ラジオのおばさん誕生1
★大正15年9月1日
花子の長男歩が息を引き取りました。
時代は、昭和に代わり、花子は児童文学の
翻訳に没頭しておりました。

1932年昭和7年5月。

★日本中の子供たちのために
楽しい物語をおくりとどけたいとの
強い思いからです。
三年前に平祐がなくなり
この家は英治と花子だけになって
しまいました。

英治は、「わが青凛社の新しい雑誌が
完成しました。」といって
創刊号家庭を平祐、郁弥、歩の
遺影の前に供えた。
花子も英治とともにそれをみつめた。
「子どもも大人も楽しめるような
雑誌にしました。
歩は喜んでくれているかしら?」
と花子は、はなしかけた。
「ああ、きっと喜んでくれているよ。」
英治がみつめる写真の歩は
笑っていた。
★歩の死から六年
二人が歩のことを思わない日はありません
でした・・・。

その日
カフェタイムでは雑誌家庭の創刊を記念して
作家先生たちをまねいて
創刊記念パーティを行って
いた。

「おかげさま青凛社の雑誌家庭、
皆様のご協力のおかげで
無事創刊の運びとなりました。」
英治は、コップを手に持って
挨拶をした。

花子は
「大先輩の長谷部汀先生、宇田川満代先生にも
御寄稿いただき誠に光栄に存じます。」
と言って頭を下げた。

「白蓮先生には、募集した短歌の選者として
醍醐亜矢子先生には随筆を御寄稿いただき
ありがとうございました。」

英治は、
「今後ともこの雑誌を通じ日本中の家庭に上質は
家庭文学を届けるよう精進していく所存ですので
どうぞよろしくお願いします。」
といって締めくくった。
「それでは!!!」

と英治は、コップを高く上げたので
座っていたゲストさんたちは
たちあがり、ともに乾杯をした。

長谷部は
「王子と乞食を出版したところなら
ぜひ協力したいと
思ったのよ」という。

「ありがとうございます」と
英治は言う。
宇田川は
「で、どうして聡文堂の梶原さんがいる「
わけ?」
と聞く。
梶原はそっと座っていた。
梶原は大震災で聡文堂を失ったが
また再建できた。

「今の文学会を支える著名な先生方の
お集まりに参加できて僕も
光栄です。
先生方これを機会にわが新生聡文堂にも
ぜひ書いてください」といった。
醍醐は、「文学は書けないけど
女流作家の評伝を書きたいと
思っている」といった。
「長谷部先生や宇田川先生の評伝も書きたい
のです。ぜひ、聡文堂で書かせてください」と
いった。
梶原は「こちらこそお願いします」といった。
そして、花子に、「これから翻訳物を
てがけたいのだが今後どんな作品を
反訳したいですか」と聞く。

「今の日本には10代の若い方たちが
よむ翻訳物が少ないですね」
と花子は言った。
花子は女学校時代に読みふけっていた
欧米の青春文学をもっともっと紹介
していきたいと語った。
「バーネットのA Little Princess ,
The Secret Garden 」 なんて
どうでしょうか?

醍醐は梶原に今のうちの予約した
ほうがいいという。
「花子先生は翻訳の連載がふたつに
少女小説、それから随筆も書いていて
かなりお忙しいですから」といった。

さっきから、たばこをふかしていた
宇田川が「あなたそんなに???」
と驚く。
「私より稼いでいるのではないの?」

蓮子は、「花ちゃん、本当に人気者ね
いったいいつ寝ているの?」と聞く。

花子は、「蓮様まで・・・やめてください」
といった。
長谷部は、蓮子のが自分の半生を小説に
書き、しかも映画化までされたことを
話した。

宇田川は「赤裸々に書けばいいって
ものじゃないわ」といった。
そしてウイスキーを注文した。

宇田川は
白蓮は世間の注目を集めたい
だけだという。
「平民になったあなたが何を着てくるかと
おもったら、それ??」
といった。
白蓮はチャイナドレスを着ていた。
かなり似合う。
「中国の知り合いに
いただいたのです」といった。
ちょっと雲行きがおかしくなった
ので、英治は花子に合図をした。

「あ、あの宇田川先生こそ
震災の時に運命的な出会いを
されたそうですね。そのご主人の
事をお書きになったらどうです
か??」
といった。
蓮子は「私の小説なんかよりよっぽど
ロマンチックですよ」と持ち上げた。

すると宇田川は
「あれは

錯覚でした・・・・。」

「錯覚?」と花子は聞く。

「とっくに別れたわよ。」

花子は

「て!!!」と驚いた。

宇田川がかよにウイスキーを早くと
いってせかした。
★それで歌川先生は今日は一段と荒れている
のですね。

「ま、まぁ・・・僕も離婚経験者ですから」
と梶原が場をとりなす。

蓮子は「私なんか二回も経験しました。」
といった。
いまさらのネタバレである。

宇田川は、「作家は不幸なほどいい作品が
かけるのよ。ほっといて。」という。

これ以上このことを追及するのを
やめた花子だった。
長谷部は「それはそうと・・・」と
いって、話の方向を変えた。
「白蓮さんが雑誌に書いていた
どのような境遇であれ女性も男性と
等しい権利を持つべきだという
記事は感心して読みましたわ」。と
いう。

花子は「私もです」といった。
まだまだ女性の地位も低く
選挙権もなかった時代なので
心ある女性たちは、何とか変えなければ
と思っていたのだった。
女性参政権は国会で審議されたが
最後の貴族院で否決された。

