新しい家族4
旭が結核になり、転地療養となった。
ももは、看護のために美里を
花子たちに預けた。
村岡家の協力によりももは、
しっかりと
看病ができた。
★それから5年たちました。
1938年昭和13年夏・・・。
★ももの献身的な看病のおかげで
旭は元気になり、英治の頼もしい
片腕となって働いています。
そしてももと旭の間に、もう一人
女の子が生まれました。
★花子たちが長らく預かっていた美里は
ももと旭のたっての願いで
村岡家の養女となりました。
愛犬のテルも大きくなりました。
テルと遊ぶ美里が
花子に声をかけた。ラジオ局へ
いく時間である。
「おかあちゃま、いってらっしゃい。」
と、美里。
「美里、ももおばちゃまの言うことを
聞いていい子にしているのよ。」
「はい!夕方ラジオ聞くからね。」
「ふふふ、いってきます」
花子は美里の頭を撫でた。
花子は番組で読む原稿を
どれにするか悩んでいた。
漆原がやってきて「まだ決まらないのですか」
と聞く。
花子は、「すみません」と謝り
「あの、動物に関するニュースはないですか?
以前は、動物が逃げ出して大変という
ニュースがありましたが・・・。」
漆原は、いらいらしながら、「村岡先生
この時局下にあって、動物のことなど
どうでもいいのです。」
と、怒った。
「わかりました・・」と花子は答えた。
★前年、日中戦争が勃発しこの春には国家総動員法が
でき、国民は総力を挙げて軍事体制への協力が
求められていました。
コドモの新聞のニュースも軍事に関するものが
大半をしめるようになりました。
住宅地では
子供たちが一列に並んで足を上げて
軍隊のマネをして行進している。
兵隊さんごっこである。
すると一人の子供が叫んだ。
「あ、今日はラジオのおばさんの日だ!」
「もうじき始まるぞ」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう~~」
子供たちはいっせいに家に走って
かえってラジオの前に座る。
有馬が話す。
「JOAK東京放送局であります。
ただいまからコドモの時間の放送です。」
村岡家では、英治が美里を抱いて
旭、ももと赤ん坊が
ラジオの前に座っていた。
美里は、「楽しみだな。
今日ね、おかあちゃまにお願いしたの。
美里が好きな動物のお話をしてって。」
英治は、「へぇ~」とうれしそうに
答えた。
「さて続きましては、みなさん、お待ちかね
の、村岡花子先生のコドモの新聞
であります。」
「全国のお小さい方々、ごきげんよう。
コドモの新聞のお時間です。
はるか太平洋の向こう
カナダのバンクーバーという
港に住む日本人は青年会を作って
います。その中の少年たち30人は
クリスマスやお正月のおこずかいを
倹約して貯金をしていました。
それが25円53銭になりましたので
陸軍省宛に送ってきました。
このお金で軍馬や軍用犬や軍用
鳩のために何かごちそうをして
あげてください。。と。」
放送を聞く宮本家では
純平が帰ってきた。
「お帰りなさい」、純平と蓮子。
「ただ今戻りました・・・。」
純平は言った。
「また、一週間たったらお話ししましょうね。
それではみなさん、ごきげんよう
さようなら・・。」
花子の放送が終わった。
美里は「動物のお話は?」と
英治に聞いた。
英治は、「う~~ん・・」
と考えた。
「軍用馬、軍用犬、軍用鳩って
いってたろ?
