春の贈り物2
屋台で働くかよのもとに蓮子が現れた。
「まさか、家出ではないですよね。」
「そのまさかなの。」
「て!!!!」

どうやら、深い事情があるらしい。
今夜は帰りたくないという。
「ね?わたし喋るの遅い?
そんなに遅いかしら?」

★確かに早いとは言えませんね
「これでも精一杯早くしているのよ。
お掃除も、御炊事も、なにもかも。」

「大丈夫、家事は慣れですから。
そのうち、早くなります」

「そう?
ね、かよちゃん、私の先生になって
くださらない?」

「先生?」
「私に、家事を教えて。」

驚くかよだった。

翌日から、かよは蓮子の家に行った。
そして、洗濯をものを一緒に干しながら
ポンポンと叩いてのばして
乾すとしわがとれますと説明する。
蓮子にとってはなにもかも
知らないことばかりだった。
蓮子は言った。
「おもしろい・・ふふふ」
次はお料理。
半月の形の大根を5ミリぐらいの厚さに
切って行く。
かよは、蓮子に左手はかるくまるめて
大根を抑えると切りやすいですと
教える。
「まぁ・・切りやすいわ~~」

御出汁もきちんととれたし・・蓮子は
うれしそうだった。
「これで今日はお姑さんのおこごとを
聞かなくて済むわ」といった。
そして「時々来てほしい」という。
かよは、「昼の仕事が休みの日だったら」という。
蓮子は、夜も屋台で働いていることを
思いだし、「大変だわね」という。
かよは、「忙しいほうがいい、考えること
ができないほうがいいから」と
いう。
蓮子は「郁弥さんのことなの?」と聞いた。
かよは、思いつめた顔をしていた。

村岡家でもあの日以来、生きる力を
なくした男がいた。
村岡父である。
食事が進んでいないので花子は気になって
「お口に合わなかったでしょうか」と聞く。
「明日はお父様の好きなライスカレーに
します」といった。

父は、「明日は必ず来るものではない」といって
郁弥の遺影を見た。
「郁弥を失ってから強くそう感じる」
という。

宮本家ではお料理ができあがっていた。
すごくいい感じに出来上がったので
「あまりできがいいと誰かに造って
もらったってわかっちゃうかしら?」
と蓮子が笑いながら言うと
「もう、わかっちゃいましたよ」と
姑の声がした。
こんなに早く帰ってくるとは、と
蓮子は驚いた。
「どなた?」と姑はかよを見た。
「ああ、こちら、わたしの女学校時代の
友人の妹さんの・・・」

「手短に言ってちょうだい!」

かよは「かよと申します」

と、頭を下げて答えた。

「お料理を習っていましたの。」と蓮子。

「あなたも習うってことあるのね。
料理なんて使用人がするものだと
バカにしているものだと思って
いましたよ。」

「そんなことございません。
私だって料理ぐらい作ります。」

「言い訳は結構!」
姑は土間におりて
菜箸でおかずをつついて味見をした。

「あらぁ・・・・・・。」
振り向いて
「かよさんとやら。
この人、大変だと思うけど
せめてこのぐらいまともな料理が
作れるようになるまで
せいぜい気長につきあってやって
頂戴!!」

「かよちゃん、お母様もそうおっしゃって
いるし、また来てね!」
蓮子は喜んだ。

「はぁ・・・」

かよは、思いもかけない展開に
驚きながら返事をした。

村岡家では子供たちを集めて
花子が王子と乞食の話をして
いました。

「ほら、着るものさえとりかえれば
声から動作から、顔つきから姿かたち
なにからなにまで私と瓜二つだ。
二人が裸で出て行ったら見分けることなど
だれにもできないだろうと王子は言いました。」

「王子とトムはそんなに似ているの?」と
子どもが言った。

「そう。
そっくりなの。」

そこへ村岡が来た。
単行本の装丁だった。
ちょっとおしゃれな、西洋風の
扉だった。

「王子と乞食の本だ!」
子供たちは喜んだ。

「みんな、王子と乞食の本ができたら
読んでくれるかな?」と英治は言った。

「うん!!」
「読むよ!!」
「ね。」

と子供たちは返事をした。

花子は郁弥へのせめてもの
恩返しだといって単行本の
出版を考えていたので
この装丁はうれしかった。

かよが帰ってきた。
さっそく花子は
かよに、装丁をみせた。
「こういう、しゃれた装丁なら
郁弥さんも喜んでくれるわね。」

花子は明るくいった。
かよは、じっとその装丁を見ていたが・・。
「こんなことしても意味ないじゃん」

といった。

意外なことに花子は、
「かよ?」と聞いた。

かよは、おやすみなさいといって
部屋にはいた。

自室では暗闇の中、かよはじっと座ったまま
動かなかった。

花子は机の前で考え事をしていた。
翻訳の仕事を引き受けていたが
先ほどのことが頭にひっかかって
いた。

英治がお茶をもってやってきた。
「無理するなよ。」
という。
「かよさんは、王子と乞食の単行本は
反対なんだな・・・。」
「わたしもこのまま進めていいのかどうか
わからなくなってきたわ・・・。」