差別の壁は高い。
また、厚い。

花子は
「文学の世界も男性中心ですけど
政治も同じです。
女性は家庭を守るだけではなく
男性と同じく社会に参加する
権利があります。」
という。
長谷部はうなずいた。
蓮子も、そのとおりだといった。
「そもそも25歳以上の男性に選挙権が
会って女性にないのはおかしいです。
おととしも婦人参政権がみとめられる
寸前までいって
否決されたのは全く持って残念です。」

蓮子がこれをすらすらといったので
かよは、蓮子に早くしゃべれるように
なりましたねといって喜んだ。
蓮子は、照れて「お姑さんに
鍛えられましたのよ」と言ったので
みんなが笑った。
長谷部は、グラスをもっていった。
「みなさん、女性の地位向上のために
がんばりましょう!!」
みんなグラスをもって立ち上がった。
梶原は英治に「男の出る番はないな」といった。

長谷部はこ「れからもお互い
切磋琢磨していきましょう」と
気合を入れた。
そして乾杯をした。

その乾杯の場面は写真として
残った。


お開きになった後、蓮子、花子、亜矢子が
残って話をしていた。
醍醐は、花子のおかげでこの場に、
来れたので、先生方から取材の
承諾をもらったことを喜んだ。

吉太郎とはどうなったのかと
蓮子が聞いた。

吉太郎は亜矢子との結婚は
上官から反対されたという。
でも、亜矢子はいつまでも待ちますと
吉太郎に答えたという。

かよは、どうして一緒になれない
のかと不満だった。

花子は吉太郎は独り身だから
きっと今も醍醐さんのことを・・・
というと
亜矢子はもういいのといった。
そして仕事に生きるといった。
「醍醐さん、その愛が本物なら必ずいつか
成就すると私は思います」と蓮子が言う。

そこへ英治とともに純平とふじこと
龍一が蓮子を迎えに来た。

純平はあの話以来、蓮子を守ると
強く思ったらしい。
龍一は夫婦喧嘩をしても自分が
一方的に悪者扱いだといった。

仲のいい家族である。
醍醐も帰ることになった。

ごきげんようと
お互い声を掛け合い
そして
帰って行った。

帰る間際に蓮子は花子に合わせたい人
がいるから明日お邪魔していいかしらと
いった。
花子は了解した。合わせたい人って
だれだろうと思いながら。

純平たちが帰る後姿を
見送った。
英治と花子は純平が歩より一つ下
なので、歩だったらもう少し
背が高かったかなと
話をした。

翌日、近所の子供たちが花子の家に来た。
「お話のおばちゃん
お話をして」
と、いわれた。

花子は、「ちょっと待ってね」と
いって、執筆の手をとめていった。
「何がいい?」と聞くと
「王子と乞食」と子供たちは元気よく
いった。

花子は王子と乞食の話をした。
子どもたちはじっと聞いていた。

その声を英治は印刷所で
きいていた。
そこへ、蓮子が一人の男性を
連れてやってきた。
そして、印刷所にいた英治に声を
かけた

蓮子は「あの人が村岡花子さんです」と
話をした。

一緒に来た男性は、福岡時代
嘉納家に出入りをしていた、記者の
黒沢だった。
黒沢は、子供たちに話をしている
花子を、興味深そうに見ていた。

黒沢は、新聞社を辞めた。
そして、ラジオ局に就職した。
JOAK東京放送局である。
「ラジオ局のひとがなにを?」と
花子は不思議に思った。
黒沢は、花子にラジオに出てほしいと
いった。
「ラジオに?私が??」
驚く花子・・・

★て??
花子がラジオに・・・・????
ごきげんよう
さようなら
**************
片時も歩のことを思わない日はない
花子と英治。
純平を見ると
歩を思い出して、生きていたら
あのぐらいの大きさかなと
話す様子は、仲のいい夫婦である。

そんな寂しさなど吹き飛ばすかのような
忙しい花子だ。
子どもたちにいい物語を届けたい
と必死で翻訳をしている。
私は、赤毛のアンは呼んだ記憶があいまい
である。

が、少女パレアナ、あしながおじさん
王子と乞食、小公女,と呼んだ記憶がある。
今日原稿に書いていたイソップ物語も。

おもえば、かなり楽しい物語だった。
だから、時間を忘れて読んだ。
学校の図書館で借りて
読みながら帰ったこともある。

時は、女性の権利とは何か?の時代。
なかなか日本の男性は理解できなかった
らしいが、それもそのはず
婦人参政権がないのである。

政治家は全員男である。
男が婦人に参政権など授けるわけがない。
結局、戦争で負けた後、
アメリカのGHQの支配下で婦人参政権が
できたので、アメリカさまさまとなった。

おはなしのおばさんとして
お話をする花子を見て思った。

いまは当たり前となっている読み聞かせだ。

想像の翼を広げる子供たちの
キラキラした目を
大事に育てることこそ
大事な心の教育ではないだろうか。

イソップ物語や、日本昔話では
勧善懲悪という道徳の基礎がえが
かれている。

悪いことをすると死んでから閻魔様に
舌を抜かれるとか
嘘をつけば、どこまでも嘘をついて
いかなくてはならないということ。

また人はそれぞれ、違った能力があるので
一緒に考えてはいけないなど
物語には、教訓がある。

この時代、おもしろく、楽しく考えながら
子どもたちは、人生の教訓をおそわり
想像の翼を広げていたのだとおもった。