新しい家族3
★歩の誕生日の9月13日、
ももと旭にかわいい女の子が
生まれました。
名前は美里ちゃんという。
村岡家にとってもかわいい子供
である。
父親の旭はひっしで名前を考えた。
ももの子だからもも太郎がいいという
が、それはだめだろうと
周囲は反対。
で、美里になった。
英治が墨で鮮やかに命名の名札を書いた。
★やっと名前が決まってよかったですね。
花子は「ごきげんよう、美里ちゃん」といった。
1933年昭和8年 冬
★あれから三か月が過ぎました。
ラジオ局で花子は原稿をチェックしていた。
そこへ漆原部長がやってきた。
「ごきげんよう」
花子は驚いて立ち上がっていった。
「漆原部長、ごきげんよう」
「今日も随分と原稿を書き換えていますね。
今日はこちらの原稿に差し替えて
ください。」
漆原は花子に新しい原稿を渡した。
急なことである。
漆原は花子が担当する週はのんきな話題が
多いという。
「ご自分の人気取りのために面白おかしい
話をとりあげるのはいかがなものかと。」
花子はそんなことないという。
が、漆原は「今日はこちらにしてください」と
いった。
花子は原稿を見た。
「この内容なら明日でもいいのではないですか?
時間もないし。」
「手直しせずにそのまま読めばいいではないですか?」
漆原は、トーンを下げて言った。
「じゃのちほど、ごきげんよう」
と言って出て行った。
花子は、「この原稿では子供たちに
伝わらない」と手直しをした。
「全国のお小さい方々
ごきげんよう
これから皆さんの新聞の時間です。
満州でお働きの兵隊さんを手助けして
いろいろ手柄を立てる犬の兵隊さん。
すなわち軍用犬のお話はついこの間申し
ましたが、陸軍ではこの四月からこの軍用
犬をどしどし育てることになりました。
そこで軍用犬の学校が・・・・」
漆原は指揮室で立ち上がり
「また原稿を直したのか」と
黒沢に言う。
黒沢は、「ハイ」と答えた。
漆原はいまいましそうに
花子を見た。
「公主嶺というところにでき
利口で勇ましい性質の犬を・・・」
花子が帰ると
英治が困ったような顔をして
「お帰り」と出てきた。
「なにかあったの?」
聞くと、
旭が結核だという。
ももは、美里を預かって欲しいと
いった。
毎日病院へ
看病にいくのである。
せっかく、旭といっしょになれて
しあわせになれると思っていたのに
と花子は悔しがった。
「どうしてももだけあんな悲しい
思いをしなくてはいけないのか」と
いう。
花子の育児は難を極めた。
執筆中に美里がなく。
ペンを止めて
あやすが、お乳なのか
おしめなのか・・・
そう思っていたら
英治が帰ってきた。
そして、ふところから
子犬を取り出した。
「かわいい」と花子は言った。
英治は「美里の友達だ」という。
ついてきたので連れてきたらしい。
泣いていた美里が
泣き止んだ。
花子たちは、子犬も飼うことに
なった。
新しい家族は美里と子犬。
名前は?
