腹心の友再び6
甲府の花子の実家から東京にいる
村岡家の龍一のもとに電報が届く。

「ハスコサンケヅク」・・と。
龍一は、驚いて、福岡から届いた
蓮子への荷物をもって
甲府へ急いだ。

ところが、村岡宅を見張る男たちが
龍一を見つけ・・・
つけていく様子だった。

甲府では、穏やかに過ごしている蓮子
だった。
そこへ木場リンがあわててやってきた。
見かけない男が安東家への道のりを
聞いてきたという。
驚く花子たち。
追手のものかと思った。
そこへ、影が映り木戸が開いた。
リンはこの男だ、といった。
ふじと吉平は追い出そうとしたが
蓮子が思わず、「龍一さん!」と声をかけた。
一同、「ええ?」となった。
龍一を知っているのは、蓮子と花子だけだ
ったからだ。

龍一は福岡からの蓮子の荷物という
スーツケースを持ってきて
そして、蓮子に嘉納工業の番頭からこと
づかった封筒を渡した。
その封筒には離婚届があった。
蓮子のサインだけをかくことになって
いた。

黙っている蓮子に龍一は伝助が村岡家に
来たことを話した。
「伝助と会って話をした。
最初は話し合いなんてものではなかった。
村岡さんがいなかったら自分はどうなって
いたかわからない」。という。

「でも、嘉納さんは最後はわかってくださった
のですね」、と花子はいった。
「何が入っているのかしら」と蓮子は
スーツケースをあけた。
そこには・・・・
蓮子の宝石がたくさん入っていた。

ふじもリンも「て・・・!」と
隣の部屋から見てため息をついた。
「こんな宝石見たことない。」
「これが宝石け・・・・
きれいだ・・・」
とうっとりしている。
「これ、全部蓮子さんのものけ?」とりん。
蓮子は、「いいえ」といった。
「私のものではありません。
あの人からいただいたものは一切捨てて
わたしは、嘉納家から出てきたのです。」
蓮子は毅然としていった。
「ですから、これもお返しましょう?」
龍一は、「よし、そうしよう」と返事をした。

その夜、龍一を囲んでリンも朝市も
食事を一緒にした。
吉平は、朝市にも、「飲めっし」といって
お酒を進めた。
「では、赤ん坊が無事に生まれてくること
を祈って、乾杯!」

「乾杯!!」
花子は、「おとうのはやとちりのおかげで
龍一さんが来てくださってよかったわね。」
と蓮子に言った。

「ええ・・ふふふ」
「さ、おかあのホウトウは日本一なのよ。」と
蓮子。
隆一は「うまいです」といった。
「たくさん作ったからたくさん食べよし」と
ふじ。
リンは、「あの宝石を全部送り返すのか」と
聞いた。「その前にちょっと触っても
いいかな」という。
蓮子は「どうぞ」といった。
リンはたいそう喜んだ。
吉平は、龍一に家は東京かと
聞く。
「もうじき孫が生まれるから親御さんも
喜ぶだろうね」と吉平は言う。

「いいえ・・あの、父は亡くなりました。
自分は勉強もしないで演劇ばかりやって
いたので、母からは勘当されました。
いまは、まじめに弁護士を目指して勉強を
しています。」

「父親になるのだから、こぴっとがんばって
もらいます。」
と蓮子が言うと、朝市は、「大学で好きなだけ
勉強できるなんて羨ましい」という。
すると、「リンがそんなこといわないで早く結婚
して早く孫の顔を見せてくりょ!」という。
「わかってるよ・・・」と朝市がふりかえると
蓮子のスーツケースのそばにいたリンが
「どうでぇ??」といって
あのティアラをあたまに乗せていた。
「おかあ!!!」と朝市は驚いた。
「似合うけ?」
真っ黒な顔の百姓のリンが女王様が
つけるようなティアラをつけたので
みんな笑った。
吉平は龍一にお酒を進めながら
「こぴっと勉強して立派な弁護士に
なれっし」といった。
龍一は「はい」といった。
そして「いい父親になるだよ。」
「はい・・・」
「生まれてくる子がきっとお母さんとも
縁をつないでくれるだ。そうしたら
蓮子さんにも東京のおかあができる
じゃんね。」
ふじが言うと蓮子は、「ええ」とうれしそうに
いった。
花子は蓮子に
「蓮様、これからはきっといいことばっかりよ」
という。
「花ちゃん・・・お父様、おかあ、りんさん、朝市さん
ありがとうございます。」
龍一も「ありがとうございます」といった

「この子が大きくなったら教えてやります。
あなたはこんな暖かい人たちに囲まれて
祝福されて生まれてきたのよって。
こんなに幸せなことはありません・・」
「僕も蓮子も世間をすべて敵に回したと
思っていたので本当にありがたいです」

