アンとの出会い1
★中国との戦争が続き国民は総力を挙げて
軍事体制に協力することを求められており
ました。
花子が語り手を務める子供の新聞のニュースも
軍事に関するものが多くなりました。

そんなとき宇田川光代が
ペン部隊として戦場へ行くという
発表をする。

★戦争の足音は確実に近づいて
おりました。


宇田川は国民の士気を高める記事を
どんどん書きまくりますと
息をまく。
花子は、宇田川が従軍記者になると
は、と驚いた。
しかし、醍醐は宇田川に影響されて
自分もペン部隊として行きたいという。

実際戦地に行ってこの目で確かめたい
と思うことがたくさんあると
醍醐は言う。
長谷部汀もその話を聞いて「つぎの
ペン部隊には醍醐を推薦する」と
よろこんだ。

蓮子に宇田川は相変わらず恋愛とか家族愛
の歌を歌っているのかと聞く。
「今はくだらない恋愛ものを書いている
場合じゃないと思いますけど」と
意見をした。
蓮子は「どんな時代でも人は恋をします。
戦争の真っ只中でも人は誰かを愛します。
宇田川先生だってあんなみずみずしい恋愛
小説をかいてらしたのに」というと
宇田川は「今は色恋よりも
お国のために作家として何ができるかを
考えるべきでしょう。」

「そうでしょうか?」
蓮子は合点がいかない。
「村岡さんはどうお考えかしら」と
長谷部は言った。
ラジオ番組をもっているので
影響力は大きいと
思っている。

「子供たちを立派な国民に育てる
ためにはどんなお気持ちか
きいてみたいわ」と長谷部。

「私は子供たちの夢を守りたい」と
花子はいった。
「いつの時代も子供たちは美しい
夢をもっているのでそれを
大人が奪うことはしてはいけない」
というと
宇田川は、「ラジオのおばさんがどれほど
立派なご意見をお持ちかと
おもったら、この戦時下に夢で
すって??
時代が変わってもあなたはミミズの女王から
進歩してないのね。」

長谷部は「自分もこの国の将来を担う
子供たちを思う気持ちは
私も同じです。

そのためには日本は強くならないと
いけない。大人も子供もお国のために
一致協力するべきです。」と
いった。花子と違う考え方だ。

長谷部の話に「その通り」と
大勢の声が上がって
拍手がわいた。

蓮子はいたたまれずにその場を
さった。
追いかけた花子だった。
店の中からは万歳の声がわき
婦人従軍歌が聞こえてきた。

蓮子はいった。

「何故皆さん、あんなにも一色になれるの
かしら?
ああなれたらきっと楽でしょうね
でも私はついていけないわ。
婦人参政権の活動では共鳴できた
けど、もうあの先生方とは
ご一緒することはないと思う。」

英治にその話をした。

「私も考えてしまったわ。
子供たちの夢を守るとはどういうこと
なのかわからなくなってしまって・・」

英治は、「あんまり悩まないで」といった。

そして、レコードをかけてくれた。
軽いワルツだった。
それを聞く花子。

「花子さん」、といって「手をだした。」
「踊ってくれませんか?」

花子は笑った。

そしてふたりで踊った。

★時代の空気がきりきりと
緊張する中、花子と英治は
こんなひと時を大切にして
いました。

うれしそうに踊る花子たちを見て
美里は、「おとうちゃまとおかあちゃま
いいなぁ~~」と声をかけた。

「美里もおいで」と英治にいわれて
今度は三人でワルツを踊った。

★そんなある日のこと。

花子の家のそばでは男の子たちが
チャンバラをして遊んでいた。

すると向うから来た人めがけて
一人が「敵、発見」といった。

「目標10メートル先の敵
突撃、やぁ~~~~~~~~!!!」

銃だの、棒切れだのをもって子供たちは
走って行った。
相手はあのブラックバーン校長とスコット
先生だった。

ブラックバーン校長は
子供たちが走ってきたので
「スト―――――っプ!!!!」

と大声で叫んだ。

子供たちはあっけにとられた。

じろっとにらんだ校長は
「ごきげんよう」と
たどたどしい日本語で言った。

子供たちも「ごきげんよう」と
恐る恐る言った。

校長は子供たちをおいて歩いて行った。

子供たちは「わぁ~~~」といって逃げて
いった。

校長の訪問先は村岡家だった。

英治は、
昔、修和女学校に辞書を借りに行って
おとこだったので、白鳥さんに
背負い投げで投げられたことを
話した。
それもたどたどしい、英語だった。

通じたのか、それとも覚えて
いたのか、校長はにこやかに
「英語がお上手になりましたね」と
いった。
英治は、「サンキューベリーマッチ」と
答えた。

校長はカナダに帰ることを
花子に告げた。
「わたしはもうおばあちゃんですから、・・
この先国と国がどうなるかわかりませんが

ただひとつ・・・・・」


そういって、校長は言葉を切った。

そして、

「私たちの友情は永遠です」と
いった。
花子は涙でことばにつまった。
校長の言葉を英治と美里につげた。
「私はどこにいてもあなたたちの幸せを
心から祈っています
あなたの翻訳は二つの国の友情のシンボルです。」

それも英治たちに通訳した。

花子は
「そのお言葉を
いつまでも心にとどめておきます」と
いった。
「最上のものは過去ではなく
将来にある・・・・」

すると校長は立ち上がって
花子のそばに行った。
花子の手を握り
「どうか、あなたが私の夢を引き継いで
ください
この国の人々に愛と平和を」
・・・

★その夜のことでした。
花子は翻訳の仕事をしていた。

足音が近づいてきた。

玄関を
せわしげにたたく音がする。

「どちら様ですか?」花子は
恐る恐る聞いた。

「花、俺だ」

吉太郎だった。

「あにやん。どうしたの?」
玄関を開けて吉太郎を入れた。

「話がある。ここでいい。」
そして吉太郎は外を見て何かを確認して
玄関を閉めた。
「花・・・最近蓮子さんに会ったか?
何か変わった様子はなかったか?」
「あにやん?蓮様がどうかしたの?」
「明日からしばらく蓮子さんの家に
ちかづくな。ここはおれのいうとおり
にしておけ」

「あにやん・・・」

吉太郎は、いうだけいって
急いで
帰って行った。

不安になる花子。

★蓮子の身に何か大変なことがせまって
いるのでしょうか??
ごきげんよう

さようなら・・・
*****************
あの宇田川が時代に迎合して
従軍記者などといいだした。
蓮子のことばがすばらしい。

「みなさん
なぜあんなにも一色になれるのかしら。」
「ああなれたらきっと楽でしょうね」
宇田川から、さんざん嫌味を言われた
蓮子の精一杯の嫌味の反撃である。
ただ、育ちがいいので、直接にはいえない。
蓮子はやはり自由を大切にしているので
確固とした自分と言うものをもっていると
思った。

従軍記者のどこがいいのか。
ぼろぼろになって帰ってくるからと
そう思った。

一方、外国人であるブラックバーン校長が
花子にいった。
「この先、国と国がどうなるかわかりませんが
私たちの友情は永遠です」。
「私はどこにいてもあなたたちの幸せを
心から祈っています
「あなたの翻訳は二つの国の友情の
シンボルです。」
「どうか、あなたが私の夢を引き継いで
ください
この国の人々に愛と平和を・・・」

愛と平和を説くブラックバーン校長
の精神を
継承する花子の決意は
従軍記者として
息をまく宇田川よりも
ずっと
人間らしい
崇高なものに見えた。