腹心の友再び3
★蓮子の身内や新聞記者たちは
血眼になって蓮子を探しておりました。
そんなとき、花子宅では
吉太郎が残して行った
蓮子の住所が書かれた
メモに英治と花子は驚いていた。
花子は、その住所に行きたいといった。
英治は、こんな夜遅くにというが
まだ電車はあるわと花子が言う。
英治は反対した。
蓮子さんとはしばらく距離を
置いたほうがいいという。
「世間がこれだけ大騒ぎをしているのに
君まで巻き込まれたらどうするんだ。」
と冷静な意見を言う。
「こんなこと言いたくないけど君は
蓮子さんに利用されたのだぞ。
歩の顔を見に来るなんて真っ赤なウソ
だったし親友の君を隠れ蓑に使うなんて
信じられない。」
花子は、「本当のことは蓮子に会うまでわから
ないものだ」という。
英治はとことん反対した。
「これ以上、蓮子さんは世間を騒がせ
ないで、一日も早く福岡の御主人のところへ
帰るべきだ」と言い切った。
「英治さんて、蓮子さんを非難している頭の固い
おじいさんたちと同じだったんだ。
そんなに石頭だッたなんて知らなかった」と
花子は怒った。
「石頭?僕は君を心配しているのだよ。」
「いくら止めても私はあいに行きますっ!」
「強情だな君も・・・。」
「行くと言ったら行きます。」
「ダメと言ったらだめだ。」
平行線である。
大きな声に歩が泣き始めた。
花子は歩のそばにいった。
村岡家初の夫婦喧嘩でした。
翌朝も、なんだか怒りながら
朝食を食べていた。
「ごちそうさま・・・」と英治。
「ごちそうさま」、と花子。
テンションが低い。
★結構二人とも引きずるタイプなのですね。
「英治さん、日曜だから家にいるでしょ。
私、出かけますから歩の世話をお願いします。」
と花子はつっけんどんにいう。
「花子・・何度言ったらわかるんだ。」
「へぇぇええ
花子・・・こういう時は呼び捨てにするんだ。」
「とにかく、一人で行くなんてダメだ。」
そこへ「おはようごいっす」と
いってかよがきた。
「かよ?」
と花子が聞くと、
英治が「かよさん、朝早くスミマセン」という。
かよは、歩を抱き上げて
「歩くーーーん
グッドモーニング」といった。
「今日はかよおばちゃんと遊ぼうね。」
花子はどういうことかとかよに聞いた。
するとかよは、ゆうべカフェに
英治から電話があって花子が蓮子の所へ
どうしても行くというので一緒について
行くから子守頼むって・・・。
という。
花子はむきになったが、「本当にママは
強情ですね」と英治は歩にいった。
「仲良くいってこいし」とかよ。
その蓮子のいるというアパートを見つけた
ふたり。
「ここだわ」、と花子は部屋の前で言う。
「僕が叩く」と英治は、いった。
英治はトントンとたたいて
「ごめんください」といった。
「どちら様ですか?」
と不安げな蓮子の声がした。
花子はあわてて言った。
「蓮様、わたしよ。
蓮様、入るわよ。」
と花子が声をかけた。
すると蓮子は戸が開かないように
ひっぱったらしい。
でも英治がいるので花子と英治は
ふたりで扉を思いっきり開けた。
その勢いで蓮子は倒れた。
花子は蓮子を見て蓮様と声をかけるが
蓮子は逃げようとして廊下に出た。
廊下には英治がいた。
逃げられなかった。
とりあえず、部屋の中に入った三人。
蓮子はどうしてここがわかったのかと
聞くが、花子はいえない。
しかし花子は、なぜ逃げようとしたのか
と問い詰める。
「私は二度と花ちゃんに会うつもりはなかったの。
合わせる顔がないわ。」
英治は、「花子に会いに行くと言ってご主人
の前からいなくなったそうですね。」という。
「ええ・・」
「子どもができたら顔を見に来てくれるっていうのも
あれもみんな嘘だッたの?」と花子は聞いた。
「そうよ。駆け落ちの計画を周到にたてて
あなたを利用したの。」
「それはいくら何でもひどいんじゃないですか。
花子はあなたが失踪してから夜も寝れなかった