あれは、兵隊さんたちのお手伝いをする
うまや、犬や、鳩のことだよ。」
美里はしっくりこない。
「動物の話には間違いないけどね。」
と旭。
「美里ちゃんには難しかったかな」と
もも・・・。
宮本家ではカナダの子供たちの
話をしていた。
富士子は、おこずかいを貯めて
陸軍省に送るってということを
感心していた。
ところが純平は
一番立派なのはお国のために
たたかっている兵隊さんたち
だという。
純平は兵隊に入りたいのだ。
でもまだ子供である。
蓮子は、純平に声をかけた。
かれは居住まいを正していった。
「お母様、僕は軍人になりたいです」という。
姑は「立派な心がけです」という。
純平は少年航空兵は15歳から
募集があるので試験を受けさせて
くださいと母に頼んだ。
蓮子は反対した。
「まだ、純平は学ぶことがたくさん
あるから。戦地がどういうところ
かもわかっていないでしょうから。」と。
「僕はお国のために身をささげ
お母様たちをお守りしたいのです。」
純平は必死で訴えた。
蓮子は驚いた。
村岡家に訪問した蓮子は
その話を花子にした。
花子は驚き、「龍一さんはどう
いっているか」と聞く。
そんなこと言えないと蓮子は
答えた。
龍一は中国との戦争を終わらせるために
昔の仲間と活動をしているという。
家族には迷惑をかけたくないと
いってあまり話してくれなそうだ。
花子は、暗い思いになった。
戦争の影は人々の暮らしの中に
忍び寄っておりました。
庭でテルと遊ぶ美里じっと見ている
花子だった。
そこに、来客があった。
梶原だ。
それとスコット先生がご一緒だった。
スコット先生は、梶原の会社で
仕事を手伝ってくれている
という。
翻訳物を出版している梶原は
これからは翻訳物は
出しづらくなるだろうけど
できるだけのことはしたいという。
「で、これが彼女の御推薦の本だけど
どうかな?」と梶原は一冊の本を
出してきた。
「POLLYANNA」という題だった。
花子は、うれしそうに「これは大好きだった
本です」という。
ポリアナと読むのでしょうか、訳は
パレアナという。
どんなつらいときにも希望をもって
笑顔をわすれない
少女のお話である。
「梶原さん、この本はきっと日本でも
愛されると思います。」
梶原は翻訳を依頼した。
花子はその仕事をすることにした。
「スコット先生と一緒にお仕事が
できるなんてうれしいです」と
花子は言った。
「わたしもよ」と先生。
「スコット先生は英語が通じる
喜びを渡しに教えて下さった
恩人なのです」と花子はいった。
「他の先生方はお元気ですか」と
花子はスコット先生に聞いた。
「何人かはカナダに帰られました」と
スコット先生は言った。
「そうですか。
ミッションスクールへの政府の締め付けが
始まっていると聞いていたので心配
していました」と花子はいった。
「これからどうなっていくのでしょうか」。
スコット先生は困った顔をした。
花子も同感だった。
パレアナの原稿を書く花子。
まだ平和なうちに
まだ、戦争がはげしくならない
うちに
と花子はペンを走らせている
ようだった。
扇風機がぶんぶんとなる。
それは、戦闘機が
ぶんぶんとうなっている
かのようだった。
そして子供たちは兵隊さんごっこ
をする。
世の中が軍国主義一色
に染まりかけている。
扇風機が戦闘機のエンジン音に
聞こえる。
花子は、ペンを走らせる。
軍用犬がいた・・・
あの、兵隊さんの影絵に。
そしてぶんぶんとなる
扇風機が、勢いを
増していく・・・
そんなある日のこと
だった。
女性会のタスキをかけた女性たちがやって
きて、「役場から連絡はあったと思います
が、この犬はお国のためにお預かりします」
といって、テルをつれていった。
テルは、行きたくないというように
花子たちにむかって
後ろ足で立ってきゃんきゃんと
言いながら
前足を前に出した。
「この犬は、娘と楽しく遊ぶことしかで
きません。お役にたてるかどうか・・」
と花子が言う。
「お国のためです」
と、きっぱりと女性は言った。
キャン、キャンと
悲しそうにテルは泣いた。
「テル・・・」
女性たちはテルをひっぱって
行ってしまった。
★ほっそりした柴犬のテルが
戦地で勇ましく戦えるはずがありません。
役に立たなければどうなるのか。
花子も英治もテルが二度と帰ってこない
事を知っていました。
夕方、ももと出かけていた美里が
帰ってきた。
「おかあちゃま、ただいま」といった。
花子は、美里に「あのね」と声をかけたが
美里は、まっすぐにテルのところへ
いった。
「テル!!
あれ・・・」
犬小屋はからっぽである。
「テルがいない・・
テル!!テル~~
おかあちゃま、テルは?」
と美里は花子に聞いた。
「あのね、美里…テルは・・」
花子はどういっていいものか
言葉に詰まった。
印刷所から英治が出てきた。
「テルは、お仕事に行ったんだよ。」
といった。
美里は意味が分からない。
英治は「兵隊さんたちを手助けするために
いったんだよ」、という。
「おかあちゃまそうなの?」
「ええ・・。」
「美里もテルをお見送りしたかった
のに・・・。」
花子はいった。
「テルね、目でお話をしていたわ。
僕行ってきます。
美里ちゃんにありがとうと
言って下さいって。」
「テル、いつ帰ってくるの?」
大人は凍りつく。
「テル帰ってくるのでしょう?