「泣いていた美里ちゃんを
明るくしたからテルテル坊主の
テルにしましょう」と花子は言った。
英治は犬小屋を作った。
花子のもとに吉平と
ふじから手紙が来た。
『旭君のこと心配しています。
はな、忙しいと思うけど
もものことを助けてやってくりょ。
なんか困ったことがあったらすぐに
いうだよ、すぐに飛んでいくから。
おとう、おかあより』
ももが帰ってきた。
どうやら、旭は転地療養といって
空気にいいところで
じっくり療養したほうがいいと
医者が言ったという。
ももは、一緒にいきたいという。
英治も賛成した。
「ももさんが一緒なら旭も心丈夫だろう」
といった。
しかし、美里は赤ん坊で病気が
移りやすいので、一緒でないほうがいい
という。
いまは、旭のそばにいてあげたいというもも。
「前の主人はお医者さんへもつれて
いけなかった、だから旭さんには精いっぱいの
ことをしてあげたい。
旭が退院できるまで美里を預かってください」と
ももは頼み込んだ。
花子も英治も賛成した。
ももは、花子に謝らなければ
ならないことがあるといった。
東京へ来たばかりのころ
花子にひどいことを言った。
「しあわせなおねえやんには
私の気持ちなんかわかりっこない。」
ももは、花子が日の当たるところばかり
を歩いてきたのだと思っていたらしい。
みじめな思いなどしたことないと思って
いたという。
でもちがった・・・。
「私の知らないところで悔しい思いをいっぱいして
涙もいっぱい流して
わたしは、おねえやんがうらやましくて
そんなこともわからなかった。」
あの時、花子の忘れ物を届けに
いった時のことだった。
漆原から
「貧しい家の出であるあなたがことさら
ごきげんようという言葉を使いたい気持ちは
わかります。
しかし
ごきげんようが似合う人間と似合わない人間
がいるのですよ!」
と言われた。
花子は負けなかった。
「そうでしょうか、人生はうまくいくときばかり
ではありません。
どうかすべての人たちが明日も元気に
無事に放送を聞けますようにという
祈りを込めて番組を終わらせたいのです。」
「それではみなさん・・・ごきげんよう
さようなら・・・」
「ごきげんよう・・・」と
つぶやくもも。
「あの時、おねえやんのごきげんようという
言葉がすっと入ってきて
おらまで胸の中が温かくなった。
それなのに、ずっと謝らなくて・・・
ごめんなさい。」
ももは、畳に頭を下げた。
花子は「ももの気持ちをわかってあげれなくて
ごめんね」といった。
ももは、花子に「もう自分はみじめだなんて
ちっとも思ってない」という。
「旭さんのような優しい人に出会えて
おねえやんやお兄さんに祝福して
もらって
美里も元気に生まれてきてくれて
今は毎日旭さんの看病ができて
本当に幸せ!
そう思えたのはお姉やんのおかげだよ。」
英治は、ももに「美里ちゃんのことは
心配しなくていいから旭君のことを
しっかり見てあげて
下さい」と言った。
「ありがとうございます。」
花子は、ももに
「大丈夫よ、旭さんきっとよく
なるわ」といった。
「ありがとう・・・」
そう、ももはいった。
★こうしてももは美里を花子たちに
たくして旭の療養先へ向かいました。
ごきげんよう
さようなら・・・
******************
花子だけは日の当たるところばかり歩いて
きたと思っていたもも。
自分はおなじ両親から生まれたのに
みじめな人生を生きてきて
こんな自分をわかるわけがないと思って
いた。
花子の心を込めたごきげようが
もものかじかんだ心を溶かしたのだった。
むしろ・・
ごきげんようが似合わないのは
漆原ではないかと思う。
花子の原稿の書き直しを
人気取りといった。
ラジオを聞かせてやってやるという
傲慢な心丸出しである。
マスコミは権力というが
このころのラジオはもはや
権力のかたちとなっていた
ようである。
視聴者を馬鹿にしたたいどでは
ないかと思う。
花子は、コドモがわかるように
興味を持つように
と原稿を書き直した。
漆原はそれが気に入らない。
視聴者に支持されることがそんなに
疎ましいことなのかと
思うが・・・。
朝市が言っていた、芸人さんが
村岡花子のものまねをするという
風潮にも花子の人気度が高いことを
示している。
それは、非常にわかりやすいから
と親しみやすいからではないだろうか。
黒沢はきっとわかっているが
やはり、上司には逆らえないし・・。
漆原を飛び越えて局長に
村岡花子を推薦したのは、こういう
ことを思ってのことだったのだろうか。
ももは、幸せになったはずだった。
優しい夫とかわいい子供。
しかし…運命は過酷である。
かよも
いい人がいないのでしょうかね?
