腹心の友再び5
龍一は村岡家に身を寄せた。
ある夜、突然伝助が村岡家に来た。
そのころ、花子と蓮子は甲府の花子の
実家に身を寄せていた。
東京にいる村岡はこの騒動に巻き込まれた。

伝助は蓮子はどこかと
龍一になぐりかかり、村岡は
それを必死に止めたが
突き飛ばされる。
伝助の怒りは大きい。

★パパたちがくんずほぐれずの大格闘を
しているとは夢にも思わないママたちでした。

村岡家の座敷には
机をはさんで龍一と伝助がすわっていた。
村岡は「とにかくお二人で冷静に
話し合って下さい」と言った。
伝助は座を去ろうとする村岡に
一緒に居てほしいという。
俺は「この男を殺すかもしれんケン」と
物騒なことを言う。
立ち上がろうとした村岡は座りなおした。
しかし、どちらが話を切り出すものでもなく
しーんとしたので村岡は
「えっと・・・・
嘉納さんはどういったご用向きでうちの
家に?」
と聞いた。
「花ちゃんに会いに来た。」
「はぁ・・」
「蓮子のことで。
ようやく、いろんな騒ぎのかたがついた
ので、嘉納家として蓮子の処遇をきめな
ならんと思ってきた。
ところが、その男がいたので
これは手間が省けた。」
と伝助は言う。

「蓮子はどこか?」
と伝助は龍一に聞く。
「蓮子さんの夢は新聞の絶縁状の通り
です。」
龍一が答えた。

伝助は「おまえは蓮子が石炭王の女房だから
ちょっかいだしのか?」
と聞いた。
「駆け落ちをしたのも、石炭王にほえずらを
かかせたかったのか?」
「違う・・」
「ちゃんと恥をかかしてもらったから
おまえの狙い通りだ。」

「違う、おれは蓮子の内面にひかれた。
あんたとは関係ない。」
龍一は叫んだ。
「俺は蓮子という一人の女性を愛して
いるんだ!」
すると伝助は
龍一をにらんでいった。
「おまえは月にいくら稼げるのか?」
「はぁ?」
「あいつはとんでもないお姫様だ。
おまえのような、けつの青い学生に
養えるような女じゃない。
蓮子は連れて帰るき。
場所を教えろ。」

「教えない。あんたのもとには
帰らないといっている。」
「貴様ぁ~~」と伝助は
居場所を教えろとどなりはじめた。
おまえには教えないと龍一が
つっぱねるので伝助は怒って
龍一になぐりかかった。
止めてくださいと村岡が止めに入るが
伝助は龍一を押さえつけて
蓮子はどこだと叫ぶ。
「蓮子さんのおなかには赤ちゃんがいます」
と、村岡が叫んだ。
「なに?」
「もうじき生まれるんです。」
龍一が言う。

「こいつの子か?」
伝助は龍一から手を放してきいた。

「はい」、と村岡は答えた。

伝助は龍一を睨み付けた。
が、空を見上げて
笑い出した。そして

秘書に小切手帳を出せと
いった。

その一枚にハンコをついて、
金額は好きに書くようにと龍一に言う。
「出産祝いじゃ。」
「おまえの金は受け取らない」と
龍一が言うがお「前にやるとは言ってない。
蓮子への祝い金だ。福岡にあるあいつのものは
こちらに送らせる。」
そして伝助は去って行った。
甲府では蓮子は元気で過ごしていた。
ふじが籠をつくっていた。
これは蓮子さんの赤ちゃんのものだと
吉平は言う。
急に蓮子が倒れた。
立ちくらみだというが
吉平もふじも驚いて蓮子を
寝かせた。

村岡家では、蓮子の荷物が届いて
いた。
スーツケースひとつである。
それを村岡父と龍一と英治が
話し合っていた。
そこへ郁弥が来た。

「こんばんは~~」
と笑顔で入ってきた。
「あれ?花子さんいないの?」と
聞く。
つまり彼は何も知らないわけだ。
甲府の実家に帰っていると
英治が言う。
龍一を見て「あれ?お客さん」と
聞いた。
そこへかよもやってきた。
かよは、食事を作った。
それを五人で食べた。
郁弥は龍一を見て「あったことある」と
いう。「カフェドミンゴだろ?」と
父が言った。

「ああ、僕もあそこの常連です。
で、兄とはどこで?」

そこへ電報が来た。
宮本への電報だった。
「レンコサンケズク」とあった。
宮本は早速、いかなくてはと立ち上がった。

甲府では、一家をあげて蓮子の面倒を
みていた。
電報を打ったのはリンだった。
まだまだ、生まれるのは先だという
のに・・・
産気づくわけないでしょ。
リンさんはまたまた騒動を起こすのでは?