おかあちゃま、テル
帰ってくるわよね?」
純粋な子供の質問に
答えられない・・
花子、
英治
もも
旭
だった。
夕暮れにひぐらしがなく。
★とても、本当のことは言えない
花子でした。
ごきげんよう
さようなら
***************
旭が元気になった。
そしてももは二人目の子供を産んだ。
それはそれで素晴らしいことだった。
おそらく五年の間、村岡家に預けられていた
美里を実の父母はこちらですといって
も、子供が混乱すると
思ったのか、そっと育てようと
思ったのか、美里は村岡家の
養女になっていた。
大事に育てられていることが
よくわかる。
コドモの時間のニュースが
戦争へ向かっていることは花子も
よくわかっていた。
が、宮本家がどうも不安である。
お国のために兵隊になりたいと
いう純平。龍一のことを
彼はよく知らないのだ。
龍一は、中国との戦争を
やめさせようと活動を
しているというが
これ・・・
まさか・・・
共産党の地下活動では???
思想犯は重い罪だと言います。
以前、甲府で蓮子が吉太郎に
いったことがある。
軍人になりたいという吉太郎に
与謝野晶子の詩を紹介した。
君死に給うことなかれ・・である。
蓮子が反対するのも当然だと
思った。
ミッションスクールへの政府の
圧迫はきびしいというが、
スコット先生もこのまま日本にいると
大変なことになると思った。
そのなかでであった一冊の本。
少女パレアナである。
この本は読んだことがある。
すごく面白かった。
どんなことがあっても
主人公は希望を忘れないのである。
そして許せないのが
軍用犬として育てられてない
テルを
連れて行ったことだ。
犬といえども家族である。
大事な家族であるテルを
無造作にもつれていったことは
許せないことだと
思った。
美里の心の傷は
どうなる???
そして使い物にならなければ
殺されるわけだ。
テルは
二度と美里に会えない。
二度と帰ってこれない。
大事な友達を
大事な家族を連れて行った
戦争を許してはいけないと
思った・・。
旭が結核になり、転地療養となった。
ももは、看護のために美里を
花子たちに預けた。
村岡家の協力によりももは、
しっかりと
看病ができた。
★それから5年たちました。
1938年昭和13年夏・・・。
★ももの献身的な看病のおかげで
旭は元気になり、英治の頼もしい
片腕となって働いています。
そしてももと旭の間に、もう一人
女の子が生まれました。
★花子たちが長らく預かっていた美里は
ももと旭のたっての願いで
村岡家の養女となりました。
愛犬のテルも大きくなりました。
テルと遊ぶ美里が
花子に声をかけた。ラジオ局へ
いく時間である。
「おかあちゃま、いってらっしゃい。」
と、美里。
「美里、ももおばちゃまの言うことを
聞いていい子にしているのよ。」
「はい!夕方ラジオ聞くからね。」
「ふふふ、いってきます」
花子は美里の頭を撫でた。
花子は番組で読む原稿を
どれにするか悩んでいた。
漆原がやってきて「まだ決まらないのですか」
と聞く。
花子は、「すみません」と謝り
「あの、動物に関するニュースはないですか?