★歩の誕生日の9月13日、
ももと旭にかわいい女の子が
生まれました。
名前は美里ちゃんという。
村岡家にとってもかわいい子供
である。
父親の旭はひっしで名前を考えた。
ももの子だからもも太郎がいいという
が、それはだめだろうと
周囲は反対。
で、美里になった。
英治が墨で鮮やかに命名の名札を書いた。
★やっと名前が決まってよかったですね。
花子は「ごきげんよう、美里ちゃん」といった。
1933年昭和8年 冬
★あれから三か月が過ぎました。
ラジオ局で花子は原稿をチェックしていた。
そこへ漆原部長がやってきた。
「ごきげんよう」
花子は驚いて立ち上がっていった。
「漆原部長、ごきげんよう」
「今日も随分と原稿を書き換えていますね。
今日はこちらの原稿に差し替えて
ください。」
漆原は花子に新しい原稿を渡した。
急なことである。
漆原は花子が担当する週はのんきな話題が
多いという。
「ご自分の人気取りのために面白おかしい
話をとりあげるのはいかがなものかと。」
花子はそんなことないという。
が、漆原は「今日はこちらにしてください」と
いった。
花子は原稿を見た。
「この内容なら明日でもいいのではないですか?
時間もないし。」
「手直しせずにそのまま読めばいいではないですか?」
漆原は、トーンを下げて言った。
「じゃのちほど、ごきげんよう」
と言って出て行った。
花子は、「この原稿では子供たちに
伝わらない」と手直しをした。
「全国のお小さい方々
ごきげんよう
これから皆さんの新聞の時間です。
満州でお働きの兵隊さんを手助けして
いろいろ手柄を立てる犬の兵隊さん。
すなわち軍用犬のお話はついこの間申し
ましたが、陸軍ではこの四月からこの軍用
犬をどしどし育てることになりました。
そこで軍用犬の学校が・・・・」
漆原は指揮室で立ち上がり
「また原稿を直したのか」と
黒沢に言う。
黒沢は、「ハイ」と答えた。
漆原はいまいましそうに
花子を見た。
「公主嶺というところにでき
利口で勇ましい性質の犬を・・・」
花子が帰ると
英治が困ったような顔をして
「お帰り」と出てきた。
「なにかあったの?」
聞くと、
旭が結核だという。
ももは、美里を預かって欲しいと
いった。
毎日病院へ
看病にいくのである。
せっかく、旭といっしょになれて
しあわせになれると思っていたのに
と花子は悔しがった。
「どうしてももだけあんな悲しい
思いをしなくてはいけないのか」と
いう。
花子の育児は難を極めた。
執筆中に美里がなく。
ペンを止めて
あやすが、お乳なのか
おしめなのか・・・
そう思っていたら
英治が帰ってきた。
そして、ふところから
子犬を取り出した。
「かわいい」と花子は言った。
英治は「美里の友達だ」という。
ついてきたので連れてきたらしい。
泣いていた美里が
泣き止んだ。
花子たちは、子犬も飼うことに
なった。
新しい家族は美里と子犬。
名前は?