その夜宮本は蓮子の荷物をもって
村岡家を出た。
食事の片づけを手伝いながら
郁弥はつぶやいた。
「なんだか最近この家は怪しい・・・。
何か隠していませんか?」

「郁弥さん・・・
秘密、守れますか?」

「え?」

かよは、電報を見せた。

レンコサンケヅクである。
「蓮子さん、実家の人にみつかって
連れ戻されないように
甲府の実家におねえやんが連れて
いったのです。」
といった。

郁弥は
「Really?」
と聞いた。
つまり本人は大変驚いたのである。
「じゃ、蓮子さんと駆け落ちした
帝大生って・・・」

「宮本さんです。」

かよがいった。郁弥はだまって
うつむいていた。心配したかよは
どうしたのかと覗き込んだ。

すると郁弥は、感動して泣いていた。
「すみません・・・感動してしまって。
いいなぁ。生まれてくる幼い命のために
みんなが守っているなんて。こんなに
素晴らしい話はないです。
そんな家族の一員で僕も誇らしいです。」

そういって泣いていた。

かよはじっと見ていた。

甲府では花子が母のように
蓮子の世話をしていた。
「こんなに大事にしてもらって・・」
と蓮子は言う。

「大事にするわよ。
蓮様は家族だもの。
だからおなかの子供も家族だもの。」
花子は、そういって、
蓮子に「今度こそ、幸せになってね」と
いった。
蓮子は、「うなずいて今度こそ
しあわせになるわ」と
いった。

★花子はこれほど強い意志を持ち
幸福そうな蓮子を花子はかつて見たことが
ありませんでした。

ごきげんよう

さようなら

********************
甲府は平和ですが
東京の村岡家は大変でした。
花子と結婚したばっかりに
こんな騒動にまで巻き込まれた
英治。
花子の気性から距離を置くなんて
無理だと思ったのでしょう。
とことん付き合うと覚悟をしたので
しょうか。
龍一は伝助に言われたあの事は
一番きつい一言ではないでしょうか。
おまえは月にいくら稼ぐ?
けつの青い学生ではあのお姫様は
養えん。
お金に苦労した伝助だからこそ
わかることだ。
そして、金額の欄が書かれていない
小切手。
祝い金だという。伝助の愛情と
思った。
伝助はお金で愛情を示すのだろうが
リアリティはある。
逆におままごとのような龍一との生活は
かえって、蓮子を疲れさせるのでは
と思ったりする。
しかし、龍一はいったい何をして
働いているのだろう?
家庭教師だろうか?
そのうえ帝大生というのだから
学生であろう。
つまり、収入なんかないはずだ。
そんな彼が石炭王の伝助から
おまえは月にいくら稼ぐと
聞かれたら・・・・答えられない。
結婚は生活で、生活はお金である。

蓮子は最初の結婚は政略結婚で
子爵の家に嫁いで、子供を産んで
その子供を取り上げられて
家に帰されたといういきさつがある。
おそらく、葉山伯爵の胸算用で決められた
相手なんだろう。
伝助もそうだった。お金のために
蓮子に頭を下げて親子ほどの年の差が
ある伝助の嫁になってくれと頼んだし
結納金を先に受け取ったという
身勝手な事情で蓮子の人生を狂わせた
兄である。
蓮子は男性との愛も知らず、愛のある結婚も
知らず、短歌を書いている間もきっと
愛とはなんだろうと思っていたのではないだ
ろうか。
人を思うあふれるような情感を蓮子は
しあわせに感じて短歌を読む。
この幸せを逃すわけにはいかないと
思うのは当然のことだろう。
ただ、龍一はそのような愛にこたえられる
男なんだろうか??