以前は、動物が逃げ出して大変という
ニュースがありましたが・・・。」
漆原は、いらいらしながら、「村岡先生
この時局下にあって、動物のことなど
どうでもいいのです。」
と、怒った。
「わかりました・・」と花子は答えた。
★前年、日中戦争が勃発しこの春には国家総動員法が
でき、国民は総力を挙げて軍事体制への協力が
求められていました。
コドモの新聞のニュースも軍事に関するものが
大半をしめるようになりました。
住宅地では
子供たちが一列に並んで足を上げて
軍隊のマネをして行進している。
兵隊さんごっこである。
すると一人の子供が叫んだ。
「あ、今日はラジオのおばさんの日だ!」
「もうじき始まるぞ」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう~~」
子供たちはいっせいに家に走って
かえってラジオの前に座る。
有馬が話す。
「JOAK東京放送局であります。
ただいまからコドモの時間の放送です。」
村岡家では、英治が美里を抱いて
旭、ももと赤ん坊が
ラジオの前に座っていた。
美里は、「楽しみだな。
今日ね、おかあちゃまにお願いしたの。
美里が好きな動物のお話をしてって。」
英治は、「へぇ~」とうれしそうに
答えた。
「さて続きましては、みなさん、お待ちかね
の、村岡花子先生のコドモの新聞
であります。」
「全国のお小さい方々、ごきげんよう。
コドモの新聞のお時間です。
はるか太平洋の向こう
カナダのバンクーバーという
港に住む日本人は青年会を作って
います。その中の少年たち30人は
クリスマスやお正月のおこずかいを
倹約して貯金をしていました。
それが25円53銭になりましたので
陸軍省宛に送ってきました。
このお金で軍馬や軍用犬や軍用
鳩のために何かごちそうをして
あげてください。。と。」
放送を聞く宮本家では
純平が帰ってきた。
「お帰りなさい」、純平と蓮子。
「ただ今戻りました・・・。」
純平は言った。
「また、一週間たったらお話ししましょうね。
それではみなさん、ごきげんよう
さようなら・・。」
花子の放送が終わった。
美里は「動物のお話は?」と
英治に聞いた。
英治は、「う~~ん・・」
と考えた。
「軍用馬、軍用犬、軍用鳩って
いってたろ?
あれは、兵隊さんたちのお手伝いをする
うまや、犬や、鳩のことだよ。」
美里はしっくりこない。
「動物の話には間違いないけどね。」
と旭。
「美里ちゃんには難しかったかな」と
もも・・・。
宮本家ではカナダの子供たちの
話をしていた。
富士子は、おこずかいを貯めて
陸軍省に送るってということを
感心していた。
ところが純平は
一番立派なのはお国のために
たたかっている兵隊さんたち
だという。
純平は兵隊に入りたいのだ。
でもまだ子供である。
蓮子は、純平に声をかけた。
かれは居住まいを正していった。
「お母様、僕は軍人になりたいです」という。
姑は「立派な心がけです」という。
純平は少年航空兵は15歳から
募集があるので試験を受けさせて
くださいと母に頼んだ。
蓮子は反対した。
「まだ、純平は学ぶことがたくさん
あるから。戦地がどういうところ
かもわかっていないでしょうから。」と。
「僕はお国のために身をささげ
お母様たちをお守りしたいのです。」
純平は必死で訴えた。
蓮子は驚いた。
村岡家に訪問した蓮子は
その話を花子にした。
花子は驚き、「龍一さんはどう
いっているか」と聞く。
そんなこと言えないと蓮子は
答えた。
龍一は中国との戦争を終わらせるために
昔の仲間と活動をしているという。
家族には迷惑をかけたくないと
いってあまり話してくれなそうだ。
花子は、暗い思いになった。
戦争の影は人々の暮らしの中に
忍び寄っておりました。
庭でテルと遊ぶ美里じっと見ている
花子だった。
そこに、来客があった。
梶原だ。
それとスコット先生がご一緒だった。
スコット先生は、梶原の会社で
仕事を手伝ってくれている
という。
翻訳物を出版している梶原は
これからは翻訳物は
出しづらくなるだろうけど
できるだけのことはしたいという。
「で、これが彼女の御推薦の本だけど
どうかな?」と梶原は一冊の本を
出してきた。
「POLLYANNA」という題だった。
花子は、うれしそうに「これは大好きだった
本です」という。
ポリアナと読むのでしょうか、訳は
パレアナという。
どんなつらいときにも希望をもって
笑顔をわすれない
少女のお話である。
「梶原さん、この本はきっと日本でも
愛されると思います。」
梶原は翻訳を依頼した。
花子はその仕事をすることにした。
「スコット先生と一緒にお仕事が
できるなんてうれしいです」と
花子は言った。
「わたしもよ」と先生。
「スコット先生は英語が通じる
喜びを渡しに教えて下さった
恩人なのです」と花子はいった。
