこのところの社会状況が
子供にとっていいものか悪いものかと
問い続けていた。

翌日のラジオ放送も、コドモの新聞は
日本軍が広東を占領したことや
揚子江をさかのぼって大陸の奥地へと
進んでいく様子のお話であった。
「激しい戦いの末に敵を打ち破り」
とか、「兵隊さんたちの戦いは大変
勇ましかった」とか・・
そんな話であった。

ラジオ放送を聞いている宮本家では
蓮子が龍一の面会から帰ってきた。
子供たちは心配そうに蓮子を見る。

「ただいま、」

「お母様お帰りなさい」と富士子は言う。

浪子は、心配して「どうだったか」と
蓮子に聞くと「会わせてもらえなかった」と
蓮子は答えた。

「家族にも会わせてもらえないのかい?」
浪子がやるせなさそうにいうと
蓮子は「ごめんなさい」と謝った。

純平は「お母さまが謝ることでは
ない」という。「悪いのはお父様だ」と
言い切った。

ラジオの花子は次の話を
していた。
「皆さんは戦地の兵隊さんが安心して
たたかって誉の凱旋ができますように
おうちのお手伝いをし
しっかりお勉強をいたしましょう。

それではみなさん、ごきげんよう
さようなら・・・」

花子の放送が終わった。
花子は、スタジオを出た。
そして、黒沢に声をかけた。
「ご相談したいことがあります。」

花子はこのまま語り手をつづけて
いっていいのかと迷っていた。
花子は子供たちがわくわくする
番組をと思ったので引き受けたが
戦争の話ばかりなので、
これでいいのだろうかと
疑問に思った。

「戦争のニュースなら有馬さんが
したほうがいい」と花子はいう。

すると黒沢は言った。
「子供たちは村岡先生の
ごきげんようを待っているのです。
それを聞くためにラジオの前に集まって
くるのです。

こういう時だからこそ、僕は
村岡先生のごきげんようが
子供たちの心を明るく照らすものだと
思います。

どうか、続けてください。
お願いします。」

黒沢は花子に懇願した。

翌日のお昼のこと
花子は仕事部屋でラジオ局へ来た
ファンレターを読んでいると
英治が蓮子から電話だと
いった。

蓮子はカフェタイムで待っていた。

「花ちゃん、この間はごめんなさい」
と蓮子は謝った。
龍一が連れて行かれて気が
おかしくなっていたと
いった。

花子も、「いいのよ」といった。
「自分は何もできなくて
ごめんなさい」と謝った。

花子は龍一のことを聞いたが
蓮子はあわせてもらえないと
いった。

そして蓮子は吉太郎に龍一さんのことを
聞いてほしいと頼んだ。

できたらこれも届けてほしいという。
着替えとか、ランボーの詩集とかである。
そして、「私と富士子との手紙なのよ。」

花子は、「手紙は全部読まれてしまうわ。
蓮様のことだから、きっと
熱烈な恋文なんでしょう?」
蓮子は黙ってうつむいていた。
花子は「吉太郎に頼んでみる」と
約束した。

「こんなに思ってくれる奥様がいる
のに・・・」

花子は、龍一の行動を批判した。
「どうしてそんな危険な活動に
加わったのかしら」という。
蓮子は「龍一は間違ったことを
していない、子供たちのために
間違った国策を正そうとしている」
という。

今度は蓮子が花子を非難した。
「この間ラジオで花ちゃん言ってたよね。
戦地の兵隊さんが誉の凱旋ができるように
がんばってお手伝いをしてしっかり
お勉強しましょうって・・。
まるで、みんな頑張って強い兵隊さん
になれと言っているように聞こえたわ。」

「蓮様あれは・・」花子は口を挟もうとしたが
蓮子は
「花ちゃんも読まされているのでしょ。
そうやって
戦争したくてたまらない人たちに
国民は扇動されているのよ」

花子は気が気ではなく
「声がおおきいです」というが
蓮子はいたたまれない気持ちが
高ぶりついに
「私は戦地へやるために純平を生んで
育てたのではないわ」、といった。

その時店にいた、男性客二人が
立ち上がりあわてて
店から出て行った。

かよは蓮子には珈琲を
花子にはサイダーを持ってきた。

蓮子はかよに謝ると
かよは、「大丈夫です」といった。
花子は、蓮子に「さっきのような考えを
口にするのは慎んだほうがいい」という。
「蓮様まで捕まったらどうするの?」

「花ちゃんは、戦争のニュースばかりを読んで
あれを聞かされると子供たちは
兵隊さんになって戦地に行くのがいいこと
のように思ってしまうわ。」

すると花子は、「自分だって戦争のニュースを
伝えたくない」といった。
「こういう時だからこそ、子供たちの心
を明るくしたいの。
わたしのごきげんようの挨拶を
まっている
子供たちがいる限り
私は語り手を続けるわ・・・。」

奇しくも、花子は自分の悩みに
自分から答えを出してしまって
いた。

「そんなの偽善よ。
優しい言葉で語りかけて
子供たちを恐ろしいところへ
導いているかもしれないのよ。」

「そんな・・・
私一人が抵抗しても世の中の
流れを止めることなどできないわ。

大きな流れがせまってきて
いるの・・・。
その波にのまれるか
乗り越えられるかは
だれもわからない。
私たちの想像をはるかに超えた
大きな波ですもの。
私も恐ろしい。
でもその波に逆らったら
今の暮らしも何もかも
失ってしまう・・・。
大切な家族さえ守れなくなるのよ。」

蓮子は、花子を睨み付けた。
そして、たちあがり
もう
自分たちとかかわらないほうがいいと
いった。
「花ちゃんに頼んだのは間違いだったわ・・・
わすれて頂戴・・・
お勘定・・・」

「蓮様待って・・
私は蓮様が心配なの。
まっすぐで危なっかしくて」

花ちゃん、心配ご無用よ

「私を誰だと思っているの?
華族の身分も何もかも
すてて駆け落ちした
宮本蓮子。
私は時代の波に平伏したりしない。
世の中がどこへ向かおうと
言いたいことを言う。
かきたいことを書くわ。」

花子はじっと蓮子を見た。
蓮子は
「あなたのように卑怯な生き方を
したくはないの・・。」といった。

花子は

やっとの思いで

「そう・・・
わかったわ・・・」

と短くいった。
そして「私たち生きる道が違って
しまったのね。

これまでの友情には感謝します。」と
花子は言った。

「ええ・・・。」蓮子が答えた。

かよも、じっとみていた。

蓮子は

「さようなら・・」


といって店を出た。
花子は

「お元気で・・・」


と・・見送った。


★二人の道はもう、
交わることはないのでしょうか

ごきげんよう

さようなら・・・

******************
二人の生き方論ですが
間違った時代に流されたくない
蓮子と、子供たちや家族を
守らなくてはいけないという
花子。
どんな波が来ても
乗り越えなくてはならないと
花子はいうが・・

蓮子は自分に正直に生きたいと
いう。

しかしです・・・
蓮子さん、こうして自分から花子を
遠ざけようとしたのではないですか?

あまり自分とかかわっていたら
花子が、その家族が
どうなるのかと
考えたのではないですか?

厳しい時代です。

でも生き抜いた先には
交わることもあるかもしれません。
吉太郎も
龍一も・・
生き抜いた先には
あれは不幸な時代だったと
話し合えることがあるかも
しれません。

「戦争反対」とは
平和な時に
その礎をきづいていなければ
いざ、戦争になると

止めようがありません。

今の日本も同じことで

戦争になる前に
平和であるための

努力を
しなければ

ならないものです・・・・。