のですよ」、と英治はいった。
「今頃どこでどうしているのかと家族のように
心配していたのに・・。」
「ご迷惑をおかけしました。
こんな私とはかかわらないほうがいいのに。
お帰り下さい。」
「わかりました。
帰ろう。」
花子に言うと
「いいえ、私帰らないわ」といった。
そして、「ちょっと二人にして」と英治に
いった。
英治は様子を見たが
部屋から出て行った。
ふたりになった蓮子と花子。
「蓮様・・わたしすごく怒っている。」
「道ならぬ恋はやめろと花ちゃんはずっと言って
たわね。こんな騒ぎを起こした私を
軽蔑しているの?」
「軽蔑なんて」
「でも怒っているのでしょ?」
「ええ、これ以上怒ったことがないと
いうほど怒っているわ。」
花子は、十年前に蓮子が石炭王に
嫁ぐと聞いたとき
泣いて怒った。
子どもだったから。
花子は英治との恋に引き返せない
恋愛のつらさをしったという。
花子は蓮子がいま、正直に生きようと
していることを確認した。
蓮子は、「人を愛することはどういう
事か初めて知ったの」、という
「あふれ出てくる思いがあるのよ
どんどんと、それをあの人に分けて
あげたいの。ほかには何も望まない
身分も何もかも捨てて
あの人と生きていきたいの。」
蓮子は泣きながら言った。
花子はふろしきからしおりを出した。
「あ、これは修和の時に書いたしおり
こんなのまだ持っていたの?」
『翻訳家、安東花子
歌人、白蓮』
とあった。
「ええ、蓮様はあの時からこういって
いたわ、一番欲しいものは燃えるような心。
誰かを本気で愛したいと。
その夢がかなったのね。
よかったわ、本当によかったわ。
世間がなんといっても私は蓮様の
味方よ、なのに、もう二度と
会いたくないなんてひどいわ。」
蓮子は花子を見つめた。
「それで花ちゃんは怒っていたの?」
「そうよ、許せないわ。もう会えなくても
いいだなんて。」
蓮子はやっと笑顔になった。
でも、花子の気持ちを思って
涙を流した。
「ごめんなさい。はなちゃんごめんなさい。。」
蓮子は、畳の上に頭をたれて
花子の手を握って泣きながら謝った。
「ああ、怒ったらおなかがすいたわ~~」
と花子は風呂敷の中からお弁当を出した。
そして蓮子におにぎりを渡した。
蓮子はおそるおそるおにぎりを食べた。
そして、「おいしい」といった。
泣きながら、「こんなにおいしいおむすび
生まれて初めて食べたわ。」という。
「蓮様 よっぽどおなかがすいていたのですね」
と花子が聞くと
「ええ」、と蓮子は
力強くいった。
「もっと食べて」と花子が言うと
「ありがとう」と蓮子は言って
おいしいといった。
「よかったわ。」
花子は蓮子を見つめた。
ごきげんよう
さようなら
********************
蓮子さんはいつも素敵な格好を
しているのにきれいな着物では
あるが、二~三日
同じ着物なのかもしれないと思った。
髪型も、誰かに結ってもらって
いたのでは?と思うが
今はもう、普通に結っていて
ちょっと乱れている。
口にこそ出していないが、これほど
までに普通の生活をしていくことが
難しいものとは思わなかったのでは
ないだろうか。
女中がいないと暮らしていけない
不便さを蓮子は感じたと思うが
そんな不便よりも愛を選んだ
のだから、しかたがない。
でもそうはいっても毎日焼き芋では、
どうにもならない。
花子のおにぎりはきっと贅沢が身に
ついた令嬢にとって
庶民の食べ物であったとしても
ふっくらしたごはんがおいしかったのでは
ないだろうか。
不憫である。
蓮子がこれからどうなるのか、
蓮子自体きっと不安だったに違い
ないが、こうして花子という
腹心の友がたとえ自分が裏切った
としても味方をしてくれることに
不安が安堵に代わって
涙があふれたのではないだろうか。
この薄幸の美しい友を
花子はどうやって守っていくので