「他の先生方はお元気ですか」と
花子はスコット先生に聞いた。
「何人かはカナダに帰られました」と
スコット先生は言った。
「そうですか。
ミッションスクールへの政府の締め付けが
始まっていると聞いていたので心配
していました」と花子はいった。
「これからどうなっていくのでしょうか」。
スコット先生は困った顔をした。
花子も同感だった。
パレアナの原稿を書く花子。
まだ平和なうちに
まだ、戦争がはげしくならない
うちに
と花子はペンを走らせている
ようだった。
扇風機がぶんぶんとなる。
それは、戦闘機が
ぶんぶんとうなっている
かのようだった。
そして子供たちは兵隊さんごっこ
をする。
世の中が軍国主義一色
に染まりかけている。
扇風機が戦闘機のエンジン音に
聞こえる。
花子は、ペンを走らせる。
軍用犬がいた・・・
あの、兵隊さんの影絵に。
そしてぶんぶんとなる
扇風機が、勢いを
増していく・・・
そんなある日のこと
だった。
女性会のタスキをかけた女性たちがやって
きて、「役場から連絡はあったと思います
が、この犬はお国のためにお預かりします」
といって、テルをつれていった。
テルは、行きたくないというように
花子たちにむかって
後ろ足で立ってきゃんきゃんと
言いながら
前足を前に出した。
「この犬は、娘と楽しく遊ぶことしかで
きません。お役にたてるかどうか・・」
と花子が言う。
「お国のためです」
と、きっぱりと女性は言った。
キャン、キャンと
悲しそうにテルは泣いた。
「テル・・・」
女性たちはテルをひっぱって
行ってしまった。
★ほっそりした柴犬のテルが
戦地で勇ましく戦えるはずがありません。
役に立たなければどうなるのか。
花子も英治もテルが二度と帰ってこない
事を知っていました。
夕方、ももと出かけていた美里が
帰ってきた。
「おかあちゃま、ただいま」といった。
花子は、美里に「あのね」と声をかけたが
美里は、まっすぐにテルのところへ
いった。
「テル!!
あれ・・・」
犬小屋はからっぽである。
「テルがいない・・
テル!!テル~~
おかあちゃま、テルは?」
と美里は花子に聞いた。
「あのね、美里…テルは・・」
花子はどういっていいものか
言葉に詰まった。
印刷所から英治が出てきた。
「テルは、お仕事に行ったんだよ。」
といった。
美里は意味が分からない。
英治は「兵隊さんたちを手助けするために
いったんだよ」、という。
「おかあちゃまそうなの?」
「ええ・・。」
「美里もテルをお見送りしたかった
のに・・・。」
花子はいった。
「テルね、目でお話をしていたわ。
僕行ってきます。
美里ちゃんにありがとうと
言って下さいって。」
「テル、いつ帰ってくるの?」
大人は凍りつく。
「テル帰ってくるのでしょう?
おかあちゃま、テル
帰ってくるわよね?」
純粋な子供の質問に
答えられない・・
花子、
英治
もも
旭
だった。
夕暮れにひぐらしがなく。
★とても、本当のことは言えない
花子でした。
ごきげんよう
さようなら
***************
旭が元気になった。
そしてももは二人目の子供を産んだ。
それはそれで素晴らしいことだった。
おそらく五年の間、村岡家に預けられていた
美里を実の父母はこちらですといって
も、子供が混乱すると
思ったのか、そっと育てようと
思ったのか、美里は村岡家の
養女になっていた。
大事に育てられていることが
よくわかる。
コドモの時間のニュースが
戦争へ向かっていることは花子も
よくわかっていた。
が、宮本家がどうも不安である。
お国のために兵隊になりたいと
いう純平。龍一のことを
彼はよく知らないのだ。
龍一は、中国との戦争を
やめさせようと活動を
しているというが
これ・・・
まさか・・・
共産党の地下活動では???
思想犯は重い罪だと言います。
以前、甲府で蓮子が吉太郎に
いったことがある。
軍人になりたいという吉太郎に
与謝野晶子の詩を紹介した。
君死に給うことなかれ・・である。
蓮子が反対するのも当然だと
思った。
ミッションスクールへの政府の
圧迫はきびしいというが、
スコット先生もこのまま日本にいると
大変なことになると思った。
そのなかでであった一冊の本。
少女パレアナである。
この本は読んだことがある。
すごく面白かった。
どんなことがあっても
主人公は希望を忘れないのである。
そして許せないのが
軍用犬として育てられてない
テルを
連れて行ったことだ。
犬といえども家族である。
大事な家族であるテルを
無造作にもつれていったことは
許せないことだと
思った。
美里の心の傷は
どうなる???
そして使い物にならなければ
殺されるわけだ。
テルは
二度と美里に会えない。
二度と帰ってこれない。
大事な友達を
大事な家族を連れて行った
戦争を許してはいけないと
思った・・。