「泣いていた美里ちゃんを
明るくしたからテルテル坊主の
テルにしましょう」と花子は言った。
英治は犬小屋を作った。
花子のもとに吉平と
ふじから手紙が来た。
『旭君のこと心配しています。
はな、忙しいと思うけど
もものことを助けてやってくりょ。
なんか困ったことがあったらすぐに
いうだよ、すぐに飛んでいくから。
おとう、おかあより』
ももが帰ってきた。
どうやら、旭は転地療養といって
空気にいいところで
じっくり療養したほうがいいと
医者が言ったという。
ももは、一緒にいきたいという。
英治も賛成した。
「ももさんが一緒なら旭も心丈夫だろう」
といった。
しかし、美里は赤ん坊で病気が
移りやすいので、一緒でないほうがいい
という。
いまは、旭のそばにいてあげたいというもも。
「前の主人はお医者さんへもつれて
いけなかった、だから旭さんには精いっぱいの
ことをしてあげたい。
旭が退院できるまで美里を預かってください」と
ももは頼み込んだ。
花子も英治も賛成した。
ももは、花子に謝らなければ
ならないことがあるといった。
東京へ来たばかりのころ
花子にひどいことを言った。
「しあわせなおねえやんには
私の気持ちなんかわかりっこない。」
ももは、花子が日の当たるところばかり
を歩いてきたのだと思っていたらしい。
みじめな思いなどしたことないと思って
いたという。
でもちがった・・・。
「私の知らないところで悔しい思いをいっぱいして
涙もいっぱい流して
わたしは、おねえやんがうらやましくて
そんなこともわからなかった。」
あの時、花子の忘れ物を届けに
いった時のことだった。
漆原から
「貧しい家の出であるあなたがことさら
ごきげんようという言葉を使いたい気持ちは
わかります。
しかし
ごきげんようが似合う人間と似合わない人間
がいるのですよ!」
と言われた。
花子は負けなかった。
「そうでしょうか、人生はうまくいくときばかり
ではありません。
どうかすべての人たちが明日も元気に
無事に放送を聞けますようにという
祈りを込めて番組を終わらせたいのです。」
「それではみなさん・・・ごきげんよう
さようなら・・・」
「ごきげんよう・・・」と
つぶやくもも。
「あの時、おねえやんのごきげんようという
言葉がすっと入ってきて
おらまで胸の中が温かくなった。
それなのに、ずっと謝らなくて・・・
ごめんなさい。」
ももは、畳に頭を下げた。
花子は「ももの気持ちをわかってあげれなくて
ごめんね」といった。
ももは、花子に「もう自分はみじめだなんて
ちっとも思ってない」という。
「旭さんのような優しい人に出会えて
おねえやんやお兄さんに祝福して
もらって
美里も元気に生まれてきてくれて
今は毎日旭さんの看病ができて
本当に幸せ!
そう思えたのはお姉やんのおかげだよ。」
英治は、ももに「美里ちゃんのことは
心配しなくていいから旭君のことを
しっかり見てあげて
下さい」と言った。
「ありがとうございます。」
花子は、ももに
「大丈夫よ、旭さんきっとよく
なるわ」といった。
「ありがとう・・・」
そう、ももはいった。
★こうしてももは美里を花子たちに
たくして旭の療養先へ向かいました。
ごきげんよう
さようなら・・・
******************
花子だけは日の当たるところばかり歩いて
きたと思っていたもも。
自分はおなじ両親から生まれたのに
みじめな人生を生きてきて
こんな自分をわかるわけがないと思って
いた。
花子の心を込めたごきげようが
もものかじかんだ心を溶かしたのだった。
むしろ・・
ごきげんようが似合わないのは
漆原ではないかと思う。
花子の原稿の書き直しを
人気取りといった。
ラジオを聞かせてやってやるという
傲慢な心丸出しである。
マスコミは権力というが
このころのラジオはもはや
権力のかたちとなっていた
ようである。
視聴者を馬鹿にしたたいどでは
ないかと思う。
花子は、コドモがわかるように
興味を持つように
と原稿を書き直した。
漆原はそれが気に入らない。
視聴者に支持されることがそんなに
疎ましいことなのかと
思うが・・・。
朝市が言っていた、芸人さんが
村岡花子のものまねをするという
風潮にも花子の人気度が高いことを
示している。
それは、非常にわかりやすいから
と親しみやすいからではないだろうか。
黒沢はきっとわかっているが
やはり、上司には逆らえないし・・。
漆原を飛び越えて局長に
村岡花子を推薦したのは、こういう
ことを思ってのことだったのだろうか。
ももは、幸せになったはずだった。
優しい夫とかわいい子供。
しかし…運命は過酷である。
かよも
いい人がいないのでしょうかね?
