春の贈り物1
1924年大正13年 春
★関東地方に壊滅的打撃をもたらした
大震災から半年、人々は復興に向け
歩き始めておりました。

村岡印刷は全焼し
英治は工事現場で働いております。
その朝、お弁当をもって
英治は仕事に行った。
成れない力仕事である。
一日も早く会社を再建したいと思うが
こんな状況下で銀行も融資を渋る
わけで、すこしでも自己資金を
持とうとしていた。
が、英治が工事現場で足場から落ちて
ねん挫した。

父親は「慣れない力仕事をするからだ
おまえまでいなくなったら私は
どうすればいいんだ。」と不機嫌そう
にいった。

英治は、「一日も早く会社を再建
したいと」、いう。

郁弥が生前いっていた、王子と乞食の
単行本の話を実現したいとの思いが
あった。
「イギリスに負けない素晴らしい本を作ろう」
と彼は言った。
だから・・・英治は頑張っているわけである。
花子は「郁弥にもらった王子と乞食の原書のおかげで
翻訳の仕事ができるようになった」と言う。
「だから、郁弥に恩返しのつもりで
一日も早く会社を復興して
出版したいと思っている。」と。
かよは、その場から部屋に立ち去った。

★震災で家を亡くしたかよは大森の村岡家で
一緒に暮らしながら、食堂で働いて
いました。

★一方であの駆け落ち事件から苦難を乗り越えて
親子一緒に住むことになった蓮子・・
ですが・・・。

龍一は赤ん坊のおしめ替えが大変上手
だ。村岡家で特訓してもらったから
だという。

★蓮子にとって次なる苦難は・・・
この家の実権を握る姑の浪子です。

「蓮子さん~~~~!!」
と浪子が呼んだ。

「はーーい」と返事をして姑の部屋に行く。

その立ち居振る舞いが
育ちのせいでおっとりとしている。
姑は呼んだらすぐに来るものだというが
蓮子はそのつもりでも姑にとっては
遅いという。

話し方もゆっくりしているので
早く話すようにという。
蓮子は、伯爵家から席を抜かれて
平民になった。
だから、華族様ではないのでそのつもりで
と浪子は言う。
そして、「家事一切蓮子に任せて楽隠居させて
もらいます」といった。
「家事はしっかりやりなさい」という。
蓮子は覚悟したが、もともとしたこと
がないので、
廊下をふくにも雑巾の絞り方から
浪子はイライラした。
廊下の雑巾がけは蓮子はやったことがないので
のろのろとしている。
龍一は、「やったことがないから無理だ」
という。
「家事もろくにできない嫁なんか
出て行ってもらいます」と
浪子は言った。
蓮子は必死だったが・・・
廊下の雑巾がけは遅々として
進まないので浪子は余計にイライラした。

そんなある日、かよが宇田川からの手紙を
花子に渡した。
花子は宇田川に仕事を紹介してほしいと
頼んだのでその返事だという。花子は
急いで封を切って手紙を読んだ。

その手紙の内容は、宇田川が結婚したことが
かかれていた。
あの大震災のとき宇田川をすくって
くれた男性と恋に落ちたという。
震災では多くの出版社が倒れて
その関係を断ってしまった。
今は主人のおかげで幸せでとろけそうな
毎日であるらしい。
そういうことで仕事の件は役に立て
れないので他をあたってください
とのことだった。
かよは、じっと郁弥の写真を見ていたが
今働いている食堂の人から
屋台を手伝ってくれと
言われたらしい。
花子は、働きすぎたというが
「居候はさっさとお金を貯めて
でていかないと・・」といって
働きに行く。
花子は複雑な気分だった。

