海にかかる虹3
「おかあちゃま、僕・・
お熱があるかもしれないよ・・」と
歩がいったとき、花子は
具合が悪そうなので額に手を
あてた。「熱い・・」歩は
花子の腕の中に倒れた。

英治は医者を呼びに行き
そして氷枕を作った。
「また熱が・・・」と花子。

英治が「お医者様がもうすぐ
くるからね」という。

歩は「おかあちゃま・・・
お注射する?」と聞く。
「お注射いやだな・・・・。」
「おかあちゃまが代わりにするわ。」
と花子が言うので英治が
「花子さん?」と聞く。
歩は「それじゃ、僕はよくなら
ないな。」
「そうね・・・。」
英治は「歩は強いから大丈夫だ」と
励ました。
花子は、「よくなったら
今度こそ海へ行こうね」と
いった。

歩は笑った。
でも、苦しそうだった。

医者が来た。
「いつから熱が出たのですか」と
聞くので、英治は「夕方からです」と
答えた。
「おなかも下しています」と説明した。

歩を見た医者は「残念ながら
疫痢の可能性が高い」という。

花子たちは驚きまっさおに
なった。
「先生、どうか助けてください。」
★当時疫痢はたくさんの子供たちが
命を落とす最も怖い病気と
されていました。

歩を見た医者は、「もう一度強心剤を
打とう」と看護婦に言った。

しばらくして歩が目を覚ました。
あのつらそうな様子がない。
「やっと楽になったのね
歩のお目目のなんときれいなこと。
こんなに高いお熱が出たのに
ちっとも曇らないのね。」

花子は、お水をもってきて
タオルに湿らせ
口をぬぐおうとしたが。
歩はもう、目を閉じてしまった。

「歩ちゃん
歩ちゃん!!」花子は必死で呼んだ。

「先生???」英治は医者に
状況を聞いた。

「もうお時間がないので抱いてあげて
下さい。」

「花子さん・・・」英治は
花子を見た。

花子は歩をじっとみていた。
そして頬をなでて
抱き上げた。

まじかに見る歩。

「おかあちゃま。」

「なあに?歩ちゃん」

「僕がおかあちゃまと言ったら
ハイとお返事するんだよ。」

「おかあちゃま・・」

「はい」

「おかあちゃま。。。」

「はい・・

歩ちゃん、おかあちゃまの返事
聞こえないの?」

歩は何かを言っている。

「はい!!!」
花子は返事をする

「歩ちゃん、
おとうちゃまもおじいちゃまも
みんないるのよ
なにかいって
お願い
なにかいって」
「・・・・」
「歩??」

「歩
歩!!」

返事がない。

★その日の明け方。歩は息をひきとり
ました。

朝早く、蓮子の家に電報が届く。

「だれから?」
龍一が聞く。

歩が死んだことが記されていた。

「歩君が・・・
花ちゃん!!!」
蓮子の顔がこわばった。

「早くいってあげたら?」
と龍一が言う。

蓮子が呆然としていると、姑がいった。
「なにをぐずぐずしているの。
母親にとって子供をなくすことは
心臓を取られるより
辛いことよ!!!

子どもたちの世話は私に任せて
早くいきなさい。」
蓮子は、決心したように返事を
した。「はい。」

村岡家では歩がふとんにねかされた
ままだった。

英治が言った。
「花子さん、蓮子さんが来てくれたよ」

蓮子は、寝ている歩の様子を見て
花子によりそった。
「花ちゃん・・・」

花子は呆然として

「歩・・・
おかあちゃま・・・
おかあちゃまは・・・

歩・・」

「花ちゃん」

花子は蓮子の腕の中で
なきじゃくった。

英治はやってきた梶原に
事情を話して翻訳の仕事は
締め切りを延ばしてほしいと
いった。しかし、あの様子では
仕事に、いつつけるかわからない。
梶原は、理解して、「英治君、君は
大丈夫か」と聞いた。
英治は、自分も悲しいが
強くならねばと思ったかのように
「大丈夫です」と答えた。

花子はその夜、歩のそばから
離れなかった。
歩のそばで歩のあまたを
なでていた。

「こっちがママのダーリン
こっちがパパのダーリン」

花子は、かわいかった歩を思い出して
いた。
おにぎりを食べる歩
水をやる歩
「虹が出たよ!!!」と
叫ぶ歩の声。
はっとした。

外は雨が降っていた。

蓮子は歩のそばで寝てしまった
花子に自分の上着をかぶせた。

『あすよりの
淋しき胸を思ひやる
心に 悲し
夜の 雨の音・・・』

さようなら・・・

****************
あれほど愛された歩が
亡くなった。
花子にとって宝物のような
子どもだった。
どんな時も歩の笑顔があった
のに。
海に連れて行ってやれなかった。
海へ行こうねと言ったらうれしそうに
していた歩。
約束を守れなかった花子。

歩はお空にいるとき
雲の上からおかあちゃん
を見つけて
あの女の人のところに生まれたいと
神様に言ったという話が悲しい。

村岡家に希望の星が
消えた。
疫痢は子供の病気で大人は赤痢と
いうらしい。
私も、かかったという。
原因は、あのかき氷だと
母は言い切った。
あのお店のかき氷が
汚染されていたからだと
いった。
そのお店は私が小学生になっても
あった。たまにとおりかかると
この暑い夏にはおいしそうな
かき氷をやっていた。
クーラーなど普及していない
時代だった。
テラス的なお店で
大きな機械で氷をけずって
いる。
シロップは赤と黄色と白と抹茶だった。
かき氷が食べたいというと絶対だめだと
言って食べさせてくれなかった。

運よくなのか、時代的に医学が発達
していたのか私は、回復した。
ただ、恐ろしいほどの熱が出たと
母は、いう。
その原因があの店のかき氷なので
どの店のかき氷も
食べさせてくれることもなく
自分で責任を取れる年になるまで
かき氷は
食べることがなかった・・・・。

ついに

かき氷への興味も薄れた何十年後・・・

母となり幼い子供を連れて
下賀茂神社にドライブに行った。
古本市をやっていた。
ボランティアさんが
屋台を数軒やっていた。

あまりにも暑い午後だったので
かき氷をかった。
子どもと二人なので
一つでいいかと思って
みぞれを注文した。

このみぞれがすごくおいしくて
甘さといい
氷の削り具合といい
氷の質の高さといい
冷たさよりも
おいしさが勝った!!!

息子にかき氷を紙コップごと
渡したけど
ママにももう一口頂戴と
いうと
なんと

いや!!!!

といった。

信じられなかった。

息子は一人前を
最後の一滴まで
食べた。

彼もまた

たまらなくかき氷が
おいしかったのだろう。

それから・・・

それを思い出すたびに

絶品のかき氷を
食べに行くことを
夏のイベントと
思うようになった。

京都ではおいしいという
かき氷屋さんが
あります。
かき氷ブームだとか。
ただ・・・ちょっと高級になって
きて、氷にこだわると
かなり
お高くなります。