みんな、しみじみと感動した。

「そうだ、赤ちゃんの名前決まりましたか」と
花子は聞いた。

「それがなかなか決まらなくて」と龍一はメモを
見せた。みんなわぁーっと歓声を上げて
その名前を見た。

吉平は「早く決めないと本当に生まれてしまうぞ」
といったので、みんな大笑いをした。

翌朝、吉平は出かけようと龍一に言った。
牧師様に安産のお祈りをしてもらうという。
歩の時もそうしたという。
花子は蓮様の分もお祈りしてきてといった。
吉平は歩を連れて龍一と出かけた。

「おとう、息子が一人増えたみたいじゃね」
と花子が言うのでみんな笑った。

朝餉の支度をするふじは、囲炉裏に火を
ともして働いていた。
蓮子もそばにいた、花子も手伝っていた。

そこに、扉が急にあいた。
風体の大きな男がふたり
立っていた。

ふじは、「どちらさんですか?」と聞いた。
ふたりはだまって合図をした。
ひとりはつかつかとあがって蓮子をつか
まえた。
ふじは、「何をするだ!!!」と声を荒げた。
ふじは、連れて行こうとする男の腕に
かみついた。
花子は「なんですかあなたたち」と
怒鳴った。
しかし、あいては 大きな男二人だった。
女三人ではどうしようもない。
「蓮子さん逃げよし、蓮子さん!!」とふじが
叫んだ。
そこへ、葉山伯爵がやってきた。
蓮子は驚いた。

「お兄様・・・・・」

葉山は、「そのおなかの子は宮本龍一の子か」
と聞いた。
花子とふじは蓮子を守るように寄り添っていた。
蓮子は「そうです」と答えた。
葉山は険悪な顔をして
「連れて行け!!
早く!!!」と
二人の男たちに命令をした。
「止めてください」と花子は蓮子を守る
が、男たちに突き飛ばされた。
そこへ、隣のリンがくわやら
すきやらをもった男たちを連れて
やってきた。
「こらぁ~~よってたかって何を
するだぁ~~!!!」と戦う。
「駐在さん呼んできて!!駐在さん」
と大変な騒動になった。
「やめてください!!!
お兄様もうやめさせてください」

リンは驚いた。
「お兄様?伯爵さまけ?
こんなろくでもない伯爵さまもいるのけ!!」
と叫ぶ。
葉山は目をぎょろつかせ蓮子をにらんだ。
「私はどこへでも行きます。
お兄様のおっしゃる通りにしますから
もう乱暴はやめてください!」
蓮子は叫んだ。

「蓮様行ってはダメ」
「そうだよ、げんきなあかちゃんをここで
産むだよ」
とふじは叫ぶ。

「もうじき赤ちゃんが生まれるのです」と花も
必死だった。
「おなかの中の赤ちゃんと引き離さないで
下さい。
お願いします!!!」
葉山はそれでも無言で蓮子をつかみ
連れだそうとする。
花子は葉山の手をつかみ、「どうして妹に
こんなひどいことをするのですか!!!」
と怒鳴った。
「花ちゃん・・・」
「蓮様にもやっと愛する家族ができたのよ。
だれにも愛されたことのない蓮様が
やっと愛する人に巡り合ったというのに
何故お兄様のあなたがそれを引き裂くの!!
蓮様だって幸せになっていいじゃないですか!!」

葉山は黙っていた。

「もういいのよ花ちゃん・・・
おかあ、リンさん、お世話になりました。
何があってもこの子は私が守る
そう、龍一さんに伝えて。」
蓮子は精いっぱいの笑顔でいった。
「大丈夫よ・・・

必ず・・・
必ずまた・・
会えるから・・。」

葉山は蓮子をせかして連れて
でていく。
花子はなにもできない。
じっとその後ろ姿を涙で
見送るだけだった。
「蓮様・・・・・」

★必ず、必ず 必ず 
また。会える日が来ますように・・・・

ごきげんよう

さようなら・・・

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電報さえ打たなかったらと
吉平は悔やむでしょうね。
龍一を甲府に呼んだために
後をつけられた龍一だった。
それが、この不幸の始まりとなった。
よく笑い、よく食べて
嬉しそうにしていた蓮子は
一気に現実に戻った。
あの伯爵家でどうなるのでしょうか。
ところで龍一の素性が少しわかった。
大学で法律を勉強している。
父はいない。
母に感動された。
弁護士を目指している。
こんな感じだ。
弁護士?あのか細い声で弁護士は
厳しいですね。
せっかく生まれる子供に会えないとは
なんて不幸な父親でしょうか。
花子はどう蓮子を助けるのでしょうか。