そこへ、梶原が来た。
聡文堂は焼けたので
梶原は古巣の出版社に戻ったという。
花子は梶原にも仕事の相談をして
いた。
梶原の会社は花子を雇う余裕はないそうだが
翻訳の仕事なら回せると言われたという。
梶原は原書を花子に見せた。
花子は「ありがとうございます。助かります」といった。
堅苦しい本だけどと言って見せた。
花子はぱらぱらと頁をめくった。
そして印刷会社を再建したいので頑張りますと
いった。
梶原は郁弥の遺影を見て、「本当にさみしくなった
ね」といった。
「梶原さん、もう一つお願いがあります・・
梶原さんの所で王子と乞食の単行本を
出してくれませんか」といった。
もともと聡文堂があったらそっちで
単行本を出すつもりだったので力に
なりたいと梶原は言った。

だが、いまは雇われの身であり、世間では
小説や文学はうれないという。
引き受けてくれる出版社を探すのは
難しいだろうという。


英治が帰ってきてその話をした。
翻訳の話には英治も喜んだ。
それと花子は思いついたことがあるという。
村岡印刷を再建するならいっそう
出版社を兼ねた印刷会社なら
王子と乞食の本を出すことができると
花子は言った。

その手はいいな、郁弥が生きていたら
グレートアイディアと叫んだだろうな・・
二人が笑い合っているとさっきから
縁側で話を聞いていた
村岡父が声をかけた。

「なにいってんだ。
あの恐ろしい震災からまだ半年
しかたってないというのに。
住むところも着る物も足りてないと
いうのに・・・
だれが物語の本なんか買うんだ?」

「父さん・・・」

英治は、気持ちがなえている父を心配した。

それから数日後のことでした。

かよの働く屋台に珍しい客が
きた。
「いらっしゃい・・・て???
蓮子さん!!!」

「かよちゃん、ごきげんよう。」

蓮子だった。
それまでかよの前で飲んでいた男の客は
どうぞどうぞといって
席を変わった。
蓮子は「恐れ入ります」と言って
座った。
お皿に並んだ惣菜を見てまあおいしそう
といった。
「とりあえず冷を・・・」
そういってかよについでもらった。
グイッと飲むと
「おいしい~~~~」とうれしそうに
いった。

かよは、今頃こんなところにくる
なんてと思ったのか、「龍一さんと
純平君は?」と聞いた。
「お姑さんがみているわ」という。

「ひょっとして家出でもしてきたのですか?
まさかですよね。」

「そのまさかなんです。」

「え?」

「わたし・・・今夜は帰りたくないの」

驚くかよだった。

★主婦になった蓮子にいったいなにが
合ったのでしょうか?
ごきげんよう

さようなら・・・。
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震災でなかなか立ち上がれない
打撃を受けた様子です。
東北も大変だったから
この時代の東京も大変だったので
しょう。
とりあえず、今日の糧を・・
とりあえず、今夜の寝床を・・・
という時代なのでしょうか。
文学や小説は、売れないでしょうね。
震災のために郁弥がなくなり、花子の
夢の単行本の出版も
なくなり・・・
村岡の会社もつぶれ・・・
いいことがなく、村岡父が落ち込むのも
仕方がないことなのかもしれません。
あれほど、口うるさく社会の正義を
説いていた
ミスタードミンゴ村岡父は、
すっかり気落ちして
しまいました。

それでも花子は、仕事を探します。
偉いですね。
かよも、郁弥を忘れようとしている
かのように、朝昼晩と働きます。
もともとこの一家は
働き者の一家だったから・・・。

それと対照的なのが
蓮子です。
蓮子は働き者ではないとは
言えませんが、もともと華族様なので
働くことはありませんでした。
廊下を雑巾がけなんか・・・
無理です!!!
いじめです!!!
ひどいです!!!!

龍一、あんたの母親は人権侵害
です!!
即刻、訴えなさい!!
と言いたいですが。

ついに、蓮子は、逃げ出しましたか。
しかし、普通のかく家族でも
無理でしょうね。

蓮子がちゃんとしたご飯を作れるかどうか??
龍一に女中をやとうほど収入もないだろうし。
だったら、姑と一緒に暮らすことが
一番だと思いますが・・・。
その姑が
大変なんですよね。