装丁のラフ画を見ながら花子は言う。

さて・・
翌日蓮子に掃除の指南をするかよだった。
雑巾がけにはお水にオスを少し入れると
いいとかよが教えた。
蓮子はおもいのほか、きれいになるので
嬉しそうに、ぞうきんがけをしていた。
かよは、昨日のことが
きになるらしく、じっと考え事を
していて、「かよちゃん」と
声をかけられ、「ごめんなさい」と
いった。
そして廊下をふきはじめたが・・・・
蓮子は、何かあったのかと聞く。

かよは、ぽつぽつと
話を始めた。

花子たちが王子と乞食の単行本を
作ろうとしていること、
郁弥のために頑張ろうとしていること
をいう。
「それでも郁弥さんは・・
郁弥さんの時計はあの日からずっと
とまったまま・・
前に、進まなければいけないのかな?
おらは、このまま止まっていたい
郁弥さんがいた時間に・・・・」

「かよちゃん・・・・。」

その頃花子は郁弥の遺影に手を合わ
せていた。

そこへ「ごめん下さい」と人が来た。

嘉納伝助だった。

震災でも、この家は無事で何よりだという。
花子は、何かあったのですかと聞いた。

伝助は花子が英語が達者だそうなので
これを読んでほしいといって
英語で書かれた手紙を見せた。
それを日本語に直してほしいといった。

花子はすらっと読んで
いいのか??と思ったが
読み始めた。

「最愛の伝助様
お慕いしております。
アメリカに帰ってもあなたのことは
忘れません
あなたと過ごした神戸でのアツい夜・・」

「わかった、もうよか!」
伝助はあわてて手紙を取り上げた。
「神戸であった金髪の踊り子だ。
ははは・・」

「ああ、・・はい・・
これくらいならお安い御用なので
いつでも。」
「助かるバイ。
・・・・・
花ちゃんは、また本を書いて出さんとか?」

「出したいのですがこのご時世ですから
なかなか難しくて」

「蓮子はあんたの本を読んでいるときが
一番ご機嫌だった。
俺は無学で字が読めん。
だがあいつが本を読んでいるのを見て思った。
本ちゅうのは、人を夢見心地にするんだと。」
花子は「はい」といった

「東京はこげなありさまだから、あんたの本
を待っている人がほかに大勢いること
だろうね。」

花子は嬉しくなった。

★伝助の言葉に勇気づけられた花子でした。
ごきげんよう・・・
え?まだなにか?

伝助は花子をじっと見て
言葉がつまって
言いよどんでいた。

「もうひとつ

聞きたいことがある。」

「な、なんでしょうか?」

★石炭王はいったい何を聞きたいので
しょうか

ごきげんよう

さようなら
*****************
村岡父と言い
かよといい。
愛する人を亡くした悲しみは
半年ぐらいでは消えるものでは
ないでしょう。

それぞれに、亡くしたことへの
思いがあります。
かよは、郁弥の時計を拾いました。
それは、あの日のあの時間に
止まったままでした。
その日のその時間には
郁弥は、いたのです・・・・。

だから、かよは、進みたくなかった
のですね。
いつまでも一緒に居たかった
のでしょう。
恋愛の伝道師?蓮子はどう答える
でしょうか。
蓮子の家事の先生として蓮子と
近くなったことは、かよを
救うことになるのではと
思います。
じっとする暇もなく郁弥を思う時間
さえ、持たないように働くかよを
蓮子はどう励ますのでしょうか。

また一方、伝助の本当の訪問の目的は
そんなものではないはずです。
ラブレターの翻訳なんて・・・ね。

本当のところは
蓮子の様子を聞きたいのでしょう。
花子は知らないのではないかなと思い
ます。蓮子が姑さんと
うまくいってないこと。

伝助はある程度察しはついていると
思います。蓮子がまともな主婦に
なれないことを・・・。
で、心配しているのかもしれません。


って・・
明日になったら、本当のことがわかる
のですけど、ちょっと推理などをして
みました。