しょうか。
★蓮子の身内や新聞記者たちは
血眼になって蓮子を探しておりました。
そんなとき、花子宅では
吉太郎が残して行った
蓮子の住所が書かれた
メモに英治と花子は驚いていた。
花子は、その住所に行きたいといった。
英治は、こんな夜遅くにというが
まだ電車はあるわと花子が言う。
英治は反対した。
蓮子さんとはしばらく距離を
置いたほうがいいという。
「世間がこれだけ大騒ぎをしているのに
君まで巻き込まれたらどうするんだ。」
と冷静な意見を言う。
「こんなこと言いたくないけど君は
蓮子さんに利用されたのだぞ。
歩の顔を見に来るなんて真っ赤なウソ
だったし親友の君を隠れ蓑に使うなんて
信じられない。」
花子は、「本当のことは蓮子に会うまでわから
ないものだ」という。
英治はとことん反対した。
「これ以上、蓮子さんは世間を騒がせ
ないで、一日も早く福岡の御主人のところへ
帰るべきだ」と言い切った。
「英治さんて、蓮子さんを非難している頭の固い
おじいさんたちと同じだったんだ。
そんなに石頭だッたなんて知らなかった」と
花子は怒った。
「石頭?僕は君を心配しているのだよ。」
「いくら止めても私はあいに行きますっ!」
「強情だな君も・・・。」
「行くと言ったら行きます。」
「ダメと言ったらだめだ。」
平行線である。
大きな声に歩が泣き始めた。
花子は歩のそばにいった。
村岡家初の夫婦喧嘩でした。
翌朝も、なんだか怒りながら
朝食を食べていた。
「ごちそうさま・・・」と英治。
「ごちそうさま」、と花子。
テンションが低い。
★結構二人とも引きずるタイプなのですね。
「英治さん、日曜だから家にいるでしょ。
私、出かけますから歩の世話をお願いします。」
と花子はつっけんどんにいう。
「花子・・何度言ったらわかるんだ。」
「へぇぇええ
花子・・・こういう時は呼び捨てにするんだ。」
「とにかく、一人で行くなんてダメだ。」
そこへ「おはようごいっす」と
いってかよがきた。
「かよ?」
と花子が聞くと、
英治が「かよさん、朝早くスミマセン」という。
かよは、歩を抱き上げて
「歩くーーーん
グッドモーニング」といった。
「今日はかよおばちゃんと遊ぼうね。」
花子はどういうことかとかよに聞いた。
するとかよは、ゆうべカフェに
英治から電話があって花子が蓮子の所へ
どうしても行くというので一緒について
行くから子守頼むって・・・。
という。
花子はむきになったが、「本当にママは
強情ですね」と英治は歩にいった。
「仲良くいってこいし」とかよ。
その蓮子のいるというアパートを見つけた
ふたり。
「ここだわ」、と花子は部屋の前で言う。
「僕が叩く」と英治は、いった。
英治はトントンとたたいて
「ごめんください」といった。
「どちら様ですか?」
と不安げな蓮子の声がした。
花子はあわてて言った。
「蓮様、わたしよ。
蓮様、入るわよ。」
と花子が声をかけた。
すると蓮子は戸が開かないように
ひっぱったらしい。
でも英治がいるので花子と英治は
ふたりで扉を思いっきり開けた。
その勢いで蓮子は倒れた。
花子は蓮子を見て蓮様と声をかけるが
蓮子は逃げようとして廊下に出た。
廊下には英治がいた。
逃げられなかった。
とりあえず、部屋の中に入った三人。
蓮子はどうしてここがわかったのかと
聞くが、花子はいえない。
しかし花子は、なぜ逃げようとしたのか
と問い詰める。
「私は二度と花ちゃんに会うつもりはなかったの。
合わせる顔がないわ。」
英治は、「花子に会いに行くと言ってご主人
の前からいなくなったそうですね。」という。
「ええ・・」
「子どもができたら顔を見に来てくれるっていうのも
あれもみんな嘘だッたの?」と花子は聞いた。
「そうよ。駆け落ちの計画を周到にたてて
あなたを利用したの。」
「それはいくら何でもひどいんじゃないですか。
花子はあなたが失踪してから夜も寝れなかった
のですよ」、と英治はいった。
「今頃どこでどうしているのかと家族のように
心配していたのに・・。」
「ご迷惑をおかけしました。
こんな私とはかかわらないほうがいいのに。
お帰り下さい。」
「わかりました。
帰ろう。」
花子に言うと
「いいえ、私帰らないわ」といった。
そして、「ちょっと二人にして」と英治に
いった。
英治は様子を見たが
部屋から出て行った。
ふたりになった蓮子と花子。
「蓮様・・わたしすごく怒っている。」
「道ならぬ恋はやめろと花ちゃんはずっと言って
たわね。こんな騒ぎを起こした私を
軽蔑しているの?」
「軽蔑なんて」
「でも怒っているのでしょ?」
「ええ、これ以上怒ったことがないと
いうほど怒っているわ。」
花子は、十年前に蓮子が石炭王に
嫁ぐと聞いたとき
泣いて怒った。
子どもだったから。
花子は英治との恋に引き返せない
恋愛のつらさをしったという。
花子は蓮子がいま、正直に生きようと
していることを確認した。
蓮子は、「人を愛することはどういう
事か初めて知ったの」、という
「あふれ出てくる思いがあるのよ
どんどんと、それをあの人に分けて
あげたいの。ほかには何も望まない
身分も何もかも捨てて
あの人と生きていきたいの。」
蓮子は泣きながら言った。
花子はふろしきからしおりを出した。
「あ、これは修和の時に書いたしおり
こんなのまだ持っていたの?」
『翻訳家、安東花子
歌人、白蓮』
とあった。
「ええ、蓮様はあの時からこういって
いたわ、一番欲しいものは燃えるような心。
誰かを本気で愛したいと。
その夢がかなったのね。
よかったわ、本当によかったわ。
世間がなんといっても私は蓮様の
味方よ、なのに、もう二度と
会いたくないなんてひどいわ。」
蓮子は花子を見つめた。
「それで花ちゃんは怒っていたの?」
「そうよ、許せないわ。もう会えなくても
いいだなんて。」
蓮子はやっと笑顔になった。
でも、花子の気持ちを思って
涙を流した。
「ごめんなさい。はなちゃんごめんなさい。。」
蓮子は、畳の上に頭をたれて
花子の手を握って泣きながら謝った。
「ああ、怒ったらおなかがすいたわ~~」
と花子は風呂敷の中からお弁当を出した。
そして蓮子におにぎりを渡した。
蓮子はおそるおそるおにぎりを食べた。
そして、「おいしい」といった。
泣きながら、「こんなにおいしいおむすび
生まれて初めて食べたわ。」という。
「蓮様 よっぽどおなかがすいていたのですね」
と花子が聞くと
「ええ」、と蓮子は
力強くいった。
「もっと食べて」と花子が言うと
「ありがとう」と蓮子は言って
おいしいといった。
「よかったわ。」
花子は蓮子を見つめた。
ごきげんよう
さようなら
********************
蓮子さんはいつも素敵な格好を
しているのにきれいな着物では
あるが、二~三日
同じ着物なのかもしれないと思った。
髪型も、誰かに結ってもらって
いたのでは?と思うが
今はもう、普通に結っていて
ちょっと乱れている。
口にこそ出していないが、これほど
までに普通の生活をしていくことが
難しいものとは思わなかったのでは
ないだろうか。
女中がいないと暮らしていけない
不便さを蓮子は感じたと思うが
そんな不便よりも愛を選んだ
のだから、しかたがない。
でもそうはいっても毎日焼き芋では、
どうにもならない。
花子のおにぎりはきっと贅沢が身に
ついた令嬢にとって
庶民の食べ物であったとしても
ふっくらしたごはんがおいしかったのでは
ないだろうか。
不憫である。
蓮子がこれからどうなるのか、
蓮子自体きっと不安だったに違い
ないが、こうして花子という
腹心の友がたとえ自分が裏切った
としても味方をしてくれることに
不安が安堵に代わって
涙があふれたのではないだろうか。
この薄幸の美しい友を
花子はどうやって守っていくので
しょうか。
